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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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Ⅲ223.来襲侍女は困る。


「!おぉ!来たかフィリップ達!お前達も遠慮はいらないぞ!!お友達の分もあるぞ~!」


わはは!と、上機嫌この上なく大笑いしながら荷車に腰掛ける団長はスプーンと配膳用の皿を手に掲げていた。

傍には慌ただしそうに配膳皿とスプーンを集まってきた団員に配る下働きや、大きなボウルの中身を小皿にすくい上げる料理長、そして威嚇する動物の入った檻を脇に「オリエどこいったああ!!」と怒鳴るアレスでかなりの大賑わいだった。

アレスを含める団員全員が忙しそうな中、団長一人の暢気な様子も短期間の内になんだか慣れてしまっている自分が怖い。今も顔が半分笑ったまま強張っているのが自分でわかる。いきなりお食事タイム?!と驚いたけれど、よく見ると主食ではない。大きなボウルにポコポコと薄黄色と焦げ茶の物体が詰まっている。

それを料理長が一人一人ポッコリの固まりごとに掬っては皿に注ぐようにして載せていた。形もぐちゃりと元の原型が半分近く崩れているけれど、その形状と色合いから私も知るデザートだろうかと考える。貰った人から美味しそうにスプーンで味わっているし、食べ物であることは間違いない。アンジェリカさんも今はうっとりとした顔で一口一口に手が止まらない様子だ。

会ってすぐに本題を切り出そうと思っていたのに、なんとも面白い光景に唖然としてしまう。


「ええと団長……遅かった、ですね……?動物確保は終わっていた筈なのに……」

「いや帰りにちょっと寄り道をしてな!!器ごと買い取りだと流石に高くてまいった!店主と交渉して中身だけ買い取れたんだが、こんな数があるかと怒鳴られて結局出来上がるまで待つことになってしまった!!」

大笑い混じりに説明してくれる団長に、説明が説明になっていないようで一音を曖昧に返しながら眉に力が入ってしまう。流れるようにそのまま補足説明をしてくれる話を要約すると、動物三匹を無事捕獲できて時間に余裕が生まれたから帰りに菓子店に寄ったと。荷車もあるしお金もあるしちょうど良いと思って団員全員分お菓子を買うことにして、……何故かよりにもよって運びにくさこの上ないプリンを選んだらしい。

一個一個器付きで買い取りだと高いし、店主も一気にそんな器がなくなったら困るということで団長との折衷案で大きなボウルに中身だけ詰めて買い取ることにしたらしい。パッと見はスライムの集合体のようなプリンの経緯はなかなかワイルドな理由だった。前世の学校の給食だってこんなプリンの盛り方はしなかった。

それからは中身のプリンが悪くならないように、アレスが特殊能力でボウルの周囲を凍らせながら頑張ってここまで荷車を団長と引いて帰ってきたらしい。


なんだか動物確保に続いてご苦労が多かったらしいアレスへ自然に目がいけば、彼は未だにプリンを食べることもせず動物の檻を抱えて背中が遠くなっていく。

団長に聞けば、一度レラさん達と一緒に集まったオリウィエルが動物に威嚇された途端に怖がって走って逃げてしまったらしい。心配したレラさんもオリウィエルを追いかけて、このまま動物が騒ぐのも暴れて傷付くのも困るからとアレスも今すぐオリウィエルに能力をかけさせるべく躍起になっているのが現状だ。……多分、動物もそうだけれどラルクと猛獣の為もあるのだろう。


「……あれ。そういえばラルクは?」

「ああ、あの子はもう受け取って自分のテントに戻っている。じっくり堪能してくれれば私も嬉しい」

意外にもラルクは既にプリン受取済みらしい。

他にもこの場では食べずに配給だけ受け取って去る団員は多いから、彼も自分でゆっくり食べたかったと言われれば納得する。まだ団員達の前で気まずさもあるのかもしれない。

にこにこにこと笑い皺を作って満面の笑顔を作る団長を見ると、他の団員と同様ラルクからも悪い反応はされなかったのだろう。基本節制生活と甘いものといえばたまにの果物がメインの生活だったらしいし、洋菓子の甘さはまた格別なのは男女関係ない。ラルクも甘いものは好きな方なのだろうか。……そういえば、ゲームでも主人公のティペットとカフェでスイーツを食べていたような気が。

