《アニメ化2期決定御礼!!》現代王女は願う。
本編と一切関係はありません。
IFストーリー。
〝キミヒカの舞台が、現代学園物風だった場合〟
※あくまでIFです。
登場人物達は本編と同じような経過を経て同じような関係性を築いていますが、一部呼び方を含む関係性や親密性が本編と異なります。
本編で描かれる登場人物達の関係性は、あくまで本編の世界と舞台だからこそ成り立っているという作者の解釈です。
友人、師弟、主従、恋愛等においても本編と全く同じ感情の種類や強さとは限りません。
※現代をモデルにした、和洋折衷の世界観です。
特殊能力は存在せず、日本をベースに王族・騎士が存在します。年齢も違います。
※時間軸は第一作目解決後です。
※あくまでIFです。
※和洋折衷です。
簡単に現パロの感覚でお楽しみ下さい。
「お姉様、はぐれちゃわないように手を繋ぎましょうっ!」
そうね、と。妹ティアラからの提案にプライドは笑みと共に左手で応じた。
大通りとはいえ、人が密集する中で歩いていることは変わらない。可愛い妹と手を繋ぎながら歩くプライドは、しかし実際ははぐれる恐れはないのだろうとも自覚する。
普段よりも歩くのもぎこちない二人だが、自分達を囲む面々による安心感が勝った。
プライド・ロイヤル・アイビー。フリージア王国の第一王女である彼女は今、祭りに来ていた。
しかしもともと王女として有名人というだけではなく、その容姿からも人目を惹きやすい彼女達は祭りでは特に外出するのは危険でもある為、騒ぎを起こしやすい場所であるほど護衛も義務づけられる。
ティアラと手を繋ぎながら歩くプライドはそこでふと、もう片方空いた手の先にいる人物へも視線を向けた。
「ステイル、もし転んじゃったらごめんなさいね」
「っっ~~……ごっ……心配なく。むしろ、転んだ時は遠慮無く掴まってください。ティアラ、姉君を巻き込んで転ぶなよ」
「兄様もお姉様とお手て繋ぐ??」
プライドからのなんでもない投げかけにも激しく肩を上下させるステイルは、その一瞬で黒縁眼鏡も曇りがかった。誤魔化すようにティアラへ注意を呼びかけた途端、悪戯めいた笑みで反撃されてしまった。
姉兄達と違い中等部のティアラだが、順調に義兄の性格を継いでいる。兄の顔色と挙動の理由にも気付いたまま返せば、プライドがおもむろに手をステイルへと動かした。それにステイルも「大丈夫です」と若干強めの声で断ってしまう。
こんな人前で、大勢が見ている中でそんなことできるわけがないだろうと、声に出せない分漆黒の鋭い眼光で妹に訴えた。未だに視界に入るだけで、プライドの今の服装が見慣れない。姉弟としてとわかっていても、隣を歩いているという事実が未だに心臓が忙しかった。
毎年この時期は、プライドもティアラと共に心臓に危うい恰好が多い。
今も夏という時期で、祭りに相応しい恰好をとティアラとはしゃいで気合いの入った浴衣姿だ。
紺色の布地に鮮やかな赤い花が描かれるプライドの浴衣も、白地に可愛らしい金魚が描かれているティアラの浴衣も、城から用意された特注品だ。毎年特注した浴衣に袖を通し祭りに行くことは、プライドとティアラにとっての楽しみでもある。
ステイルも姉妹の楽しみに便乗できるように、同じく浴衣をきちんと着込んで参加している。毎年あまり色合いや模様は変わらず、今も黒色のシンプルな浴衣だが、可憐な着物を着ている二人を引き立てる意味でも悪くないと考える。
「大丈夫ですよ。転んでも俺らの誰かしらが絶対支えますから!」
「アランの言う通りです。それよりも、足が痛くなったらすぐ我慢せず仰ってください」
「ヒールに慣れていても下駄は違うでしょうから」
王族姉兄妹の楽しげな会話に、その周囲を固めるうちに三人が笑いかける。
今回のプライド達への護衛に志願した有志の大学部騎士科の面々である。高等部と異なり、大学部は騎士候補生としてほぼ将来的に騎士として認められている。
非公式とはいえ、王族の正式な外出と護衛に本来ならば堂々と本職の騎士が護衛につけるが、祭りの中で同行していても目立たないという理由から、プライド達の希望もあり彼ら勇士達が複数名採用された。
プライド達と違い、服装こそ動きやすく急時にも対応しやすい普段着である有志たちだが、何も知らない第三者から見れば大学のサークルの一派程度にしか見られない。
更には人混みの中でも、一般人から四方を守れるように護衛を大人数にするという意味でもやはり目立たない大学部の年齢層はちょうど良かった。
「アーサー、お前は浴衣を貸してやっても良かったんだぞ?」
「結構っす。ステイル様がぶっ転ンだ時に巻き込まれるわけにはいきませんから」
ティアラから揶揄われた腹いせのように、今度は自分を揶揄ってくるステイルにアーサーも隣でわざと冷ややかな声で返す。途端に言い返されたステイルも気付かれないようにアーサーを肘で突いた。
アラン達と同じ騎士科ではあるものの、高等部であるアーサーは今回は護衛ではなくあくまでプライド達の同行者の一人だ。
着物を着ていても問題なければ、ステイルも無いなら貸してやるとまで提案したがアーサーは断った。大学部の先輩達も大勢いる前で自分だけが浮かれている姿など見せられるわけがない。なによりたとえ立場上はただのプライド達の友人であろうとも、自分にとっても護衛という意識が強い。何かあった時にプライドを守る為、動きにくい浴衣で失敗などしたくない。
今回は相棒であるステイルがまさに動きにくい格好をしている分、余計に自分はきちんと俊敏に動ける格好でいたかった。
騎士部の先輩達が大勢同行し、遠巻きにも離れた位置では本職騎士も気付かれないように護衛と尾行監視をしている中、もしものことなどないとはわかってもやはり警戒が勝った。
浮ついた気持ちにならないようにと考えれば考えるほど、……未だに自分もまだプライドの直視にも苦労している。警護の為にもプライドから目を離したくない気持ちと、直視したら自分が固まってしまう自覚が均等に存在した。
プライド達の浴衣など、ステイルと同様にアーサーにとっては毎年のことにも関わらず、毎年違う浴衣を見に纏うプライドはあいもかわらず心臓に悪いとアーサーは思う。
「レオン王子殿下も、こちらの七夕祭りは初めてで?」
「うん、去年もこの頃は一時帰国していたから」
プライド達と同じく騎士に囲まれながらセドリックは少し意外にレオンへ眉を上げた。遠方の国であるハナズオ連合王国と違い、フリージア王国とも隣国の王子であるレオンなら今日の祭りも今までも経験があると思った。
しかし近いからこそ、レオンも今まではなるべく国の用事があれば帰国するようにしている。プライドと共にフリージアの祭りを楽しめる機会も当然貴重だが、自分が愛するのは自国であるアネモネ王国なのだから。
そして去年まではこの時期はアネモネでの用事が重なることが多かった。
しかし今回は七夕の前後にもフリージア王国内での取材や会談も重なり、そのまま帰国せずにフリージアにとどまることになった。帰国できないことは残念なレオンだが、だからこそ今年の祭りでプライドに誘ってもらえたことは嬉しく思う。
