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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第七章 うん、また連れてってよ、アラタの旅へ
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因縁の戦い

 旅は道連れ世は情け。よく言ったものだと思う。

 後半部分は今の世の中では怪しいけれども、旅の仲間はいるに越したことはない。


 僕の旅はさつきと共に歩くことでとても楽しいものとなった。


「あこのアイス買おーよ」


「昼飯食べただろ?」


「デザートは別腹でーす」


 ともかく元気な娘で、人見知りもしない。さぞ、両親に愛されて育ったのだろう。

 そして、僕は、ある土地に辿り着いていた。

 そこは、敦賀。

 縦長の細い湾が視界に広がる。


 海賊の隠れ家みたいな湾を見たことがある。そう、響が語っていたことがある。

 だから、写メを撮って送っておいた。


「コンビニあるからアイス食べようよ」


「お前よく太ってないよな」


 細い体に視線を向ける。


「体見るな! セクハラです!」


「んじゃお前も俺の体見ないようにして喋れよ」


「首から上だけ?」


「胸見られるのも嫌なんだろ。なら首から上だけだ」


「……ともかく体見ないで」


「はいはい」


 そして、ホテルをとると、僕達は夜の公園で鍛錬に励んだ。

 背筋が寒くなるような一撃が何度もある。


(こいつは……いつ俺を追い越すんだ?)


 思わず、そんなことを思う。

 勇気以上の才能だ。


「こないね」


 さつきが呟くように言ったので、僕は我に返った。


「ん? 悪い、ちょっとぼんやりしてて打ち込みが疎かになっていた」


「そーじゃなくて!」


 さつきが両腕を上下に振りながら言う。


「うちを燃やした奴」


「言われてみればここ数日見てないな」


「でしょー?」


「不気味だなあ……」


「不気味だなあ……で済ませないでよ。私絶対あいつから金を搾り取るんだから!」


「お前の動機って、それなの?」


「悪い?」


「いや、悪かないけど」


 それで命を賭けられるとは豪胆な娘だ。

 なんとなく、さつきの性格が見えてきた。


「わかった。お前、馬鹿なんだな」


「聞き捨てならないね」


「だって俺とか警察に任せておけば終わるだろう? 普通はわざわざ命を賭けんよ」


「私の手で捕まえないと気がすまないのよ」


「ふうん……」


(動機はどうあれ上達してる事実は変わりないからまあいいか)


 その日も、暗殺者の襲撃はなく終わった。



+++



 春も終わり、気温が高くなってきた。

 世間はゴールデンウィークの話題で持ちきりだろう。


 島津剣術道場もゴールデンウィーク中は休みに違いない。

 そう思い、僕は剣術道場を探しながら歩く。


 そして、手頃な剣術道場を見つけたので挑戦してみることにした。

 時代錯誤な道場破り。

 相手は苦笑して受け入れてくれた。


「じゃあ、頼むな」


 そう言って、さつきに木刀を渡す。


「な、な、な?」


 さつきは戸惑っている。


「お前以下の奴と戦っても俺の練習にならんのだ」


 そう言って、僕は周囲の生徒に混ざって座る。

 さつきは、木刀を置くと竹刀を受け取り、防具を身につけると、構えを取った。

 綺麗な構えだ。

 それに見惚れてしまうのは、罪なのだろうか。


(そういや首から上しかみちゃダメって縛りだったなあ)


 そんなことを思う。


(まあ、そんなこと言ってたら稽古もできないからいいだろう)


