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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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Ⅲ227.来襲侍女は引き、


『私ね、記憶がないの。気がついた時にはあの街にいて、……自分がどこで生まれて、どんな風に生きていたのか、何もわからない』


そう、憂いを帯びた眼差しで語る彼女の言葉に明かされた攻略対象者はどのルートでも最初は言葉を失った。それまで自分のことを殆ど語らなかった彼女が、自分達以上に帰る場所がなかったことをそこで初めて思い知る。

心優しくいつも自分のことよりも他人を優先に動いてしまう彼女にとって、偶然出会ったサーカス団の彼らこそが一番大事な存在だった。

彼女の告白を聞き、反応は違えどどのルートでも攻略対象者の選ぶ道は自分が彼女の未来にい続けることだった。

気がついた時には孤独だった主人公とサーカス団員の逃亡劇。それが、第四作目の大筋でもある。逃亡し潜伏を続ける中で、互いが最も大事な存在になっていく。ゲームではそんな過程をただただ純粋にストーリーとして楽しめたのだけれども、……今はただただ胸を潰すだけだ。

ゲームではない、現実なのだから。


「彼女が従っている男は人身売買の大元だ。彼女が人身売買組織に攫われ戻ってこなかったというお前の話にも合致する。透明化か透過か……どちらにせよ特殊能力者と知られれば、厳重に保管されるか足が付く前に換金されるかが殆どだ」

ラジヤの皇太子、とは言えずとも間違っていない事実をステイルが告げる。淡々とした声は変わらずとも、さっきよりも心なしか声のトーンが戻ってきた。ティペットの立場が当初から大きく変わっていくことに戸惑っている部分もあるのかもしれない。先生が話してくれるまで、ティペットはあくまで〝誰かに攫われた〟という抽象的な情報だけだったのだから。……けれど、村ごと襲うような人身売買なら話は違ってくる。


そんな状況で行方不明になった彼女が、今はラジヤ帝国の皇太子に付き従っている経緯なんて想像できる数しかない。……アダム自身、彼女のことを「秘密道具」と道具扱いしていたことをよく覚えている。

本当に、その言葉の通りだったのだと改めて思い知る。ステイルだけじゃない、この場にいるフリージアの民である全員が同じ結論に達しているだろう。

ここまで聞いて、彼女がただアダムと親しい関係性だと考える方が難しい。首にも手足にも枷がなかっただけで、彼女は最初から〝そう〟いう扱いだった。あの男に意見をすることもなければ、殴られても逆らわない。〝側室〟なんて名札を付けられたのも我が城で行動をする為の偽装だったってことはとっくに明らかにされている。


先生は今は視線が地に落ち、首ごと頭も力なく垂らした。

さっきまでステイルを穴が空くほど見つめていたのに、今はもう彼を注視する気力もないようだ。団長もそんな先生に気付く余裕もないようにステイルへ向けて唖然としたまま固まっている。無理もない、団長も先生とティペットの過去がここまで凄絶だなんて思いもしなかったのだろう。……先生は、きっとどこかで予期もしていたのだろうけれど。


彼も盲目的であっても楽観的ではない。ティペットが盗賊に攫われて戻ってこなかったら、奴隷になって売られていることも、最悪の場合もうこの世にいないことも想像した筈だ。買い出しに街に降りていた際も、ただ闇雲に人を訪ねていたとは考えにくい。それこそ今の私達みたいに奴隷市場を訪ね回っていた可能性もある。

十秒、三十秒、二分以上沈黙が続いた。座りこんだままの先生が、フルフルと首を横に振る。まるで現実を受け入れられないように首を垂らしたまま、拘束された他も地面についていた。「てぃぺっと」と弱々しい息づかいのような音が聞こえたと思えば、唇の動きも分からないままに下を向く先生から細い言葉が紡がれる。


「……彼女は、…………ティペットは、…………もう、身も心もその男に──」

「そうとは限らない。……それがお前にとって救いかどうかは知らないがな」

ぽつりぽつりと呟くごとに先生の身体に殺気に似た禍々しい気配がまとわりつくのが見えた、その時だった。

ぱちりと茎を折るような手軽さで告げたステイルの言葉に、先生の顔が上がる。虚ろだったのだろう目の焦点はすぐにはステイルに合わなかった。ほの暗く陰鬱な眼差しはゲームのノアを思い出させられ、思わず私一人がびくりを肩を上下させてしまう。