プライドに誘われるままに、取り寄せたレオンもセドリックも今は揃って浴衣である。
藍染の浴衣を着付けたレオンも、白地に魚のシルエットが入ったセドリックも、乱れ一つない衣装にも関わらず、今もすれ違う女性を振り返らせていた。護衛に囲まれていても顔がわかるほどの高身長の二人である。
同じ学校に通う彼らを誘い、七夕祭りに訪れたプライド達にとって今回の外出はお忍びではない。
その為、変装もなく堂々とした装いで行動もできているが、自由度も少ない。道を歩くごとに横切る屋台に心が奪われないように、プライドもティアラも意識的によそ見はせずに前方へと目を向けた。
人の多い大通りも、今日は七夕祭りの為に歩行者天国の為、合法的に歩いて目的の場所へ向かうことができた。その間、こうして祭りの空気を味わえるだけでもプライド達にとっては楽しい時間である。
「そういえばカラム先輩やアラン先輩、エリック先輩ハリソン先輩も、この祭りにはよく来られるんですか?」
他愛のない会話でも、充分胸が浮き立つ。
歩きながら話題を護衛である騎士部の面々へと投げかけるプライドが大勢の騎士部の中でも指名したのは、特に顔見知りの面々である。今や高等部の騎士部マネージャーとしても大学部の騎士部と交流も多くなったプライドだが、彼らは騎士部に入部する前からアーサー伝てに知り合った信頼できる騎士見習いであり、尊敬する先輩でもある。
振り返りながら尋ねるプライドの言葉に今度はレオンとセドリックも興味を向け、会話を止めて注視した。
プライドの問いにハリソン以外全員が頷きをそれぞれ返す中、最初に口を開いたのはカラムだった。
「大学からも遠くありませんから。休日でも部活後にはほぼ毎年、七夕期間中に一度は訪れます」
フリージアの都心で行われる七夕祭りは国の中でも規模が大きく、そして国が誇る学園附属大学もまた都心に位置している。
当然規模の大きな祭りが近くで行われていれば、騎士部も足を運びたくなるのは同じである。貴族や王族を含む上流階級ばかりの社交科と違い、騎士科は庶民出身者も珍しくない為庶民の祭りに対する敷居も低い。騎士科の為に学園に入学し、寮に済み、有名な祭りに意気揚々と足を運ぶ生徒も多い。
カラムも中等部時代、騎士科に転科してから祭りやそういったイベントに初めて足を運ぶようになったが、想像以上に良い体験だった。
アランに当時半ば強引に引きずり回され、服はソースで汚れ、高額なのにタコのない粗悪たこ焼きを買わされ、手のひらはかき氷の液体でベタつき、人気の店に並ぶだけで長蛇待たされたりと大変ではあった。しかし、それも含めて良い経験だったと思う。
結局は自分もそれから毎年祭りには必ず一回以上足を運んでしまっている。プライドに敬意を抱くようになってからは、祭りにプライド達が必ず訪問すると聞いてひと目見るために単身でも七日当日は必ず訪問していた。
それがまさか、今はそのプライド達の護衛として共に歩けていると思えば感慨深く思う。
「騎士部だとまさにこれくらいの人数で歩くことも普通にありますよ。自分も毎年来てます!」
なっ!と、そのままアランはカラムとそして後輩のエリックの肩をそれぞれ叩いた。今は人前でもある為、王族にもしっかりと言葉を整える。
入学してから全力で周辺の祭りもイベントも楽しむアランは、当然同級生のカラムのこともそして騎士部後輩のエリックにも親しくなった時点で誘っている。一人でも祭りを楽しむことに躊躇いはないが、やはりどうせなら仲間達と楽しむ方が楽しい。一度プライドを思いつきのまま七日に誘い、王族は七日公式に護衛付きの訪問があるだろうとカラムに怒られたこともある。
王族の場合はお忍びでも人混みの多い場所では護衛が必要なのはわかるが、別段外出を禁じられているわけでもない。ならば学生のうちに行きたい場所には行けば良いというアランの考えは今も変わらない。
王族貴族だからと現れたら誰もが平伏するような時代でもなければ、不敬をしただけで罪に問われるような時代でもない。王族と庶民との垣根もずっと低い。
王族や皇族に関して、立場が上なのも権力があるのもわかるが、今はアランにとって自分達の学園の生徒であり、後輩である。
遊びに連れて行ってやるのも、庶民の生活を教えるのも、話し方に気兼ねなしで関わるのもただの学生である今だからの醍醐味で特権だと思う。どうせ今後自分達が卒業したら、敬語でしか許されない関係かそれとも敬語抜きで語り合える友人になれるかも今の関係で分かれる。
出身程度で逐一態度を変えないアランだからこそ、騎士科でも友人は幅広くそして多い。特に貴族出身者の祭りへの反応は常に新鮮で楽しいと知っている身としては、貴族よりも更に敷居の高い王族が、祭りでどんな反応をするのかも見てみたかった。今もこうして護衛している中で、王族の反応はやはり面白い。
同時に誘惑も強いだろうとも理解すれば、来年は七日以外でも祭りに誘おうかと考える。
「出店の食べ物とか高いので、大人数で分け合ったりとかも醍醐味ですね」
頬を指で掻きながら肯定するエリックも、これには緊張から僅かに笑ってしまう。
有名な学園の騎士科に所属しているエリックだが、庶民の出身である。騎士科の手厚い補助待遇と、奨学金と時々騎士科紹介の仕事などで自分の資金は可能な限り自分で解決している。昨日も母校の友人に頼まれて、七夕祭りの出店側に日雇いバイトとしてじゃがバターを売っていたエリックだが、その事実には口を敢えて噤む。
最初の頃は騎士科は貴族以外も皆富裕層だと思ったが、アランを始めに金銭感覚が自分と同じ生徒も大勢いたことは心から安堵した。
アラン引率で初めて同級生達とも騎士部全員で祭りに行った時もアランが「分けて食おうぜ!」と言ってくれたお陰で気楽なものだった。カラムは「そこは奢るのではないのか」とアランに言っていたが、先輩に全て奢られるのも申し訳ない。
入学するまでは気高い生活ばかり想定していたが、実際入ってみればなかなか学生らしい生活も過ごせたと今でも思う。
別の学校に進学した次男とも食事に会うこともあれば、地元に進学した末っ子も祭りの日には案内しろと遊びにくることも多い。遠方というほどではないが電車で乗り換えが二回必要である以上、実家と疎遠になるには充分な距離だが全くその気配もない。
「騎士科は大学部も本当に仲良いのですね」
「ハリソン先輩はいかがですかっ?!お祭りとか来たことは……?」
「二度ほどあります」
あるのか、と。ハリソンの何気ない返答に無言のまま心の中で唱えたのはアラン達だけではない。
周囲の護衛で集う他の騎士候補生達も全員が耳を疑った。せっかくの王女から投げられた祭りの話題にも口を開かなかったハリソンは、今まで同級生どころか上級生からの誘いにもほぼ応じたことがない。騎士団長か副団長が来るような特別な集まりでない限り、滅多にイベントに参加しない。そのハリソンが二度も祭りにきたことがあるのは全員が意外だった。
しかしティアラから続けて「どんなことが楽しかったですか?」と尋ねれば、ハリソンは思考を巡らせ視線を浮かせたまま固まってしまう。
