表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
冒瀆王女と戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

320/2275

271.真白の王は決別した。


16days ago


「ヨアン様!…よくぞお出で下さりました。」

城の中を招かれるままに入れば、流れるように城の奥…国王の部屋までファーガス摂政が先導してくれた。


「ファーガス摂政。…まだ、ランスは目を覚ましませんか。」

僕の問いにファーガス摂政が険しい表情で首を横に振った。それだけで肩に掛かった形のない重荷がその重みを増していく。


「目は、何度も開いております。ですがそれ以外は…。」

言いにくそうにする摂政に、全て理解する。つまり彼が正気を失った二日前から何も変わらないということだ。

この国の国王であるランスは、二日前に乱心した。僕の城に訪問後、馬車に乗る直前に突然頭を抱え、酷く叫び出したのだという。


「…セドリックは。」

四日前に国を飛び出した彼のことを尋ねれば、やはり首は同じように無言で横に振られた。

「せめて、セドリック様が御帰還してくださるだけでも…ランス様の御心が楽になるとは思うのですが…。」

重々しく語るファーガス摂政に、胸が詰まった。セドリックが飛び出したあの日、すぐに使者を使って連れ戻そうとしたランスを止めたのは他ならない僕だった。…それだけでも彼の心を乱した責は僕にある。

城内に入った途端、そこは不穏が渦巻いていた。ランスの乱心は城内のみで秘匿にされている。だからこそ彼の乱心を知る城の中の人間はその不安を露わにしていた。


「陛下無しで、どう我が国は成り立つのか。」

「ランス国王はまだ目を覚まされないらしい。」

「一体どうすればっ…あの御方は我が国の希望だというのに…!」

「ランス様のご判断無しにチャイネンシス王国をどう救えば良い⁈」

「あれほど立派な国王など居ない。ランス国王の代わりなどっ…。」

「あの御方あってこそのハナズオだ…‼︎」

「セドリック様は御無事なのか…⁈」

「セドリック様さえ戻れば…。」

「我が国は…一体どうなってしまうのか…。」


多くの者達が小声で語り合う不安は、静まりきった城内で充分に響き、僕らの耳にも届いた。歩きながらもファーガス摂政が謝ってくれるが、今度は僕が首を振る。彼らの不安は当然のことだ。

扉を衛兵が開き、中へ通してくれた。「ランス様、ヨアン様がいらっしゃいました」とファーガス摂政が言ってくれるが、ベッドで眠る彼からは何の反応もなかった。

代わりに帰ってきたのは二日前と同じ「ぁ…アア゛…アッ…‼︎」という呻き声だけだ。時折、セドリックや僕の名、…そして我がチャイネンシス王国の名を呼んでくれるけれど、どれもひたすらに譫言だった。彼の呻きこそが、その乱心した理由を物語っていた。

周囲で彼の世話をしてくれている侍女達に挨拶をし、そのまま横たわる彼の傍らまで歩み寄る。

二日満足に水も食事も摂れていないからか、生気が大分薄い。いつもの快活で活力が漲った彼からは想像できない姿だった。


「…ランス。今日も晴れたよ。」

彼は答えない。ただ呻き、目を見開き渇いた眼球を転がし続ける。


「ランス。…セドリックは、…きっとまだ道中かな。」

侍女が椅子を運んできてくれる。僕の横に置いてくれ、礼を伝えてそこに腰掛ける。


「ランス。…きっと大丈夫だ、セドリックならきっと。だって、……あの子は。」

暗くカーテンの締め切った部屋で、隙間からの陽光だけが部屋を照らす。


「ランス……っ、…すまない。君を、君達をここまで追い込んでしまっていることに…気付けなくて。」

呻く彼は何も答えない。息も荒く、水も足りない渇いた喉が空気を取り込む。


「…君達は関係ない。全てはチャイネンシス王国の問題なのに。」

ここまでくる間のサーシス王国の民の様子を思い出す。ランスの乱心については秘匿されているが、すぐそこまでコペランディ王国の侵略の時が迫っていることは皆が周知している。誰もが我が国を気にかけてくれていた。…そして同時に怯えもあった。


