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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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そして目覚める。


「……そういえば聞いてなかったわね。貴方の方の望みは?」


視界が滲んでぼやけて赤しか見えなかった。

それでも聞こえた悪魔の声に私は命欲しさで必死に答える。なんでそんなことを聞くのかなんて考える猶予はない。一秒でも悩んだらそれだけで飽きて今度こそそ首を刎ねられるから。


ここに居たい。このサーカス団にずっと居て、ずっと何もせずともこのまま生かされ続けたい。だからサーカスを開かないといけない。今すぐにでも、早くサーカス団を開いてお金を客から貰わないと私の生活も脅かされるから。

このままサーカスを開いて、お金を手に入れて、私はこの場所でずっと何もせず平穏無事に生きていたい。〝ただ〟それだけだと訴える。

悪魔はそれに何度か欠伸を続けたけれど、剣も降ろしてくれた。私の小さな小さな願いを許してくれるのかと思ったら、……次の瞬間。今まで見た誰よりも凶悪な笑みを広げて私を見下ろした。


「……良いわ?もう少しだけ生かしてあげても。私を愉しませるサーカスを開いてくれるのでしょう?」

「!はい、やります……や、約束します。絶対、絶対お気に召すようなサーカスを開いて、だってあの……私……だ、団長ですから……」

「そうよねえ?そうよ貴方〝団長〟代理だったわねぇ?アッハ!……。……特殊能力の知り方も、教えてあげる。人の上に立つ手段もぜぇんぶ。……ね?嬉しい??」

ほぉ、と。私じゃないあの男の声が耳の隅でうっすら拾えた。

私の目はもう悪魔に釘付けられたまま自分の意思では動けない。今まで団長なんて自分で認めたこともやりたいと思ったこともなかったのに、今はその立場に縋り付く。この悪魔の機嫌を取る為に使えるものはなんでも使う。

急に機嫌を良くした悪魔に、不出来に笑顔を返しながら肯定だけを繰り返す。嬉しい嬉しい、お願いします、はい、ありがとうございます、言うとおりにします、勿論ですと知ってる限りのご機嫌取りの言葉を取り繕う。


「どういうお心変わりでしょうか、我が君」

「考えてみたら狂人はまだ調教したことないもの。人を操れるような特殊能力者なら、それなりに私好みに育ってくれそうじゃない?」

「ハハハハハッ……なんと慈悲深い」

悪魔の隣まで歩み酔った男が、目を丸くしたと思ったら今度は腹を抱えて笑い出した。

ハハハハッ、ハッハハハハハハハハハ!!ギャハハハハハッッ!とひと息ごとに笑う声に淀みが混じる。悪魔と同じくらい人間じゃないような汚れた笑い声に、悪魔もまた笑う。ハハハッ、アハハハハハハッ!!と濁った男の声と女の甲高い笑い声が混ざり合った。

私は生かされて助かった筈なのに、悪魔と契約したからか全く嬉しいと思えない。引き返せない断頭台に上ったような気分だった。

ひとしきり笑った悪魔は、口元に溜まった涎を指先で拭うと私の頭を撫でた。「もう心配ないわ」とほんの一瞬女神のような柔らかな声をかけて、私のぐしゃぐしゃの髪をなで下ろす。

優しい声に反して、その顔は〝皮肉〟と〝悪意〟の混同した笑みだった。丸い声がそのまま毒のように喉から胃液の中へと注がれる。


「イイコトたくさん覚えましょう?居場所が欲しいのでしょう?ここに居たいのでしょう??……なら、奪われない方法から覚えるの」

「奪われない……?」

「まずは簡単なことからで良いわ。……そうねぇ、刻み込むことから始めましょう。貴方に逆らえばどうなるか、その意に反すればどうなるか。〝奪う〟前の気も起きないように大事に大事に刻んであげるの」

するり、するりと悪魔の尖った指が私の頬から顎を何度もなぞる。

爪の先が喉をほんのわずかにカリカリ擦る感覚に全身の毛が逆立った。息をするだけで喉を裂かれるような圧迫感に奥歯を震わせながら、それでも「はい」と答える。

奪われないならそれが良い。そうだ、今まで私一人すらも守れない支えられないで文句を言ったあの人達が悪い。私に仕事なんかをさせようと言い出した団長が悪いし穢らわしい。悪いのは私じゃない。今までずっと私は奪われてきたんだからもう報われたって良い筈だ。

