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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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2214/2242

Ⅲ207.来襲侍女は解いてく。


「ティペットがいます」


そう、プライドが響かせた言葉は彼らを震撼させるには充分過ぎた。

震わす唇で放たれたその名に、何故彼女が今の今まで容易に発言できなかったかを誰もが理解する。

ビリビリと殺気に近い覇気がテント内で一気に溢れ、彼女の動揺を知っていたアーサーとエリックは再び剣を握り構えた。まるで〝今この場に〟いるようにも聞き取れる言葉に、息を飲むのと同じ速さでプライドの左右に駆け寄り付いた。目の前、しかも至近距離にいる彼女がいつ消えてしまってもおかしくない状況に神経を張り詰める。

ステイルと入れ替わりにプライドから数歩分離れたヴァルも、その名には顔を歪める。再び荷袋を握り直しながらギラリと眼光を周囲に光らせた。姿や顔は知らずとも、それが一度は自分を貫いた相手だということは奪還戦後にプライド達に聞かされた。アダムと同じ〝生存〟の可能性を持つ要注意人物として学校潜入前から情報は共有されている。もしこのテント内にいるのならばと、一度は落ち着いた荷袋の中身かまだゴソついた。逃げ場がないように、テントの入口前へと歩み寄る。

最悪の事態を想定したステイルは振りかえる。さっきからずっと自分の傍に控えている存在がいるだろう方向へ、大丈夫だと理解はしながらも目を見張る。

プライドがそう恐れたように、ステイルもまた同じことを考えた。プライドを挟むアーサーとエリックと同じように、背中に彼女を隠しつつ声を張る。


「ッ姿を見せてください……!!」

誰、とは敢えて言わずプライドの鎌掛けに呼応するステイルの言葉により控えていたもう一人の騎士の対応は早かった。

姿を消す特殊能力者であるローランドは、その場に片膝をついた状態で特殊能力を解いた。その姿を確認した途端、プライドからほっ……と息が漏れる。ステイルの護衛に彼が付いていることもわかっていたが、それでも姿を見るまではどうしても安心できなかった。もともと気配を消すのが上手いローランドだが、それはティペットも同じだとよく知っている。この状況で日和見できるわけもない。


ローランド以外、姿を現す者がいない状況に当然それで安堵できるステイル達でもない。出てこいと言って素直に出てくる者など珍しい。

ローランドがステイル達に姿を確認されたと同時に自身もまた膝をついたまま剣を構え、周囲に意識を巡らせた。テントの中に気配は感じないが、ティペットという人物が気配を消すのが異常に上手いことも騎士団で共有されている。ヴァルが入口の隙間から外へと覗くが、やはりそこにはティペットらしき人物もアダムもいない。舌打ちもせずに再び視線をテントの中へと向けた。少なくともテントの入口を閉じ、その前にヴァルがいる現時点ではここは密室だ。

ローランドだけでなく全員が警戒態勢を強めてくれたことで、プライドも少しずつ動機が収まっていく。フーーー……と深く呼吸を繰り返しながら、声を潜めて彼らへ一度切った言葉を続ける。入口前で耳を澄ませているヴァルがやっと拾える、息混じりの声だ。


「……ここにかは、わかりません。市場で、見ました。この地にいます。彼女一人で、同行者はいませんでした」

驚かせてごめんなさい。そう続けても誰一人張り詰めた空気を止めはしない。「わからない」という時点で、〝ついてきているかもしれない〟事実は拭えない。

市場にいたという言葉にアーサーは何故自分は気付けなかったのかと歯を食い縛る。あの時、一番傍にいたのに気付けたのはプライドのことだけだった。

プライドが気付くよりも先に自分が彼女を取り押さえることができればと考えかけ、今は奥歯に力を込めるだけで振り払う。反省よりも今はプライドを守ることが先決だ。もう刺されるわけにはいかないと、痕の残っていない背中にそれでも神経を張り詰める。あの女は背中から狙ってくると、正面よりも自分やプライドの背後に意識が向く。

周囲に目を向けたまま「フィリップ」と短く彼を呼べば、ステイルもアーサーへ振りかえらないまま「今やっている」と懐から取り出したカードとペンを使った。殆ど書面は見ず周囲へ目を向け走り書きで書き綴ったカードを、次の瞬間には握りつぶす寸前に瞬間移動させた。ペンを戻し、拳をほどいたその手にもうカードはない。


「ッ今すぐ宿に戻っ」

「いいえ。ここには目的があって来ました。アーサー達も宿に戻ろうと言ってくれましたが、断りました」

ガチャンッッガラァン!!と遠くから物音が薄く聞こえる中、今度はプライドの声もしっかりテント内に通った。

今すぐ女王のいる宿に撤退をと提案するステイルに、プライドも今度は重みのある声で断れた。

この場で撤退が正しい判断であることはわかる。しかし、自分もまたすぐにサーカスで聞き込みたい理由があった。「目的……?!」とステイルもプライドへ振り返れば、突然ザバァァァと別方向から音が零れた。一瞬プライドを捉えた目がそのまま音源へと風を切れば、入口に佇んでいたヴァルが荷袋の中身を引っくり返したところだった。

