足を止めるのを阻むように
今回の件を、楓に相談するべきだろうか。
私は、そんなことを思い始めた。
あの超越者は異常だ。肉体を精製し、さらには儀式的な知識もあった。
それが超越者対策室勤務ではないなんて、不自然な話だ。
それでも違った答えを探してみるとしたら、超越者の旧家の家系。
色々な知識が伝承されている。
けど、それならば楓達の中にもそんな人間がいそうなものだ。
罠に、自ら飛び込んでいる気がする。
その罠の正体とはなんだ?
考えると、眠れなくなって、私は夜の町を走り始めた。
ランニングフォームは、剛の魂を吸収してから随分と良くなった。
考え事をしていたので、気がつくと見知らぬ土地で立っていた。
いや、考え事から逃げるように走っていたというべきか。
どうかしている。
私は、宙に浮いた。
そして、周囲を見渡す。
星々のように、夜の町並みが私を見返していた。
「……スマホ使って道調べよっと」
そうして、私は地面に着地した。
+++
帰り道を歩く。鬼とドラゴンを吸収したので随分と体力には余裕がある。
電話があった。恭司からだ。
「仕事中?」
「うんにゃ」
沈黙が漂った。
そのうち、恭司が意を決したように声を出した。
「お母さんから俺の家にいないかって電話がかかってた」
「ん? 今何時?」
「二十三時だ」
「あー……そりゃ心配するわな」
「なにしてたんだよ」
「ランニング」
「する必要ないだろ。お前は十分痩せてるし、体力なら吸収した分がある」
「それでも、ちょっと走りたい気分だったんだよ」
「お前、ちょっと変だぞ」
感づかれたか。そんな思いが胸に湧く。
「ちょっと連戦続きで疲れてるんだ。気にしないでほしい」
「それは、信用していいのか? 変なことに巻き込まれてはいないのか?」
私は、一瞬返事を躊躇った。
「恭司の手の届かない場所にはいかない。私達は、二人で一つだ」
「……家に連絡しろよな。お母さん心配してるから」
「うん、悪かった」
電話は、それで切れた。
私はなにをやっているのだろう。
夜の海が視界に広がった。
それはどこまでも暗く、なにもかもを飲み込みそうだった。
第四話 完
次回『第三の印』




