297.宰相は応える。
「…私ほど優れた者はいない、か…。」
人を動かすのに。と一人、譫言のように口から零れ出る。
レオン王子が通信の場から中座した後、私は自身を落ち着けるように深く呼吸を繰り返した。
…プライド様、ティアラ様、ステイル様。他でもないあの方々がそう言って下さった。
初めての戦場で、今もプライド様の為に身を振るっておられるティアラ様。
私のような者を、…その家族まで気に掛けて下さり、また救って下さったステイル様。
そして両脚に怪我を負い、立ち上がることすら叶わない状態であるにも関わらず戦場に身を晒しておられるプライド様。
幼い頃から彼らを知っている身としては、本当に立派になられたと。その成長を驚かずにはいられない。
そして、そんな方々が私を評して下さった。
「……ずるいですね。」
そんなことを知ったら、期待に応えずにいられる訳がないというのに。
あの方々が、私をそうだと語って下さったのならば、私はそうありたいと願ってしまう。
一度、目を瞑る。
各本陣の状況、戦況、手のある武器と手段。…優先事項。
全てを精査し、その上で今なにをどう動かせば効率的に、確実に我々を有利に立たせられるかを考える。
ならば、やはりここはー…
『お待たせ致しました、ジルベール宰相。』
レオン王子の声で目を開く。そして、映像に映った人物に私は再び息を飲んだ。…彼は。
『いかがでしょう、ジルベール宰相。貴方は、僕らアネモネと〝彼ら〟をどのように動かしますか?』
滑らかに笑む彼が、こちらへの視点に入るようにと彼の肩を力づくで引き寄せる。片眉を上げて苛立ちを顔全体で表す彼は、レオン王子を睨み続けながら歯を剥いた。
『勝手に話進めてんじゃねぇよ‼︎俺は主の命で忙しいっつった筈だ。』
クソが。と舌打ちを繰り返す彼は、レオン王子の腕を退かして最後に映像の私を睨みつけた。
『おい、宰相。報酬のブツはまだ貰いきっていねぇからな?』
…やはり、彼で間違いないらしい。
先程までフリージア王国に居た筈の彼が何故ここに。…いや、方法などあの御方の特殊能力以外ありはしないだろう。
「わかりました。…この戦が終わればお好きに。」
溜息交じりに私が返すと、レオン王子が首を傾げながら「君への報酬って現物支給だっけ?」と不思議そうにヴァルへ言葉を掛けた。金とは別のもんだ、と睨みながらさっさと話を進ませるようにとヴァルがレオン王子と私を促した。
「…そうですね。彼ならば、行き先が何処であろうとも最速で貴方方を運べるでしょうが。」
これで行動可能範囲も広がった。彼が受けているプライド様からの命にもよるが、あとはレオン王子とアネモネ王国騎士隊をサーシス王国とチャイネンシス王国に分けるのも一つだろう。北方の最前線では他国の介入で騎士団の連携を逆に崩してしまう可能性がある。ならば、一度アネモネ王国の船で武器の補充をしてもらい、どちらかもしくは両国の城下にー…!。
そこまで考え、ふと先程のレオン王子の言葉を思い出す。彼が私に掲示した武力の一つ。
「…一つ質問ですが、レオン第一王子殿下。」
なんでしょう、と返して下さるレオン王子を映像越しに見つめる。背後でヴァルが今にも去ろうと身体を揺らしていた。ケメトとセフェクが珍しそうに映像の方向を眺め、口を開けている。
優先事項は、城を〝敵の手に落とさせない〟こと。
そしてこの戦をなるべく早く終息させること。
その為に、一人でも多くの侵攻者を無力化すること。
「先程お話頂いた武器。標的への命中率はどれほど精密でしょうか。」
思わず悪く引き上がりそうな口元に力を込め、伺う。するとレオン王子は予想していたかのように滑らかに微笑んだ。
『標的座標さえ頂ければ、僕が確実に。』
…ならば、次は。
あの方々の危険を取り除く、憂いを晴らす。
その手足を指の先まで捥いでしまえば、恐れるものなど何もない。その為には、先ず。
「では、敵兵の規模を減らしましょうか。」




