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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第七章 うん、また連れてってよ、アラタの旅へ
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そして、旅に出る

 昨晩の楓との対決を思い出し、僕はげんなりとした。

 最初、楓は飴を賭けようと言った。

 そして、僕は勝った。

 次は楓は、千円を賭けようと言った。

 そして、僕は勝った。

 次は楓は、五千円を賭けようと言った。


 繰り返しだ。

 僕にどうしても勝ちたかったらしい。

 そういう子供っぽいところが、あの人にはある。

 飴以外の品は全て返したが、これが僕じゃなかったらどうなっていたのだろう。


「やっぱ変な人」


 僕は、思わず呟く。


「おーい、剣道部のエースー」


 剣道部の仲間が声をかけてくる。


「今年はいい夢見させてくれよ」


 そう言って、肩を組んでくる。


「あー、いや、どうかな」


 僕は躊躇いながら言う。


「どうしたんだよ。自信ないのか?」


「ちょっと予定が入っちゃって、いつ終わるかわかんないんだ」


「バイト?」


「家庭の事情だって思っといて」


「ふーん、お前も大変だな」


「ガキは無力だよ」


 そう僕は苦笑交じりに言う。

 そう、そこらの大人の大半に僕は勝てるだろう。

 けどそれは、剣での話だ。

 経済力の話になると、僕は大半の大人に勝てなくなる。


 いつかは、それも身につくのだろうか。

 わからないところだった。

 冒険に胸踊らせている今の僕は、将来は丸くなれるのだろうか?


 丸くなれなかったら、ホームレスになる未来が見えた。


 僕の非日常へ憧れる衝動は、子供のうちだけに見る夢だ。

 いつかは卒業しなければならない。

 僕自身も、わかっている。




+++



「お久しぶりですね」


「お久しぶり……です」


 僕は戸惑った。

 水月の腹が大きくなっているのだ。


「もう服じゃ誤魔化せなくなってきましたね」


 水月は苦笑交じりに言う。


「相手は……?」


 僕は、恐る恐る訊く。


「当面は私一人で育てることになると思います」


 水月は、穏やかにそう言う。


(騙されやすそうな人だったもんなあ……)


 そんなちょっと辛口なコメントを飲み込むと、僕は頭を垂れた。


「旅に出るので、無事を祈ってください」


「わかりました」


 水月はそう言って、語り始める。


「天にまします我らが神よ」


 神がいるなら。

 強敵と会わせてくれ。

 僕は、そう祈った。


「おしまいです」


 いつの間にか祈りは終わっていたらしい。

 僕は頭を下げて礼を言うと、その場を後にした。



+++



 大量の携行食と少しの着替えで一杯になった鞄を背負う。

 深夜三時。

 誰も起きていないだろう。


「とうとう行くのか」


 部屋に住み着いている大輝が、声をかけてきた。


「起きてたのか」


「俺は睡眠が浅くてね。寝てる間にガサガサ音を立てられたら相手を殺したくなっちゃうんだよ」


「悪かったよ」


「一人旅は危ないと俺は思うがね」


 僕は思わず苦笑する。


「一人で石神のアジトを潰してきたお前の台詞かよ」


「俺とお前、現状では戦ったら一対九ぐらいで俺に軍配が上がる」


「一は謙遜だろ」


 僕はからかうように言う。


「まあな」


 大輝は否定しなかった。


「どんな人間にも適所というものがある。お前はこの地でじっくり修行をしてもいいんだ」


「けど、前回の相手は妙な技を使った」


「妙な技?」


「次元突って言ってたかな。スーツを破られた」


「次元に干渉する技、か」


「とりあえずは、そいつの出身道場目指して進もうと思うよ。また会おう」


「ああ。また会おう」


 そう言って、大輝は再び目を閉じた。

 家の外に出る。


 そして、我が家を見上げて呟いた。


「必ず。必ず帰ってくるから……」


 待っていてくれ。そんな、勝手なことは流石に言えなかった。

 手紙を投函する。響への愛情と、勝手に旅に出たことを詫びる手紙だ。

 大輝がいてくれるから、僕は安心して旅に出ることができる。


 それを思えば僕はあの変人に感謝しなければならないのだろうか?

 恋人の兄とはいえ、僕の評価は辛かった。



第二話 完

次回『襲撃者』

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