表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2220/2242

Ⅲ210.騎士隊長は鑑み、


……大丈夫だろうか。


「僕とは別行動になりますが、お二人もなるべく医務室テントから離れないようにだけお願いします」

少なくとも敷地内からは出ないように、と。ステイル様からの指示にアランと私は一声で答える。

プライド様を引き続きアーサー達に任せ、我々は団員へ聞き込み調査をすべく外に出たが、会話を始めたのは充分にテントから距離を取ってからだった。「突然呼び出して申し訳ありませんでした」とステイル様がこちらへ振りかえるまで、アランすら口を開けなかった。

ステイル様自身が張り詰めておられたのもそうだが、……余計な会話でプライド様へ必要以上に不安を与えたくなかったこともある。私達の会話を拾ってすら、あの御方の不安を煽ることになるだろう。

もともと医務室テントが他の居住テントとも離れている方だから良かったが、気配一つにすら敏感になっておられるのは明らかだ。我々が後から何かを話していたと判断しても不安を煽られ、そして何者かもわからない遠い声にも今は怯えられるかもしれない。それをアランも、ステイル様も理解しておられる。


私とアランが駆けつけた時点で、プライド様の血色は一目でわかるほどに暗く淀んでおられた。笑みこそ浮かべてくださったが、あまりの色に一瞬心臓が酷く動悸した。

私達にカードを下さったステイル様が先に合流をされていたことも考えれば、あれでも改善した方なのだろう。……だからこそ余計に、今も離れたくないと思うのが本音だ。ステイル様もそしてアランも同じだろう。


ティペット・セトス。ラジヤ帝国アダムの側室として訪れ、プライド様の予知によれば透過の特殊能力者。

ローランドを含めた騎士団にも在籍が複数ある透明の特殊能力と異なり、物体を通過することも可能な特殊能力。あまりにも厄介だ。単純に攻撃としてならば、こちらへ攻撃をする一瞬の不意打ちにさえ気をつければ返り討ちにすることも難しくはない。しかし、密偵や追跡のみを目的に使われれば太刀打ち方法も限られる。

しかもティペットはアーサーの話によると気配を消すのが異常に優れている。実際彼は彼女から一撃を受けるまで存在に気付けなかったと当時語っていた。そんな人物がプライド様をたとえば拐う目的で今も迫っていれば、……そう考えたのはあの場の全員だろう。

たとえケネスが合流してくれても、プライド様の不安は完全には晴れないだろう。アダムの姿が確認されなかったことは良かったが、この地にもいないとは限らない。むしろフリージアでは常にティペットを傍に置いていたことを考えれば、同じように滞在している可能性の方が高い。あの爆発と崩落でどれだけ無事に逃げ切ったか、そしてどのような治療を受けたかにもよるが最悪の状況を想定するに越したことはない。


「……やはり、温度感知の者も我々の中に加えるべきかもしれません。今後もこのようなことが起きない確証はありませんから」

出過ぎた意見とは承知しておりますが。そう、潜めた声で断った私に、隣に並ぶアランも頷いた。「そうだな」と短い言葉は、いつもの彼よりも低い。

ステイル様の特殊能力があれば、常に必要な騎士をプライド様のお傍に呼ぶことはできる。今は正体を隠していることとティペットに監視されていることも按じカード以上の瞬間移動は使われていないだけだが、今のようなすぐに騎士を呼べない緊急事態がいつ訪れるかはわからない。

特殊能力者相手に特殊能力頼みというのも不甲斐ない話だが、しかし効果的な対応方法でもある。ステイル様やプライド様、ジルベール宰相が発足されたという近衛騎士の制度や任命に騎士である私が提言などとは思うものの、ここは敢えて近衛騎士である私達だからこそ言うべきでもある。たとえここで温度感知の特殊能力者が追加任命されたところで、我々に不満はない。必要なのはプライド様自身の安全だ。

私達より二歩前を進んでおられたステイル様は、すぐには返答されなかった。降ろした手で拳を作り、公演テントの入口が見えてきたところで静かに首を横に振られた。早足だったその歩みがゆっくりと速度を緩め、途中で立ち止まられる。


「……僕は、貴方方だからこそ信用しています。特殊能力などではない、根本的な部分であの人の傍にいるに相応しい方々です」

ステイル様の声は更に小さく、耳を澄ませなければ広い損ねるほど微かな呟きだった。独り言のようにも聞こえたが、その信用は私達に……敷いては私達を選んでくれたアーサーへ向けて放たれていた。

ステイル様からそう仰っていただけるのは、純粋に嬉しく思う。他ならぬ誉れだ。幼い頃からプライド様の補佐として務め、国一番の天才とまで謳われている御方が私達を評してくださっているのだから。

当然ステイル様がそう仰り断られるのも、プライド様すらも遠慮されることも想像はできていた。近衛騎士を増やすということは、現状では不足であると判断したということと同義なのだから。