清潔が求められる医務室テントに大量の砂が散らばり、剥き出しの床である地面に広がった。何やってンだとアーサーが声を出し掛かったが、直後に砂がそのまま撒かれた状態から蛇のようにまとまり数匹分でうごめき出す。

医務室に置かれた椅子や机、プライドの座るベッドの隙間、棚の上へとそれぞれ砂の蛇が移動したところでべしゃりと再びただの砂に戻り広がった。用具の上全てに砂が乗り、医務室に清潔感の欠片もなくなった。部屋中が砂まみれになったことに、まだ文句を言う者はいない。ローランドは剣を構えながら、意味不明の行動をするヴァルを止めるべきか考えたがエリックやアーサーも何も言わない状況に今は様子見を伺った。ヴァルの特殊能力はある程度知ってはいたが、まさか砂をここまで細かく自由に操れるのかと思考するのも束の間だった。家具の上に散らばった砂から足下の地面まで自分達が立つ足場だけを覗いた全てが



一瞬で、針山に変わる。



「……あ゛ーー、これでも死なねぇんだったか?チッ!めんどくせぇ」

ザンッ!!!と砂や足場の地面から急激に針のように剣山化し、どこからも血が噴き出していないことを確認してからヴァルは面倒そうな声を漏らした。そういえばティペットは透明化ではなく〝透過〟の特殊能力者だと遅れて思い出す。

首の後ろを掻きながらぐるりと部屋中を見回すヴァルに、予想していたステイルは眉を寄せるが苦情どころではない。ヴァルと同じく目で周囲の異変を確かめる。透過の特殊能力に効果はないが、奪還戦でも当時物理攻撃が効いたこともある相手だ。理由があって普段は透過を使わない可能性も、そうでなくても突然のヴァルの攻撃に粗を見せる可能性は充分にある。だからこそヴァルの行動にも一言も文句は言わず押し黙り続けた。


プライドを挟んで立っていたエリックとアーサーは違いの額がぶつかりそうになるほどプライドに密着し、針山が邪魔で見えないヴァルを睨む。予想ができていたから良いが、ここまで盛大にやるとは思わなかった。刺されば靴越しでも痛みを感じるどころか串刺しになるほどの鋭利な棘だ。

隷属の契約でプライドに傷をつける心配はなくとも、何が起こるか予見できなかったローランドが事故でも怪我をしたらどうすると思う。歴戦の騎士であろうとも、この逃げ場のない狭い空間で一瞬のうちに針山の罠に遭えば軽傷で済まない可能性がある。故意で他者を怪我させることはできないヴァルだが、故意でなければ隷属の範囲ではない。

誰も怪我人がいないことを確認したプライドも、十秒近く経過してから今度は深呼吸ではない溜息を漏らした。ここまで殺傷力の高い棘にしなくても……と思いつつ、しかしここに彼女がいない可能性は高いことに安堵する。


「……足元を狙うのが正解とは、思います……常時透過していると考えにくいですし。……が、死なせたらどうするのですか……」

「アァ?一番手っ取り早いじゃねぇか」

この人は。プライドの思考に相変わらずの彼への感想は浮かぶ。

足下は確かに一番透過の特殊能力には効果的だと思う。自分の足場まで透過をしていたら地下に落ちている可能性がある。全身透過状態でも足場は例外で立っていられるのか細かい条件はわからないが、瓦礫を頭上から落とすよりは傷を負わせられる可能性は高い。そしてヴァルの攻撃は一歩間違えば第四作目主人公を殺していた。

隷属の契約で他者に傷を負わせられない筈だと思っていたプライドは、考えを改める。あくまでヴァルにとっては「ティペットへの攻撃」ではなく「安全確認」だったのだろうと思う。そしてその中で誰かが〝うっかり〟怪我してもどうでも良いと思っていたのだろうとも察する。

死んでいたら手っ取り早いと物騒なことを平然と言うヴァルに呆れが止まらないが、同時に今この場に彼女はいない可能性が高まったことだけは心の中で感謝しつつ口を動かした。


「入口有無関係なく入ってくることもできるので、そこも面倒なところですね。……ありがとうございます。砂はしまってください」

チッ!!と、入口を固めたところで意味もないことにヴァルは舌を打ちながら仕方なく一度棘を解除する。パチンと指を鳴らすと同時に棘状態になっていた砂が再びべしゃんと落ちた。まるで水流のようにするすると床に放られた荷袋の中へと収束していく。

近衛騎士やステイルだけでなく、ヴァルまで完全迎撃態勢になってくれたことにやはり彼もティペットのことは警戒しているのだなとプライドは静かに思う。彼もまた、ティペットに重傷を負わされた一人だ。

砂が全て荷袋に収納しきっても、イライラと組んだ腕を指先で叩くヴァルはまたドスンとテントの壁際によりかかった。透過の特殊能力者とは聞いて居たが、こうして実際に相対の可能性を考えれば考えるほど面倒で厄介だと思う。自分に隷属の契約の縛りがなくても殺すのが難しい。

