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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

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2206/2242

Ⅲ203.無慈悲女は辿り、


オリウィエル。……〝オリエ〟の代わりに団長がくれた、私の名前。


親の記憶はない。気がついた頃には、親代わりのじいさんばあさんの召使いだった。

最初の一番古い記憶は床をひたすらに拭きながら酒の染みを見つめ続けていたところ。じいさんとばあさんの言うことは全部聞かないといけないのが当たり前だったし、聞かないと殴られるし食事も貰えない。

「早くやれ」「さっさとしな」「おい」「あれ」としか言われなかったから、掃除も洗濯も下拵えもただただ私がやらなきゃいけないことだった。


小さい頃からじいさんとばあさんには「一番高く売れる年になるまでの我慢」「早く金に換えたい」と言われていたから、とうとう売られた時も驚きはなかった。売られるがどういうものかもわからなかったこともある。奴隷商に連れて行かれても、ああとうとう売れる年なんだと感想しかなかった。


じいさんばあさんと離れることに悲しさもなければ、別に嬉しいとも思わない。私の居た場所は当たり前でしかなくて、期待も絶望も何も知らないままそこにいた。

ずっと家でやらなきゃいけないことしかしてこなかった私は、そんなことよりも奴隷商まで歩かされた外の世界の方が今も印象に残っている。あの二人のことはきっと私自身も興味なかった。横で大人に売られる子どもが泣き叫ぶ姿が不思議だったくらい。

私をお金にした奴隷商は、私を檻に入れるだけ。そこに奴隷としての教育も何もない、ただただ家畜と同じようにそこに飼われ続けているあの時が一番何もすることがなくて楽だった。あのままずっと居たかったと今も時々思う。

あの頃はまだ人の目にだって何も感じなかった。


『さぁ今日から仕事だぞ』


売られるのはわりとすぐで、私を買った娼館は安物の奴隷を定期的に買って客の相手をさせていた。あの二人からも奴隷商でも教わらなかった初めての〝仕事〟に、…………生まれて初めて悲鳴が止まらなかった。

どういう場所で、どういうことをするのか、どう相手をするのか。そんなこと、ただの奴隷に教えてくれるわけがない。布一枚のボロを着せられて、わけもわからないまま客の部屋に放り込まれた。

私が嫌がれば嫌がるほど客も喜んで、命乞いくらい必死に言っても大笑いされるだけだった。今までだって何をやれと言われても、背中に焼き印を入れられた痛みにだって嫌悪感は大して沸かなかった。ただただ我慢して言われたとおりにすれば良いだけだったのに、あの時は何をされるのかわからないまま嫌で、嫌で嫌で仕方が無くて生理的に吐き気が込み上げて自由が効く間は手足もバタつかせて床も引っ掻いた。泣いて今まで言ったことのない言葉で許しを請いて、喉が痛くなるまで張り上げてベッドのシーツを最初に涙と鼻水で濡らしてそれでも最後の最後まで許しては貰えなかった。


毎日が、地獄だった。

言い過ぎなんかじゃない、あの場所には一生戻りたくない。毎日痛くて気持ち悪くて怖くて吐き気がして、ザラザラザラと心臓を嘔吐物混じりの舌で直接舐め回されるように生きた心地がしなかった。

震えても嫌だと言っても逃げても暴れても鎖を引っ張られて毎日毎日働かされた。

私以外にも嫌がる子はいたけど、豚や鶏と同じで私達が何を言っても聞こえていないように男達に連れていかれた。餌しか与えられない私達と、肉と酒を食べてナイフをかざす男達じゃ敵うわけもなかった。

毎日、毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。

泣いても吐いても血が出ても熱がでても構わず働かされた。私のいる娼館では毎日女の悲鳴が絶えなかったし、新しい奴隷も定期的に入ってきて、…………要らない奴隷から〝処分〟か〝使い捨て〟られていった。


客を取れなくなるまで働かされて、死んだら路上に捨てられる。死ぬ権利も逃げる権利もない世界で頭が破裂したのは、荷車に積み込まれた〝処分済み〟の奴隷を羨ましいと思えた瞬間だった。

客に殺されるか消耗して勝手に死ぬか以外で奴隷が処分されるのは、全く客に相手にされなくなるかもしくは飼い主に刃向かった時だと何人もの死体の山の後ろで私も学んでいた。飼い主や客に怪我させた奴隷は私達の前で四回刺されて見せしめにされる。一度で死なせてもらえず三回断末魔を上げないと許されない。


嫌だと言っても無理やり働かされて、逃げようとすれば殴られた。「仕事だぞ」の声や脅しの大きな物音を聞くだけで毎日心臓が壊れそうだった。

私はまだ毎日客が絶えなくて疲れて死ぬにもまだ時間がかかりそうで、死に方もわからなかった。でも死んだらここから出られて、もう客の相手もしないでこの生活も全部終わるのだと思うと死体になった子達が羨ましくて羨ましくて堪らなくなった。


ぷつんと糸が切れて、いつも通り私を連れに来た飼い主に初めて自分から飛び込んだ。


壁に繋がれた鎖から外された瞬間、私達にかざすナイフに目がけて両手を伸ばして無我夢中で床を蹴った。体格はあっても、どろどろに酔っていた男は信じられないくらい簡単に仰向けに倒れて頭を壁に打ち付けた。私が欲しくて堪らなかったナイフは、掴み飛び込んだ勢いのまま男の胸に刺さった。