はっきりは思い出せないけれど、確かスチル映像ではその時もプリンを食べていたような気もする。いやでもそれはラルクの方がティペットの好みに合わせた可能性も多いにある。


「ほらたくさんあるぞ!」

キラキラテカテカの笑顔で料理長の方を私達に指し示す団長の勢いに、流されてしまいそうになる。

料理長が差し出してくれる小皿を反射的に受け取ってしまいかけた手をぐっと意識的に引っ込める。今はそんなのんびりおやつ時間に入るところじゃない。何より毒味のなしで一度痛い目にあったばかりだ。

このまま流されそうになったところで、目を団長から一歩前方に立つステイルに逃がす。いつもならば団長からの投げ掛けへ既に二度三度は一言返してもおかしくないステイルが、今はただただ無言だ。

ステイルだけじゃない、アーサーもアラン隊長もエリック副隊長も、温度感知の騎士も、当然ヴァルも口を閉じたまま今は団長へ向けての眼差しに冷たさもある。今回の一件に無関係ではある筈だけれど、サーカス団の団長として管理責任もあるから仕方が無い。……いや!先生の擬態が凄まじかっただけなのだけれども!!!


私達の温度感が遅れて伝わったのか、団長も次第にゆっくりと目が丸くなってくる。

キョトンとした感覚にも似た皿の目で「どうした?」と私達を順々に見比べた。料理長もチラッとこちらに目配せをしてから、また下働きの人達にプリンを配る。……と同時に、ほんの十数センチだけプリンを置いたテーブルごと動かして距離を置かれた。

他の団員もこちらを気にするどころか、そそくさと距離を置いている。こういう面倒事回避能力は流石この団長の元で生き抜いてきただけあっての経験則だなとこっそり思う。


「団長、少々真剣なお話しがあります。……先生についてです」

ステイルが抑えた声で淡々と告げた最後の一言に、団長もスプーンの手が止まった。

それまでは、今この場で話すぞと言わんばかりに胸を突き出していたのに、先生と言った途端に背中が丸まった。カチャン、と皿に一度置かれると顔の動きはこちらに向いたままゆっくりと流れるように目だけで周囲を見回した。

ステイルが声を潜めたことと、他の団員も距離を取ったばかりのこともあって幸い聞き耳を立てている様子はない。「なら場所を変えよう」と、食べかけのプリンとスプーンを片手に荷車から立ち上がり団長テントの方を指差した。

こちらの深刻性を正しく理解してくれたらしい団長に促されるまま、私達も口を閉じたままその背中に続く。行きましょうと、ステイルを先頭に歩き出す中も騎士達がぴったりと私にくっつきそうなくらい傍を維持してくれた。緊張感がぴりぴりと薄い空気の膜を通して私にまで伝わってくるほどに張り詰められていた。


先生が確定したとはいっても、残りの攻略対象者はまだいる。私としても残りの攻略対象者がまた牙を剥いてくるかもわからない以上、こうして護ってくれると安心感が違う。しかも一人は温度感知の騎士だ。

開けた場所で護衛に囲まれている今は特に、意識的に深く呼吸を整えた。歩いている間に、プリン配給とは別の方向から「オリエェエエ!!!」とアレスの怒鳴り声がまた聞こえた。

もう見慣れてしまった団長テントに辿り付くと、昨日とは別のテントかのように今は綺麗に整えられていた。アレス達が頑張ったのだろう。

「まぁまぁ座ってくれ」とテーブルを挟む椅子二つを手で譲ってくれる団長は、机の方に添えられた一脚の椅子の方へ腰を下ろした。目配せし合ってから、ステイルの次に私がその椅子に座らせてもらう。