祭りに来たことは二度ある。しかしどちらもクラークに誘われて来ただけである。一度目は祭りに案内されただけだがクラークとの会話の方が印象深く、二度目はクラークからの紹介で祭りの裏路地警備を担っただけだ。違法薬物の売人検挙だったが、結果運良く自分のいた路地が逃走経路になったお陰で警察への逮捕協力もでき、クラークとロデリックに褒められた……までがハリソンの思い出である。
どちらも全く祭りの記憶ではない。
「……検挙です」
「「けんきょ??」」
淡々と告げるハリソンのあまりに省略した言葉に、王女二人が思わず言葉を合わせた。
しかしそれ以上説明する気もないように口を閉じるハリソンに、アラン達もなんとも言えず苦笑う。ハリソンの思い出ばかりは流石に理解できないが、ハリソンが祭りに祭りらしい記憶を持っていないのだろうことは察せられた。
アーサーも「ハリソンさん一体どういう記憶なんすか」と追求するがハリソンからは「売人を検挙した」としか答えられない。祭りの出店で何か食べた気もするが、それすらもうろ覚えである。
進行方向に目を向けながらも王女達相手にも淡々と答える同学生に他の騎士候補生徒達も気まずさを感じ注視する中、唐突にハリソンの表情が変わった。
瞼が更に大きく開かれ、的確に遠方を捉える。ハリソンの表情の変化に、振り返っていたプライド達も正面へ向き直ればいつの間にか目的地が見えてきたことに気が付いた。
七夕祭りのメインであり、王族として彼女達が毎年訪問する会場だ。
既に王族の訪問を読んでいた取材陣や野次馬も待ち伏せ、めざとくプライド達にカメラを向ける。
本来一般人も集える会場だが、今の時間帯だけは一時的に騎士により入場の人数規制が行われていた。あくまで一般人にまじり訪問するプライド達だが、それでも護衛しやすいように人数は絞られた。
その中で、プライドの訪問に身分証を出すまでもなく警備も彼女達を会場へと通した。特別に通された彼女達に、一般客も悲鳴や歓声をあげ携帯を向ける。
ここまでくれば、大学部によるカモフラージュも意味がなくなった。
事前に確保されたテーブルに案内されたプライド達を迎えるのは、正規の騎士である。
毎年の手順にプライド達は戸惑いも居心地の悪さも覚えずに歩き進む。アーサーすらも、比較落ち着いていた。騎士部に入学する前から、なんだかんだと理由をつけて自分もステイルの誘いで紛れ込ませてもらえている立場である。
昔はステイルの友人として隣を歩きながら、王族と並ぶことに気まずさも居心地の悪さも感じたが、今は騎士の先輩達も一緒である分むしろ幾分心強い。しかし次の瞬間、案内された先に気付けば再び全身に緊張が走った。
他の大学部候補生達と同じく目を大きく見開き口を結ぶ中、プライド達も気付いた瞬間に姿勢を正し、笑いかけた。
「騎士団長、副団長。それにジルベールさんまで」
お久しぶりです、と。彼らの一礼を受けてすぐ優雅に挨拶を返すプライド達やセドリック、レオンの直後、アーサーや騎士候補生も一斉に声を合わせた。
「お疲れ様です!!」と一糸乱れず頭を深く下げで一礼する響きに、その間だけ周囲のざわめきも飲み込んだ。現騎士団のトップに立つ二人は、騎士科の指導や監督にも赴くことのある立場である。きちんと騎士候補生達の挨拶も受け止めてから、改めてプライド達に視線を合わせる。
「お久しぶりです」と静かな声で挨拶をする二人だが、彼らが会場にいるのは偶然でもなければ、休日に足を運んだわけでもない。あくまで、任務の一環である。
「お久しぶりです。今年はまた豪華な顔触れですねぇ。大臣秘書としてありがたい限りです」
「最初からご存じだったのでしょう?ジルベール秘書官」
無表情に抑えながら、ステイルへ黒縁眼鏡の奥の眼光を鋭くさせる。人前だからこそジルベールに言葉は整えるが、本音を言えば「どうせ知っていたんだろう」と言ってやりたいところだった。
今日、自分達が訪れるのは勿論のこと、友人であるアーサーだけでなくレオンやセドリックも同行することは既に女王と王配である両親に個人的にも、公的にも伝えている。その為に今回は護衛の数も増やされ、周囲も遠巻きにも騎士の候補生と騎士が派遣された。
さらに自分達が訪れるタイミングを読んで、大臣の代理として秘書が〝視察〟に訪れることも、秘書である自分の護衛を名目にして騎士団長と副団長を祭りのメイン現場に連れてくることもジルベールには造作もないことだと理解する。
そして、ステイルと同じ思考に行き着いたプライドも、僅かに顔が強ばった。
ジルベールや騎士団長のロデリック、副団長のクラークに会えることは純粋に嬉しいが、自分達の為に多忙な三人が足を運んだのかと思うと申し訳なさもある。
例年は騎士団長といわずとも、本職騎士が数人で自分達を囲い直接警護していたのを、今年は王族の人数が増えるに反し、本隊騎士ではない候補生で周囲を固めることになったのもそもそもそは移動までの間だけでもレオンとセドリックと目立たず気兼ねなく歩きたいという自分達の希望もあってだ。
お陰で移動までは殆ど目立たず祭りの空気を楽しめたプライド達だが、だからこそ今このメイン会場では普段にもました警備が必要を判断されるのも当然だった。
いくら本隊騎士が周囲を固め、人数制限を行い、祭り全体にも整備と治安維持に出動しているとはいえ、それでも彼女達に一番近い距離にいるのはまだ本隊騎士としての経験はない候補生なのだから。
子どもだけの移動に、せめて会場内の指揮と警備を彼女達がいる時間帯だけでも騎士団のトップを出動させるべきだと考えるのはジルベールだけでもない。王族に何かあれば、国を支える上層部全体の責任として国中にやり玉に挙げられるのだから。
「お忙しい中申し訳ありません……」
弱々しくプライドとティアラが頭を下げかける中、ロデリックとクラークは同時に「いえ」と手で断った。
民の前では特に、小さな綻びでもどう間違った偏見をされ疑われるかもわからない。プライド達とは昔から友好関係でもあるロデリック達だが、何も知らない民には王族とその配下であることは変わらない。
状況を説明するまでもなく察したプライド達がなんとも言えない表情になる中、そこでにこやかに口を開き話を切り換えるのはジルベールだ。
「我々もちょうど今来たところでして。視察は定期的に行っていることなのでお気になさらず。どうぞ皆様、ペンと短冊は人数分ご用意いたしましょう」
護衛の候補生の方々もどうぞ、と。プライド達王族を始めに、候補生達にもペンと短冊を一つずつスタッフに配らせる。
ここまでの片道と違い、警備も完璧に敷かれた会場内は近距離に本職騎士が何人も集い、王族の護衛にと目を光らせている。ここまで無事に問題無く王族を護衛しきった彼らへの褒美でもある。大勢の参加者の為に用意された大量の竹の中、王族の為に用意された一本に彼らも共に飾ることが今ならば許される。
ジルベールが今思いついたかのように許可を望めば、プライド達もまた迷わなかった。
テーブルの数は限りがある為、王族だけの使用に留まったが、短冊程度の大きさであればペンだけで書くのも難しくはない。
