286.騎士隊長は歓喜する。
「雪崩込め‼︎数で押せ!押し潰せ‼︎」
「城下を潰せ‼︎サーシス王国の国王が城下にいる‼︎見つけ出して必ず捕らえろ‼︎」
チャイネンシス王国、最南端。
国壁を破壊した敵国の兵士達が、止まる事も知らず順々に雪崩れ込んできていた。奴隷で重増しした兵士達の数は多く、次々と国内に侵攻してきては武器や馬の手綱を手に怒声を上げる。
壁の穴自体は一度に三人程度しか通れない大きさだ。彼らの用意した爆弾ではその程度が限界だった。だが、それでも国壁を貫通させられたことは大きい。結果、敵兵は思惑通りチャイネンシス王国の裏をかくことができたのだから。
断続的に穴を潜り抜け、敵兵は次々と城下を攻めるべくその足をチャイネンシス王国の国内へ
「嗚呼っ…素晴らしい。」
…踏み入れようとした瞬間、一人の敵兵の足が一瞬で穴からその先を斬り落とされた。
更には風が軽く吹いた瞬間、既に国内に侵攻していた敵兵も次々と身体から血を吹き出して絶命する。
ぎゃあああああ⁈と悲鳴と共にハリソンに足を斬り落とされた敵兵が入り口に転がった。ハリソンがそれを目だけで見下ろすと、躊躇いなく敵兵を足で国外へ蹴り転がした。
「邪魔だ。これでは〝他の敵兵が〟入れないだろう。」
蹴られた敵兵が踠きながら壁の向こうへ転がるのを確認してから、ハリソンは素早く銃で彼らにとどめを刺した。
「どうした、兵の十や二十で途切れるな。貴様らの覚悟は、忠誠心はそれだけか。」
挑発するようなハリソンの問い掛けに、壁の向こうの敵兵が再び武器を手に襲い掛かってきた。中には援護射撃をしようと銃を構えている兵士もいる。それを目にし、ハリソンは心から思った。
…なんと、素晴らしい。
「ハ…ハハッ…ハハハハハハハハッ‼︎‼︎」
素晴らしい光景に笑いが止まらない。抑えきれぬ私の笑い声に敵兵の足が怖じけるように立ち止まる。
嗚呼っ…私はこの時を待っていた。
途切れぬ敵を、私を飽きさせることなく続く任務を。
敢えて数秒数え、それから敵兵に走り込む。ここまで来るのに休みなく特殊能力を使ったせいか僅かに息が切れる。だが今はそれすらも心地良く弾む。
「ッいま私はあの御方の命でここにいる‼︎」
興奮が冷めぬまま溢れ出してくる敵兵を一人残らず切り刻む。首を裂き、目を潰し、喉元に刃を刺し込めばいとも容易く事切れる。
高速で斬るが、数を重ねれば血飛沫がじわじわと私を染めていく。構うものか、この穢らわしい血すらも今ならば恵の雨とも思える。
「いいぞ!遊ぶ暇もない‼︎好きに並べ!誰一人逃しはしない‼︎」
ハハハハハハハハッ‼︎と笑いが止まぬまま叫べば、次の敵兵が壁を抜ける手前で怖じ出す。突然の不快に能力を使わず私自ら歩み寄り、剣を伸ばして動かぬ木偶の目を斬り裂いた。
悲鳴が上がり、仰け反る敵兵を次の一閃で絶命させ、倒れ込む前に足で国外に返却する。覚悟もない兵士になど用はない。
更に湧き出てくる敵兵も一人残らず斬り捨てる。目を斬り、耳を削ぎ、手足を奪っても稀に剣を、私を殺しに掛かってくる敵兵には敬意を表し、一瞬で絶命させる。壁を越え、敵兵が突入すればその数だけ血飛沫を散らせる。
…第一王女殿下。
何故、優秀な騎士であるあの二人が居ながら傷を負ったのか。
第一王女殿下が仰るならば、あの二人に非は無いということになる。
私ならば、全てを投げ打ってでも御守りしたものを。己も兵士も同胞も全て斬り捨ててでもあの御方を優先した。
…だが、恐らくそれでは足りぬのだろう。単純な戦闘力のみで近衛騎士が選別される訳ではない。もし、そうであればアラン・バーナーズは未だしもエリック・ギルクリストやカラム・ボルドーよりは私の方が上回っている。
だが、全員が優秀な騎士だ。
…選ばれずとも良い。
あくまで私が最も忠誠を誓うのは副団長。そして騎士団長と束ねし騎士団。何より、守ることは私に向いていない。それは本隊入りする前に嫌という程この身に刻み尽くされている。
やはり、あの御方の近衛騎士に最も相応しいのはー…
「フッ…。…ッハハ、ハハハハハハハッ‼︎」
思えば、想えば、それだけで高揚感が止まらない。あの御方が傷をつけられたことは許されない。それに関与したと思われるコペランディ王国、アラタ王国、ラフレシアナ王国全員を塵にしても足りはしない。
だが、全てはあの御方々の為。その為に剣を振るい、敵を斬る。
尽くし、尽くし、尽くし、尽くし続ける。
剣でしかこの身を尽くせぬ私だからこそ、必ずやこの身をそれで全うしてみせる。
目前の敵を斬り裂き続け、団服が殆ど赤に染まる。まるであの御方の団服のようだと思い、再び笑みが零れる。
そう思い、斬り捨て、斬り裂き、斬り落としていけば
…何故か、突如として壁を抜ける敵兵の足が途絶えた。未だ未だ壁の向こうにはこの程度では比べ物にならぬほど敵兵が控えている筈だというのに。
「何をしている?此処しか道はない。さっさと掛かって来い。」
壁を隔てて敵兵を待つが、壁の向こうで蠢くだけで全く来ない。まさかここまできて兵士揃って怖じけたのかと、敵兵を引き摺り込む為に穴に近づいた途端
小爆弾が複数纏めて投げ込まれた。
けたたましい音と閃光、爆風が破裂する。爆音が至近距離から轟き、壁の穴を僅かにだけ広げ、私のいた足場の地面が抉れた。壁の向こうで敵兵が爆煙に巻かれる私を嘲笑い、そして私は
その兵士の背後に。
ぎゃはははは!と嘲笑う男達が振り返る前に、周囲にいるその首全てを断裂する。一閃で斬り裂き、血飛沫が華開く。私が突然現れたように見えたのか、敵兵が響めき一歩下がった。
「…貴様らが悪い。」
あの御方に任されたのは、チャイネンシス王国からの南方の押さえつけ。
だというのに、私はいま国外に出てしまった。奴らの小爆弾のせいだ。あれが無ければ…もしくは奴らが私を焦らさず錆になれば、国外に出ることなどなかったというのに。…だが、
「…まぁ良い。あくまで最重要なのはこれ以上、敵兵をチャイネンシス王国内に侵攻させぬこと。…つまり。」
顔を上げる。目の前には美しい程多くの敵兵、そして更には陣が布かれていた。見渡す限りの敵兵に思わず口元が引き上がる。
そう、問題はない。
私は副団長に、騎士団長に、第一王女殿下に望まれ、許されたことをただ完遂するのみ。
全ては、あの方々の望みのままに。
「貴様ら全員殲滅すれば、この壁を越える者も居なくなる。」
血が咲き、散り、残骸が転がり、臓物が飛び跳ねた。軽く腕を伸ばすだけで敵に剣が突き刺さる感触が心地良い。
一人足りともここから先を通させはしない。
この世でたった四人、私が尽くすに値する御方の一人。
プライド・ロイヤル・アイビー第一王女殿下のお望みのままに。




