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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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そして語られる。


「ご無事ですか?!!」


テントの入口を捲り上げてすぐ、その言葉が二人殆ど同時に放たれた。

同じサーカス団の敷地内に、騎士隊長二人が辿り着くのに時間は掛からなかった。

移動中会話を交わす暇もなく足を急がした二人は、走った速度と距離とは関係なく息が逸る中胸も肺も押さえつけることなく拳を握る。額に汗を浮かべ血色も薄暗い二人に、アーサーとエリックも「お疲れ様です」と敢えて落ち着きを帯びた声で頭を下げた。


期待通りに集合してくれた二人にステイルも一声掛け、どうぞと医務室内へと手で促した。

プライドに緊急事態があったのだと急いだ二人も、想定よりも落ち着いた空気感に小刻みだった息がそれだけでほっと丸くなる。ベッドで膝を抱えていたプライドも、アランだけでなくカラムまで大きな声で駆けつけてくれたことには驚いたが、肩の強ばりが解けると同時に笑みを小さく浮かんだ。「心配かけてごめんなさい」と自然と声が出れば、また自分でも胸に片手を添えながら深呼吸した。

さっきよりも鼓動がゆっくりそして小さくなっていくことを確かめながら、抱えた膝ごと入口に立つ彼らへ向き直る。


「この通り無事で、怪我もありません。アーサーとエリックさん、それにヴァルもいてくれましたから」

「僕も少々取り乱し必要事項しかしたためませんでした。申し訳ありませんでした」

プライドのほのかな笑みに続き、カードをよこした張本人であるステイルからも言葉を返されればアランとカラムも汗を拭う。

手の甲でひと思いに拭う落とすアランに、カラムも前髪を整えながら意識的に呼吸の速度をゆっくりに落とした。いえ、とんでもございませんと返しつつ、プライドが無事にそこにいることだけで脈がおかしくなるほど安堵する。ティペットとプライド、その言葉が並んだ時は心臓が一瞬止まり掛けた。

完全にいつも通りとは言わずとも、柔らかく笑うプライドを見れば彼女が正常であることも一目でわかる。遅れてカラムは入口のテントへ振りかえり、閉じ直す。カラムが閉じきったところで、やっとアランも瞬きを思い出した。とにかくプライドは無事だという事実で頭を叩きながら、一歩前に出る。


「ス……フィリップ様、一体何が?リオ殿達も見えませんが」

「それについてはまだ僕も。アーサー、エリックさん。ご説明を頂けますか」

張本人であるプライドよりも護衛の騎士へとステイルも腕を組みながら視線を投げる。

今朝にはレオンと共に行動していた筈のプライドが別行動であることもアランに言われてやっと気になった。さっきまではただただプライドの無事とこの場にアダムの手先がいないかを考えることで頭が埋まっていた。


ステイルからの投げ掛けに最初エリックが説明しようと顔の横に手を上げたが、追うように「いえ俺が」とアーサーが肘を伸ばして挙手した。説明が上手いエリックが自分から買ってくれたことはわかりつつ、一番近い場所にいた自分が説明すべきだと思う。

手を上げた直後唇を一度固く結んだアーサーは、肩が大きく上下するほどに息を吸上げ吐いた。


自分自身まだ心の整理が全てはついていないアーサーだが、声を抑えつつ最初から順序立てて説明を始める。

レオンとは別行動になり、食事調達の為に市場へ赴きそこでと自分の目線からのティペット遭遇だ。話せば話すほど、プライドの顔色には気付けたのに何故ティペットに気付けなかったのかと顔が苦くなる。プライドを抱え、エリックに促されヴァルを連れ撤退をと締めくくれば最後には「すみません」と消え入りそうな声で深々頭を下げた。

ティペットに遭遇したのが自分は初めてでもないのに、気付けなかったことはプライドの護衛としても恥ずべきだと誰より自分が思う。


アーサーの説明を聞き終えても、暫くは意図せず沈黙が流れた。

アーサーを責めているわけではない、ただそれよりも彼の目線だけでも情報量が多すぎた。ティペットが今ここに付いてきているかもしれないという可能性が僅かにでもあれば、それだけでひやりとアランとカラムの背に冷たいものがなぞった。