アーサーは友人枠としてステイルに隣も誘われたが、無言で首を振り断った。例年のようにある程度人数規制されても大勢の中であれば大して目立たないが、流石に今の王族が五人と騎士団長もいる中で自分もテーブルを使っては悪目立ちしてしまう。
メディアの露出が学校で禁じられているとはいえ、王族と親しい上に騎士団長子息でもあるアーサーは既に知っている人間には顔も通ってしまっている。
遠慮を示し、ぴっしりとカラム達の傍でペンと短冊を握るアーサーに、プライドは少し残念そうに眉を垂らしたがそこで諦めた。一緒にこうして今年も七夕祭りに来てくれただけでも充分だと思う。
「せっかくならジルベールさんも是非。騎士団長と副団長もいかがですか?」
「!良いですねっ!!是非一緒に同じ竹に吊るしたいですっ!!」
「僕も、どんな願い事を書かれるかも気になりますので」
プライドからの提案に、ティアラとステイルも迷わず同意する。
ステイルはにこやかな笑顔を向けながら、最後には敢えて声を低めつつジルベールだけに目を合わせた。単なる誘いだけでなく、ステイルからの若干の挑戦的な促しにジルベールも笑顔で肩を竦める。
プライド達からも満面の笑みの希望と、ステイルから「断れ」ではなく「ご立派な内容でも書いてみろ」と言わんばかりの挑戦に、応えないわけにもいかない。
スタッフに合図し、自分とそして背後に立つロデリックとクラークにもペンと短冊を配布した。二人同時に視線も手も塞がれるわけにはいかず、先にクラークが纏めて二人分受け取った。
どんな願いにしようかとわくわくと敢えて今考えることも含めて楽しむ王族と、そしてまさか自分達まで書く流れになるとは思わずいくらか戸惑いと悩みも抱く候補生達と違い、大人である彼らは決めるのも早かった。
「よし、私は書けた。ロデリック、お前の分も良ければ代筆しようか」
「いやすぐ終わる」
最も早かったのは、ロデリックを待たせたクラークだった。
自分の分をスタッフに手渡し、ロデリックにペンと短冊を手渡せばそこで両手が空いた。クラークが何を書いたか少し気になり、その一瞬で軽くクラークの短冊をスタッフに回収される前に見れば思った通りの簡素なものだった。
〝良い七夕になりますよう〟と、この上なく七夕らしい内容に、ロデリックは「それか」と小さく呟いた。騎士団演習場にも短冊と竹は置かれ、有志で飾ることもできるが、クラークは勧められなければ飾らない。
そして各地で今回のように護衛の立場で「是非ご一緒に」と勧められる度、クラークが書く内容は同じようなものである。「良い七夕に」「晴れますように」「知人友人家族が健康に」とその場にある程度は合わせつつ、どれも波風立たない内容が多い。騎士団演習場や自分やロデリックの家ぐらいならばまだしも、公に見られる場で具体的な願い事を書くことはしない。
そして、彦星と織り姫に本気で頼るクラークでもない。あくまで七夕の醍醐味程度の認識だ。
そしてロデリックもまた、クラークからペンと短冊を受け取って十秒もかからなかった。書き終わりすぐ、スタッフに手渡し両手を空けることを優先する。
〝騎士団安泰〟と書かれた短冊は、クラークの一言よりも更に短かった。ロデリックの短冊もしっかり横目に見たクラークは彼も彼で相変わらずだと、くっくと喉を鳴らして笑ってしまう。
短冊への効果の認識こそ自分と同じ程度だと理解しているが、ロデリックの場合は真面目な願いではある上に、どこでも必ずその内容で通しているから面白い。
要人警護の同行で短冊の記載を求められるのが公然の七夕祭りであろうとも、政治家の会食パーティーであろうとも、学園であろうとも、要人訪問の老人ホームであろうとも保育園であろうとも、自分の家であろうとも変わらない。
騎士らしい内容の為、どこに読まれても問題こそないが、せめて子ども向けにはもっと柔らかな内容にしても良いとも思う、しかし、それも含めてロデリックの良さでもあれば、クラークも笑うだけで本気で直せと提案しようとは思わない。
早々に手が空いた二人に、そこで候補生の一人が歩み寄ってくる。
王族も悩み吟味し考えている中、候補生達の方がむしろ雑には考えられない。純粋に自分の願いを絞るだけでなく、王族に見られても恥ずかしくない、騎士団長副団長に見られても、そして〝王族と同じ竹に吊るすことを許された騎士候補生〟としても恥ずかしくない内容を考え立ち止まる中、一人動いたのはハリソンだった。
遠目でも誰より先にクラークとロデリックの存在に気が付いたハリソンは「お疲れ様です」と最初に挨拶と共に起立正しく頭を下げてから、二人両方に向けて短冊とペンを差し出した。
「どうぞご使用ください」
「…………」
「……ハリソン。言いたいことはわかるが、そこは自分の希望を書いてくれ」
自分達は既に全員の目の前に書いたにも二枚目を渡してくるハリソンに、彼がそれを見過ごして譲ろうとしている訳ではないはずとやや疑問に沈黙で返すロデリックに代わり、クラークは半分笑いながらも困ったように断った。
ハリソンが短冊に自分の願いをわざわざ書く必要性を感じていないことも、そこで無難な内容を書けるほど器用な人間でもないことも理解する。
今までも七夕に連れて行ったところで短冊には「必要ありません」と即答したハリソンだ。そして、願掛けに興味がないハリソンが、自分の願いの〝枠〟を自分かロデリックに譲ろうとしてくれているのも理解はした。
しかし、短冊はそもそもそういう譲り方をされるのは子どもまでである。
クラークの言葉に「ありません」と断るハリソンは、本気で書くことが思いつかない。
自分の願いといえば当然将来の展望である騎士になることだが、そんなのは星や、自分と恩も縁もない夫婦へでもなく自分の実力で獲得すべきだと考える。
そしてクラークもハリソンがそう考えていることは聞かずともわかるからこそ返答に迷った。こんなマスコミや野次馬が大勢見ている中でさえなければ「書かなくても良い」と今までのように言えたが、今は小さな足並みでも揚げ足を取られる世の中である。
こんなことになるなら、事前にハリソンに短冊用の内容でも考えさせるか与えておくべきだったと反省しつつ、クラークは笑い混じりの溜息を吐いた。
「大きなものでなくて良い。最近のことで先輩からでも指導者からでも同級生からでも注意されて覚えていることは?」
「……通知に返事をしろと」
「それが良い」
ハリソンならば何かしら注意をされることも珍しくないだろうと読んだクラークへのハリソンの返答に、ロデリックも短く返した。
ハリソンと個人的な連絡は取っていないロデリックだが、彼の返信の遅さはアーサーから聞いて知っている。クラークにはすぐ返事をするというのに、騎士団も学内でも全てのグループでの会話に通知があってもすぐ確認しない。そして通知がきていたことも忘れる。
今後、候補生から本隊騎士になれば報告連絡が今以上に必要になる。
直接の会話だけでなく、近代通信機器の多用も必須である。将来、実力だけみれば有望な騎士になるハリソンには必要な習慣であることは間違いない。
ロデリックからの肯定に、ハリソンもそこですぐ決定した。尊敬するロデリックに続くクラークからも笑いながら「そうだな」と後押しがあれば間違いない。〝通知に返事〟と内容を決め、「ありがとうございます」と二人に頭を下げてから再び騎士達の列に戻っていった。
