ソウルリンク
楓は無事だろうか。
無事ならば、帰ってきたはずだ。
そんな馬鹿らしい自問自答を考える。
俺は車でしばらく待っていたが、いつまでも楓がやってこないので、待つのをやめた。
車を発進させる。
有栖が、目を覚ました。
「大丈夫か?」
「私……私……そんなつもりはなかったのに」
そう言って、有栖は泣きじゃくる。
「ドラゴンは私になついてて、けど、あまり頭が良くないから直情的な手しか使えなくて……それで……」
有栖は、自分の膝を叩く。
「私のせいで、何人も死んだ!」
「相手に問題があるケースもあるんじゃないか」
「けど、死に値するほどではない」
「人を馬鹿にするってことは、殴られて当然のことをしているってことだよ。父さんも長い人生の中でそう学習した」
「けど……」
「有栖は悪くない」
俺は断言する。親馬鹿だろうとなんだろうと、断言する。
「あのドラゴンをお前にリンクさせたのは、誰だ?」
「最初は、小さなドラゴンだったんだよ」
有栖はぽつり、ぽつりと語り始める。
「けど、日に日に巨大になっていって、手に負えなくなった。ドラゴンの卵を譲ってくれたおじさんに言ったら、一心同体にしてあげるよって」
「まんまとはめられたわけだな」
「うん……」
「ひとつ勉強になったな。うまい話はそうそう世の中にない」
「そのせいで、何人にも迷惑をかけた」
そう言って、有栖は腕を目に当てて泣き出す。
「まずはそのリンクを解こう。ドラゴンはリンクさえ解けば自由に移動するかもしれない」
「うん……」
有栖は項垂れていた。
「楓さんは?」
「あの後違うチームに別れたから、わかんないな」
大人になると、嘘が上手くなる。
そんな醜い成長なんて、したくはなかったけれど。
やはり、俺は主人公の器ではないのだ。
俺と有栖は警察病院に辿り着いた。
そして、巴の部屋へと行く。
巴はギプスを付けた足を宙吊りにされてベッドに寝転がっていた。
「いやあ、情けない姿を見せて面目次第もない」
「いや。娘を庇ってくれたんだ。いくら感謝しても足りない」
「おいでなさい、娘さん。今、あなたを縛る術を解いてみせましょう」
その言葉に従って、有栖は巴に近づいていった。
巴の目が青く光る。
スキルキャンセラーの能力を発動させているのだ。
しばらくして、その輝きも消えた。
「ドラゴンとのリンクも、これで消えたはずです」
「ありがとう」
名脇役になるのは難しい。
主人公ならば自分で解決できるが、脇役はそうはいかない。
翠、巴、そして楓。
色々な人間に迷惑をかけた。
「帰ろうか、うちへ」
有栖は涙目になって、俺の体にしがみついてきた。
「帰る資格があるのかな?」
「馬鹿野郎。親が言われて傷つく言葉が、死にたい系の言葉と、帰りたくない系の言葉だ」
そう言って、有栖を抱き上げる。
「お前は、帰ってもいいんだ」
有栖は涙を零しながら、一つ頷いた。
第九話 完
次回『脇役なりの全力にて挑む』