もともとは有事にアーサー一人、そして常に傍に二名ずつという形態に。そしてアーサーの昇進に合わせて騎士団での隊長会議や騎士の非番などの兼ね合いからハリソンも加入が決定した。ここから更に追加するということは、また何かしらの意味が纏う。透過の特殊能力者相手に我々近衛騎士が「守り切れない」と白旗をあげたと判断されても当然だ。

温度感知の特殊能力者が来たところで、ティペットを捕まえられるかそしてプライド様を守り切れるかは全くの別の話だ。あくまで温度感知は視覚的に敵の存在に気付くことだけなのだから。

しかし、実際にプライド様は今不安と恐怖の渦中におられる。我々の立場などよりも守るべきものがある。温度感知の特殊能力者が傍に立ち、この場にティペットもアダムもいないと保証できる環境を作るだけでもお心持ちは変わるだう。……勿論、それでもまだ完璧にというわけではないことは私もよく分かっている。悪く言えば気休めだ。

それでも、今はと。プライド様のあの顔色とそんな心境でも我々に向けてくださったほのかな笑みを思い出せば考えてしまう。口の中を噛み、ステイル様から「そして」と言葉を繋がれる中、どうすればこの御方を説得できるかと頭の別の部分で考えようとする己がいる。


「……第二のティペットが〝どこに〟所属していてもおかしくないと、僕は考えています。あの男の手によれば、どれほど心清らかな人でも寝返らせられてしまうと知っていますから」

静かなステイル様の言葉に、息が止まる。

私達に背中を向けたままのその表情を想像できるのは、ご姉妹かアーサーくらいのものだろう。拳を振るわせるこの方が、……誰よりも頭の優れた天才と呼ばれた方がどれほどの可能性を鑑みてきたかと思い至る。


〝どこに〟と、つまりは王国騎士団ですらも例外ではないと仰られている。その通りだ。城や演習場こそ多くの警備にも温度感知の特殊能力者にも監視されているが、騎士である我々も常に城から出ないわけではない。そしてステイル様は、この世で最も信望している女性が狂気に堕とされた。

あのプライド様ですら、特殊能力をかけられればラジヤ帝国へ助力した。我々騎士団の誰かが今度アダムの特殊能力でどのように変貌してしまうか、しないかの保証もない。まだ、ステイル様の口から「自分の意思での裏切り者」の可能性を上げられないだけ、我々騎士団は信用していただけている。


元々近衛騎士に任命される前から用心深い印象のあったステイル様は、あの一件から更に磨きがかかっておられる。

プライド様を護られる身としても次期摂政としても正しく、心強さもあるが、だからこそ思考の中では誰よりも常に最悪の状況を想定し追い詰められておられるのだろう。

プライド様の近衛騎士を増やしたところで、信頼に足るか否かのたった一つで状況は一変する。ラジヤの方へ強制的に引き込まれた騎士が、もし温度感知の特殊能力を使いながら安全を保証と偽ればまた凄惨な結果もあり得る。近衛騎士となれば、いつ背後を狙うことも隙を伺うことも可能だ。今も、例えばアーサーかエリックどちらかだけでも敵に与していれば惨劇は免れない。

アランも同じように思考を回しているのだろう、口を結び続けている。数十秒の沈黙が長く感じられた後、ステイル様は僅かに俯かれていた顔を上げ、眼鏡の縁に指を添えながら今度はこちらの問いかけもない内に首を再び横に振られた。


「ですが。……この道中は一時的に加えるのは必要だと僕も思います。あとでアーサーと一緒に意見を聞かせていただけますか」

今晩ケネスさんに尋ねるのも良いかもしれませんね、と。先ほどと変わっていくらか柔らかな表情でこちらに振り向かれた。意識した笑みだろう、と表情よりも声の強ばりで思う。

しかしそれでも私達の意見を受け取ってくださったことに、自然と頭が下がった。アランと共に低頭しつつ、以前よりも一歩乗り越えられたのだろうかと考える。少なくともプラデスト潜入の際は、まだ我々にそのような表情を向けるまで心が保たれなかっただろう。


温度感知の特殊能力者の所属数が多い九番隊の騎士隊長であるケネスは、確かに意見を聞くに最適な騎士だ。ステイル様も女王近衛騎士であるケネスのことはいくらか信用を向けておられるように思える。

「その為にも早く関係者を見つけましょう」と再び歩を進め、公演テントの中へ入るステイル様に我々も続く。入口を抜けた時、ポンと不意にアランから肩を叩かれた。自分でも驚くほど叩かれた肩が上がってしまったことに、無意識に私もまた張り詰めていたのだなと自覚する。

顔を向ければアランも表情はいつものような明るさではなく口元だけ笑ませた静けさだったが、それでもオレンジ色の目には恐らくこの場の誰よりも光が宿っていた。敢えて目を合わすだけで何も言わない彼に、恐らく今のは私への「気を張り過ぎるな」の意味だろうと察する。……アランに、窘められてしまった……。


アランもまた、ステイル様と同じくプライド様のことで心穏やかでは決してない。それなのにこうして余裕を見せられると今度は自分が恥じたくなる。

前髪を押さえ、払う。ステイル様のことを考えていたつもりで視野が狭くなっていたのは私も同じだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