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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ171.担う者は進んだ。


「……また来たのかアレス」


こんな朝からと。うんざりしたように眉を寄せたラルクのテントに直接足を運んだのは、団長に買われてから一ヶ月経った頃だった。

ラルクのテントは入団してサーカス団を案内された時に確認したから知っていたけど、訪問するのはこの日が初めてだった。

わりぃとは思っても、他の団員にも見つからねぇように時間を選べば早朝だった。まだ太陽も上がりきってない時間に、俺からラルクを叩き起こした。

何度か入口を叩いて呼びかければ、十分くらいで出てきたラルクは眠そうな目で俺を睨む。今日までも何度も俺から話しかけていたからうんざりしてるのは当然だろう。けど、人前で気安く話しかけるなと言われたからにはこっちも外した時を選べばこうなる。


「夜、いつまで待っても帰ってこねぇからな」

「仕方ないだろう……彼女が夜は怖いと言うから……。……僕が傍にいないと寝付けない……」

まだ大分寝ぼけてるのか、寝間着姿のラルクは珍しくあの女の話を口にした。

ラルクは殆どの時間をオリエって女のいるテントで過ごしているらしい。演者でも幹部でもねぇオリエは、一時的に個人テントを与えられている。俺より前からサーカス団にいるくせに、サーカス団でタダ飯食らいだけして何もせずただただ一人テントに引きこもっている。ユミルみてぇな子どもだって雑用をして働いているのに、その女だけはずっとラルクにも団長にも守られて何もしねぇままだ。他の団員に聞いても正直そんな女のどこが良いのかもわかんねぇ。


たった一ヶ月でも、ラルクが明らかにサーカス団の中でその女と一緒に孤立しているのはわかった。

他の団員からの評判も大体同じで「昔はもっと可愛げがあった」と言ってる奴はたまにいるくらい。その女と違ってラルクの方はもう六年はいるサーカス団の古株でしかも猛獣を手懐けた猛獣使いとして立場があるから、どいつも文句が言いにくいようだった。


「……帰らないなら入れ。……団員に見られたら困る……」

もう俺との話が長引くのは諦めているのか、わりとすんなりとラルクは俺をテントに入れた。

こいつにとっても奴隷の俺と入団前から知り合いってバレる方が困るらしい。今日までだって、なんで入団したばっかの俺がこんなにラルクに構おうとするのかって聞かれた数はしれねぇ。

ラルクが奴隷だったなんて言えるわけもなく、ここに来るまで色々気になったからって濁しても、団員の奴らはどいつもやっぱ気になってる奴は多い。……でもだからって、これをやめるわけにもいかなかった。


今まで何度声を掛けても、話をしたいと言ってもラルクからの返事にまともなもんはない。

開口一番には「話しかけるなと言っただろ」と言われても、構わず話しかけ続けた。最初は「僕なんかより他に挨拶すべき団員もいるんじゃないのか」から始まって「団員として仕事を覚えてから話しかけろ」で、その後は「次の公演が終わってからにしろ」だったか。

いつまでも長々と後回しにされまくったからいつ話しかけても関係ねぇと思った。どうせこいつも女のところにいる時が殆どで掴まりにくい。


テントの中に戻った途端「ちゃんと入口閉じろよ」と言いながらラルクはベッドに真正面から倒れ込んだ。

その状態じゃ話しながら寝るんじゃねぇのかと思いながら俺も床に座って足を組む。昔は檻の隅に蹲っていた四十四番が、今じゃベッドでゴロついているっていうのを見るだけで不思議な感覚だった。

俺も俺で、初日は団長のテントに邪魔して、演目に出ると決まってからは個人テントを与えられたけど、暫くはベッドが落ち着かなくて結局床で寝てる。

ベッドが初めてなわけじゃねぇけど、クソな思い出が多すぎて寝心地が床の方が落ち着いた。一人だけの個人テントも最初は閉塞感がやっぱ胃の中が揺れて落ち着かなかったけど、……誰にも見られない部屋の良さが上回って凄まじかった。