 そう、自己完結した。


「めえええええん!」


 さつきが雄叫びを上げて突撃する。

 一瞬で相手の面を打っていた。

 初対面の時、僕がさつきに使った手。

 レベルの違いを見せつけるために行なった蛮行。

 それを、さつきは見事に成功させていた。


 結局その日、さつきは一本も取られることなく全勝した。




+++




「強くなるって気持ちいいね、アラタ」


 そんなことを言われて、言葉に詰まる。


「そうじゃない?」


「んー。俺は旅をしたいとか、敵に負けたくないとか、そういうので強くなりたいって動機があるから健全だと思うんだけど。お前の強くなりたい動機ってなんだ?」


「家を燃やされた復讐」


「それはやめといたほうがいいな」


「なんで?」


「戦闘中に雑念が入る。理想は明鏡止水だよ」


「けど、アラタだって人を守りたいとか色々抱えてるんでしょう?」


「まあなあ」


「それは雑念にならないの?」


「集中力が増すよ」


 そんな、他愛のない話をしている時のことだった。

 僕らは、路面電車の踏切の前で立ち止まっていた。


「アラタ、危ない!」


「フォルムチェンジ!」


 気づいたのは、同時だった。

 僕はフルフェイスのヘルメットとスーツを身にまとった戦士となる。手には長剣が握られている。

 そして、頭上から降ってきた敵の攻撃を、ヘルメットが受け止めていた。

 さつきが、真剣を鞘から抜く。


「惜しかったなあ。後一ミリで天国に行けたのにな?」


 楽しそうに黒一色の男は言う。

 僕の頬には、血が伝っていた。


「とうとう不意打ちしか手がなくなったか? たまには正面からかかってきたらどうだ」


「そちらこそどういう酔狂だ? お嬢ちゃんに剣を持たせて、有利になるとでも?」


「さあな。見てみろよ」


 黒一色の男が構える。

 不思議な構えだ。

 片手に剣を持って前に突き出し、もう片方の手は後ろに下げている。


「ここで倒すぞ、さつき!」


「うん!」


 まずは僕が打ちかかった。相手はそれを剣で逸す。

 そこに、さつきが突貫する。

 引いていた手から放たれた掌底がさつきの腹を掠めた。

 さつきは辛うじて回避したのだ。


 溜息が聞こえた。

 黒一色の男のものだ。


 男は、さつきの一撃を受け止めていた。

 二刀流。

 僕とさつきの剣を同時に受け止めているのだ。


「お前、今まで手を抜いて……」


「強敵と聞いて、楽しみたかったもんでねえ!」


 暴風が吹く。それに押されるように、僕も、さつきも、下がった。


「そうか。お前も奥の手があったんだな」


 僕の言葉に、黒一色の男は笑い声を上げる。


「お前も、か。大したハッタリだな。お前の手の内はスーツと剣の精製だけ。情報は出回ってるんだよ」


「その剣が、最強の剣だったら、どうする?」


 僕は目を細めて相手を見る。


「最強の、剣……?」


 黒一色の男は戸惑うように言う。


「出し惜しみしないでさっさと倒してよ!」


 さつきが言う。


(馬鹿!)


 僕は心の中で頭を抱える。

 今の会話は、技を発動させるのに必要な溜め時間を消化するための茶番だというのに。

 それで、男も気がついたようだった。


「そうか。溜めがないと使えないのか。欠陥技だなあ」


 そうやって微笑みつつ、相手は近づいてくる。

 その前に、さつきが立ち塞がった。


「やめろ、さつき!」


 さつきは斬りかかる。

 相手は一刀でそれを防ぎ、もう一刀でさつきの腹を割いた。

 さつきは地面に崩れ落ちる。


「くそおおおおお!」


 僕は雄叫びを上げて、相手に飛びかかっていた。

 相手は剣を持ち上げて、防御態勢に移る。

 けど、無駄だ。

 相手の剣ごと、フルフェイスのヘルメットとスーツを斬り裂いていた。


「なんだ……? なんだ? その力は」


「退け」


 僕は刺すような声で言う。


「今日は見逃してやる」


 溜め時間が少なかったため、僕の武器は通常の状態に戻りつつあった。

 相手はしばらく躊躇っていたが、僕を睨むと駆け足で去っていった。

 僕は慌てて、さつきの治療に移る。

 出血が激しい。僕の治療スキルでそこまでフォローできればいいのだが。


 さつきの腹部に触れ、意識を集中する。

 白い光が輝き始めた。

 苦悶の表情に歪んでいたさつきの表情が、徐々に和らいでいく。


「なんで無茶するかなあこの馬鹿は……」


「いや、けど、一度見たので対策はできたよ」


 そう言って、さつきは親指を立てる。


「次は任せて」


 僕はしばらく黙って治療していたが、そのうち腹が立ってきたのでさつきの頭にデコピンした。


「やっぱ馬鹿だな、お前って」


「馬鹿ってゆーな!」


 しかし、二刀は厄介だ。

 今まで、危機に陥った時、僕の剣が光り輝くことがあった。

 あれは極度の集中の状態の時に起こる現象なのだと僕は推察している。

 そして、命がかかってなければ、凡庸な僕はその境地に至るには時間がかかることもわかっている。

 光りさえすれば、剣は無敵だ。なにもかもを斬り裂く凶器となる。


 そうさつきに説明すると、再び親指を立てた。


「私が時間を稼ぐ。集中して!」


 僕はさつきの頭をはたいた。


「やっぱ馬鹿」


「人の頭をパシパシパシパシ! 師匠でも許さないよ」


「へー。お前でも師匠とか弟子って概念あるんだな」


「そりゃあるよ。私はあんたの一番弟子だから」


「残念ながら姉弟子がいるなあ」


「姉弟子ってことは女?」


(面倒臭いこと言いそうだなあこいつ)


 そう思いつつ返事をする。


「ああ」


「女にしか教えないんだ~」


(案の定だよ)


「才能があるからだよ」


 僕は溜息を吐きながら、淡々とした口調で言う。


「才能がある人間から成長する機会を奪うのは損失だ。だから、俺は、力になれればと思ってる」


「……じゃ、私も才能があるってことなんだ」


「二刀流相手に惨敗してたけどな」


「それは言うな。次はきちんとやるから」


 しばし、沈黙が二人の間に流れた。

 騒々しい音がなり、踏切がしまる。

 電車が走っていく。


 つられて、空を見上げた。

 星々が、輝いていた。


「ああ……昔、弟子に言ったことを、忘れていたんだな。俺もまだ、未熟だ」


「どんなこと?」


「いつから、夜空を見上げていないか。心に余裕のない証拠だ。そんなんで、勝てるわけがなかった」


「仕方ないよ。暗殺者に追われてるんだから」


「そうかもなあ。けど、常時落ち着いていられるならば、きっと俺は……」


 最強になれる。そう言いかけて、僕は思いとどまった。

 それは、あまりにも思い上がった発言だったから。

 僕らは黙って夜空を眺め続けた。


「綺麗だね」


 さつきが言う。


「ああ、綺麗だ」


 夜空は輝かしい星々に彩られていて、まるでそれそのものが最高の宝石のようだった。



第六話 完

次回『お金がない』

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