296.貿易王子は呼び止める。
「おーい。……まぁ、聞こえる訳ないか。」
ジルベールとの通信から一度席を離れたレオンは、気の抜けた声で遠方に呼び掛けた。
他の騎士達も目を向けるが、かなり遠方に凄まじい速さで自分達の前を横切る物体に誰もがポカンと口を開いた。レオンが呑気に声を上げている間にもその物体は更に遠くへ進んでいる。あの速さでは馬を使って追いかけてもまず追い付くのは無理だろう。「仕方ないね」と軽い口調でレオンは笑うと
担いでいたバズーカ砲を躊躇いなく撃ち込んだ。
ドッガァァアアアアアアアアアッッ‼︎と轟音が鳴り響き、進行方向の前方で破裂したそれに高速移動していた物体は動きを止めた。数秒動きを止めたそれに、レオンは穏やかな表情で大きく手を振り続ける。すると、先程まで横切ろうとしていた物体が信じられない速度でレオン達の方へ突進してきた。
「ッテ…メェッッ…‼︎‼︎」
ゴゴゴゴゴゴッと地面が揺れ、巨大な物体が地面をめくりながら近づいてくる。同時にその物体の上にいた人影から唸るような怒声が聞こえてきた。猛スピードで近づいてくるにつれ、その姿や輪郭がはっきりしてくる。そして
「レオン‼︎テメェいきなり何しやがる⁈あんな訳わかんねぇもんぶっ放しやがって‼︎俺を殺してぇのかテメェが殺されてぇのかどっちだ⁈」
歯を剥いて怒りを露わにするヴァルが、盛り上がった巨大な地面の塊の上からレオンや騎士達を見下ろした。
横にはケメトとセフェクが同じように覗き込み、セフェクに至ってはヴァル同様に怒った様子で右手をレオンに真っ直ぐと構えていた。
「町外れに送った後だから良かったけど、避難する人を積んだ後だったらどうするの‼︎」
ヴァルとケメトが怪我したら許さないんだから‼︎とレオンに噛み付く勢いでセフェクが声を荒げている。
「ごめん、他に呼び止める方法が思いつかなくて。」
でも、ちゃんと外したろ?と反省も怖じける様子もなく笑むレオンに、ヴァルとセフェクも未だ怒りが止まらないようだった。ケメトがヴァルにしっかりと掴まり、窺うように「なんで…レオンがここにいるんですか?」と声を掛けた。
「僕もフリージアの救援に来たんだ。ちょうど良かったよ、ここから船までは少し遠かったから。」
「…今は主の命令の真っ最中だ。逃げ遅れた鈍間共を田舎町に運ぶのでテメェに付き合う暇なんざねぇ。」
「話を聞いてから判断しても遅くないとは思うよ?…君にも都合の良い話になるかもしれないし。」
どういう意味だ、と眉間に皺を寄せるヴァルに、レオンは笑みで答えた。いま、ジルベール宰相と通信を繋いでいるから君も。と手招きされ、舌打ちを繰り返しながらヴァルは特殊能力を解いた。
盛り上がった地面が沈んでもとの土塊に戻り、地面に固定していた足元が自由になる。土塊を蹴り上げながらヴァルは苛々と「一分も待たねぇぞ」とレオンに唸った。
五分後、彼はレオンや騎士達をサーシス王国の港まで送ることになる。