ベッドなんかよりそっちの方ですぐ寝れた。そのオリエって奴がテントから出たくない気持ちも少しはわかる。


「話すなら早くしろ……。三時間しか寝てない……」

昔より睡眠時間短い。

そう思いながら口を一度意識的に閉じる。こっち向かねぇし、俺を部屋に入れたのも寝ぼけてやってるのかと思う。下敷きの毛布が面倒なのか、枕を抱くようにして顎を置く。

人目のないところなら、ラルクは俺と会話程度はする。他の団員と同じでオリエのテントに近づくのも許されねぇが、人の影さえなければ立ち止まるくらいはする。

だから夜に話そうとしてもこいつはオリエのテントに入り浸る。あとはもうこの早朝しかない。俺の方は眠りが浅い分、起きること自体は苦じゃねぇが。

ラルクはどうもそうじゃないらしい。女の部屋に入り浸ってるならそこで寝てりゃあ良いのにと思う。


「……昨日のマイキーの話。少しは考えてやったか?」

「……考えるも何もあの話は終わった……お前も認めた話だろ……」

俺の投げ掛けに、一応返事はした。それでもすぐに考えることをやめるように声の音を落とした。

昨日、幹部同士で次の公演の演目について団長と相談した。演者の数も一月前より減ったしと、その分他の演目の時間を伸ばすか変わり種を増やすかという話だ。

当然演目持ちのラルクにも何かやれって話は出て、マイキーの提案は「目玉になる猛獣を増やす」だった。

ライオンと象、虎に狼。既に四匹の猛獣を所有しているうちで、他にも新しい猛獣を仕入れればそれだけでも話題になる。

団員が増やせないなら動物を一匹仕入れて披露するだけでも枠は埋まるという案だ。ラルクは参加しなかった話し合いだから、後から提案したマイキーが直接頼みに行って俺もついていった。けど、ラルクの返事は他の幹部連中も団長も想像した通りだった。

「断る」「もう猛獣は充分いる」だ。


しかも理由は、これ以上の猛獣を調教する時間を取りたくないからだった。既にラルクが調教した猛獣四匹も他の下働き達に世話を押しつけているってのに、これ以上の動物も一から調教はしたくねぇらしい。

オリエとの時間が今は大事で、離れたくないんだと。それを堂々とマイキーに言い張るラルクは、本当にもう猛獣芸以外何もしたくねぇんだと俺でもわかった。


サーカス団もここで猛獣を買ったところで、ラルク以外の団員を雇うならそもそも猛獣で枠を誤魔化す理由が意味もなくなる。

それでも詰め寄るマイキーにラルクも「これ以上しつこいなら猛獣達に直接話すか」と鞭を握りだしたから、結局俺が間に入ることになった。確かに今は金もねぇんだし、サーカス団にあるもので回すしかねぇと。

今の俺にできるのは、ラルクを理解してやるどころかラルクと団員が殺し合いにならねぇようにすることくらいだった。


「認めたわけじゃねぇよ。あの時はああでも言わねぇとお前鞭振ってただろ」

「何が悪い。彼女との時間を奪うあいつらが悪い……マイキーも大して客を沸かせてないくせに……」

ラルクがここでどう変わったか、俺にはわからない。

昔も虐められる以外に関わる相手もいねぇし求めてもいなかった。信用する相手がネズミから猛獣に変わっただけだ。

大差あるのはあの女のことと、あとはこういう人を見下す側に立ったところくらいか。

奴隷の俺を見下すのは普通だが、他の団員のこともたまに見下す。これもあの女の影響なのか、それとも団長からの影響なのか。俺が知らねぇだけで昔からそういうところがあったのか。


「そういってるお前の方が今は立場わりぃぞ。公演に出る以外何もしねぇって。新入りの俺なんかより評判低くてどうすんだ」

「良いだろ別に。……もともと、〝昔から〟そうだったろ」

寝ぼけた声で言うラルクは投げやりで、ベッドから零れた細い足をぶら下げたまま何でもないことのように言った。


─ 多分、ラルクが昔のことを自分で語ったのはあの朝が最初で最後。


「僕より君の方がいつだって優秀で、……値札の額も桁から違う。団長だってもともと君を買おうとしたんだろ……」

枕に顔を埋めたままで、声もくぐもっていた。

団長がって聞いた途端思わず息が詰まった。団長はラルクにそこまで話していたことは知らなかった。淡々となんでもない口調のままのラルクは床の俺に足を向けたまま目もくれない。


「いい加減わかれアレス……。もう僕に仕事以外で構うな。お前を買ったのは僕じゃない、団長だ。あの人にどう吹き込まれたのかは知らないが、……僕はあの日、彼女に新しいベッドを買いたくて仕方なく団長の買い物にも付き合っただけだ」

結局金は残らなかったと、不満げに言うラルクの声を聞きながら首を傾ける。確かに、団長が言っている話と少し違う。ただ、俺にはどっちが嘘を吐いてるかなんざわかるわけもない。

嘘を吐くのがどっちかといえば、団長はこの一ヶ月でも息を吐くように嘘も吐くし大仰に膨らませたことも言う。それに大してラルクは良くも悪くも言葉を選ばねぇで正直だ。

普通に考えれば団長が作った部分もあるのかもと考えるのが合ってる。けど、もう俺はアレスとして団長を信じるしかない。細かい嘘から矛盾まで考えて勝手に団長を信じれなくなった方が俺には面倒だ。


