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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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Ⅲ225.騎士は苛立つ。


……苛つきが収まらねぇ。


「先生!!一体どういうことだ?!」

先生にも、テメェにも。あんだけ話を聞いた後でも、まだ。

ステイルから事情を聞き終えてすぐ、慌てる団長を連れて俺達はまた医務室テントに戻った。先頭を早足でぐいぐい進む団長に俺らも歩並みを揃えて、王族のプライド様やステイルよりも優先して歩くってのも変な感じだなと頭の隅で少し思った。


医務室テントの前で見張っていたカラム隊長がすぐに俺らに気がついてくれて、プライド様達と団長に頭を下げた。

ドミニクさんが特殊能力で先にテント内の安全も確認してくれてから、団長に続いて俺らもテントにはいる。カラム隊長が入口を手で開いて通してくれる中、アラン隊長が「どうだった?」と聞けば今のところテントに尋ねてくる人は誰もいなかったと短く教えてくれる。もし誰か団員の人らが来てもカラム隊長なら大丈夫だってわかってたけど、誰も来なかったのは普通に安心した。見られないならそれが一番良い。


先生も口まではまだ封じてねぇし、テントの前でカラム隊長がいくら止めても騒がれたらこっちが責められかねない。カラム隊長もアラン隊長もすげぇ団員の人らと打ち付けてくれたけど、それでもやっぱ経験も信頼も長い時間かけた先生に勝てるわけがない。

団長が飛び込んですぐ、ステイルとプライド様に続いてテントの中へと潜れば、先生は変わらず床に座りこんだままだった。手の拘束も一目で見てわかるくらい暴れた形跡もない。……まァ、ハリソンさんが真横で目ぇ光らせてるから暴れようもねぇだろうけど。今もギラギラした目で瞬き一つせず剣を構えてる。

うっかり変な動きをするだけで首を刎ねそうだなと、同じ八番隊の俺でも思う。少なくとも百発ぐらいぶん殴っちまっても良いンじゃねぇかと思うくらい俺も腹ァ立ってるから間違いない。


「すみません団長……。もう色々聞いちゃいました?」

「聞いたとも!!先生、君ともあろう者がジャンヌを監禁など耳を疑ったぞ!!」

「あー……ははは。あの、団長もうちょっと声落として…………」

流石に団長相手は気まずいのか、さっきの態度の悪さから今はいつもの先生の苦笑だった。自分の真正面に立って見下ろす団長に、冷や汗まで垂らしてる。違和感ねぇからこれもこれでこの人の素なのかもしんねぇけど、もう今はこの人の笑い顔見るだけでさっきのこと思い出して気分わりぃ。


プライド様消えてから、先生締め上げるまで正直今あんま記憶がない。視界が真っ赤になって、とにかくあの人を迎えにいくことしか考えられなかったことは覚えてる。

自分の視界に映ったものよりも、胸とか血の流れる感覚ばっか気持ち悪いぐらい覚えてる。数ヶ月ぶりの感覚にあんまあの時のことは思い出さねぇようにしてるけど、……結構やっぱ残ってンなと自覚する。

頭を掻いて、視線を先生からずらせばエリック副隊長も、それにアラン隊長もしっかり先生へ注視していた。俺ばっかまだ引き摺っていて、口の中を噛む。今はテメェのことなんかよりプライド様が優先だってわかってンのに。


「彼を解いても良いか?!大丈夫何も悪さをするわけがない!!」

「申し訳ありませんがお断りします。彼がジャンヌに犯した経緯は全てお伝えした筈です」

現実見ろ、とステイルが暗に言っているのがわかる。

相変わらずさっきからずっと声が低い。コイツもやっぱまだプライド様のことに腹立ててるンだろう。当然だ。ただでさえティペットのことで怯えてたあの人に追い打ち掛けるようなことされてる。しかも原因がそのティペットだ。


膝をついてしゃがんだまま先生の縄を解こうとした団長を、ハリソンさんが剣で牽制した。

流石に斬りかからねぇだろとは思うけど、見上げた団長が目が合った途端床に尻ついて崩れた。ずっと殺気を放ってるハリソンさんを間近に、一般人が見ればそうなる。

俺もステイルも、それにエリック副隊長達だって単純に表に出さねぇように腹の中に収めているだけだ。ヴァルの舌打ちの音が聞こえねぇのが逆に、すげぇ機嫌が悪いの隠してんのかなと思う。ケメトやセフェクがいりゃあもっとわかりやすかっただろうけど、今は振り返る暇も俺にはない。それよりもプライド様だ。


