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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第八章 俺は主人公って柄じゃねえ
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ドラゴンと空で踊る

 その日、近隣の小学校は生徒を早めに帰し、校舎には静けさが残された。


「スマホ、持たせておけばよかったな」


 俺は、呟くように言う。


「なんでそんなに冷静なの?」


 楓が、非難するように言う。


「こういう時に冷静であるのが俺達の仕事だ」


 ドラゴンと有栖はリンク状態にある。食われたり傷つけられたりすることはないだろう。

 ポケットから煙草を取り出し、火をつける。


「禁煙したんじゃなかったの?」


 楓がやはり非難がましい声で言う。


「やめてたんだけどな……」


 そう言って、煙を吸って、吐く。

 妙案は思いつきそうにない。


「雲の上を飛んでいるのか、目撃情報もありません」


 翠が情けない表情で言う。


「私がもっと早く、巴ちゃんを呼ぶ選択肢を選んでいれば……」


「誤差だよ、誤差」


 俺は冷静に言う。

 巴は、病院に運ばれた。

 レントゲンを撮ると言われていたが、多分足を骨折しているだろう。

 巴には超越者の能力が通用しない。治癒の術もその中のひとつだ。

 彼女は、何ヶ月か松葉杖をついて行動することになるだろう。


「そんなに冷静だけど、考えはあるの?」


 楓は、冷たい視線を俺に向ける。


「ああ、あるさ。あいつが多分あいつのままだったなら、あの場所しかない」


「あの場所?」


「俺があえて、避けてきた場所だよ」


 そう言って、俺は歩き出した。

 車に乗って、エンジンをかける。

 助手席に、楓が乗った。


「ついてくるのか?」


「パートナーだからね」


「そうかい」


 そう言って、僕は車の窓を開けた。


「ソウルキャッチャーはドラゴンの再臨に備えて小学校を守っていてくれ」


「お二人がドラゴンを見つけたら?」


 翠は本当にそれでいいのか? と言いたげだ。


「これは地図だ。その通りに来てくれればいい」


 そう言って、メモ帳にサインペンを走らせて翠に渡す。


「わかりました。巴ちゃんを連れて、即座に駆けつけます」


「ああ、頼んだ」


 俺はついつい微笑むと、車を発進させた。

 心強い切り札。ソウルキャッチャー。

 それだけで、娘は無事に助かるだろうと希望を抱けた。




+++




「なんであんなことしたの……?」


 有栖は、ドラゴンの背に額を乗せて、絞り出すように言っていた。


「私だったら大丈夫だったよ。友達だって、できかけてたよ」


 ドラゴンは困ったように唸る。

 そして、有栖は思い切って、上半身を起こした。

 そして、ドラゴンの背を駆けて、崖から海へと身を投げ出す。


 ドラゴンが横を通り過ぎていった。

 そして有栖の周囲を旋回し、額に乗せる。


 有栖はなんだか笑いたくなってきた。

 ドラゴンと踊った女なんて自分が史上初だろう。


「君は、暴走癖さえなければいい子なのにね」


 そう言って、有栖はドラゴンの頭を撫でた。

 ドラゴンはやはり、困ったように鳴いた。




第七話 完

次回『思い出の場所で』

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