たった二人の戦い
胸のロケットに入れた写真を見る。
写真の中の弟は健康で、元気に微笑んでいる。
それを、エミリーは抱きしめた。
足音が近づいてきた。
エミリーは慌ててロケットをしまう。
「来てくれたのね」
巴だった。暖かくなってきたというのにマント姿だ。
「友達の頼みだからね」
そう言って、エミリーは両手を下ろして、巴に向き直る。
「思えば、この出会いは神様の贈り物だったのかもしれない。なにも知らなければ、私はただあなたを逮捕していただろうから」
「そのほうがよほど楽だったかもよ」
「そうだね」
巴は苦笑する。
「仲間もいなくなってどうしたもんかってのが現状よ」
エミリーは珍しく弱音を吐いた。巴を信頼している証かもしれない。
「あなたの国はあなたの技術と情報を欲しがっているわ」
エミリーは、戸惑うような表情になる。
「つまり……大手を振って帰れるってこと?」
「うん。楓さんって同僚が今交渉を続けてくれている。光明はあるんだよ、エミリー」
エミリーはバックに手を入れた。そして、拳銃を取り出す。
巴の表情が、曇った。
「信じられないわ。私を今更法が許すわけない。許してはいけない。人は人によって裁かれなければならない」
「エミリーの持っているスキルはとても貴重なんだよ。重用されると思う」
「嘘をつけ!」
銃弾を放つ。
膝を撃って動けなくするつもりだった。
しかし、鉄と鉄がぶつかりあう音がして、銃弾は何処に飛んでいったのかわからなくなってしまった。
「銃撃を……斬った?」
エミリーが唖然とした表情で言う。
その間にも、巴は接近してきている。
エミリーは銃弾を連射した。
全て、斬り落とされた。
そして、エミリーの前に巴は立つ。
殺されるか。そう思った。
巴はエミリーの右手をねじり上げて銃を離させると、エミリーを抱きしめていた。
「今まで怖かったね。辛かったね。けど、もう休もう。私達は生きている。生きているということは贖罪ができる。私達は私達にしかないスキルを与えられた。それで、社会に借りを返していこう」
「……殺された人の家族は、きっと許さないわ」
エミリーは、目から涙がこぼれ落ちるのを感じていた。
何度も、何度も、見た。犠牲者とその家族のプロフィール。
「そうだね。私もそう思う。けど、背負うしかないんだよ。どんなことも、どんな人間関係も、私達は背負って進んでいくしかないんだよ」
エミリーは膝をついて、嗚咽を上げ始めた。
そして、必死になにかを喋ろうとするが、しゃくりあげて話せない。
巴は、耳を近づけて訊いてみた。
「ありがとう……あなたは私のベストフレンドだわ」
「どういたしまして」
巴は微笑んだ。
巴が警察に所属してからの初仕事がこれだった。
一つ、事件を解決した。その分、一つ荷物を下ろした気分になった。
だけど、巴の肩にある罪悪感は消えはしない。
戦い続けようと思う。
それが、それだけが、巴にできることだから。
第十三話 完
次回第六章大団円『花見』




