最強対最恐
アラタは窓を開けて外を見た。
「ちょっと降ってるな」
「どんどん土砂降りに変わってくるって」
ベッドの上で、響が言う。
「そっか。今日は外出できないな」
「えー、水族館行くっつったじゃん」
「……まあ、イルカショーは諦めよう」
そう呟いて、アラタは窓を閉めた。
今日も、世界は平和だった。
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巨大な腕に乗り空中で私と並んだ大輝は、腹を思い切り蹴り飛ばしてきた。
私は唾液を散らしながら、地面を滑っていく。
そう、私と彼の差は空を飛べるか否か。
私を地面に落としておくことが、彼にとっての勝機に繋がる。
彼は巨大な腕から、二本のダガーナイフを握って飛びかかってきた。
後退して、避ける。
しかし、ダガーナイフは私の急所に惹かれるように避けても避けても追ってくる。
私は臀部を地面につけると、逆立ちをする要領で彼の顎を蹴った。
大輝は数歩後退し、頭を振る。
軽い脳震盪を起こしているのだろう。
今が、チャンスだ。
畳み掛ければ、勝利は見えていた。
その時、銃声が鳴った。
いつの間にか、周囲は土砂降りだ。服の下を水が流れていくと思っていたが、湯まで流れ始めていた。
いや、湯ではない。血だ。
見ると、青年が銃を構えていた。
それを見て、やっと腹を撃たれたという実感が湧いてきた。
石を投げて青年を失神させ、行動を封じる。
空へ飛んで治癒の時間を稼がなければ。
そう思っているところに、大輝が飛びかかってきた。
「勝ったって思ったんだろ!」
「悪い? あの状態は勝ちでしょ!」
「それがお前の敗因だ!」
そういう大輝の攻撃にも、冴えがない。
意識が朦朧としてきた。
空へ。空へ離脱せねば。
しかし、それを許してくれる大輝ではない。
大輝は両手を重ねて日本刀を作り出す。
それを、振り下ろそうとした。
その時には、私の腕から伸びる日本刀の刀身に腹を貫かれていた。
「刀身のみの召喚だと……?」
「振りかぶるそっちと違ってこっちは召喚だけのノーモーションだからね」
私はそう言って数歩退くと、治癒を開始した。皮が修復され、肉と内臓も修復されていく。
「大輝。多分今回のはそういう罠なんだよ。もうやめよう。あいつを警察に突き出して、おしまいにしよう」
「けど、あいつは……両親の肉体を見せた。俺に、夢を見せた! その責任はとってもらわなければならない」
両親殺し。大輝のトラウマ。それに迂闊に触れることができなくて、私は黙り込んだ。
「去ってくれ。俺は、なにも奪わない」
そう言って、大輝は青年を抱えると、その場を去っていった。
大地に落ちた血が、雨に流されていった。
第七話 完
次回『印の正体』




