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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ199.貿易王子は交渉し、


─……もう、良いかなぁ。


「だからよぉ兄さん、先に金さえ払えば見せてやるしそのまま好きにすりゃあ良い」

そう言われ、レオンは指関節を口元に添えながら溜息を吐いた。視線の先には苛立たしげに睨み付けてくる商人だ。

一時間以上経過して尚、レオンとの冷戦は続いていた。

買うと一言確約すれば中身を見せるし売るが、そうでないならば見せないという滅茶苦茶な売買条件を提示する男は今もその意見を変えない。いくら怪しまれようとも、自分が見せなければただただ相手は興味が強まって嵌まるだけだと確信する。

他に客がこない今、あとは持久戦だ。見かけは強面の男でも言葉遣いは丁寧だし柔らかい声であれば、人を相手にすることが慣れている商人は時間の経過と共に目も慣れ怖じけも消えていく。そんなことよりもせっかく手に入れた上級商品をさっさと利口に売ることの方が重大だった。

今までのやり取りで、目の前の客が粘っているのが値引きや金がないからという理由とは異なることは見通した。金を持て余しているのならば、あとは買わずに確認できない方が損だと思わせるのが腕の見せ所だ。これだけ焦らし断っても店の前を去らないのであれば、どうやっても今までの時間の元を取りたいと思うのが真理である。

そしてそれは商人も客も変わらない。


「どうにかなりませんか。商品の状態も見ずに買うのを決めるのはあまりに不親切だ」

「こうして話に付き合ってやっているだけで親切さ。上級品であることは間違いねぇんだ、それが証明されたら買う。そう約束しろって言ってるだけの話だろ」

「どんな上級奴隷かもわからないのではちょっと」

今までも変わらない平行線の会話に、レオンの護衛であるアネモネ騎士も表情こそ変えないが嘆息を吐きたくなる。

露天の商人だからこその手口だが、このままではたとえ上級奴隷として買ったとしても詐欺もいいところだと思う。

ここがアネモネ王国であれば正体を隠してもやりようはいくらでもあった。そして、他国でも治安が維持されているような国であればこういう商売方法をしている時点で衛兵に報告して対処させることができる。しかしこの国の衛兵はまず仕事をしない。


相手の消耗を待つように似たようなやり取りをひたすら続けるレオンと商人が戦う間も、別行動したエリックだけが淡々と仕事をこなしているのも同じ護衛の身としてアネモネの騎士達は肩を狭めた。

あくまで役目は護衛だが、それでもひたすら棒立ちの自分達も手伝ってやりたいほどに一人忙しく働いている。今もレオンがちらりとエリックの方へ視線を向ければ、アネモネ騎士もまた目だけを向けた。

見れば、遠くなってしまったエリックがとうとうここの市場内で荷馬車を持つ商人全てに声をかけ終えた後だった。荷馬車の確認を終えたプライド達と共に商人の元を離れる彼は、レオン達の視線に気付いたところで首を大きく振って見せた。探しているフリージアの奴隷は見つからなかったと、声ではなくその動きで伝達する。

結局レオンは目の前の一店舗のみ、残りは全てエリックが片付けてしまった。フリージアの騎士とも親交があるレオンもそれに申し訳なさを少なからず感じているのだろうと考えれば、もうこの目の前の商人に拘り続けること自体が無意味にも感じられ


「仕方がありませんね。わかりました」


きっぱりと。突如としてそれは切って落とされた。

もう交渉の必要はないと言わんばかりに丁寧な口調で告げたレオンの言葉に、騎士達だけでなく商人も目をぱちくりさせる。ここに来てとうとう白旗に聞こえる発言に、どちらの意味かはわからない。最初はそういう駆け引きかと考えた商人だが、あまりにも冷ややかな眼差しにすぐに考え直す。長年の商人としての勘が、彼はもう結論を出したのだと確信する。


あまりこうしたくはなかった、と。レオンは心の内だけで呟いた。

しかしもうエリックと共にプライド達も確認を終えた今、時間もない。てっきりこういう商法が他にも複数あることも鑑みて粘ったが、エリックの交渉の流れを見てもこの市場で卑怯な駆け引きをするのは目の前の男だけだ。

そしてレオンも無駄に長々と話していたわけではない。ステイルやジルベールほどの策謀能力はなくとも、完璧な王子である彼は交渉術と同様に駆け引きや探りも苦手ではない。今までのやり取りで、少しずつ少しずつ商人にも気付かれないように荷車の中身を推理し絞っていった。

