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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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Ⅲ205.無慈悲女は気付き始め、


「そうそう、上手上手。オリウィエルちゃんすごい丁寧……」

「………………」


これが、仕事?

そう、レラの真似をして服を畳みながら漠然と考える。

今朝、起こされてから外に干しっぱなしにしていた衣装や服を回収して朝食代わりにパンを貰ってからも()()()()()仕事らしい仕事をしていない。テントの外に出るのは怖かったけれど、昨日団長が「テントの外でもサーカス団の敷地内ならば安全だ」「指名手配犯もいるが見つかったこともない」と笑いながら言うからちょっとくらいは歩けるようになった。

今は猛獣が三匹も一緒だからそのお陰も大きい。もし見つかっても猛獣に襲わせて猛獣に乗って逃げれば良いと何度も何度も考えながら歩いた。今までもサーカスの敷地内は次の興業地へ移動の時とかにも出たことはあったけれど、必死に物陰に隠れ続けたのが馬鹿みたいに団員以外の人にはすれ違うこともなかった。

買い物は全部下働きの中でも〝外に出られる〟ような人達だけでするから、私以外にもサーカス団の敷地内を滅多に出ない人は多いらしい。……それも、昨日初めて団長から聞いた。私が仕事を始めると言った時に下働きの仕事の説明としての内容だったらしい。

パンを食べたら次の仕事と言われて身構えたけど、干した後の洗濯物の山を前にレラが説明した仕事はただ服を畳むだけだった。普通の服と違う形や布の面積が偏っている衣装は畳みにくいものもあるけれど、ドレスとか皺になったら困るのは物掛けにひっかけるだけだしそこまで難しくない。なにより、床に膝をついてただ布を畳むだけの作業は馴染むし落ち着いた。

けれど、これを「仕事」と言うレラの言葉がまだ信じられない。


私の世話役を押しつけられたレラは、顔はそうでもないけれど胸はある。身体が細いし抱き心地は悪そうだけどきっと好みの男もいるんだろうなと思う。ここのサーカス団は男の割合が多いから、てっきりレラも私の知る〝仕事〟をあてがわれる一人だと思っていた。

男なんか皆ああいう生き物だし、団長だって親切に手を差し伸べて結局は私に〝仕事〟目当てだった。ラルクは優しかったけどすぐに私の特殊能力にかかって勝手に優しくなっちゃったからあれが普通かわからない。正直、男も猛獣もあんまり変わらないし今はこの猛獣達の方が信頼できるとすら思えてしまうくらいだった。……この子達も、結局私の特殊能力で懐いてくれているだけだけど。


「?ど、どうかした?もしかしてわかんなくなっちゃった??ど、どこが……」

「あ……いえ。その、………………こういうの、私、仕事って感覚なくて…………」

すぐに私の顔色をうかがってくるレラはちょっと優しすぎて気味が悪いところはあるけど、嫌いじゃない。

それでも目が合うと勝手に私から逸らしてしまう。腕を撫でさすって、どう言えば遠回しに伝わるのかなと考える。「いつちゃんとした仕事やるの?」とか聞いたら、まるであの仕事を私はしたがっているように思われそうで嫌。

本当に嫌で、気持ち悪くて、一生したくないのに、期待していると思われるだけで吐き気がする。

洗濯物を畳むとか、やったことはある。畳むだけじゃない、売られる前は一人で大人二人分の洗濯を真冬でも洗ったし、干すのも畳むのも私が一人でやった。でもそれは仕事じゃなくて、生活の一つで「やれ」と言われたからやっただけ。食べたり寝ないと死ぬのと同じで、やらないと殺されるもの。私が知る女がやる仕事といえば一つしか知らない。


私の言葉にきょときょとと瞬きを繰り返したレラは、薄く「……ぁ、あぁ~…………」と音を漏らしてからへにゃりと苦そうに笑った。首を傾けたら纏めていた髪が数本垂れた。邪魔にならないように纏めているだけで、おしゃれの一つしないレラからは女はあんまり感じない。

だからといって男ではなくて女なのは間違いないんだけれど、聞いた実年齢よりも大分老けて見える。


「そう……だよね。洗濯物とか、お仕事っていうよりも家事で慣れてたからそういう感覚?だよね?……。わ、私の場合は家でも仕事しろ仕事しろって言われてたから家でもやっぱり仕事だったけど……はは……」

途中からボソボソと早口になるレラは段々顔が黒ずんでいった。声が笑いながら顔は笑っていない。遠くを見るように目の焦点がおかしくなって顔を私から俯けた。それでも言葉は続けてくれる。

ずん、とまるで一人雪崩に潰されたように背中も丸くなるレラが低い声で説明するのを聞くと、サーカス団の下働きの仕事は外に出るような買い出しも含めて掃除に洗濯、裁縫や用具の掃除に管理、テントの組立てに馬車の馬の世話、客引き宣伝にチラシ作りや看板作り、演者の手伝いや裏方までいろんな種類があるらしい。最後まで聞いても、私が知る仕事と同じ内容は含まれてなかった。

団員の数や人員によっては料理も下働きの仕事だったけれど、今は料理は料理長がいるから大丈夫。それに猛獣の世話もこれからはラルクがやる。と、もしかすると団長がしつこく話していた仕事が私の思っていたものと違うのかもしれない。


