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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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そして呆気を取られる。


「……。あーまぁ俺らは元々鍛えてますから。カラムも無駄に筋肉つけないだけで鍛錬量はしっかり」

「アランさんは特にすっげぇ鍛えてますけど。俺もそれぐらいつけたいです」

「ラルクさんはもう少し鍛えられても良いかと思います。件の一年より前は何か鍛えられていたりは?」


奴隷被害者やそういった傷の多い人間に遭うのも別に珍しくは無い。騎士団の中にも古傷が多い者は普通にいる。

何よりも、その経緯を想像できる範囲でも気軽に聞けるような内容でないことは全員が察せられた。目を逸らすわけでもなく、あくまで波立てず会話を継続させる。


カラムからの問いかけに、ラルクも彼らの視線が自分にも向いたことまでは気付かずにむっと唇を尖らせる。

新入り三人とアレスと比べ、ラルク一人だけが大した筋肉もなくひょろりと白い肌で細いままだ。カラムが一見しただけでも、唯一しっかり鍛えられているのは鞭を振るう腕と周辺の筋肉だけだった。

〝怪力〟の特殊能力の為、素早い行動に邪魔になるほどの筋肉はつけないように管理しているカラムと違い、ラルクは別段鍛えない方が良い役職でもない。それでも細いのは、オリウィエルの洗脳下で彼女に尽くす上で筋力が衰えた可能性も充分にあり得ると考える。

しかし、素早く上から着替えを済ませ服で肌を隠したラルクは改めてそこで自分の腕を擦る。ここだけは鍛えられていると言い訳めいて思いながら、言葉を返す。


「確かに体力は落ちた気がする。……けど、もともと肉体労働は苦手なんだ。食べてもなかなか筋肉どころか太ることもできないし、食事もそんな入らない」

羨ましい……!!と、ちょうどテントの外に耳を立てていたプライドが心の中で叫んだ。

体型についてはゲーム設定の強制力もあるだろうと思いながら、ラルクにそんな悩みがあったことに口周りの筋肉を張り詰める。今の自分も前世では考えられないほど太ることで悩まずにこれたが、それでも気にはしている。

ラルクの言い分は羨ましいことこの上ないが、男性ならではの悩みだと思う。ゲームでは今の舞台衣装と同じヒールのを常備履きながら中性的な顔立ちを際立たせ化粧もしていたラルクだが、こちらでは比較男性らしさの方に憧れがあるのかもしれないと考える。

今も舞台では顔は化粧よりも仮面で隠している。


「うち、肉も滅多にでねぇからな」

「でもアレスはたった一年で身体が出来上がった。……少し羨ましい」

衣服を着終わり脱いだ衣装の裏表を直すアレスに、ラルクは遠い目で同じように衣装を一度手に取り、やつあたるようにはためかせて皺を伸ばした。

突然羨ましいと言われ首を捻るアレスだが、ラルクは口を閉じたまままた影が静かに落ちた。サーカス団に入団した時はむしろ自分よりも不健康な印象だったアレスだが、一年の入団期間で今は立派なサーカス団員の身体だ。目の前の新入り三人には勝てないが、それでも鍛えられた引き締まった身体をしている。


ラルクの呟きに、今度は着替えテントの先でステイルが一人深く頷いた。

わかる、と心の中で唱える。自分と殆ど同じ期間に本格的に鍛え始めた相棒が、環境が違うとはいえ今は差が明らかになっていることにステイルも気持ちはひしひしと理解できた。まさか盗み聞きしていたとは言えないが、今ならばラルク相手に握手ぐらい交わせる気分になる。


小さく俯いてしまうラルクと、首を捻ったままのアレスに、アラン達も少し笑ってしまう。

ラルクの悩みを笑うわけではないが、少なくとも本来彼はそういうことを気にする程度には人間味のある男だったのだなと再認識する。

それぞれも素早く衣服を着終わり、衣装を手に取り纏めながら二人を見る。


「宜しければ鍛え方などいくらか助言しましょうか。食事量については体質もありますが、運動量を増やすのは健康にも良いとは思います」

「あーーそうだラルクお前。昔は荷運びとか雑用もやってたんだろ。アンジェから聞いた。そういうのやらなくなったから体力落ちたんだよ」

「そうか……。カラム、聞かせてくれ。猛獣達の世話に戻る為に」

カラムからの提案に続きアレスに指摘されれば、ラルクも素直に納得できた。

オリウィエルに洗脳されてから彼女の傍に居続ける為に他の業務は全て団員に押しつけてさぼってばかりだった為、当然体力ももともと少ない筋力も落ちるのは必然だった。このままではせっかく再開したい猛獣の世話にも支障を来すと思えば危機感まで沸く。