男が握った手のまま刺さって、まるで男が自分で自分を刺したようにも見えたけど、私もそのナイフを固く握っていて男の手も私の手もナイフも全部が真っ赤だった。

…………別に、殺そうとして飛び込んだわけじゃない。

ナイフが欲しかった。それを奪って自分に刺せば死ねるとわかっていたし、もし奪えなくても刃向かえば殺して貰えると知っていた。けれど、馬鹿で酒浸りの男は簡単に、勝手に頭を打ち付けて死んでしまった。そうだそうなの頭を打って死んだのか、ナイフが刺さって死んだのかだって私は絶対わからない。


ただ、男が死んでナイフだけが残って、他の女の子達が声も出さずただ目を皿にする中で何も考えられなくなった。

暫くして廊下の向こうから「女はまだか!?」って客の怒鳴り声が聞こえた瞬間、せっかく奪えたナイフも落としてわけもわからず扉から逃げ出した。血塗れの手足でバタバタジャラジャラ音を立てたから、他の飼い主達も「どうした!?」って声まで聞こえて泣きながら店を出た。


外は、嵐だった。雨も風も酷くて息もできなくて、水の中を走っているようだった。

どこに行けば良いかもわからなくて、行きたい場所もなくて、外に何があるかも知らなくて、それでも戻りたくはないからできるだけ遠くへ走り続けた。

枯れ葉が手足や顔にまとわりついて、水の中で前も見えなくて、血塗れだったボロが身体にべたつきまとわりついて邪魔になって途中で脱ぎ捨てた。裸なんてもう恥ずかしいと思わなかった。

光の先もそれが安全な場所なのか逃げてきた店に戻ったのかも自信が持てなくて、耳鳴りみたいな音の中で胸の泥を吐き出すように吠えながらひたすら真っ直ぐにだけ走り続けた。


『……おぉ!まだ生きてるじゃないか。良かった良かった。誰か!人を呼んできてくれ!!』

どれだけ走ったか、どこまで進んだかも覚えていない。真っ暗な視界と真っ白な頭で進み続けて、泥の中で目が覚めた時には薄い朝日が昇っていた。

知らない男の声に、反射的に「これから仕事か」それとも「今仕事が終わったのか」を考えた。気を失うまでにやったことが現実味がなくて、身体が重くて顔を上げることもできなかった。このまま死ねたら良いのにと思う中で、また意識は潰れた。


『そうかそうか。君みたいに美しい女性を放り出すなんて信じられないな』

次に目を覚ました時、毛布に包まれていた私がいたのは古ぼけたテントの中だった。

〝サーカス団〟という店で、味のついたスープを貰いながら道で倒れていた理由を聞かれたのは二日くらい経ってからだった。餌じゃない、温かいスープに毛布まで貰えるテントの中はまるで天国のように思えた。

もう考えることもできなくて、ただただベッドに横になりながら夢じゃないことを疑い続けた二日間だった。


テントには「先生」と「団長」と呼ばれる人しか来なくて、たまにテントの隙間からチラリと誰かが覗く目が合った度に私は悲鳴を上げて蹲ったせいもある。

人の目が、客やあの夜の女の子達の目を思い出させて一瞬でも視界に入るだけで全身が拒絶した。テント一枚先にすら、姿を出したら最後誰かに「あそこの奴隷だ」「人殺し」と言われて捕まって髪を掴まれ引き摺られまたあの部屋に放り込まれると思えて仕方が無かった。

あれだけ必死になって逃げた外の世界に、もう足先すら出すのも怖くなっていた。

看病してくれた先生にも怯えて、拾ってくれたという団長にも毛布を被って小さくなって二日経つまでは会話の受け答えもできなかった。

団長に「そろそろ君の身の上だけでも」とベッド際に座られて答えた時も、私は毛布を被って鼻から上しか出さなかった。


私は奴隷、奴隷になる前の帰る家もない、帰りたい場所もない、女の奴隷がたくさんいる店で男の相手をしていたと、そこまでは本当のことを一つ一つ答えた。けれど、…………逃げたことだけは隠した。

奴隷は逃げちゃいけないのも、逃げても焼き印でバレるとそれだけは男達から聞いて知っていた。もうあそこに戻るくらいなら死ぬと決めていて嫌で怖くて、追い出されたと言い張った。生まれて初めての嘘だった。

私の嘘を全部信じた団長は、自分からここに私を置いてくれると言ってくれた。ただただ神様みたいだと思ったし、もうあんな地獄に戻らなくて済むんだと思えたら涙が零れた。こんなに良い人がこの世にはいるんだと初めて思った。

前の名前も過去も要らない捨てたいと言う私に団長は〝オリウィエル〟という名前をその場でくれた。「美しい君に相応しい」「まずは身体が元気にすることに専念しようか」とどこまでも優しい団長は、本当に私の神様だった。この人なら絶対もう店の飼い主達みたいなことをさせないと、自然とそう信





『オリウィエル。君もそろそろ〝仕事〟を覚えていこうか』





信じ、られた。

……その言葉を聞くまでは。




…………




……




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