「ハリソン。勝手に一人列を乱すな」
「書くことでも相談しに行ったのか?」
一人突然列から出たハリソンに注意するカラムに続き、アランも笑いながら予想する。
結果としてアランの言う通りにはなったハリソンだが、返事はせずただペンを走らせた。手の平ではただでさえ書くのも面倒な為、誰かに読まれることを配慮しない大きさでの殴り書きだったが、至近距離にいるアランにはしっかり読めた。
途端に声に出して大笑いするアランに、アーサーも「何書いたんすか?」と尋ねれば、書き終えたハリソンも無言でアーサーに掲げて見せた。殴り書きで読みにくい字だが、それでもアランと同じくひと目で読み切ればアーサーとそして近くにいたエリックとカラムもそれぞれ深く頷いた。ハリソンにしてはまともな内容とまで思えば、やはりアランの言う通り副団長の指示だろうと確信する。
そもそも何度注意しても直さないハリソンが短冊に書くほど気にするとも思わない。
「自分もそれくらい具体的な内容の方がいいでしょうか……」
「いや、充分アーサーも具体的だって。良いじゃんお前らしくて。カラムみたいに具体的過ぎても苦労するし」
想像以上にちゃんとした内容のハリソンに、アーサーが書き終わった自分の短冊をまじまじと見てしまえば、アランが軽く肩を叩いた。
毎年プライド達と七夕祭りと短冊にも参加させてもらっているアーサーは、毎年書く内容は変わらない。「立派な騎士に」とその願いは騎士科に入学しても、そして今後大学部にまで進学しても騎士になるまでは変わらないと思う。
自分にとっては変わらない一番の代表的な願いだからこそ、願い事関連のものには決意表明も含めて必ず同じ内容を書いているアーサーだが、この願いは今この場にいる候補生達も同じだと思えば、もう少し捻った内容にすべきかとも書き終わった今少し悩んだ。
しかしペンで書き終えた今、直すわけにもいかずだからといってもう一枚書き直しの短冊を貰うのも気が引けた。小さく追加を書こうとも考えたが、騎士になるだけでも大きな願い事なのに追加は少し欲張りな気もした。
しかしアランに言われるままに「カラム隊長?」とカラムの方に首を向けてみる。
「アラン、私を巻き込むな」
アランに短冊を見られたことよりも、会話に巻き込まれたことに眉をつり上げるカラムだが、アーサーからの視線に気付けばまだ書きかけの短冊を見えるように差し出した。エリックも気になりカラムに一言許可を得てからアーサーと共に並び見る。
〝今年は騎士候補生徒同士の練習試合による怪我が多くなっている為来月の高等部との合同練習試合と今年の王国騎士団との模擬試合でも大きな怪我も病気も事故もなく無事に終えられますように〟と長い文章と、細かく学園の正式名称と学園の住所まで記載している。
小さな短冊に、びっしりと細かく書かれた文字はカラムの性格が滲み出ていた。
自分の名前すら面倒がり省略したハリソンとは対照的な出来である。カラム自身、短冊の効力を本気にしているわけではないが、こういうのは書くならしっかりと書くべきだと考える。しかも今回は王族と共に公然に並べられるであれば決して恥ずかしい内容など書けない。
ハリソンの短冊に続き、カラムの短冊に余計に自分の願いの大まかさに自信を失うアーサーに「大丈夫だって」と笑いながらアランが全員に見えるように書き終えた短冊を見せる。
配られた候補生徒の中でも書き終わるのが早かったアランの内容を、カラムは見るのを悪い意味で一瞬躊躇った。
「……アラン先輩、これは短冊よりも寮に直接希望出した方が良いんじゃ……?」
〝寮の大盛りとおかわりが増えますように〟と、堂々と書かれたアランの短冊に、アーサーは半笑いを浮かべてしまう。
まさかの騎士とは全く関係ない内容である。
エリックもこれには苦笑する中、しかしこの上なくアランらしい内容だと思う。実際、寮でいつも大盛りを注文した上で炭水化物のおかわりも二度はするアランを思い出せば、確かに必要な願いだと思う。
学生寮での食堂に栄養管理を任せているアランは、その上で間食もする。寮でのおかわりは回数も決まっており、大盛りの量も普通の寮よりは圧倒的に多いが、それでもアランを含む食欲旺盛かつ運動量の多い生徒には満腹にはほど遠い。
特に、個人演習も鍛錬も部活も圧倒的なアランは、当然腹が減る速度も尋常ではない。エリックも騎士科の中では平均量で、量の食事もおかわりを入れて足りているが、地元の友人と比べれば圧倒的に食べる方である。
アーサーの言葉に「いやそこまでするほど不満はねぇし」と笑うアランに、カラムもそこでとうとう短冊を横目で見る。直後には眉間を押さえ、前髪を払った。
寮内に要望書制度もある上に、アランは間食も空腹だけではなく単に外食を楽しんでいる部分もあることも知っている。
たとえ寮の食事が倍量になろうとも、間違いなくアランは間食の大盛りラーメンも焼き肉食べ放題も牛丼特盛も特大バーガーもやめないと断言できた。
アラン自身、悪ふざけしているつもりはない。ただ、短冊に書く程度の願い事でかつ人に見られても良いくらいでパッと思いつくのがそれだった。安くて量の多い間食も好きだし寮の食事量に文句というほどのものは本気でないが、学生寮の食事は美味くて栄養面でも大分助けられている為、量が増えてくれればそれだけ良いと思うのも本心である。
野菜が嫌いなわけではなくむしろ全然好きな部類だが、自分がちょうど食べようと思う間食は野菜も少なければ栄養バランスが悪いことも自覚している。
「アラン。お前はもう少し騎士候補生としての自覚を持て。もしくは遅刻と欠席と課題を落とさないように願え」
そして実行しろ、と。カラムからの手厳しい言葉に、アランは最後は少しだけ笑顔が苦くなる。
騎士関連の授業は好きだが、関係ない必須科目に関しては講義はサボることも覆い。単位を落とさない程度に加減はしているが、真面目に全科目全て出席しているカラムに注意されるのが大学部になってからずっとである。
しかし騎士に関係ない必須授業はなかなか受ける気にはならない。その分部活や演習、そしてバイトの方が有意義だと思う。そして、……実際に単位を落としかけてカラムに怒られたことも数度ある。
出席数ギリギリでうっかり風邪を引いたことも、授業内容がわからず課題でカラムに助けられたことも多い。こればかりは今もカラムに指摘されると言い返せない。
アランの短冊に、少なからず自分の短冊への自信を取り戻したアーサーは小さく息を吐いた。
やっぱこれでも良いか、と思ったところでエリックも笑いながらアーサー達に見せた。自分も全員に見せてもらった分、自分も、見せるべきだと判断した。
「自分もこんなもんです」
〝候補生全員が騎士になれますように〟と書かれた願いは、アーサーよりも少し欲張りで、そしてアーサーと同じ方向性の願いである。
それを見た途端、とうとうアーサーも顔が緩んだ。「ですよね」と言いながら、自分も次からはそう書こうと決める。騎士に一番なりたいのは自分だという自信もあれば、叶うなら候補生全員が一人もこぼれ落ちることなく騎士になって欲しいと本気で思う。