黙りこくってしまうアーサーに代わり、エリックがそこで二人に手でサインを送る。

温度感知の特殊能力者が既に派遣依頼済みと示されれば、少しは安堵できた二人だが当然ステイルと同じ疑問が頭に浮かぶ。

今度はカラムが足を前に出し、プライドのベッドへそっと歩み寄った。彼女が見えない影に怯えないようにと今だけは敢えてはっきり足音を立てる。


「待つよりもただちに宿に戻りましょう。ここで中断すべきです。捜査ならば我々がいくらでも致します」

「カラムに賛成です。今すぐフィリップ様と先に帰られてください。もうここにも来ない方が良いです」

恐れ多いと思いつつプライドを最善に進言するカラムに、アランもはっきりとした声で続く。

ステイルも二人の意見には全面的に同意だと両目を瞑り、唇を絞った。自分だってそう言った、という言葉を今は飲み込みプライドの返事を待つ。近衛騎士二人にもさらに言われればプライドの意見が変わってくれないかと一縷の可能性を願うが、やはり彼女は首を横に振る。


ここには目的があってきた、アーサーもステイルも言ってくれたけれど断った。そう告げる彼女にアランは両足を止め、カラムは彼女の目線まで片膝をつき口を閉じた。ならばその目的をと、視線だけで彼らは望む。

どういう理由であれ、まずは聞くべきだと姿勢に示すが、それでも強引にでもプライドはやはり宿に戻すべきだとアランとカラムは目で示し合わすこともなく決めた。彼女が危機に身を投じることはいつものことだが、本来それは許されることではない。

まだ目的を聞いていないステイルもまた、微かな声も拾えるようにプライドへ一歩更に距離を縮めた。アーサーやエリック、ローランド、片眉を上げて視線を向けるヴァルの顔色を見ても彼らもその目的は知らないらしいと確かめる。

全員が自分の言葉を待っていることを理解し、プライドは再び息を吸い上げた。今度はスーーッと先ほどよりも円滑に息を取り込めた。

もう話すべき言葉自体は頭の中にはまとまっている。外にいる人間に聞かれないよう、潜めた声を意識しつつ声にする。膝を抱く腕が震えるほど力がこもったが、今度は一音目からきちんとできた。


「……視、ました。彼女は、いつかこのサーカス団と関わることになります。経緯はわかりません」

そして、と。言葉を終えずそのまま紡ぐ。

ティペットがこのサーカス団に、という言葉だけでもその場の全員が息を飲む。既にこのサーカス団がフリージアの奴隷をという予知はオリウィエルの暴走を止めたところで防げている筈だ。しかし解決した今〝その後〟にプライドが予知したということは、その予知とは別にティペットがまたサーカス団と引き合う未来がまだあるということになる。一段落落ち着いたと思っていたサーカス団と予知が再び繋がった。


そして、ゲームと状況が変わった上でその発言をする重みを誰よりもプライド自身がよくわかっている。

予知は〝未来〟の話だ。しかし、前世の記憶でティペットの設定を思い出してしまった今は彼女の未来が変わったとは到底思えなかった。その事実に歯痒くなりながら、プライドは更に核心へと駒を進める。

アダムの部下である彼女がいつかゲーム開始時にはこのサーカス団の団員と接触する。ゲームの強制力の恐ろしさは痛感している。

今、ゲーム開始時より前にもかかわらず彼女がこの地に訪れたのも何かの因果とすら思えて仕方が無い。しかし、一番重要なのはそこではない。

ティペットが現れた。彼女がアレス達が登場する第四作目の主人公であること。そして何よりも一番〝今〟自分が動かなければならない理由は。




「彼女の〝過去の関係者〟が、このサーカス団にいます。……彼も、我が国の民です」




顔はわからない姿は見えないただティペットに語りかける団員の姿が見えた。そう決めていた言い訳を告げながら、次第にプライドの息がまた浅くなる。

アレスとラルクだけではない、もう一人いた攻略対象者。顔も細かい設定も思い出せない、けれどここに既にいると確信だけは思い出した。ティペットに会えなければ見過ごしていたかもしれない存在を、置いていけるわけもなかった。


彼に課せられた悲劇を知るまでは。


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キミヒカ世界、アダムとラスボスプライドが生きている世界では、アダムの「側室」扱いだったテイペットは遠ざけられている可能性があるかも? テイペットの能力の有用性はあるけれど、キミヒカ世界なら、プライドの…
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