ラルクに今ままでになく視線を注がれたカラムも、これには自然に笑んだ。「勿論です」と返しながら、彼は動物のことを大事にしているのだなと思う。ライオンを嗾けられたことはあるが、あの時もライオンに無理をさせなかったのも彼の根本がそうだからだろうと再確認すれば、やはりあの時にライオンに怪我を負わせいで良かったと思う。

カラムからの笑みに、一言感謝の言葉を返したラルクだが、そこでまたふっと視線と共に影が落ちた。息を引くように感情が沈む彼に、着替え終えた騎士達も目を見張る。


「……本当に、あんな女が残るなんて……」

あ~……と、これにはラルクの呟きにアラン、カラムそしてアーサーも意識的に口を結んで思考だけで漏らす。

先ほど団長に渋々了承した様子のラルクだが、納得できていないのは当然だ。本来ならば一生会いたくない相手でもある。むしろ何故あそこで団長に譲ったのかと尋ねたいのが本音だった。

しかし、あくまでサーカス団に一時的に身をおくだけの部外者である自分達が彼に深く追求することもできない。

更にはラルクに釣られるようにアレスの顔も険しくなった。いつもよりもガサついた髪をグシャグシャと掻き乱し、爪を立てる。彼もまた、本心からオリウィエルを受け入れたわけではない。顔の原型が止めなくなるほど殴っても足りないのが本心だ。

しかし、団長に逆らうなど彼には難しい。


「あのクソジジイは……。この後マジで団員達にどう説明する気なんだ……また雑に済ませるわけねぇよな?」

「いや、やる。僕はあの人が新入りを丁寧に紹介したところを見たことがない」

一度も、と。噛み締めるように最後続けるラルクに、アレスは「あ゛あ゛ーーーー!!!」と叫びまた髪を掻き乱した。

この一年間で入った新入りにも雑だったのは覚えているアレスだが、ラルクの経歴でもそれなら絶望的だ。本当にどうしようもねぇな?!と衝動のまま叫んだが、そこで否定する者はどこにもいない。

本当に苦労しているなぁと、アラン達もそこにはただただ同情するしかない。オリウィエルはなんとかすることができても、団長については自分達には手の施しようがない。

纏め終えた衣装をテーブルに並べたまま、腕を組んでしまうアランにカラムも前髪を指先で整えながら眉を垂らし、アーサーも目を泳がす。

頭を抱えるアレスと、完全に首が垂れ項垂れるラルクにはこれからまたもうひと波の苦難が待っている。


「とにかく、とにかく僕は、まず猛獣達を戻したい……。レラには悪いけど、猛獣達の心があのクソ女に奪われたままは嫌だ……」

「ですが、オリウィエルの様子だと護衛の意味でも猛獣を手放せないようなので、レラさんだけではどうかと……」

「馬でも野犬でも猫でも鳩でも他にいるのに……!!あの猛獣達は特別なんだ……!」

ぼやくように呟くラルクに、心の準備をとカラムが予想を上げれば一気に声が荒ぶった。確かにあの女ならあり得ると思いつつ、想像の中のオリウィエルに既に殺気が湧く。

既に彼女に一生分の恨みがあるにも関わらず、何故自分の命より大事な猛獣達まで奪われなければならないのだと憤りしかない。我に返る前、自分と一緒にオリウィエルの支配下に落ちた猛獣も自分の命令は聞いたことを思い出せば、今後もサーカスの公演に支障はないとは思う。しかし、それとは別に彼らの中で自分の順位があの女以下なのが許せない。

操られてもあくまで最優先が彼女になっただけで、自分は自分だった。つまり猛獣達も意識が全て奪われているわけではない。しかし、今のまま彼女が最上位に置かれては自分と猛獣との絆全てまで否定されたような気分になる。

ふつふつと怒りを再沸騰させるラルクに、今後のことが心配になるアーサー達が三人で視線を交わせ合う。


「あの~……着替え終わりました……けど、もう出ても大丈夫かしら……?」

「俺もです。着替え室、譲って下さりありがとうございました」

はい!と、騎士三人の声が綺麗に重なり振りかえった。

王族二人を知らないうちに待たせていたのかもしれないと早々に察すれば流石に声を張る。

騎士達が着替え終えてから遅れて身支度を念入りに済ませたプライドとステイルだが、騎士達が急がずに着替え終わるまで会話だけでタイミングを見計らい続けていた。

異性の着替えを軽々しく見るわけにいかないプライドだけでなく、王子である自分が着替え終えたと言えば間違い無く先に着替え終えなければと急かせることが予想できたステイルも同様だった。


くるりと身体ごと着替えテントへ振りかえる新入り三人に、アレスは「確認しねぇでも出だけりゃ出ろよ」と正直に呆れる。ラルクもこれには確認の意味がわからず顔を上げたまま首を傾けた。アレスと団長と協力関係なのだろうと思っているラルクもどちらも相変わらず彼らの関係性は掴めない。

