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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ177.侵攻侍女は戸惑う。


「!!おおっラルク!アレス!!良かった二人とも元気そうだな!」


そう、明るい声を響かせる団長とプライド達が合流したのは、ラルクのテントを出て暫く経過してからのことだった。

てっきり他のサーカス団員と共に他の団員と共に居ると思い、先に団員達の間を渡り歩いた後だ。団長は知らないか、どこに行ったと尋ね回る中で団員からも当然アレスとラルクへの言及は絶えなかった。

公演が終わりとっくに客も帰らせた後の為、思う存分に揉まれたアレスだが、同時にラルクへも団員から疑問は多かった。昔のように肩を丸め弱腰のラルクがアレスと何事もなく並んでいるのを見れば、何が起きたんだと新たな疑問を浮かべる団員も多い。

説明は後ですると言って無理矢理抜けても、今の今まで犯した全てもろくな説明もなく後回しにされている団員から抜けるのは簡単ではなかった。

元サーカス団員のリディア達も合流し賑やかになっていた中、やっと最後の目撃情報を聞いてなんとか団長テントへとたどり追いた。

ラルクが運ばれたと聞いてからすぐに団長がその場を離れた為、団員達もてっきりラルクの元へ向かっていると思っていたところでの「団長テントの方に走っていった」という目撃情報に、プライド達も急ぎテントに向かった。

まさか知らないところで事件でも起こっているのではないかと、そう按じたプライド達を前に団長テントを見張っていたアネモネ騎士達もすぐに彼女達を通した。……外に漏れ聞こえる声だけでも、充分に中は混沌としていると理解しながら。


「団、長っ………何、故ここ、に……!」

「団長!!なんでこっち来てんだ?!あぶねぇのわかってんだろ!!」

言葉を僅かに詰まらせ目を湿らせるラルクと血相を変えるアレスも、息が切れていた。しかし当の本人はけろりとした顔で両手を広げ出す。

プライド達も二人のすぐ後ろに続きながらも、テントの状況に目を白黒させた。自分達が出て行った時と大して変わりはない。自分達に向けて手を振るレオンやセフェクとケメト、こちらに視線を注ぐセドリックとヴァル、そして礼をするエリック達騎士は全員が何ごともなく無事だった。少なくとも一見では団長のみならず誰も彼女の特殊能力を受けた様子も、一戦を交えた様子もない。何より証拠に、猛獣三匹は変わらず一箇所に固まり伏せていた。影になってはっきりは見えないが、その中心にオリウィエルがいるのは間違いない。

団長も自分達へ向くまでは、その中心地へ向けて片膝をつくだけだった。彼女と何かを話していたことは間違いない。


汗を滴らせ駆け寄ってくる二人に、団長は広げた両手のまま歩み寄る。

「いやつい」と笑いながら、二人の背後でジャンヌとフィリップがなんとも言えない表情で凝視してきたことに気付く。その眼差しだけで「任せてくれと言ったのに!」と言いたいのだろうということはすぐにわかった。しかし、あくまで自分が任せたのはアレスとラルク、そしてオリウィエルの会合だ。オリウィエル一人になるまでは大人しく待っていたと開き直る。

テカテカと輝いた笑みで、「すまない」と挨拶のように謝る団長はそこで再びラルクとアレスに視線を合わせた。

必要より響かせる声で、背後に続くフィリップ達へも含めて言い訳する。


「オリウィエルとどうしても話がしたくてな。ラルク、すまないなお前のことも勿論心配だったがアレスも一緒と聞いたから大丈夫だと」

「ッあ!のっ……団長。僕、いっ今までっ……、…………~…………」

すいすいと当然のように話を進めてしまう団長に、ラルクも声を上擦らせながら前のめる。

ここに来るまで団長に会ったら言うべき言葉をいくらも考えていたというのに、オリウィエルの元にいると聞いたら全て吹き飛んでしまった。洗脳された前後も当然のように話しかけられては会話を成立させていた団長が相手なのに、どう話せば良いかわからない。

自分から団長の言葉を遮ったのに途中で口を噤んでしまうラルクに、団長もまたすぐには返さなかった。自分よりも背の伸びたラルクを見上げ眺めながら、彼の目が泳ぐのを真っ直ぐ見る。一年近くずっと逸らされてばかりだったが、今は逸らしたくて逸らしているのではないと理解する。

いつまで待っても言葉が出ないラルクに、団長の方が今度はそっと頬に手を置いた。そのまま指先の力だけでぺちぺちと叩く。

突然の刺激にラルクも連続して瞬きを繰り返し、無意識に団長へと目が向いた。ぱちりと合えば、満面の笑みが返された。


「おおその顔だその顔。顔色は悪いが大分毒気は抜けたな。いやフィリップ達に聞いた時は驚いたが、遅めの反抗期ではなかったと聞いて安心した」

はっはっは!と声に出して陽気に笑う団長に、ステイルは僅かに表情筋に力を込める。

ラルクの事情を話した時を思い出す。確かに安心はしていたが、大喜びしていた方向性を思えば本当に彼を心配していたんだろうな?と言いたくなる。何より今はそんなことよりも、一体オリウィエルと何を話していたのかを問い詰めたくて仕方が無いのを堪えた。

団長はともかくラルクの心情を思えば、今自分達が横やりを入れるなど許されない。腕を組み、仕方なくプライドと目を合わせてからそっと自分達だけ場所を移動する。

事情を聞くだけならば、団長本人だけでなくても聞いていただろう人物はそこにいる。壁際に逸れる形でレオン達の方へ歩み寄りつつ、団長とラルクのやり取りを見守ることにした。