奪われる前にそうできなくする。具体的にはわからなくてもどういうことかは嫌でもわかる。あの部屋で、あの仕事で私達奴隷は毎日毎日刻まれ続けて生きてきた。逃げたら仕事よりもっと酷い目に逢わされる殺されると、そう教えられてその日その日の地獄を生かされた。


理解すればするほどに、悪魔の顔を真正面から見れるようになってきた。私を犬や猫のように眺め続ける悪魔が、少しうっとりとした顔で「そうそうイイ顔」と嗤う。

どんな顔なんかわからない、ただ私は最初から地獄の中で生きてきたんだと思い出した。他の皆はあんな地獄を知らずに生きてきたなんてずるすぎる。それだけでも私はもっと報われる権利はずっとある。誰よりも守られ助けられ愛される権利が私にある。だからずっとずっとこうしていたかったんだ。

あの嵐の夜を乗り越えた私は、幸せになる権利を与えられた筈なのだから。


─ そうだ、思い出した。


「残酷そして無慈悲に。人を踏みつけることだけを考えるの。貴方が上に立てば誰も貴方を追い出さない。追い出す権利がないもの。ね、簡単でしょう?」

まるで子どもに皿の洗い方を教えるようだと思った。婆さんにもこんな優しく教えられた覚えはないから余計に心に刺さる。

残酷。無慈悲。ついさっき男に「慈悲深い」と言われていた悪魔からとは思えない言葉だと思いながら、気持ち悪いくらいに腑に落ちた。嗚呼そうだ、この女は悪魔なんだから。

悪魔は私よりもずっと頭が良いから知っている。……ううん違う、私だって本当はずっと前に知っていた。忘れていたふりをしていただけだ。ずっと、今よりもずっとずっと前、この悪魔が現れるより、ラルクを操り人形にできたより、もっとずっと前。私はそれがこの世界の真理だと知ったんだ。




あの嵐の夜に。




どうして、私はあの夜飼い主が()()()()()()()()()

頭を打っただけかもしれないのに、気絶しただけかもしれないのに。一回刺したくらいで人は死なないって、今まで見せしめにされた女の子達で学んでいたでしょう?……そうだ。知っていた。

頭の中にだけ咆哮が響き渡る。あの飼い主の断末魔じゃない、私の声だ。頭を打って、ナイフが一度刺さって動かなくなった飼い主を、私は()()()()()()()()()()()

何度も何度も何度も、客の怒鳴り声が聞こえるまで刺し続けた。

肉を貫く感触も、血溜まりが腹から生まれて跳ねる感覚も味もちゃあんと覚えてる。嵐が洗い流しても私は覚えていた筈だった。

何度も、何度も何度も何度も刺した。目の前の飼い主が死んだと思えるまで安心できるまで刺し続けた。見たことのない臓物が零れても、血溜まりが膝まで濡らしても飼い主の腹を最後は裂き開いた。

あの日あの夜あの時に汚泥の中から、今の幸福を得る権利を手に入れた。残酷無慈悲残虐に。それこそが自分の幸せを手に入れる為の唯一の手段。少しでも躊躇えば、きっとあのまま私はあの部屋に連れ戻されるか殺されていた。私はちゃんと正しかった。


─ さぁ、もう一度頑張ろう。


「早速試しましょう?私に従えば貴方をこのサーカスの立派な団長……いいえ」

優しく手を差し伸べながら、悪魔は嗤う。魂を喰らう前のように涎の垂れそうな口と溶けたように甘い目で。崖下に突き落とすような残酷な笑顔で私へ猫撫で声を放つ。この手を取らないと、きっと地獄に落ちる。

痙攣する口で笑いながら震えた指でその手を取った。ラルクが初めてしてくれたように握手のみたいに取られると思ったら、汚いものでも摘むように親指と人差し指で摘まれた。嗚呼私は汚ないんだなと忘れかけていたことをまた思い出す。

