そして夕暮れを越える。
「……ジェリカ……アン……リカ……アンジェリカちゃん、アンジェリカちゃん……」
「んん~~??いやぁ……ねっむぅ~……」
ゆさゆさと背中を揺さぶられながらぼんやりと、レラちゃんの声が聞こえてくる。
まだ寝てたかったと思いながら、……なんだろ。ちょっと目が覚めたことがほっとする。
目を擦りながらぼんやり顔を起こしたら、やっぱりレラちゃんだった。「ご、ごめんね」と言いながら、自分から私の顔を覗き込んでくる。目を合わせたら今度はハンカチまで渡してくれる。目を擦った時点でなんか濡れてる気がしたけど、……ちょっと泣いてたみたい。
「あの、起こしちゃ駄目かなって思ったんだけど、アンジェリカちゃんなんか魘されてるみたいだったから起こした方が良いかなって思って」
「アンジェ!!テメェ寝るならテントで寝ろ!!先生の部屋片付けんのにテメェが一番邪魔なんだよ牛女!!」
ハァ?!!
レラちゃんとは別方向から怒鳴られて、思いっきり声に出す。女の子が涙流してて何それ有り得ない!それに私アンジェリカだし?!!
むっかつく!!と思うけど、もう相手がアレスだと思うとちょっともう諦めも頭の中ではつく。アレスがそういうの最低なのは昔からだし。むしろここでアレスに心配されたらきもい。
ちょっと休憩を取るだけのつもりで、気付けば結構な時間診察台で寝ちゃってたらしい。
目をハンカチで擦りながら見回せばもう薄暗いどころか真っ暗で、大分時間が経っていた。ジャンヌちゃん達が散らかしたらしい部屋は一度片付けられたけれど、結局またアレスとラルクとついでに私で散らかした。
先生が急に昔の知り合いの為にいなくなっちゃったと聞いた時は、団員のみんな驚いて困ってたけど一番困ったのはオリウィエルちゃんだった。あとレラちゃん。
先生が何も言わずに急にいなくなっちゃったから、動物用の睡眠薬を処方してくれる人がいなくなって結局手分けして探すしかなくなった。医務室テントも隣の薬剤庫も先生が全部管理してたから、私達は全部一個一個取り出してラベルを見るしか見つける方法がなかった。結局ラルクが猛獣達に命じて脅かすから良いって話になったのまでは覚えているけど……その後ここで寝ちゃったから覚えてない。
結局片付けはレラちゃんとアレスがやってくれたのかなと、今は元通りになってるテントの中を見て思う。
「ねぇ、それで動物はぁ?オリウィエルちゃん猛獣手放せたのぉ?」
「何百年前の話をしてやがる居眠り女。とっくに猛獣共はラルクが連れ帰った」
「おおオリ、オリウィエルちゃんも、動物が味方になったら安心したみたいで、動物に慣れるまで傍にいるって言ってたから私は片付け手伝いに……じゃなくて!片付けにきたの!」
あ。これ、レラちゃん私が一人で片付けしてると思ってきてくれたんだなって。ちょっぴり悪いことしたなと思う。
私片付ける気最初からなかったし、残ってたのも単にオリウィエルちゃんと猛獣にはあんまり興味ないし薬探すので疲れたからなだけなのに。
ラルクにべったり贔屓のアレスもここにいるってことは、あんなこと言って片付けしてくれてたんだ。
二人とも私が寝てるなら起こせば良いのにって思うけど、そういうところ甘いのは結構団員みんなだなぁって思う。オリウィエルちゃんのこともあっさり許しちゃってるし。ユミルちゃんとか他にも可愛くて私よりも若い子来ても、ちょこちょこお姫様にしてくれる。……。一番そうして欲しいのは団長だけどぉ。
先生が急に留守になっちゃったことは団長も珍しくちょっと落ち込んでいた。
二、三日後には絶対戻ってくる!って言ってたけど、あの感じだともしかしたらこのまま退団しちゃうのかな~と思う。まぁどうせ団長ならすぐ持ち直すから平気かな。
