表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第六章 全て、無駄です
102/391

たった二人の戦い

 胸のロケットに入れた写真を見る。

 写真の中の弟は健康で、元気に微笑んでいる。


 それを、エミリーは抱きしめた。


 足音が近づいてきた。

 エミリーは慌ててロケットをしまう。


「来てくれたのね」


 巴だった。暖かくなってきたというのにマント姿だ。


「友達の頼みだからね」


 そう言って、エミリーは両手を下ろして、巴に向き直る。


「思えば、この出会いは神様の贈り物だったのかもしれない。なにも知らなければ、私はただあなたを逮捕していただろうから」


「そのほうがよほど楽だったかもよ」


「そうだね」


 巴は苦笑する。


「仲間もいなくなってどうしたもんかってのが現状よ」


 エミリーは珍しく弱音を吐いた。巴を信頼している証かもしれない。


「あなたの国はあなたの技術と情報を欲しがっているわ」


 エミリーは、戸惑うような表情になる。


「つまり……大手を振って帰れるってこと?」


「うん。楓さんって同僚が今交渉を続けてくれている。光明はあるんだよ、エミリー」


 エミリーはバックに手を入れた。そして、拳銃を取り出す。

 巴の表情が、曇った。


「信じられないわ。私を今更法が許すわけない。許してはいけない。人は人によって裁かれなければならない」


「エミリーの持っているスキルはとても貴重なんだよ。重用されると思う」


「嘘をつけ!」


 銃弾を放つ。

 膝を撃って動けなくするつもりだった。


 しかし、鉄と鉄がぶつかりあう音がして、銃弾は何処に飛んでいったのかわからなくなってしまった。


「銃撃を……斬った?」


 エミリーが唖然とした表情で言う。

 その間にも、巴は接近してきている。

 エミリーは銃弾を連射した。

 全て、斬り落とされた。


 そして、エミリーの前に巴は立つ。

 殺されるか。そう思った。

 巴はエミリーの右手をねじり上げて銃を離させると、エミリーを抱きしめていた。


「今まで怖かったね。辛かったね。けど、もう休もう。私達は生きている。生きているということは贖罪ができる。私達は私達にしかないスキルを与えられた。それで、社会に借りを返していこう」


「……殺された人の家族は、きっと許さないわ」


 エミリーは、目から涙がこぼれ落ちるのを感じていた。

 何度も、何度も、見た。犠牲者とその家族のプロフィール。


「そうだね。私もそう思う。けど、背負うしかないんだよ。どんなことも、どんな人間関係も、私達は背負って進んでいくしかないんだよ」


 エミリーは膝をついて、嗚咽を上げ始めた。

 そして、必死になにかを喋ろうとするが、しゃくりあげて話せない。

 巴は、耳を近づけて訊いてみた。


「ありがとう……あなたは私のベストフレンドだわ」


「どういたしまして」


 巴は微笑んだ。

 巴が警察に所属してからの初仕事がこれだった。

 一つ、事件を解決した。その分、一つ荷物を下ろした気分になった。

 だけど、巴の肩にある罪悪感は消えはしない。

 戦い続けようと思う。

 それが、それだけが、巴にできることだから。



第十三話 完

次回第六章大団円『花見』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