「君を大枚払って救ったのも団長。そして君をサーカス団に迎え入れたのも団長。そして君はサーカス団の目玉演者の一人になって、幹部にもなって、早くも僕よりも大勢の信頼を得ている。…………もう、それで良いだろ……」

僕のことは放っておいてくれ。そう、また何度も繰り返され続けた言葉を念押された。

そんなん言って、ガラ空いた幹部の椅子に俺をって団長に提案したのはお前だろ。……と言いたくて、止まる。

団長があの時は両手を広げて大喜びで俺に抱きついてきた。やっぱり君は特別だ、ラルクがそんなことを打診するのは今までだってなかったと。大はしゃぎだった団長だけど、その場にラルクはいなかった。

今もまるで他人事のように言うラルクに、本当に俺を幹部にしたがったのがコイツなのか証拠はどこにもない。まだ新入りの俺だが、特殊能力者と経理も重なってか反対する奴もいなかったからラルクの賛成反対を聞くまでもなく決まった。


「もう話すことないなら帰れ……出て行くのを見られても困る。もう僕に関わるな。……………………早朝は、絶対くるな……」

ぽつりぽつりと雨漏りのような呟きで言われて、それで終わりだった。その後は呼びかけても無視された。

もともと、マイキーのことは理由で本当にそれを頷かせる為に来たわけでも無い。いつもよりは大分話したラルクに、俺も他の団員が起きてくる前にとテントを出た。


いくら話す理由を掴んでは絡んでも、結局ラルクに俺がどうすれば良いのかなんざわからないままだ。

今日は話しは少し長めだったけど、同時に拒絶された感覚が強い。関わらないわけがねぇし、そんなの何度も言われてるけど早朝はもう辞めといた方が良いかとあの死にそうなラルクを見て思う。

団員の前では平然としてるけど、オリエの面倒を見るのも楽なわけじゃねぇらしい。あれじゃ入れ込んでいるというよりもオリエの奴隷だ。

起床時間までまだあるしともう一度自分のテントに戻りながら、頭を掻く。まだここに入団して一ヶ月。確かにラルクの言うとおり、自分でも信じられねぇくらいサーカス団には団員のアレスとして認められた。

最初は素っ気なかった団員も経理で役に立つと思われてからか、公演で金を取り戻せてからか段々馴れ馴れしくなってきた。サーカス団ではあんまり浮かなくなった。



けど



「………………俺の役目そっちじゃねぇんだよ……」

愚痴めいてぼやきながらテントを開いて中に入った。








…………








……




「っ……」


呻き声が上がったのは、アラン達がラルクの部屋に入って暫く経ってから。少しの間魘されるように呻き続けてから、途中で吐くような息が漏れた。


ラルクの部屋はあい変わらずで、大して変わっちゃいなかった。まだ一年も経ってねぇし別の土地に移動すればその度にテントの中の配置も変わることもある。サーカス団で部屋なんてあってねぇようなもんだ。

ただ、ラルクの部屋に入るのもあの時ぶりかと思うと何となく遠さを感じられた。一年、たった一年。でも長い一年で、……結局俺は変えるどころか気付けもしなかった。


また床に座っても、もう今は一人で座りこめる気もしねぇでテントの壁に背中を預けた。

馬鹿みてぇに落ち込んで、今までのことぐちゃぐちゃ思い返して、ジャンヌに言われた言葉が余計に掻き乱した。特殊能力だがなんだかもうどうでも良いくらい、ただただ一年前団長に託された言葉が掘り返される。落ち込む時間を持つ権利も俺にはなかった。

ベッドから聞こえたラルクの音に顔を上げれば、仰向けの頭を自分で抱えるように両手で掴んでた。

気付けばさっきまで座り込んでた筈の背中が浮いて、膝を立てる。ジャンヌもその場から胸を押さえて立ち上がった。


「……?………?」

ラルクが、目を覚ました。

苦しそうな声を漏らして、直後にビクッと身体を跳ね足で蹴ったのか毛布が捲れる。ベッド際に立っていたアラン達に気付いたらしい。首を回して自分の部屋だと確認したつもりで他にも大勢詰まってんだからそりゃ驚く。もともと自分のテントにも人を入れることのねぇ奴だ。俺だって早朝に叩き起こしたあの一回だけだった。

気付きましたか、勝手ながらお部屋に運ばせて頂きましたとカラムが声をかける中、まだラルクはまともに返事はしない。微かな音で一人言みてぇに「僕は……?」と呟くだけだった。


「覚えておられますか。もうサーカスの公演は終わっています。先ほどまでは団長のテントにオリウィエルと共にいましたが、そこで……」

「あ……、………ァ、…あっあっ……」

首を絞められた鶏の声がする。

カラムが思い出させる為に古い距離から記憶に呼び掛ければ、ついさっきのことにラルクの反応も早かった。ベッドに倒れていた状態からまるで寝過ごした後みてぇに身体を起こす。ベッドに手をつき上体が起き上がったところでまた頭を抱え出した。口をパクパク水揚げの魚みたいに開いて閉じて、もともと白い顔が蒼白になる。

