状況整理
「ドラゴンの目を撃ったら、有栖ちゃんの目も潰れた。そういうことですか」
翠は思案するように言う。
「そうだ」
俺は頷く。この異変の答えは見えている気がした。見えてはいるが、直視したくないがために結果を先送りにしていた。
「多分、多分ですが……」
翠は言いづらそうに口を開く。
「この子と、ドラゴンは、リンク状態にあります」
「リンク状態?」
「ドラゴンが傷つけばこの子も傷つく。ドラゴンが疲労すればこの子も疲労する」
「そんな話あるかよ」
「逆に考えればメリットなんですけどね。ドラゴンが健康である間、この子は無敵状態でいられる」
「ドラゴン討伐の命令はくだった。今更俺では撤回できない」
「問題は、何処でこの子がこんなリンク状態になったのか。それと、どうしてドラゴンみたいな空想上の生物がこの世に現れたのか。二つの謎です」
ひとつの名前が、俺の脳裏に浮かび上がった。
「石神……」
「多分、それ絡みではあるでしょうね」
翠は、冷静に頷いた。
「そう言えば、有栖は俺をパパとは呼んだがお父さんとは呼ばなかった。母親のことはお母さんと呼んでいたのに。石神は自分のことをお父様と呼ばせていた。その影響だったか」
そこまで言って、溜息を吐く。
「その、リンクって奴は消せないのか?」
「どうも防御結界に覆われているようで。私でもいじれるかもしれませんが不安が残ります」
脳裏に閃くものがあった。
「スキルキャンセラー」
「ですね」
翠は頷く。
彼女は慌ててスマートフォンを取り出して、文字を入力し始めた。
数秒後に、返事がきた音がした。
「すぐに、ここに辿り着くようです」
「一段落はついたってところか……」
そう言って、俺は安堵のあまりもたれかかるようにして椅子に座った。
+++
スキルキャンセラー、木下巴が来たのは、それから十分後だった。翠が呼び出されたので、楓はそれを見送りに行っている。
「ドラゴンとのリンク?」
事情を聞き、驚いたように巴は言う。
「勿体無いですねー」
「けど、娘を縛る枷となっている」
俺は、絞り出すようにして言う。
「どうか、消してはもらえまいか」
「あいあい。ちょちょいのちょいで消してみせますよ」
そう言って、巴は部屋の中央へと歩いて行く。
飛行音がしたのはその時だった。
壁を突き破って、ドラゴンが部屋に現れた。
巴は有栖を庇って、足に壁の破片を受けた。
そのままドラゴンは前進していく。
そして、有栖を咥えて背に乗せると、去っていった。
「有栖ぅぅぅぅぅ!」
俺は銃撃もできず、叫ぶことしかできなかった。
第六話 完
次回『ドラゴンと空で踊る』




