表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/391

第二の印

「今回は難儀しそうです」


 前を歩く青年は、そう言った。


「と言うと?」


 私は問う。

 早朝で、周囲にはまだ静けさが残っていた。


「結界が張られている。その中に印を刻むのは困難です」


「違う場所は選べないの?」


「選べませんね」


 妙な話もあったものだ。


「そこで、あなたには結界の主を倒してもらおうと」


「結界の、主?」


「龍種です。中々苦戦すると思います」


「……ドラゴン? この世界にもいると?」


「複数の人間が古来から伝わる秘術で生み出す龍種がいるんですよ。だから、知っている人の間ではドラゴンと龍は区別されてますね」


「援護は?」


「ありません」


「……無茶言ってくれるなあ」


「無理は承知です。全ては、あなたの望みのため」


「あなたは代償になにを得るの?」


 青年は苦笑した。


「人の欲しいものを具現化する能力。昔から、笑顔しか望んでませんよ」


 いい奴っぽくも見えるんだよな、と私は思う。

 それが私をさらに混乱させる。


「さ、ここの岩をどけて」


 言われるがままに、岩をどける。

 そして、青年は地面に印を書き込み始めた。


 低い、唸り声がした。


 いつの間にか屋根の上に乗っていた龍が、こちらを睨んでいた。


「書いた?」


 単刀直入に訊く。


「書きました」


 岩を戻す。


「奴を倒さないと、異変を察知した人が印を消してしまうでしょう」


「倒すしかないってことか」


 私は空を飛び始める。

 龍も、羽ばたいて空を飛んだ。


 氷と炎のブレスが空中でぶつかりあった。

 その間に、私は龍の背後に回る。


 そして、尻尾を掴んで引っ張り始めた。

 結界の外に龍を運ぶ。


 やはり、結界の要は龍だったのだろう。

 結界が、消える。

 龍が怒り狂ったように尻尾で私を振り払った。

 地面に着地する。


 そして、感情を押し殺して、言った。


「ごめん」


 手には、光の剣。それを、龍に向かって投じた。

 それは龍の眉間を貫き、雲に穴を空けて飛んでいった。



+++



「大したものですよ翠さん。龍が子供扱いだ」


 喫茶店でモーニングコーヒーを飲みながら、彼は興奮したように言った。


「後いくつ、印をつければいいの?」


「三つか二つですね」


「その差はなに?」


「こちら側も一人ではないということです」


「そう」


 私は陰鬱な気分だったので、口数が少なかった。

 恭司に嘘をつき、守護龍を殺した。

 気分が悪いなんてものではない。


「完成したら、剛が戻るのね?」


 確認するように訊く。


「私ともう一人、望みを叶えるのは可能でしょう。その中でも協力者であるあなたの望みが叶わぬ訳がない」


「そう……」


 コーヒーを飲む。

 いつもより、苦い気がした。


「ねえ、あなた、何者?」


 気になっていたことを、問うことにした。

 儀式についての知識。人の望みを叶える力。常人ではない。

 警察の監視がついていないのが不思議なほどだ。


「お人好しの一般人。じゃ駄目ですかね?」


「駄目……ではないけどね」


 疑問は残ったのだった。



第五話 完

次回『最恐は立ちはだかる』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