カラムとアランが「しっかりしてください」「呼吸してください」と背中を摩り、片方はラルクが暴れないようにか肩を掴む。

数メートル先のことが、まるで川の向こうのような遠さだった。


「アレス」ってジャンヌに呼びかけられても痺れたように力が入らない。

なんかもう、今までやってきたこと全部空回りしてたんだと思うと、足を立たすのもできなかった。あんだけ団長に期待されて持ち上げられて、調子に乗っていた。

結局ここまでラルクも、ついでに俺のもオリウィエルから特殊能力を解かさせたフィリップ達に任せておいた方が良いんじゃねぇかと思う。大事な時に俺までかかってんじゃねぇよ。そのせいでラルクのあの言葉にすらまともに返せなかっ


「ぁ……あァ……ーーーッあ。あああああああああああああああああああああああああ、ああああああああああああ!!!」


縊られた喉から断末魔に、変わった。

初めて聞いたラルクの低いガラ声だ。地の底から突き上げるようなラルクの声に耳が刺される。思わず歯を食いしばれば、ジャンヌ達も両手で耳を塞いでいた。腹の息全部吐き出すようなこんな叫び奴隷時代だって聞いたことがねぇ。自分の目が丸くなるのがわかる。

ラルクは起き上がったまま今度は背中を丸くした。抱えた頭を下に自分の膝へ埋めるように蹲る。真横でアランが呼んでも塗り潰すようなでかい声でただ叫ぶ。

視界の隅でアーサーがフィリップと一緒にジャンヌを下がらせくっつき、ラルクの傍でカラムが手の置く場所にでも悩んでんのか両手をラルクの周りに広げ振る。アランが今度はラルクのでかい声を上塗る怒鳴りで「しっかりしてください!」と呼び掛ける。

その瞬間、耳に届いたラルクがアランの手を鋭い目で叩き払った。


「ッ触るな!!来るな近付くな喋るな!僕っ僕にっ!!僕にもう誰も触るな!!!」

バシン、と音がして叩かれたアランの手が落ちる。

細い首を激しく左右に振って、怒鳴り声にはひっくり返ったようなかん高さが混ざっていた。ギラリと俺まで背筋が冷えるような殺気が研がれた。

ベッドの枕元まで下がって毛布が完全に捲れて、ラルク自身が牽制か毛布をアラン達へぶん回し最後は投げた。釣り上がった桃色の目元から鼻筋にまで皺が寄る。鼻の穴を膨らませ、フーッフーッと猛獣みたいな荒い息が直後に連続した。

オリエに触られて、ラルクはずっと操られてた。触れられた瞬間、全部が当たり前みたいに視界の色が変わった怖気の走る感覚を俺も覚えてる。


「ぼっく、はッ!僕っ、団長……団長にっなんで……!!」


団長と。

苦しそうな声で突っかかりながら荒げるラルクが、頭を抱えたと思えば薄紫の髪をこれ以上なく掻き上げ乱す。もろいベッドがラルクに同調してカタカタ鳴った。ベッドもあいつも震えてる。

曲げ立てた膝にぶつかりそうなほど俯いて、首をまた左右にブン回す。猛獣よりも獣みたいなその姿を見ながら、……なんでかほっとする最低な自分がいる。


あんだけ絞められるより苦しそうなのに、窒息死にしそうなくらい真っ赤な顔で、カエルみたいな声でがなりだしてんのに。顎まで震わせて下唇を噛んだ直後に見開いた目を滲ませてんのに。……やっぱ、団長の言ってたことは全部本当だった。

ずっと信じてた。疑わねぇどころか考えねぇと決めてた。団長が言ったもん全部信じてただただ俺も知らねぇラルクを探してた。

この一年。団長に買われて救われても、結局なんもできなかった。本当に役立たねぇ、思い上がってただけの奴隷のままの俺だけど。



「ッラルク!!」



立ち上がるまま床を蹴る。さっきまで何してたかも白くなる。

息を吸い上げるのも忘れて、俺まで声が半分掠れた。勢いをつけ過ぎて、棚を蹴って一瞬フラついて身体ごと傾いた。

頭を抱えて疼くまって首振って、昔の、本当に昔みたいに小さくなってとうとう目から顎まで伝わせ濡らすラルクの名を呼ぶ。

今までのたった一年足らず、何度と何十も何百も当たり前みたいにやっては全部が全部無駄だったとわかったことをもう一度。




何度でも何千でも一生でもあいつを呼ぶ。




俺は〝アレス〟だ。


次の更新は火曜日になります。

よろしくお願いします。

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