「は?」と短い音にいつもの先生の声とは思えない凄みを感じられ、無意識に半歩足が下がった。

途端にアーサーがそのまま下がってて良いと言わんばかりに腕を私の前に伸ばして改めて前に進み出ないように止める。私もそれに従い、反対の足も同じ位置に引っ込めた。

瞬きもせずにステイルを見上げる先生はもう私に興味がないようだった。尋問された時は瞬き一つ見逃さないくらいの凝視だったのに今はボタンの目のような虚ろをステイルへ呪うように向けている。


それも全く気にせず先生に胸を突き出し続けるステイルは、ちらりと私に振り返る。言ってもいいか、という確認だろう。

あくまでアダムではなくティペットの主、そして人身売買の大元としての情報開示ならば大丈夫だろう。このままティペットに絶望し続けるよりはずっと良い。きっと慰めではない、これは真実だ。

「彼女を使役している男は特殊能力で他者を洗脳することができる。詳細は不明だが、その悍ましさだけは確認済みだ。そうでなくとも特殊能力者の奴隷は〝調教〟と呼ばれる洗脳を施される。それに、ティペットが己が意思で付き従っている可能性も鑑みられるが」

「あり得ない!彼女はそんなことをする人間では決してない!!!どちらにせよその男を殺せば良い……!!」

「後者は全面的に応援するが、前者は決めつけない方が良い。七年だ。その間に凄惨な目に遭えば人格などいくらでも歪みようが」




「ッ知るか私のティペットだ!!!」




ぞくり、と。

火を吐く声に、背筋へ冷たいものが駆け抜けた。目を驚愕以上に限界まで見開き牙を剥く先生は誰がどう見ても常軌を逸していた。空虚だった眼光が今は獣のように光って見えた。

〝ノアだ〟と思うと同時に、その狂気染みた覇気が別の相手と重なり思わず息が詰まった。また半歩下がろうとしたら今度は足が竦んでしまい、回復しきっていない身体が驚くほど簡単にフラついた。一瞬まずい浮遊感で体勢を崩してしまったかと思ったところで肩を抱くようにして支えられた。振り返ればカラム隊長の赤茶の目と合う。

大分また不味い顔色をしてしまっているのだろうか、お礼を言おうにも真剣な目で見つめ返されて言葉の前に不出来な苦笑でも誤魔化した。自力で立てるようになるまで支えてもらえたけれど、その間無言だったカラム隊長にもしかして怯んでしまったのもバレたのかしらと思う。それとも体調不良を無理していると心配させてしまっただろうか。

自分の胸を押さえ三回深呼吸する間、……ステイルも団長も誰も先生に言葉を返す人はいなかった。


フーッフーッと今も暴れた後の獣のように息遣いの荒い先生は手足を拘束されたまま拭うことができず、額は頬の汗だけでなく食い縛った口元をしたたらせていた。細い身体からは想像できない荒々しさに団長も今は固まったまま口も動かない。

一番目の前で一身に先生の殺気を受けているステイルも、私には背中を向けたまま腕を組んで動かない。先生が殺気を溢れさせるのに反し、さっきまでの黒い覇気が薄れ今は凪いでいた。どういう目をしているのかはわからないけれど、鋭い眼光をした先生と互いに目の焦点を合わせあっていることはわかる。


ステイルが言ったことは正論だ。

彼女が奴隷の調教でそうなったのか、それともアダムの特殊能力を受けたのかはわからない。性格が歪んでしまった可能性だってゼロではない。ゲームでも改心したわけでも、ずっと耐え忍んできたとも語られていない。彼女は覚えていなかったのだから。

その間の空白の一部に今、私達は足を踏み入れている。ゲームで語られなかった彼女の空白に。

少なくとも、ゲームの彼女はキミヒカの主人公に違わぬ天使のように清らかな子だった。人を見捨てることも傷付けることもしたがらない、そして……攻略対象者であるノアも「君は昔と全く変わらない」と語っていた。


「…………。ティペット・セトスは、主人の命令でフリージア王国に甚大な被害を与えた。だから今は追われている」


それだけだ。と、さっきの先生の怒号が聞こえなかったかのように情報共有だけど言葉にするステイルに、先生も僅かに目の鋭さに丸みを帯びた。


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― 新着の感想 ―
第一作目での塔崩壊ルートが実は透過のティペットによりプライドとアダムも助かり、その最悪なボニー&クライドな2人は第二作目の前にアムレットの兄を攫って顔を戻して(映してるだけだけど)サーカス観に行ったら…
エピソード626 から、ティペットは、狂人化されてるとみてよいでしょう。 とすると、どうやって洗脳が解けたのか。 アダムが解いた? アダムが死んだ? 記憶喪失は、ヴェストが記憶を消したと予想。 きっ…
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