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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第六章 全て、無駄です
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全て、無駄です

 戦いは激しさを増すばかりだった。

 誰がこれを望んだだろう。

 神は何故救ってはくれないのだろう。


 恭司は寮の戦いを見て、どちらの援護に入るかを一瞬ためらった。

 一対二のアラタ。防御一辺倒の翠。


(翠、お前ならしばらく堪えてくれるよな……)


 そう思い、恭司は三階へと駆け出していた。

 その横を追い越して走る、小さな影があった。


 それを見て、恭司は安堵の息を吐いた。



+++



 私はマントを翻して駆けていた。

 外から寮の中の大体の情勢はわかる。

 階段を駆けて、まずは三階に辿り着く。


「おやおや、可愛らしいお客さんだ」


 日本刀を持った男が、そう言って微笑む。

 それを無視して、私は肩を抑えているアラタの傍に立った。

 鬼が突進してくる。

 男が日本刀を振り下ろしてくる。


「全て、無駄です」


 私がそう言うと、視界が少し青みがかって見えた。

 能力を発現した時、私の目は青く光ると勇気が教えてくれた。

 それが、スキルキャンセラーの特徴。

 そう、私はスキルキャンセラー。

 全てのスキルを無効化する者。


 鬼は人に戻り、男は持つ剣を失った。


「くっ、ならばこれで」


 そう言って、男は腰から木刀を引き抜く。

 そして、襲い掛かってくる。

 私は一つ微笑み、マントから二本のダガーナイフを取り出す。


 木刀は六つに寸断され、地面に落ちた。


「そんな……」


 男は唖然とした表情で言う。


「俺が苦戦した相手だぜー。ちょっとは苦戦してもらわないと立つ瀬がねえわ」


 アラタが呆れたように言う。


「真剣なら防がれてますよ。警官隊、来て!」


 そう言って、警官達がやって来るのを待って、私は通路に空いた穴から二階へと降り立った。

 砲弾の嵐を、無効化する。


「全て、無駄です。私の特性、スキルキャンセラーの前では」


 私は英語でそう告げていた。

 エミリーは、表情を歪めた。


「友達になりたいんでしょ! なら、どいてよ!」


「友達になりたいよ! だから、どかないんだよ!」


「そんなの友達じゃない!」


「なんでも肯定するだけの人間こそ友達じゃないよ!」


「この、わからずや……!」


 そう言って、エミリーはバックから銃を取り出す。

 スキル製ではない。本物の銃だ。

 翠が、私をかばうようにして立った。


 その更に前に、私は立つ。そして、エミリーの傍に近づいていった。

 バッグの中に、手紙を入れる。そして、囁いた。


「逃げて、エミリー。逮捕されちゃうわ」


 エミリーは我に返ったような表情になる。

 そして、慌てて駆け出した。

 結局、エミリーは撃たなかった。撃てなかったのだ。

 それが光明であるように私には思えた。



+++



「さて、どうするよ斎藤の」


 大輝がしゃがみこんで、鬼だった青年を見ている。


「確か春香は鬼の魂三つ目で怪物化したよな」


「……そうね」


 翠は、苦い顔で言う。


「お前はいくつ鬼の力をストックしている?」


「二個半」


「俺も、二個半だ。見たところ、こいつは四つ。分けるとなると二対二だ」


「うーん」


 翠は考えこむ。


「鬼化はしたくないなあ」


「全ては適正だろう。適性が高ければ、コントロールもできる。こいつだって、人の姿に戻れたみたいだしな」


 沈黙が漂った。


「俺は翠がどんな姿になっても翠を愛するよ」


 恭司が、励ますように言う。


「戦闘力アップ。望むところじゃないですか」


 アラタも気楽なものだ。

 翠は溜息を吐いた。その腕から、光の手が現れる。


「じゃあ、二対二でやってみますか」


 翠と大輝、二本の光の腕が青年のハートを掴む。

 そして、鬼の魂を引き剥がしていった。

 それを、翠は自分の腕で握りつぶす。


「変化はあるか?」


 大輝は伺うように訊く。


「ちょっとジャンプしてみる」


 そう言って跳躍した翠は、通路の天井に思い切り頭をぶつけた。

 そして、落ちてきて蹲った。


「これはいい戦力になるな」


 大輝は明るい声で言う。


「ねえ、今の無視? 無視?」


「俺は妹さえ無事ならそれでいい」


「シスコン野郎……!」


 適性があった、ということなのだろう。

 しかし、危ない橋を渡ったという実感はあった。



第十二話 完

次回『たった二人の戦い』

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