背景事情や怪我病気資金や心身の挫折などの問題さえなければ、全員が騎士になる未来も夢ではない。カラムもエリックの短冊は安心して目を向けられる分、読んだところでアーサーが自分にも見えるように持つ短冊の願いと並べて「二人とも良い願いだ」と評した。
騎士になるのが今の自分達の最大目標でもあるのだからそれを願うのは全く恥ずべきことでもおかしいことでもないと思う。
今でこそ、願い事や願掛けも叶えば幸運程度の感覚で書くエリックだが、……騎士科に入れるまでは本気で縋る思いで書きまくったことを今でも思い出す。
七夕でも絵馬でも願掛け関連は全て騎士科だった。中等部入学試験で浪人するわけにもいかず、普通科から高等部でようやく転科できるまでは願掛けにはむしろかなり本気だった。
候補生達のほとんどが書き終えたところで、スタッフが回収する前に騎士達で呼びかけ合い一箇所に纏めだす。カラムも集め出したのを気配で感じたところで急ぎ続きを書ききり、回した。
「おや、ステイル様はもう書き終えられましたか?」
「ええまぁ。ジルベールさんはどのようなご立派な内容を?」
少なからず時間を気にして取り組んだ騎士候補生と異なり、王族がもっとも時間をかける中最初に書き終えたのはステイルだった。
にこやかに話しかけるジルベールに、同じく社交的な笑顔で返すステイルは盗み見させないように手早く短冊をテーブルの上で裏返した。
先にお前が見せろと、無言のまま声色だけで示すステイルに、ジルベールも彼の言うことがわかっていたからこそ書き終えた今もスタッフに預けずに短冊を手に持ったままだった。
どうぞ、と。にこやかな笑顔のまま短冊をステイルに差し出せば、ジルベールの願いが気になるプライドとティアラも殆ど同時にペンを止め、顔を上げた。
ジルベールとは今までも家族ぐるみで何度か七夕を楽しんだことはあるが、どんな内容なのかはその時と場所で異なる分気になった。ジルベールが最も本心の願いを書くのは、自分の家か王族の家にある、部外者には誰にも見られない短冊にだけである。
今回の短冊はと半ばわくわくと興味いっぱいに覗くプライドとティアラはその直後、……苦笑に近い表情で〝ステイルを〟見た。
〝家内安全無病息災〟という言葉に、姉妹の予想通りステイルの眉は微弱に痙攣するように震えていた。
「………年相応の良い願いですね?」
「ありがとうございます。もちろん、ステイル様そして王族の皆様もそして国民全土に向けての願いだと判断して頂いて結構です」
定番王道の願い事が、一言で国規模のご家庭への願いに言い換えてしまうジルベールに流石だと思いつつ、プライドは敢えての書き方だと理解する。
ジルベールの願いは基本嘘や建前ではなく、きちんと本人の願いが含まれてはいるがそれでも人の目を気にして考えているところがあるといつも思う。
身内だけの中では「生涯、民の為に尽くせますように」や「家族が幸せでありますように」と書くジルベールだが、ステラの授業参観では「世界十の子どもたちが幸せでありますように」と書いたと聞いた時のステイルの表情をプライドもティアラもそしてアーサーも未だに忘れられない。
本心なのは間違いないが、それでもステイルにはジルベールの本心も見せずに上手く化ける綺麗過ぎる建前用の書き方が感心を通り超して薄気味悪かった。
秘書としての腕の処世術も謀略家としての腕は認めているが、だからこそ願掛け程度でも徹底するジルベールには子どもの頃は色々腹立たしい想いも多かった。なにより今、ジルベールの敢えての書き方が、まるで〝読まれた〟ようで余計苛立たしい。
「ステイル様はいかがでしょう」
そして今のステイルの口は笑いながら冷ややか名眼差しも、にこやかに受け入れるジルベールは予想通りと言わんばかりだった。
やんわり希望をすれば、ステイルも悪態をつきたい気持ちを抑えて裏返していた短冊をまた表に戻した。
〝学業成就〟と短く書かれた文面は、完全にジルベールへの敗北を認めているようなものだった。
完全に被せられた、と。ステイルは顔を反らしながら舌打ちまでしたくなる。
180度人の目があるからこそ、無表情で抑えるが正直ジルベールだけを理由に短冊を今すぐ書き直したい。自分もまた、人の目を気にして願掛けの内容も変え工夫している。
学業成就は、学生としては当然の内容でありどう深読みされても問題ない無難な内容だ。将来叔父のように、プライドの優秀な補佐になるべく勉学に務めたいと思うのも本心だ。しかし、せめて、この書き方だけは直したいと心底思う。まさかジルベールにこんな一手を討たれるとは想像もしなかった。
悔しさを表面に出さないように表情筋に最新の注意で無表情を維持しつつ、顔を背けたまま別のテーブルへとやや必要以上に声を張る。
「レオン王子、セドリック王弟はいかがですか?」
ジルベールの顔をみれば間違いなくにっこりとした勝利を笑みを浮かべられているだろうと、話題そのものを変える。
プライドとティアラはまだ悩み中だったことも同じテーブルで知っていた為、別のテーブルで記入するレオンとセドリックを頼る。この場では大声でアーサーも呼びつけられない。
ステイルからの呼びかけに、レオンとセドリックも視線を上げる。ちょうど書き終わったところだった二人も、ペンを置き短冊を手にステイル達のテーブルへと合流すべく歩み寄った。
まだ考えあぐね、二人の意見も聞きたいプライドは白紙の短冊のまま二人に振り返り、ティアラは思わずぺたんとステイルのように裏返す。まだプライドと同じ無記名だったにもかかわらず、無意味に裏返したティアラにプライドは小首を捻りまた二人に向き直る。
ステイルからの問いに答えるべく最初に口を開いたのはレオンだ。
「僕は普通かな。〝アネモネ王国とフリージア王国の変わらない友好関係〟だから」
今はフリージアの世界的代表とする学園の社交科に留学しているレオンだが、アネモネ王国の第一王位継承者である。
レオンらしい完璧な願掛け内容はレオンの本心もありつつ、フリージア王国側の報道に載せられても胸を張れる内容でもある。まるで見本と言わんばかりの願掛け内容に、プライドもゆっくりと大きく頷きをする中、しかしレオンが個人的に願掛けを書くならその時はアネモネ王国の平和と躍進と書くのだろうともわかった。
短冊に関しての願いに効力は期待しないレオンだが、同時にこういう行儀は大事なものだと思う。
願いも叶うことを前提で、そして形に残す以上は人に見られることを大前提に考える。自国であるアネモネ王国が最も愛しく第一に考えるレオンだが、本来このくらいの願いごとイベントならばもっと身近に「プライドと夏休みに会えますように」や「またフリージアの七夕に来れますように」くらいでも良いとも思う。
しかし、誰がどう見てどう解釈されるかもわからない以上、願いは勘繰られる心配のない内容にするに限る。自分の本心や願望の程度は様々あったものこ、それを形に残す以上自分はある程度の責任のある立場なのだから。
王族の立場で、さらには異国の行事に訪れている以上、むしろ自分にとっても他人にとっても軽い願いを書くわけにはいかない。