こんな私だから、居場所を守るにはこの先もたくさんたくさん頑張らないといけない。サーカスを開いて、大事な大事な居場所を守るの。



「この小さな箱庭の〝女王〟にしてあげる」



たとえ、手を取った先が奈落でも。

「ハハッ」と、一度だけ声が溢れた。冷たくて汚い、ボロ紐のような細くて弱い私の声だった。





……












「……き、て……起、………っ…………」


声が、聞こえる気がする。

ぼんやりと、靄のかかった頭で思う。薄く開いた視界で、今自分が寝ているのがベッドじゃなくて床だと気付く。

床で寝るなんて久しぶりだと思えば、……嗚呼ベッドで寝れていたのが今まで当たり前になったんだなと急に幸せになった。……あれ、なんだろこの感覚。まるで夢のまた夢をみているような、もう見たような変な感覚。さっきまで夢をみていた気もするけど思い出せない。どこまでが夢で、どこまでが現実なのか


「……きて、起きてオリウィエルちゃんっ……あの、ごっごめんねごめんなさい……でもこれからが仕事だから……!!」


仕事。

その言葉を聞いた瞬間身体に冷たいものが駆け巡り、考えるよりも先に身体が飛び起きた。「はい!」と叫んでから、……目の前にいる女の人が私と同じくらい驚いた顔でこっちを見返した。

私をさっきまで揺さぶっていたのがこの人だと気付けば、蔓のようにどうしてここに私がいるのかも思い出す。

起こしてごめんねと、うたた寝していた私へ逆にぺこぺこ謝る女の人は心臓を押さえながら汗をどろどろかいて肩を狭めた。

グルグルと唸る声に振り返れば、私の枕代わりになっていたライオンが女の人に唸っていた。


「あああああのオリウィエルちゃん……あの、ままままた猛獣達がなんか怒っ、怒って……!」

「……あっ。ごっごっごっごめんなさい!!」

やっと、自分の立場に気がついた。

猛獣達が女の人に唸らないように、謝りながら両手で抱きしめるようにして宥める。この人は味方、味方だからと言葉が通じるかもわからない猛獣に繰り返しながら頭も撫でる。

私の言うことを聞いてくれてる猛獣だけど、私が怯えると何度もこうやって近くにいる人に牙を剥く。駄目絶対この人に怪我なんかさせられない。


「ごごめんなさい寝ちゃって!あのっ私昨日までずっとこの時間も寝てたからつい悪気はなくて!猛獣達も暖かくて毛皮でつい……!」

「だ、だだ大丈夫だよ。今日ちょっと暖かいもんね……あの、それで、もう一回やり方から教えるね?」

謝る私に怯えながら笑ってくれる女の人。団長がラルクの代わりに紹介してくれた次のお世話してくれる下働きの人。確か名前は、…………なんだっけ。

わからなくて「あの、名前もう一回」と小さい声で尋ねたら「レラです」とまた答えてくれた。今日だけで五回はもう聞き直してるのにこの人は怒らない。ラルクもそうだったけど、このサーカスは優しい人が多かったんだなと今更思う。

もう一回気を取り直して、レラは私に仕事の手順をうたた寝する途中からじゃなく最初から説明し直してくれた。団員や男のお客さんの相手をする段取り、……じゃない。




洗濯物の、畳み方。




ここに住んでから初めての仕事。

昨日団長と話すまでは知らなかったその〝仕事〟は、…………私が知っている〝仕事〟とは全然違った。


本日、TSPコミカライズ1巻発売致しました。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
キミヒカ軸のプライド、前は涎なんて溢れさせて無かったような。塔から落ちて顔ぐちゃぐちゃになって、物理的に口が閉まらなくなったとか…?または狂い直した…?アダムの影響が実は少しはあるのかな?まぁとにかく…
現実世界ではまだ素直で大人しいオリウィエルも、狂人になると、プライドと同じく思考回路から変わるんですね。 やっぱりアダムはアダムだわぁ……と思いながら、それよりもゲーム世界のフィリップのその後が気に…
オリウェルヽ(;▽;)ノ 
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