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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第七章 うん、また連れてってよ、アラタの旅へ
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さつきの葛藤

 川瀬さつきは、正直なところ、遠野アラタを好きなのだと思う。

 理由はと言われれば色々とあるが、一番簡単な理由を上げれば一目惚れだ。


 道場に入ってきた時、その凛々しい姿が、筋肉で細く引き締まった体が、ぐっときたのだ。

 だから、最初はそれを気取られないように面倒臭そうなオーラを出していたが、対戦相手に選ばれた時には心臓の高鳴りが止まらなかった。

 そして、彼が見せた飛び抜けた強さも、さつきが好感を抱くには十分だった。


 だから、さつきの旅の動機にはやや不純なものが混ざっている。

 もちろん、家を燃やした奴は憎い。しかし、好きな人の傍にいたいという感情もけして否定できはしないのだ。


 もっとも、相手は自分をガキ扱いしかしないわけだが。

 ガキ、とか馬鹿、とか言われるたびに少しへこむし、恋心も薄れる。


 こんな気持ち、アラタはわからないだろうなと思う。


「なんかあったか?」


 アラタが戸惑うように訊く。

 二人は草原で寝転がって、星空を眺めていた。

 ここでは、暗殺者も忍び足では近寄れないだろう。


「いやね、ちょっとね」


「ちょっとなんだよ」


「アラタにはわかんないよ」


「気になるな」


「言ってもわかんないから言わないの」


「もしかして俺、馬鹿扱いされてる?」


「剣道馬鹿でしょ?」


「剣道馬鹿一家の出身に言われたくはない」


 さつきは小さく笑う。


「馴染んできたね」


「なにがだ?」


「私達の関係も」


 アラタは、少し時間を置いて答えた。


「そうかもな」


「たまにね、思うんだ。学校も部活も放り投げちゃって、こうやってずっと旅をできたらいいのにな、なんて」


「俺は常にそう思ってるよ」


「あはは、心が落ち着く薬でももらったほうがいいんじゃない?」


「んー、登山家とかってどうやって飯食ってるんだろうな?」


「写真とか売ってるんじゃない?」


「そうかー? なんか違う気するけど、俺」


「じゃあ、スポンサーはどこだろう」


「謎だらけだな。戦場カメラマンアラタとかアリだな」


「危ないよ」


「そうだなー。危ないことをしてもあいつに心配かけるだけだしな」


「私だって、心配だよ」


 それとなく、気持ちを仄めかしてみる。

 警戒するような気配が感じ取られた。


「皆、アラタの知り合い皆、心配するよ」


 アラタの警戒が解けていくのがわかる。

 胸が、痛くなった。


「明日、午前中は二刀流対策に当てるとして、午後の夕方頃に、辿り着く」


「うん」


「島津剣術道場に」


「……うん」


 黒一色の男は、あれ以来出てこない。

 どうなっているのか、わからないままだ。


「一つ一つ、片付けてかないとね」


 この行き場のない恋心も、何処かに片付けねばならないだろう。

 そう思いつつも、上手く片付けられる自信はなかった。



第九話 完

次回『また、の約束』

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