毎年真面目に願い事を一つに絞って考えるプライドやティアラを可愛いと思う反面、セドリックくらいの願いもまた自分は参考にすべきとも羨ましいともレオンは思う。
「俺はあまり熟考せず書いてしまった。少々個人的なことも書いたが……」
レオンと同じテーブルで既に互いに願いも隠すこともなく見せ合っているセドリックもまた、短冊をプライド達に見れるように掲げて見せた。
〝故郷の兄達と民が元気でありますように〟と、裏表や含みを勘繰る方が野暮だと言わんばかりの純粋な内容はレオンも関心させられた。
書き方や読む側のひねくれによっては「ハナズオだけが大事なのか」と言われかねないようにも読めるが、しかし兄達を最初に置いているお陰で彼の善性が滲み出ている。
セドリックは短冊への願いごとはあまり信じてもいない。願う先がチャイネンシス王国のヨアンの信じる神とも違う相手であれば余計にだ。
しかし国を出て留学を決めた時点で「信じる相手でも信じられない相手でも、頼み事をするのならきちんと頼む側の立場である意識と敬意は忘れちゃ駄目だよ」と教えてくれたのもヨアンである。
自国の信仰を大事に想うヨアンだからこそ、他国の信仰も願掛けの形も決して穢してはならないものだと知っている。だからこそ、異国で様々な信仰と文化に触れることになったセドリックに、強く言い聞かせた部分でもあった。
だからこそセドリックも、効果の有無はわからずとも誠心誠意自分の心からの願いを書くと決めている。
頼み事をするのに、自分の本心ではない願いをすることがどれほど無礼で愚かなことかは、今の自分は喉を掻き毟りたいほどに思い知っている。「ティアラと夏休みに会えるとうれしい」とまで個人的過ぎる内容は書かない程度の配慮もできた。
「素敵ね」とセドリックの願いも読んで微笑むプライドだが、隣のティアラは唇を結び、口の内側を小さく噛みながら必死に平静を保った。
願い事を三つほど考えて言葉選びも含めて悩んでいたティアラだが、やはり書くのを悩み続けておいて良かったと心の底から思う。少なくともたった今「お姉様も兄様も民も皆元気でいられますように」と書くのは止めた。
このまま合流したセドリックの目の前で「勇気を出せますように」と書くのも考えるだけで顔を熱く気恥ずかしくなり、候補の一つである〝ずっと皆で一緒に仲良くいられますように〟とペンを走らせた。
ティアラが急に内容を決め書ききったところで、プライドも一気に慌て出す。自分だけがまた一文字も書いてないと焦燥しつつ、表情筋に力を込めすぎて眉間に僅かに皺が寄った。
「私も〝学業成就〟ぐらいが良いかしら……?!」
「無理して決めるものでもないよ。プライドなら気楽で良いんじゃないかな。一つも浮かばないのかい?それとも候補が?」
「多すぎてっ…………!!!」
うぐぐぐっ……とレオンからの問いに声を抑えた分力一杯感情を込めるプライドに、思わずステイル達も笑ってしまう。
もう高校生なのにここまで悩むのもプライドらしいと思いつつ、願いが多いことは良いことだと思う。
プライド自身、当然王女としてそして民は取材陣に読まれる可能性もふくめて吟味する必要も理解している。その上でどんな願いを書くべきかと、誰よりも自分に厳しく内容を選んでしまうと決めきれない。
これが自分一人だけ来ていた七夕の短冊であれば「フリージア王国の民の平和」や「立派な女王になれますようjに」と書けたが、今回はレオンやセドリック、そして騎士候補生にロデリックやクラーク、ジルベールとも並べる短冊である。全員がどんなのを書いたかもわからないが、それでも自分も彼らと一緒に飾られるなら少しでも自分らしい願いや内容にしたい気持ちがあった。だからこそ決められない。
しかし、子どものようにいつまでも悩んでいられないと、プライドは思考を巡らせる。
慌てれば慌てるほどに書けることが絞れなくなる中で、ようやく決めた一言をペンで走らせた。結局は自分の願いはどうにもこうにもこれである。
プライドらしい、そして結局は例年と同じ願い事に、見守っていた全員が納得の表情を浮かべる。
無事全員分の短冊がスタッフの手に渡り、竹の頂へと飾られ年中行事でもある七夕参加を終えた。
最後にレオン達も含めて広報向けの記念写真を撮ったところで、プライド達の公務兼七夕は完了した。
行きと違い、帰りはどうしても王族として民衆の目がある為、本隊騎士も堂々と傍につき、ジルベールの配慮により騎士候補生と共に帰りは秘書とそして騎士団長、副団長も堂々と護衛についた上での帰還である。
当然人数が多くなる分、今度は周辺を見回す余裕もない。護衛達の隙間を縫って見上げても、報道や野次馬やファンによるごった返しに屋台で働く側まで店を置いてカメラを向けてくる為、祭りらしい風景は祭りの飾りと店の看板程度である。
「来れて良かったよ。フリージアの祭りも楽しめたな」
「私もです。装飾が特に国民性が出て興味深かったです。出店の料理も大変興味深かったので、あとで従者に頼もうかと」
「!良いわね。ティアラ、ステイル、私達もマリー達にお願いするのはどうかしら?」
祭りの空気は楽しめたし、と。あとは食べ物を楽しむだけだと提案するプライドに、ステイルもティアラも殆ど同時に賛成を返した。
ここで立ち止まることは祭りと店の迷惑になる為できないが、祭りの食べ物も買い寄せる程度は別段禁止はされていない。
セドリックとプライドの話に、レオンもまた「そういうのも良いね」と肯定する。
自分も従者に頼もうかと考えたところで、ふと思いついたまま懐から携帯を取り出した。殆ど画面も見ずに早打ちし、再び懐へとしまった。
…………
「ヴァル。レオンがこの後遊びにこないかだって」
「あー?祭りまで行ってなんでわざわざ行ってやらなきゃならねぇ?」
「出店の食べ物色々用意してくれるそうです!」
セフェクとケメトはそれぞれの携帯を手に、ヴァルへと言葉を書ける。
プライド達が祭りに来ていたことは知っていたが、わざわざ人通りが多くなる中に突っ込む気にもなれない。どうせプライド達の浴衣姿は、セフェクとケメトに浴衣を貸すから連れてこいと言われて一度見た後である。
自分自身もセフェクとケメトに「貸して貰えるんだから良いじゃない!!」「これとか似合うと思います!!!」と散々巻き込まれ、なんとか着苦しさのない甚兵衛で甘んじたがそれでも疲労が強い。
そして今も、出店の食べ物を吟味してはあれが欲しいこれがしたいと二人に引っ張り回されていたヴァルは、もうさっさと帰りたいくらいである。
祭りの食べ物の味は特別美味いとも不味いとも思わなければ、ただただ高い。それなのにセフェクもケメトも全てに目移りする為、結局は祭りの出店という出店を全て回った上で二週目が待っている。
出店の生ぬるいビールよりもと、今も自販機でビールを買っては飲むヴァルは自分の携帯をわざわざ見る気力もなかった。
「もう短冊も吊ったんだから帰るぞ。食いたいもの食って帰らせやがれ」
「出店でお勧めの食べ物買ってきてくれたら代金もレオンが払うって」