目を覚ましてからは結構落ち着いているプライド様は、普段通りに近い。今は背中しか見えねぇけど、時々こっちに振り返ってくれた時も無理してるようには見えなかった。仮にも眠った後だからか顔色も市場の時よりは別物みたいに良い。いや、……逆にあの市場での顔色がやばかっただけだ。

元々白い肌から生気全部もってかれちまった色の顔で、震えも、汗も尋常じゃなかった。俺の口を震えた手で塞ぎながらの泣きそうな顔が頭にへばりついて離れない。あんだけ怖がって、怯えて、続けてあんな目にまで遭わせやがってと考える度にまたグツグツと胃が煮えてくる。目を冷ましたあの人がどんだけ怖かったか想像するだけで心臓が潰されるしふざけんな。

団長が今も「いやしかし!」とステイルに食い下がるのを見ながら、団長は悪くないのに自分の目が鋭くなりそうなのにすげぇ自分で焦る。別に団長は共犯なわけじゃねぇのはわかってる。それでもなんか今だけは、プライド様にあんだけ酷い目にあった後だからどうにも頭に熱が回ったままだ。大人げねぇ。


「先生、一体どうしてジャンヌにそんなことを。ティペット探していたなら素直に聞けば良かったじゃないか!」

「ああぁ~やっぱ団長言っちゃってる~……」

さらっとティペットの名前を出す団長に、先生の頬が引き攣った。本当にこの人はティペットのことは隠したかったんだなとはわかった。

団長の話を思い出しても、先生のすっげー事情があるのもわかるしできるだけ情報隠してぇならプライド様と二人になりたかったのもわかる。俺らがまだ信用されてねぇのも仕方ない。まだ一週間も経っていない俺らに、団員の人らにも隠してた事情を話すなんてあり得ない。けど、……だからってやって良いこととまずいことはあンだろ。


プライド様、じゃなくても女攫って縛ってあんな木箱に閉じ込めて。質問攻めにして怖がらせるようなことばっか吐き垂らして、そんなのティペットを攫ったとかいう奴とやってることも大して変わらない。

プライド様だって今は平気にしてるだけでも、もっと先生に怯えても良いくらいだ。それを酷い目に遭わせた本人を前にヘラヘラしてンのが余計に腹が立つ。しかもうっすらと薄気味悪さも滲む取り繕いが、反省や後悔を隠してるのとも違うもんだとわかる。ただただ捕まった罪人がその場しのぎを考えてる時のようなあの笑みだ。

そうわかるだけでまた拳に勝手に力が籠もる。俺が騎士じゃなかったら殴ってる。ああクソ怒ンな落ち着け。


「団長、あのことはできれば言わないで欲しかったです……。もぉ〜困りますよ~団員にも秘密だと言ったじゃないですか。こんなどこの馬の骨かもわからない人達に」

「君達!先生をどうするつもりだ?!まさか衛兵に突き出すわけじゃないだろう?!」

いや突き出すだろ。

若干さっきよか本音が零れてる先生と、聞こえてねぇみたいに先生を庇おうとする団長に言いたい言葉を飲み込んだ。ここはフリージアじゃねぇけどラジヤの一角でもちゃんと衛兵はいる。……あんま仕事してねぇみたいだけど。

それでもやっぱ普通にプライド様がジャンヌでも、ここがあのラジヤの州でも、犯罪は犯罪だ。先生の事情を知ってもやっぱ、何の罪もない〝ジャンヌ〟にまでこういうことする奴は刑罰受けねぇと困る。次に、護衛に護られねぇ普通の民が同じ目に逢ったらなんて考えたくもねぇ。


団長が庇う為に自分に背中を向けた途端、先生の顔が誰でもわかるぐれぇにげんなりと歪む。嫌っつーよりもただただ疲れた顔に、頭まで力なく斜め前に傾いた。ハァ~という溜息の音がこっちにでも聞こえそうなくらい口が半分開いてる。まだ先生はムカつくけど、……なんか。この人も団長のことは嫌いじゃねぇんだなとは思う。

嫌な奴を前にした顔じゃなく、どっちかっつーと罪人が身内にバレて庇われる時のうんざり顔に似てる。どっちにしろやったことは許せねぇけど。

庇う団長と弁解もない先生に、ステイルは腕を組んだまますぐには返事もしなかった。軽く覗き込んだら眉の間がまだ狭まってる。

団長には話も聞いたけど、ティペットについて先生から直接聞き出してない部分は多いからそこで悩んでんのかなと思う。ティペットがあのティペット・セトスと同一人物なのはわかったから余計にだ。