『君の〝働く〟の定義が気になるな。まず、団長からはどう言われてここにいたんだい』


「でも、夜は?」

「夜……??夜は、野営地とかによっては見回りとか獣避けに焚き火を絶やさないとか馬の見張りとか……あと、演者さんが手伝って欲しいって言ったら練習に付き合うくらいかな……?」

基本はみんな寝ているから大丈夫。そう笑うレラが今度は元気がないだけの普通の笑顔だった。

本当に、私が知る仕事がない。頭に過った昨日の男の言葉が不思議と木霊する。こんなに大勢いるのに私の何が悪いのかわからなかったけれど、あれも全部ここの人達の〝仕事〟だったのかとだけはわかった。

私が前の部屋で毎日やらされていたように、この人達も男も女も「仕事」はしていたらしい。その仕事の一つが私の食べるものや立てられたテントとか服の洗濯だったんだと思うと、私はこのサーカスにとって前の仕事の客の男みたいな存在だったのかなと思う。……客は金を払わないと皆身ぐるみ剥がされるか殺されていたけど。


ぞわりと、そう思ったら肌が寒気を帯びて自分で自分を抱き締める。もしかしてこのサーカス団って皆私を殺したいと思っていたんじゃないかと思えてくる。

だって私今まで一度もお金なんか払うどころか持ったこともない。爺さん婆さんのところでも金を持たせたら逃げられるって、買い物どころか外に出してももらえなかった。

どうしたの、寒い??とレラがまた私の顔を覗き込む。何も言えずに下唇を噛む私に、レラは「あ……」「そっか」と何か気がついたみたいに声を落としてから洗濯物の中から毛布を一枚引張り出して私にかけてくれた。


「そうだったね。夜とか、考えちゃうよね。ごめんね、前色々大変だったんだもんね。わかるよ私も昔そういう〝仕事〟やらされてて全部何もかも嫌になっちゃったことあるから」

団長に世話係を任された時に、レラも私の前の仕事は聞いている。……あくまで建前の飛びだした経緯も。まさかナイフで刺して逃げたなんて知らないレラは、私をすごい可哀想な子みたいに気遣って肩を撫でてくれる。


私の知る仕事に、レラも覚えがあるみたいな言い方をするから思わず「レラも?」と尋ねれば、ぎごちない笑顔で頷かれた。

「一部の人しか知らないから」と口止めされてから、ひそひそ声で話してくれる。自分から話したのに落ち着かないのか、ブルブル震えた手で器用に衣装を畳みながら教えてくれた。私もレラの真似で衣装を畳みながらその話に耳を立てる。

レラも、ここに来るまでは私と似たような店で仕事をしていたらしい。もともとは好きな人と一緒に住んでいたけどその人がお金に困ってて、その男の為に毎日外で普通の仕事して働いて、家でも家のことを全部やって頑張ったけど結局は借金を押しつけられて逃げられた。そのまま借金を返せず娼館に売られて、あとは私と同じ生活だった。

ただ私と違ったのは、レラの場合は一年で客を取れなくなって本当に店から放り出されたところ。そこで近くの池に身を投げようとしていたら団長に声をかけられたらしい。

私が嘘で言った理由が、レラは本当だった。団長達がなんで私の言うことを全部信じたのかもレラのことがあったからかもしれない。…………あれ、でもレラと私どっちが先にサーカスにいたんだろう。団員の顔なんてまともに見ないし会わなかった。

「でも私が悪いの」「ドジでお金も稼げないし切り詰められるものもあった筈なのに」「彼に逃げられたのも私がもっと要領よくいれば」と、話しの中で何度も何度も自分が悪いんだと繰り返すレラの説明のせいでどっちが悪いのかわからない。でも本当なら、やっぱり男って皆獣以下だなと思う。死ねば良いのに。


『さぁオリウィエル。まずは君を知ることから始めよう』

『せめて外の景色だけでも気晴らしに』


……団長とラルク以外は。

洗脳も解けてもう嫌われちゃったけどラルクは最初は優しかったし、団長も他の男達と一緒で酷いと思ったけど本当はそんなことなかったんだなと今わかった。

そう思うと、なんかあの時ナイフで刺しちゃった時なんかよりずっと悪いことを私はしたような気分になる。ラルクだってわざと洗脳しようとしたわけじゃないし、団長を追い出すのだって私が命じたわけじゃないけどそれでもなんかすごい胸に黒いものがモヤモヤ詰まる。

団長はもう全然気にしてないし、ラルクは逆に謝っても絶対許してくれないからどっちにも謝りようがない。私はどうすれば良かったんだろう。


「ちょっと一緒だね」と嫌味なく笑うレラに曖昧に返しながら思う。

レラより私の方が死にそうな目に逢っているし絶対可哀想だけど、レラもあの仕事から今はいろんな男の人とも仲が良い。今朝だっておはようとか大変だなとか声をかけられてたし、同じ下働きの男が手伝ってくれた時もあった。

男と仲が良くても羨ましいとは思えないけど、生きやすそうだなとは思う。


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― 新着の感想 ―
環境が原因の無知故に闇堕ちするところだったラスボスが救われました。 現時点では、四作目主人公の方が闇堕ちしてます。どう転んだら切ない天使な主人公になれるのか想像もつきません。
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