団長に明るく笑い流されても、頭を重そうに俯くラルクは遠目でもわかるほど顔が青白かった。本人を前にして、余計に罪の意識に苛まれる。


「だ、団長………本当に、この度は申し訳ありませんでした……」

「ん?どれのことだ??………まぁ、まぁまあまあ!どれでも良い!!そんなことよりも身体の調子はどうだ。ここ最近眠れていたか?」

「いえ、……じゃなくて。……寝てはいませんが、元気です……」

「そうか!それは良かった良かった!!ん??そうだ、私のことは覚えているか?記憶はあるのか??もうざっくり一年は経っている気がするが」

「おっ、覚えてます………」

そうか良かった!と、そこで広げ続けた両手でラルクを抱き締める。

まるで昔のように妙に畏まってしまっているラルクに、まさか記憶が飛んでいるか混濁しているのではないかと心配になった団長もそこでほっと息を溢した。更には抱き締めても嫌がられることも振り払われることもなく大人しく棒立ちになっているラルクに、やはり以前通りになったのだと確かめる。嫌がるどころか、ただただ無抵抗だ。

自分より背が高く、しかくひょろりと細い身体のままのラルクは心なしか以前よりもまた肉付きが悪いと思う。そりゃあ倒れる、と一人納得しながら団長は抱き締めた手で彼の肩を掴み自ら話して改めてその顔を見た。今まで向けられた冷たい眼差しではない、自分のよく知る瞳だ。

首をすぼめ、唇を結んだラルクに本当に綺麗に以前のままだと思う。ただ改心したと言えるような反応ではない。


団長が一つ一つラルクの反応や表情を確かめる様子に、アレスも傍で見つめながら手の平が湿った。

自分と違い、入団してからのラルクを全て知っている団長の見聞は間違いない。ラルクと団長の傍に居たいと思う反面、自分の立っている場所がぬかるんでいるような気持ち悪さに今すぐジャンヌ達の方に逃げたくなった。

まるで自分の手柄と主張しているように自意識過剰になっては、奥歯を噛み合わせる。しかしそれをわざわざ自分から言うのも躊躇われた。

ラルクが戻った今、いっそこのまま消えてしまえたら一番気が楽だと思う。

何でも無いように取り繕おうとしても、右手の包帯を無意味に巻いては直すを手元を見ずに繰り返す。団長とラルクの続く会話を聞きながら、互いの無事の確認から静かに互いの真意に入っていく。その会話に自分の入る余地もないと思えば、自然と顔ごと目を何もない場所へ逸らした。耳だけは立て、直視はできない。


「リオ、ダリオ、ヴァル。お待たせしてごめんなさい。団長がまさかこっちに来ていると思わなくて……」

「おかえり。僕らも驚いたよ。まさか被害者でもある団長の方から来るなんてね」

「無事で何よりだ。ラルクの方も、もうオリウィエルと会わせて大丈夫そうという判断か……?」

眉を下げて謝るプライドに、レオンとセドリックも片手を上げて気にしていないことを示す。

ヴァル一人が返事はせずに鋭い眼光だけで茶番の回収を要求した。もうラルクも戻ったのならばさっさとこんな煩わしい場所から撤退したい。

ヴァルからの無言の苦情に合わせ苦笑気味に声を潜めるレオンに続き、セドリックの心配そうな問いかけにプライドも思わず顔が強張った。大丈夫……??と、自分でも言われて少し心配になる。

団長と合流することは本人の強い意志を尊重したが、オリウィエルとの対面については確認する間もなかった。団長にだけ会うつもりが、まさかのその団長が彼女の元にいると聞いたのだから。確認の前に早々に駆けつけることが優先だった。

少なくとも今はラルクの目にもアレスの目にも、オリウィエルは文字通り眼中にないと判断できた。

多分……と、曖昧に濁るプライドは、一度彼らとオリウィエルを見比べる。彼女を見張っているエリック達からも一礼を受け、自分からも小さく手を振り返した。少なくとも騎士達も彼女の支配下ではないことを確かめ安堵する。


「あの、団長は彼女に用が……?何か、どんなことを話していた?」

「ダリオ。すまないが、可能な限り詳細に教えてくれ」

一言一句程度は違えて構わない。そう断りながら、プライドの疑問に重ねてステイルからも説明を求める。

事情説明を求める二人に、レオンとセドリックも一瞬互いを見た。レオンに尋ねられたプライドと、ステイルに尋ねられたセドリックでどちらが先に口を開くか探る。

同時に目が合ったところで、先にセドリックが「どうぞ」と手でレオンに譲った。それを受け、レオンは僅かに姿勢を落とす。団長とラルクとのやり取りを邪魔にしないように声を抑えるように配慮した。

プライド達が居なくなってから暫くして訪れた団長を、本人の希望で仕方なくテントに入れたこと。それから瞬く間のうちに一方的な話を進めた団長の状況をレオンが語れば、その語り口をセドリックも詳細に補足した。

セドリックの補足がなければレオンがただ省略しただけなのではないかと思うほどに飛ばしすぎた団長の詰め方に、早々にプライド達は呆気を取られた。


オリウィエルをケルメシアナサーカス団に引き続き所属させると。オリウィエルと団長双方の結論がついた事実を聞くのは、ちょうど団長がラルクとアレスとの話を終えた時のことだった。


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