問題が一つ区切られ、結果としてオリウィエルもラルクの洗脳も解いた彼らに改めて一体どういうつもりでと尋ねようとどちらともなく口を開き掛けた時だった。

内側から入口を開いたフィリップと、先を譲られるジャンヌが衣装を抱えて姿を現すのと殆ど同時に。

「だ、だだだだ団長……わた、私っでもオリウィエルさんのこと何も、なにも知らないしそんないきなり……」

「大丈夫!話せばきっと気が合う筈だ!!レラ、お前ならばきっとあの子の気持ちもわかってやれる!!」



「レラちゃんも行くなら私も行くぅ~!!良いよね団長~??」



ぐるんっっ!!!とアレスとラルク、そしてプライド達全員が声の方向に顔を向けた。

最後の、決定的な声に視線を向けるどころでは足りなくなった。見れば、ちょうど大型テントから団長がレラの手を引き、そしてその団長にくっつくようにしてアンジェリカがひとかたまりになって団長テントへ向けて歩いているところだった。

レラ一人ならまだしも、アンジェリカまで一緒についていることにプライドはサーッと血が引いていく。惨劇もしくは修羅場と言葉が脳裏に浮かぶ。団長も無理に引き剥がす様子はなくそのままレラを連れていくことに夢中で気にしていない。しかし、客観的にみてこの場の全員がまずいと確信できた。

カラムも血色を悪くし、この場をアラン達に一時的に任せ一度団長とアンジェリカの引き離しに向かうべきかと悩む。しかし、結論にいくよりもアレスとラルクが衣装を置いて駆け出す方が早かった。


「ッ待てジジイ!!!アンジェ!!このひっつき女!!テメェはついてくんな!!」

「アンジェリカ!!待っ……、団長!団長!!待ってください!!」

ほぼ同時に飛びだし、怒鳴るアレスと追い越されながらも団長達を追いかけ呼び止めようとするラルクに、プライド達は誰も待ったはかけなかった。

バタバタと駆けていく二人を見ながらも、ぽかんと口が開いてしまう。取り敢えず血をみる展開は二人に解決を任せようと言葉を交わさずに全員の意志が一致した。

左足は半歩前に出ていたカラムも引っ込め、そのまま二人の分の衣装を自分の衣装とともに纏めて抱えた。アーサーがプライドとステイルから衣装を受け取り、アランがテーブルを抱えて団長にではなく衣装テントへ移動する。

プライドとステイルへ注意は離れないまま、騎士達も視線は苦労人代表二人の方へと向いた。

なんとか団長達を呼び止め、待ったをかけるアレスにアンジェリカが頬を膨らませ、脇腹を押さえながら背中を丸めて駆け寄ってくるラルクをレラが丸い目で見つめる。


「はぁ〜?ラルクなに急に話しかけてきてんのぉ?一方的に切ったクセにぃ。ラルクさぁ、先に言うことあるよねえ?」

「あっ……ゔ、その……」

「あーじゃないでしょお?今なら〜すごーく機嫌良いしぃ謝ったら許してあげなくもないけどぉ?謝んないと聞いてあげなーい!」

「ご……ごめっ……、ッいやでも待ってくれ。それで済ませて良い話でもなくて僕は本当に君にも」

「ごーめーんーなーさーいーでしょぉお??やっと男らしくなったじゃんと思ったのにさぁ……あ!もしかして振られたとか?」

「おいアンジェ!早速いじめてんじゃねぇよ」

「い、いやアレスこれは本当に僕が悪くてアンジェリカとは本当に本当に子どもの頃から……」

「もう友達じゃあないも〜ん!はやく謝らないと条件に「お母様」呼びも付け足すからぁ」

「調子に乗るんじゃねぇぞババア!!」


「……なんか、あの二人わりと似た感じなんすね」

「気が合っているのは良いことだ」

「あの団長に振り回されるもん同士だからじゃねぇ?」

わはは、とアーサーとカラムの意見を統合するアランに、全員がゆっくりと頷いた。

プライドも半分口が笑ったまま戻らない。ゲームでは少なくともあんなラルクは見たことが無い。

主人公と恋をするラルクはアレスとも絡みはあったが、あんなに騒がしくもなければ、仲は良くてもあんな空気感ははなかった。男らしいアレスに、中性的で静けさを持つラルクはむしろ対照的なキャラクターですらあったと思う。そんな彼が団長だけでなくアンジェリカにまで背中を丸くし弱々しい。

着替えテントの中で聞いた二人の会話だけでも、確かに馬が合っているのは少し不思議な感覚だった。なによりも


あのオリウィエルへアンジェリカによる血祭りが起こらないよう必死になる二人は、根っこの部分は似ているように思えた。


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― 新着の感想 ―
読み返しにて。 しみじみ深みのある素晴らしい作品をありがとうございます。 アレスは「買われた奴隷として」団長に従いつつもジジイとか呼んじゃうのよね。端からみたら普通のサーカスに馴染んでる意志を持った…
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