「……どう思いますか、ジャンヌ」

「ええと…………そうね」

チラッと顔ごと向けてステイルが振り返れば、プライド様もまだ戸惑っているように声を漏らした。

ステイルと団長、それに先生を何度も見比べながら少し首を角度が俯き気味に変わる。まさかプライド様まで先生を無罪放免にしようとか考えてンのかなと少し心配になる。

プライド様の判断をステイルも、カラム隊長達も皆が固唾を飲んで待ち続ける中、プライド様は「ラジヤの法律についてあまり詳しくはありませんが……」と前置いた。俺もラジヤまでは法律はわかってない。でも、今回のことがどう考えても有罪になることはわかる。

プライド様の話だと、ラジヤでも更に属州だからただでさえ領主の裁量も影響する。それでも、こっちで捕らえられたとはいえラジヤで捕まった以上、ラジヤに任すべきだと思うと説明してくれた上で更に言葉が続いた。


「ただ、……フリージアの民や特殊能力者であることさえ知られなければ、今回は誘拐監禁未遂ですし罰金か強制労働、体罰程度……。……罰金さえ払えば三日程度で釈放されるでしょう」

死傷者も出ていない、被害者が要人でもない、前科者の犯行でもないのならと、そう苦そうに言うプライド様の言葉に顔へ力がぐっと入る。三日って、あまりに短けぇ。しかも他に罰則もねぇのか。

三日じゃ俺達が国を出る頃だ。せめて一週間くらい反省させてくれりゃあこっちも安心できンのに。……っつーか、マジでまた何度でもティペットのことになったらやりそうな先生が三日で出れるってこと自体もやべぇなと妙なとこだけ冷静に思う。

プライド様がもともと静かだった声を半量くらい小さくして、もしフリージアか特殊能力者とバレたら奴隷墜ちの恐れもあるかもしれないと続ければ、今度は別の意味で頭が痛くなった。多分、そっちは法律とかじゃなくてラジヤとか領主とかの都合でという意味なんだろうけど、やっぱふざけてやがると本気でも思う。同じ罪でも奴隷にしたい人間かどうかで罪の判決も変わるとか腐ってる。


プライド様の説明に、先生よりも団長の顔がみるみる青くなる。「罰金はいくらになる?!」と言われれば、今度はプライド様の代わりにステイルが答えた。

ステイルもラジヤの法律全部わかってるわけじゃねぇけど、それでも見積もれば恐らくと告げた額は俺が思ったより結構な額だった。わりと栄えてる方のフリージアでも庶民がポンと払える額じゃない。

ここは市場を回っても物価は結構安かったし、余計に相当な額だろう。サーカス団も昨日けっこう儲けたみたいだし払えねぇ額じゃねぇだろうけど。


「もし、……ティペットについて先生から詳しくお話し頂けるのならば。無罪放免とは言いませんが、そのー……、……?」

「……。罰金を僕らが全額支払うのも考えます」

マジか。

プライド様が途中から声を細く伸ばしたところで、まだ主人役のステイルが続きを請け負った。背後からはわかんねぇけど、ステイルががっつりプライド様に顔を向けていたから目配せがあったんだろう。

ぽっかり空いた口で、ステイルも今の一瞬でよく飲んだなと思う。こいつのことだから本音が先生もさっさと相応の刑で突き出したいだろう。

それでも今はプライド様に従うところは、やっぱすげー大人だと思う。……と思ったら、眼鏡の黒縁を抑えながら背中でも分かるぐらいまた黒い覇気が吹き出した。声は冷静取り繕っても絶対納得いってねぇやつだコレ。

更には続けた声もやっぱ低い、むしろ更に一段階下がっていた。

「僕らも、ティペットについてお話しできる分はお答えしましょう。情報交換です。そうすれば、貴方は大人しく投獄か強制労働に服すだけでまた三日後にはサーカス団に戻れ」




「いーーやでーーーす」




…………。ステイル以上の、地に這うような不満いっぱいの低い声。

唇を尖らせ気味に眠そうな目で言う先生に、マジで百年くらい牢に入っててくンねぇかなと思った。


Ⅲ25

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― 新着の感想 ―
ノアも小さい木箱に拘束したまま入れてハリソンさんに箱ごと引きずり回されればいいのに
いやー先生絶妙にムカつきますね!! アダムと先生はワンチャン友達になれそうな。 ムカつく伸ばした話し方とか粘着質なとことか。 ところでアーサーは、ハリソンさんの鉄拳制裁の後で、もすこし色々景色変わっ…
うん。やっぱ団長とは気が合わない。 ハリソン、ノアも団長ももっとビビらせてやってくれ。 おっしゃるとおり、未遂じゃないし
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