元奴隷容認国の王子は、上級奴隷の種類も全て細かく把握している。自国の売買は禁じていても、ほんの数年前までは異国と商品の一つとして奴隷も取引材料だった時期はある。船の積み荷運びを始めとした単純作業に奴隷をラジヤと取引していたこともある。


目の前の店主がここまで上級奴隷であれば買うことを確約しろと言う以上、ほぼ間違い無く荷車にいるのは本物の上級にランク付けされる奴隷だ。あとは一つ一つ慎重に紐解いていけば難しくない。

どれだけ上級奴隷として優秀でも見かけが良くないと話にならないと言ってみれば「それは保証する」と下品に笑われ、せめて学力確認だけでもさせてくれと頼んで断られ、娼婦は嫌いなんだと言ってみれば「女になんか嫌な思い出が?」と誤魔化され、女は信用ならないと言えば中身は買ってからだと言い張られる。せめて腕っ節か頭か技能か人種か教えてくれと言っても口を紡がれる。

そんな小さなほのめかしや態度の変化から、彼が荷車に隠している奴隷がどういう理由での上級奴隷かは推測できた。いくら秘密主義を表に出そうとも、向こうも買って欲しい以上は客を探る。客が欲しがっている奴隷であれば大声で「それなら是非」と言えるのだから。

そして自分は最初に「フリージア王国の奴隷は取り扱っていませんか」と尋ねた。その上で中身は言わずともここまで引き延ばすには理由があるに決まっている。

唇を閉じ、滑らかに笑んだレオンはそこで翡翠色の瞳を緩く光らせる。


「はっきりさせましょう。貴方が荷車に隠している〝フリージア王国〟の〝特殊能力を持たない〟〝妙齢の女性〟を今すぐ解放してくれるのならば僕もことを荒立てないと約束しましょう」


ぎょっと商人は目を剥いた。冷ややかに見える眼差しで水の流れのように綺麗に言い当てられた荷車の中身に、一体どうしてと思考が爆ぜる。

単純に一項目程度ならばカマをかけられた程度に流せたが、まさか完全に特定されるとは思わなかった。自分はどんな投げかけにも明確に答えなかったのに、と思えばまさか目の前の男こそフリージアの特殊能力者なんじゃないかと考える。それならば同じフリージアの人間を探しているのも説明がつく。

男の反応にも全く想像通りと言わんばかりに表情筋を動かさないレオンは、軽く商人とその背後の荷車を順々に示した。


「これでも顔は広いんです。今ここで衛兵を連れてはっきりさせましょうか?」

荷車の中を見せずに交渉までは問題ない。商人の手腕次第だ。しかし今市場で取り扱い自体を禁じられているフリージアの人間であれば、話は違う。衛兵に見つかれば、その場で逮捕され商品も没収される。

唖然としたまま空いた口が塞がらない男に、レオンの声色は変わらない。「いかがですか」と催促しても理解が及んでいない様子の商人へもう一度要求を纏めて言葉にした。


「この場で隠したフリージア人を解放するか、それとも衛兵に突き出されて全て失うか決めて下さい。さもなくば僕らで貴方を取り押さえ、そして衛兵を呼びます」

こちらは三人ですし、と。そのまま目配せすれば、アネモネの騎士もこくりと小さな頷きの後に二手に動きが前後した。

一人は今すぐにでも衛兵を呼びに走れるように半歩下がって見せ、もう一人は逆に前のめりになり商人を確保できるように構える。あまりにも的確な動きに、やはりお付きの二人は護衛か従者だったのかまでは商人も頭が回る。しかしそこで思考も止まった。


明らかに自分が脅迫されているのだと理解する。折角手に入れた高級品をどちらにせよ自分は無料で手放さないといけない。

せっかくこうならない為に、入念に入念に用心したというのにと思えば血が回って顔が熱くなる。わなわなと手を震わせ、歯を食いしばり尖らせた目をレオンに向けた。

敵意を剥き出しにする商人へ、騎士が庇うべく前に立とうとするがレオンが手で制した。大丈夫、と意思を見せ、引くどころかまた一歩分商人へ近付く。荷馬車以外にも彼の背後に並べられた奴隷達も正規の手段での奴隷か怪しいと考えながら。


自分を睨み付けるだけで何も発しようとしない商人へ、今度は更に声を低めた。


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