ここまでやっても今のところ変化はないテントの中で、ステイルは音に出さず息を吸い上げる。プライドが何故このサーカス団を選んだのか、ティペットと遭遇した詳しい状況も、あまりに聞くことが多すぎる。


「一先ず、宿からケネスさんもしくはそれに準じる人物を依頼しようと思います」

構いませんね?と、最低限言葉遣いに留意しながら確認され、プライドも今度は無言のまま頷いた。

温度感知の特殊能力を持つ騎士の名を上げるステイルに、宿から同じ特殊能力を持つ騎士を派遣依頼するのだと理解する。既にローランドという女王近衛騎士を配属させている状況で、更に同じ近衛騎士であるケネスは難しいが温度感知の特殊能力者自体は彼一人ではない。騎士団長であるロデリックに状況を報告すれば、すぐに遠征に同行させた騎士の中から適した者が派遣される。

プライドから了承を得たステイルは再びカードとペンを取り出した。頭の中では最悪ここでティペットがいたら、まずはプライドを宿へ瞬間移動させると決める。

透過されたままプライドも一緒に透過させられれば厄介だ。ティペットの確保どころか、自分達からプライドに触れることもできない。いやしかしプライドならばと、ティペットとアダムの生存を聞かされてから千は考えた状況と対策を天才的頭脳に巡らせながらもペンを握る手に必要以上に力が入る。机で書いていればペン先を折っていてもおかしくないほどこもってしまう。


「ヴァル。もし億が一にでもジャンヌが消えたら迷わず俺達ごと周辺全て落とせ。俺が許す。……ッいかがでしょうか」

ギラリと漆黒の目を焦がしながらヴァルへ命じた直度、我に返りプライドへと許可を求める。うっかりまた悪い癖が出たと自覚し、口の中が苦くなる。

ステイルにしてはなかなかな力業だなと思いつつ、プライドもこれには頷いた。ええ……、と強張った笑みで返しつつ確かにそれなら連れて行かれる心配は少ないと思う。空が飛べるわけでもないティペットが、自分を捕まえたところで足場を失えばそのまま一緒に落ちるだけだ。そういえば以前にヴァルも……と、一度彼女を無力化した時を思い出せばやはり効果的な方法だと確信できる。

登れない底にでもなれば、横や下に移動はできても上には登れない。着地に心配はない自分やアーサー、瞬間移動のあるステイル、能力を使う本人であるヴァル、そしてある程度の高さなら騎士のエリックやローランドも平気だろうと思う。……と、同時に。


「…………ちなみに。落下死しない程度でお願いします。打撲で済む高さでならば、彼女対策としてのみ今後も許可します」

「ケッ。死なれちゃ困る理由でもあんのかよ」

ステイルからの命令には口元に悪い笑みを浮かべたヴァルだったが、プライドからまた殺さないように指示されば顔を顰めた。どうせ隷属の契約で故意には殺せない。しかしプライドに「打撲程度」とまで釘を刺されれば大怪我させることもできなくなる。さっきも棘の生やしたら彼女が死んだらと心配するプライドに、そんなのを心配できる状態かと言いたいところを飲み込んだ。やっとまともに喋れる状態になったプライドがまた元の状態に戻られたらこっちまで気分が悪くなる。

しかしヴァルの悪態に、そこでプライドはまた口を閉じてしまった。思ったよりすぐに会話の往来が閉じられたことにヴァルも、そして黙したことにアーサー達も彼女を注視した。今回は顔色は悪くはない、しかし何か言いたげに閉じたままの口の端が引き攣った彼女が何かを伏せていることは察せられた。


「…………………………………………」

「ジャンヌ?」

ヴァルのやり方は乱暴だが、対応としてはあながち間違ってもいない。ティペットを捕らえることができれば、情報を吐かせる必要はあるがフリージア王国の法に裁かれれば処刑は免れない相手だ。それを繰り返し殺さないように念を押すプライドが沈黙したことに、じわじわとアーサー達も疑問が浮かぶ。

まだ彼女の存在しか語っていないプライドは、そこで一度全員から目を逸らした。まさかヴァルにここで核心を衝かれるとは思わなかった。今この場に彼女がいる可能性は薄いと思え、更には対応策という安心材料も得た。今ならばちゃんと話せる気がすると、胸を両手で押さえながらプライドは一度口の中を飲み込んだ。

実は、と。彼女の新たな情報とそしてこれからサーカス団に聞き込みをする必要について〝予知〟の名の下に説明をしようと決まる。

意を決したところで、新たな気配がテントに接近していることに気付いたプライドは一度開いた口がそのまま固まった。再び身構えるアーサーとエリック、ローランドだが、ステイルよりも更に速いその足に誰なのかは声を聞く前に想像がついた。


「あ!!すみませんこっちジャンヌきてますか?!」

「申し訳ありません先生医務室このままお借りしますその場でもう少々お待ちください失礼しますッ………!」


公演テントから血相を変えて駆け込んだアランとカラムの突入に、プライドはまた一つ顔の強ばりが解けた。

弱くはあるが笑顔を取り戻せるほどに、人口密度に比例し彼女の言葉はほぐれた。


やっと。


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