「僕らの分も奢ってくれるそうです!!僕!さっきの叉焼メロンパンとジャガバターめんたいとイカ焼きと綿飴とお面も買っていって良いですか?!」
「私さっきの光るジュースとシロップ掛け放題のかき氷とイチゴ飴とあとたこ丸ごとのたこ焼きと……」
だああああうるせぇ!!!と、今まで自分の小遣いから吟味していた二人が急激に欲望を出してきたことにヴァルも負けない大声で怒鳴る。どうせ二人ともその全部を買っても食べきれるわけがないことも今までの経験で知っている。
しかしこんな無駄に高い店で無駄な出費もしたくないことを考えれば、もうヴァルも諦めもついた。こうなれば大量に買うだけ買って、後でレオンにゼロを一つ足して請求するに限ると決める。
「行くぞ」と一言告げれば、それだけで二人も意味を理解し「やった!」と両手を上げて跳ねた。
「僕!ぼく短冊のお願い一つ叶いました!出店の食べ物いっぱい食べたいってお願いしました!!」
「私も!!」
「テメェら二人で十枚は書き殴りやがったんだからどれかは当たんだろ」
安い願いしやがって、と。ヴァルはうんざりした顔で舌を打つ。
プライド達と同じく短冊に願い事もしてきたセフェクとケメトだが、メインステージではなく祭りの各所に置かれた短冊エリアの一つで済ませた。短冊もペンも大量に置かれた上で「ご自由に」とされた中、セフェクもケメトが五枚は書いても指摘するスタッフはいない。他の祭り客でも、書き直しを含めて一人で十枚以上書く人間もいるのだから。
「ヴァルも書けば良かったのに」
「あ゛ー?〝来年は絶対来ねぇ〟なら書いてやっただろうが」
そして破り捨てられたと、そこまでは口にしないヴァルだが、途端に破った張本人に「あれは叶わなくて良いの!!」と高い声で怒鳴られた。
ケメトも、去年も同じことを書いたヴァルと破いたセフェクを思い出せば、今年は別に慌てない。たとえ書いても書かなくても、ヴァルは絶対また来年も自分達に付き合ってくれると知っている。
ヴァルとしては、もう二人の我が儘に引きずり回された後である。
ジルベールからの依頼も後回しにし、放課後に二人をプライド達に着付ける店にまで連れて行き、自分まで巻き込まれ着替え、そして国でも一番大きく、つまり騒がしく人混みも警備も面倒な祭りの七日当日に連れ、出店も二周のところだ。
これで短冊まで自分が付き合ってやる筋合いはないと心底思う。もともと、願い事を人の目に触れる場所に晒すという行為自体が好きではない。願いなど叶うわけがないとも思っていれば、自分の願いをどんなものでも読まれることに吐き気がする。特にこういう祭りでは、テレビでもネットでも勝手に映像や画像が晒されるのだから余計に不快である。
セフェクに破り捨てられた一枚も、無理矢理ペンを持たされたから破られること前提で書き殴っただけである。
「今年もたくさんお願いすることありました!出店のとあとは〝ヴァルみたいに格好良くなれますように〟と〝ヴァルとセフェクといろんなところに遊びにいけますように〟と〝ヴァルとセフェクが風邪したり怪我しませんように〟と……」
「私も私も!!〝来年も七夕皆でこれますように〟と〝ヴァルが深夜に帰ってくることが減りますように〟と〝ヴァルとケメトが怪我したり風邪ひいたりませんように〟と〝ケメトが迷子になりませんように〟とあと……」
俺を巻き込むな、と。今日一日散々言った言葉を、もうヴァルは言う気も失せた。
既に二人が願いごとに自分を巻き込むことも毎年のことである。純粋に願い事がきっと叶うと信じるケメトと違い、セフェクは本当に叶うかは半信半疑に近い。だが、叶えて貰えるなら叶えてほしい願い事はちゃんと願いたい。
今自分達がこうしていられることも奇跡みたいなものなのだから、可能性という可能性は全て埋めておきたかった。
ぐらぐらと身体を揺らしながら気怠く歩くヴァルに、ケメトもセフェクも逃がさないと言わんばかりにその手を両側から握り繋ぐ。
一番最後の願い事が毎年同じで、そしてヴァルも言わなくても知っているとわかった上で二人は同時に声を合わせ、張り上げた。
「「〝ずっと一緒にいられますように〟!!」
ケメトとヴァルと!ヴァルとセフェクと!と、二人の声が最後には両側から少しバラけて聞こえ、両手で二人を引き摺りながら肌けた上衣を引っ張り戻すこともなくヴァルは顔を歪めながら無視をする。
もう毎年のその願いは、一番見飽きている。しかも実際はそこだけは名指しではなく二人揃って〝家族〟と書かれていることも知っている。その願いこそが一番紙の無駄だと心底思う。
そんなこと願わなくてもどうせ本人達の意思が望み続ける以上は一生変わらないと、自分が知っている。
出店のある人通りにまで突っ込めば三人の横並びは邪魔になりすれ違いぶつかり、結局はさっきまでと同じように腕にしがみつきくっついてくる。
人混みなど、いつすれ違いに攫われるか、迷子になった瞬間に連れ去られるかもわからない場所に二人が毎年喜々として望む理由が未だにヴァルはわからない。しかしこうして腕にしがみつかれる間は少なくとも二人を見失わないだけマシだと思う。問題は、これから大量に出店で買った食べ物をどう運ぶかだ。
「ティアラ達はどんな願い事にしたと思う?」
「レオンに聞いたら教えてくれるかもしれません!」
いっそレオンに金を出させるなら、コンビニに一度戻って運ぶ為の大袋でも買うかと考えるヴァルは「知るか」と一蹴する。
公の場で取材陣も来る中での王族の願い事など、それこそ他人向けに決めた内容を見せているだけでそこに中身など殆どないと考える。そんな中で書かれた願いに興味もない。
気になるならテレビでも付ければそのうちどこかのテレビでまた放送しているだろと言いながら、近くにコンビニはないかと目で探す。いっそそこの出店にも裏に置かれたクーラーボックスを一つくらい盗んでやるかとも揺らいだが、今は軽犯罪でもすれば面倒になる身である。
「少なくともどうせ一号の願いは決まってんだろ」
毎年結局はアレだと、例年いつも結局似たような願いばかりをテレビで紹介されているプライドを思い出し、ケッと吐き捨てた。
少なくともプライドの場合は、それが本人の心の底からの願いであり、そして他の王族の書いた短冊の中でも一番つまらない願いだとヴァルは確信した。
〝皆の願いが叶いますように〟と。
それが、今も昔も七夕での彼女の願いで、その性分は恐らくは永久に変わることはないのだから。
Ⅰ-100
アニメ化二期が決定致しました!!
お礼に急ぎ書き下ろさせていただきました。
本当に皆様のお陰です。ありがとうございます…!
お祝いも兼ねて、質問コーナーも実施致します。
活動報告をご確認頂けますと幸いです。
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1248483/blogkey/3464488/
◎明後日7月2日書籍11巻も発売です!
◉新作「純粋培養すぎる聖女の逆行」略して「ぴゅあ堕ち」が連載中です!
https://book1.adouzi.eu.org/n1915kp
こちらも是非よろしくお願い致します!
以上です。
皆様に改めて心からの感謝を。