「…ランス。やはり終わりにしよう、全部。もう、良いんだ。」

セドリックには悪いけれど。最後にそれだけ付け加えて椅子から立ち上がる、その時だった。


「ッゔ…ァア゛ア゛アアアアアアア゛ア゛ッ‼︎グ、ガハッ‼︎アガガアアアアアアッ‼︎」


突然、彼が暴れ出す。

意識を取り戻した訳じゃない。二日前も、昨日もこうして暴れ出した。

彼が正気を失った直後もこうだった。時折繰り返す度に疲弊した身体が悲鳴を上げ、回数が減り、動くことすらままならなくなっていたというのに。手足を振り乱し獣のように暴れる姿に侍女は悲鳴を上げ、衛兵が数人がかりで彼を取り抑えた。

それでも彼は暴れ、暴れ、叫ぶ。ファーガス摂政が危ないと僕をベッドから下がるように言ってくれた。

…あんなに強い心を持った彼がこんなことになるなんて、未だに信じられない。こうして目の当たりにしてもこれが現実ではなく僕の悪夢なのではないかと思うほどに。


「……ランス。」

彼の名を、呼ぶ。何度でも呼ぶ。届かないとわかっている。…それでも。

まるで水の中にいるかのように踠き続ける彼の両目に手を当てる。目元が暗くなったからか、心なしか僅かに暴れる彼の息が静まった。


「…ありがとう、ランス。大丈夫だ、もう終わる。」

彼がまた、譫言を呻く。言葉にならない言葉から、また僕らを呼ぶ。そして時折〝守る〟と、言葉と共に彼の意志が口から零れ落ちた。

こんな状態になっても国を、ハナズオ連合王国を守ろうとしてくれる彼に感謝する。そんな彼だから、…そんなサーシス王国だから僕らチャイネンシス王国も覚悟を決められる。


「…ファーガス摂政。どうぞセドリックに使者を出して下さい。ランスの乱心、そして…我らチャイネンシス王国が一方的に同盟を破棄したと。」

僕の言葉にファーガス摂政が顔色を変える。「そんなっ…‼︎」と声を震わせ、驚愕に顔を歪めながら次の言葉が出ないようだった。…彼もまた、僕らチャイネンシス王国を案じてくれている。

本当なら期限の短縮を言い渡された二日前に、セドリックへ書状を出す筈だった。だが、ランスがこんなことになり…万が一にでもフリージア王国の者に国王の乱心などが知られてしまったら、同盟交渉を成功させたところでまた白紙に戻されてしまうと。それを危惧したファーガス摂政、ダリオ宰相からの計らいだった。ランスが明日になれば、明後日になれば目を覚ますかもしれないと、…そう祈りながら、書状と使者をセドリックに出すことを躊躇い続けてくれた。


でも、もうその必要もない。


「帰国したら直ぐにこちらから同盟破棄の書状を送らせて頂きます。…これでもう、サーシス王国に火の粉が及ぶ心配もありません。きっとランスも安らかな時間が過ぎればいつかは目を覚ますでしょう。」

国を飛び出してまで援軍を呼びに行ってくれたセドリックには悪いですが。そう言って笑って見せれば、悲しげにその瞳を揺らしてくれた。

別れの挨拶にそのまま抱き締めれば、ファーガス摂政もダリオ宰相も強く抱きしめ返してくれた。…サーシス王国の人々とこんな風に抱き合う日が来るなど、昔は考えもしなかった。

ゆっくりと力を緩め、最後にもう一度ランスの方へと向き直る。少し落ち着いたのか、もう暴れてはいないが譫言を繰り返しながら変わらず酷く苦しんでいた。


「…本当にありがとう、ランス。ハナズオ連合王国がひと時でも本当の意味で一つの国になれたのは全部君のお陰だ。…国の誰もが君に感謝している。」


彼に、どれほど救われただろう。

彼がいなければ、どれほど虚しい時を過ごし続けていただろう。

彼の器の大きさが僕を、そしてセドリックを救ってくれた。

己が宿命を、良き未来だと。そう思わせてくれたのは他ならない彼だ。


「感謝してもしきれない。………サーシス王国に、神の祝福があらんことを。」


胸元に下げたクロスを握り、最後に彼らの為に祈りを捧げる。

どうか、サーシス王国だけでも幸福であるようにと。…それが、チャイネンシス王国全ての民の願いだったから。


…最期に、セドリックにも一目会っておきたかった。


そんなことを思いながら、僕は彼の部屋を後にする。



国境を、閉じよう。



もう誰も、チャイネンシス王国に入ってこれないように。

高く、そして強固な壁を。

サーシス王国の誰一人、侵略の余波を受けないように。


それこそが、ハナズオ連合王国として僕らチャイネンシスが彼らにできる最後の手向けとなるのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 薬物か何かなのか……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