「それで何だったかな?先生のことか。また気になることでもあったか?」

「はい。事情を説明する前に、……団長は〝ティペット〟という女性に心当たりはありますか」

先生が誘拐もどきを起こしたなんて話して話題が決まる前に、ステイルから改めて彼女の名が語られる。ぞわりとまた背筋を冷たく撫でられるような感覚に襲われたけど、奥歯を食い縛るだけで済んだ。

私達に投げかけてすぐ皿の残りのプリンを飲み物のようにがぶ食いする団長は、ステイルからに大きく目を開いてこちらに向けた。言葉よりも先にその目が覚えがあると語っている。

ごっくんと喉を大きく鳴らして口を空にした団長は、少し雑に食器を机に置くと手の甲で口元を拭った。「なるほどな」と納得するように落ち着けた声を放った。


「それで先生か。素晴らしい!ティペットが見つかったのか?それとも依頼されたか。君達は問題解決が上手いから先生が頼るのもよくわかる」

「ご存知なのですね。先生と彼女はどのような関係なのでしょうか」

団長の憶測を今は流して単刀直入にステイルが尋ねる。

全く会話にならない投げ返しに、団長は眉ひとつ動かすことなく視線を浮かせた。腕を組み、うーむと軽く唸りながらも質問の答えを探してくれる。

全くティペットについても隠す気が無い様子に、場所を移動したのも単に先生個人の話題だからかしらと考える。ざっくりしているように見えて、アレスやラルクにも色々配慮はしている人だもの。


「あれはもう何年も昔になるな。私が出会った時、まだ若い身でありながら先生は人探しで放浪……いや旅をしていたのだよ」

言葉を途中できゅっと縮めた団長は、座ったまま足を組む。

「懐かしいな」と付け加えながら、視線がふんわり宙へと浮かんだ。ステイルが「具体的には」と年数を尋ねれば七年と本当に結構な年数だ。先生、パッと見ではお若いのに……いや、でも確か第四作目そのものが攻略対象者の平均年齢も高い。そう考えれば妥当だろうか。

放浪、という言葉から考えてもそこはゲームと同じだろうか。ゲームの設定でも彼はティペットを探し続けてサーカス団に辿り着いたと語っていたもの。


「〝ティペット〟という少女を探していると。当時彼はそう言っていたな。私が聞いたのは七年前だから……今はもう十六くらいか」

十七でもおかしくないと。静かにそう語る団長の言葉に私は表情に出さないようにすることに神経全て張り巡らす。

ゆったりと膝の上に置いていた手が爪の先までピンと硬くなっているのが自分でわかる。心臓の拍動音がまずい。しんとした部屋に響いてしまうのではないかと、音もなく口の中を飲み込んだ。十六、と具体的な彼女の年齢を今把握する。


「そうそう!そういえば先生もフリージアの生まれだったな。話は弾んだか?」


エエトテモ。そうステイルが真っ黒な覇気を溢れさせながら明るい声で返した。もう隣を見なくてもものすっごい目の怖い笑顔だということが確信できる。……まぁ、私が尋問されている間は一方的に話が弾んだといえなくもないけれども。

恐らく、私達が先生に何かしら持ち掛けられて事情を知ったのだと思っているのだろう団長は怪しむ気配もない。先生も含めフリージア出身者が複数いたことはわかっていたことだ。

サーカス団が団員について外部には秘密主義だっただけ。それでも、内部に入り込んでサーカス団の誰を見ても攻略対象者らしき人がいなかったから調査対象を切り替えて、そして今はティペットの関係者を探した。……まさかあんなにも別人じゃ気付きようがない。


先生についてもっと詳しく、どこで出会ったのか、特殊能力はあるのかと重ねるステイルの質問に団長はその後もスラスラと答えていった。


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