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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第八章 俺は主人公って柄じゃねえ
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家族

 今日は休日だ。

 食事はどうしたものかと考え込んでいると、楓が家にやってきてくれた。


(律儀な奴)


「悪いな。お前も予定あるだろうに」


「相馬が謝るなんて珍しいこともあるもんだ」


 楓は苦笑交じりにそう言うと、居間に入っていった。

 有栖はまだ寝ている。

 その寝顔を眺めて、楓は頭を撫でた。


「本当に節子の娘なのね」


 感心したように言う。


「少なくともここまで顔が似てて赤の他人ってのは無理があるだろうな」


「それもそうか。じゃ、私朝食作るから。ニュースでも見てて」


「うい」


 テレビをつける。ニュース番組では、この一週間のまとめをしていた。


「大谷またホームランだってよ」


「日本人でこれぐらい打てる選手はこの先出てくるかねえ」


「どうだろうなあ。こうして考えると長年やってた松井の異様さがわかるな」


「松井とイチローならどっち派?」


「どっちもすげえよ」


「料理できるよ」


 そう言って、フライパンの中身を楓は皿にうつしかえる。


「おい、朝だぞ、有栖」


「うーん……」


 そう唸って、有栖は目を覚ました。


「なんだ? 昨日夜更かしでもしたのか?」


「夢を見たの」


 そう、有栖は呟くように言う。


「ドラゴンの背に乗って空を飛ぶ夢」


 またイマジナリーフレンドの話か。

 どうしたものだろうかと思う。


「ドラゴンなんて実在しないんだぞ」


「いるよ」


「そういうこと言ってたら、同級生に嘘つき扱いされるぞ」


「私だって言っていい話と悪い話はわかるよ。パパだから話したの」


「……そうか」


 有栖の小さな頭に手を載せる。

 この子はきっとこれから色々なことを吸収していくのだろう。

 世間の常識。学校の勉強。ニュースで流れる政治や世界情勢。友達との遊び方。

 目的に溢れていて、眩しいぐらいだ。

 その姿は、まさしく主人公だった。


 楓が皿に料理を盛り付けて並べていく。

 そして、三人で手をあわせた。


「いただきます」


 楓の料理は、美味かった。

 節子程ではないが。



+++



 流れで、有栖の服が足りないことがわかり、俺達はショッピングモールに行くことになった。

 車を運転して、三十分ほどで辿り着く。

 三人で、ショッピングモールの自動ドアをくぐった。



 買い物は二人に任せて、俺は椅子に座りスマートフォンをいじる。

 有栖と遊ぶためにダウンロードしたアプリをなんとなく開いて遊んでいく。


 二人の買い物が終わったのは三時間後だった。


「かかりすぎじゃないか?」


 思わず愚痴る。


「学校で格好悪い服は見せられないもんねー」


 楓が言うと、有栖は微笑む。


「ねー」


 すっかり意気投合したようだ。

 数日前まで、自分はハードボイルドな人間だと思って生きてきた。

 これでは、家族の買い物に振り回されるお父さんだ。


「じゃ、終わったなら行くぞ」


 そう言って俺は前を歩き始める。

 その後に、二人はついてきた。


「楓さん」


 有栖が小声で言う。


「なに?」


 楓が小声で返す。


「パパと結婚する気はない?」


「それはないわ」


 また、異口同音に言っていた。

 楓は笑い始めた。


「そうよね。パパにも選ぶ権利があるものねー」


「けど、楓さんがいないとうちは回らないじゃん」


 ぐうの音も出ないとはこのことだった。



+++



 その夜、ちょっと豪勢な晩御飯を三人で食べ、寝る時間になった。


「楓さん。今日は一緒に寝て」


 有栖が、縋るように言う。


「うーん、着替えないしなあ」


 楓が上手くかわす。


「最近涼しいから汗なんてかかないよ」


「と言われてもねえ。パパも嫌がるでしょ」


「俺は別にかまわんが」


 思わず、口に出していた。

 知らず知らずのうちに溜まっていたのだろうか。彼女への感謝が。


 楓はしばらく唸った後、負けたとばかりに口を開いた。


「うーん、わかった。一晩だけね」


「わーい!」


 有栖が大声を出す。

 部屋の壁が蹴られた。

 有栖が途端に戸惑った表情になる。

 楓は人差し指を口に当てて有栖の肩に手を置いた。


「静かにしようね。ここ、色々な人がすごしている場だから」


「うん、わかった」


 そう言って、有栖は楓に抱きつく。

 楓は優しく微笑んで、有栖の頭を撫でていた。


「しっかし神経質な野郎だな」


 わざと聞こえるように言う。


「しーっ」


 楓が人差し指を口に当てて言う。


「しーっ」


 有栖も真似して言う。


 その日は、有栖を囲んで三人で寝ころがった。


「お母さんって、どんな子供だったの?」


「手に負えない悪ガキ」


 俺は淡々と事実を述べる。


「ちょっと不良だった時期があるだけじゃん」


 楓がフォローする。


「ある日から酒も煙草も断って。今思えば、その時にお前はお腹にいたんだな」


「お母さんが、私のために……」


「そゆこと」


 そんなことを話しているうちに、そのうち眠気がやってきて俺達は眠った。

 ハードボイルドとは程遠い、家族の匂いがそこにはあった。




+++




 その日もドラゴンは空を飛んでいた。

 有栖の寝ているアパートの屋根に、音もなく舞い降りる。

 そして、有栖を護衛するかのように、一晩中そうして立ち尽くしていた。



第四話 完


次回『荒れ狂うドラゴン』

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