先生のことはわりと好きだけど、サーカス団を離れる人に限って良い人が多いからそっちは意外じゃない。先生みたいに腕が良くて特殊能力もあってすごく普通で若くて顔もわりと良くて優しい人が、ずっと先生でいてくれたことの方が変だった。
私が入団した時には既にいて、ラルクよりもディルギアさんよりも古株らしい先生は私にも優しかったからいなくなっちゃうのはちょっと寂しいかも。私にっていうよりも、女の子に優しい人かな。レラちゃんにも、ユミルちゃんにもリディアちゃんにも女の団員には特に優しいけど、下心みたいな厭らしいところがないのが特に好き。
この街にまさか先生の知り合いが住んでいるなんて今まで何度興行に来ても全然聞かなかったけど、先生みたいな人なら友達くるか~とも思う。
「あーあ。先生どこ行ってるんだろぉ。ドタバタしてる間にジャンヌちゃんもカラム達もみぃんな帰っちゃったし~つまんな~い!」
「最初からジャンヌのこと聞いても気にしてなかったのテメェだろアンジェ。カラムもまとわりつかれて迷惑してたぞアレ。最後逃げてたろ」
「ハァ~?!ジャンヌちゃんは体調悪いなら話せないと思ったからだし~!カラムは迷惑がったりしないも~ん!アイツが誰のお陰で舞台立てたと思ってんの?!あと私アンジェリカだからぁ!」
「ああああアンジェリカちゃん。大丈夫、私、私も迷惑がってなかったと思う……」
人が一気に増えてまた一気に減って、寂しいなぁって言っただけなのにムカつく。アレスだって新入りに近いくせに。
立ち上がったら、寝ぼけたせいか一瞬フラついた。「うるせーうるせー」って言うアレスが背中を向けてテントから出て行った。どうせこのままラルクか団長んとこ行くに決まってる。
団長のとこなら私も付いていこうかなって思うけど、アレスも一緒じゃ喧嘩するから無理。べーーって舌を出してやりながら今回は殴らずにいてあげる。なんか最近は良いことあったお陰でアイツも機嫌良いみたいだし。ラルクとの昔から関係はわからないままだけど、ここ数日で一気に仲良くなってる。……良かったねと、そこは思わなくないし。
「……レラちゃ~ん。この後またちょっと練習付き合ってくれる?」
「あ、うん、いいよ。わ、私見てるくらいしかできないけど……」
良いの~!って、私からレラちゃんに振り返る。
私がお願いするといつもダンスを見てくれて、褒めてくれるレラちゃんは団長の次くらいに大好き。
もう練習なんか毎日しなくても平気なくらい上手になったけど、それでもダンスが一番気持ち良い。気分が悪いと踊りたくなくなって、誰かに良いことあった時は踊りたくなる。
別にレラちゃんにダンスの助言までは求めてないし、でもお客さんがいるだけで全然違う。またあんな目でお客さんに見て貰えるんだって、団長にもそんな目をさせるんだって思って頑張れる。誰の前でもたった一人の為にでも踊りたいと思えたら何度だって踊れる。
公演の日は場所が変わる度、毎年同じお客さんが「待ってたぞ」って言ってくれるから前よりももっと
「上手って言ってくれればそれだけで良いのっ!」
またあの綺麗な舞台で主役になれるなら。
本日2話更新分、次の更新は木曜日になります。
「純粋培養すぎる聖女の逆行~闇堕ちしかけたけど死んだ仲間に会えて幸せなので今度は尊い彼らを最善最優先で…って思ったのになんで追いかけてくるんですか?!~ 」
https://book1.adouzi.eu.org/n1915kp/
こちらは引き続き毎日20時更新連載中です。
略称は「ぴゅあ堕ち」になります。
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