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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ140.侵攻侍女は発揮し、


「戻った。どうだ?ジャンヌとカラムさんは」


訓練所に入って開口一番に投げかけるステイルに、アーサーも「おお」と軽く振りかえる。

第一部を無事完走してから暫く、終幕挨拶を終えたアーサーだけでなく第二部を控えた団員も戻ってきていた。終幕後、客席にいるエリック達からステイルの護衛を変わる為に付いていたアランも「お疲れ」と軽く手を振りながらアーサーに笑いかける。

すぐに視線を一箇所に向ければ、プライドがちょうどカラムの手から宙に舞ったところだった。


アランに向けてはお疲れ様ですと勢いよく礼をするアーサーも、アラン達の視線を追うように振りかえる。トランポリンの時よりも遙かに浮遊時間も高さもある場所で優雅に舞うプライドは何度見ても絵になると思う。

アーサー達だけでなく訓練所に合流した団員達もその高さには思わず拍手を送る。舞台用の大テントも客がはけた今、場所を移すこともできるプライドとカラムだが練習に集中した二人は変わらず訓練所の真ん中で練習を繰り返していた。

訓練所に戻ってきた団員もカラムの特殊能力は知っているが、わかっていても空いた口が塞がらない。トランポリンもブランコも使わずに人間があんなに飛べるものなのかと、観客のような感覚で魅入ってしまう。練習する手も足も頻繁に止まった。


「自分が合流した時にはもう練習してました。多分、もう振り付けとかの打ち合せは終わったんだと思います」

「二人とも真面目だからなぁ……」

真面目な人間が揃い組むとこうなる。と、アランはアーサーの説明を聞きながら半分笑ってしまう。

ステイルもそれには思わず深く頷いてしまった。時間がないのはわかるが、既に一時間近く経過しているにも関わらずずっと躍り続けているということだ。

騎士であるカラムと、王女であるにも関わらず体力があるプライドだからこそ続く練習時間だとも思う。二人の勤勉さもさることながら集中力と体力の高さも全てが猶予のないこの状況で、これ以上なく生かされてしまっている。

「休憩は」と短く訪ねるステイルにアーサーも首を横に振る。自分が合流してから数十分経過しているが、カラムが何度か休憩をと声にかけてはプライドが「大丈夫です!」と断るを四度は繰り返していると告げる。本番まで時間も無ければ、真剣な二人を前にアーサーが横やりを入れられるわけもなかった。


その言葉にステイルは一度意識的に深く呼吸をすると同時に眉の間に力を込め、そして瞼を閉じる。

あくまで先入観を抜き客観的に頭を冷やして考えようと思っても、……目に浮かぶ。真面目なカラムに誠心誠意付き合おうそして絶対に成功させようとそれまでは甘えは許されないと考えているプライドと、そして女性であるプライドがまだ練習をしたい突き詰めたいと言っている以上男性であり騎士である自分が音をあげるわけにも、彼女の熱意に水を差すわけにはいかないと真剣に取り組んでいるカラムの心情がはっきりと。


水分補給だけはカラムからの呼びかけで二人とも取ってはいる、とアーサーからの証言にそこが同じ真面目でもプライドとカラムの違いだとこっそりステイルは思いつつ心の中で拍手する。

二人の熱量だけはアランにも、うっすらと覇気になって浮かぶほどだった。ハハハと笑いながら、練習や打合せが必要なダンスも大変だなと他人事として思う。思った以上に練習が進んでいることは喜ばしいが、このままでは二人揃って時間を忘れるだろうと確信する。

ハァ……と、プライドの真面目さと責任感の高さを昔からよく知るステイルは一度肩が傾くほど息を吐き、そして吸い上げる。「ジャンヌ」と声を張りながら、彼女達へとまた一歩歩み寄った。


「進捗はいかがですか。一度休憩を取りながら話を聞かせて頂けますと幸いです」

「!ス、フィリップ。アーサーにアランさんも。ごめんなさい、ずっと気付かなくて」

いえお二人とも集中していたようなので!!と。アーサーも慌ててプライドへ首を横に振る。

誰よりも早く急ぎ訓練所で練習するプライドとカラムを見ていたアーサーだが、あまりの二人の集中力も真剣さに声をかけるどころか遠巻きで見守るのが精一杯だった。

終幕してすぐに駆けつけた筈なのに、二人揃ってまるで戦闘中のように集中がビリビリと伝わってきた。いっそ遠巻きでじっとカラムとプライドの練習を見ていると、今後のことを考えても良い見本になると自分まで時間を忘れて観察し続けてしまった。


カラムからもステイルへ挨拶をしつつ、手の側面で額の汗を拭った。汗に濡れた前髪を整えつつ隅に掛けられた時計を見上げれば、いつの間にか大分時間が経っていたのだと今気がつく。

水休憩は取っていたが、そろそろ長めの小休憩を提案しなければと思う。頭では知っていたつもりだが、改めてプライドの集中力と体力を思い知らされる。途中からは女性とダンスというよりも騎士との訓練に近い感覚だった。


「申し訳ありませんジャンヌさん。もっと早く気付くべきでした。一度長めに休憩を取りましょう」

「あっ、いえ!まだ全然息も乱れていませんし、やっぱりさっきの三回目直後の技の完成度を全体に合わせれるようにもう少」

「ジャンヌ。俺はカラムさんにも休憩を取らせて差し上げたいです」

ステイルの言葉の直後「いえそれは」と断るカラムと「ごめんなさい!!」と謝るプライドの声が綺麗に重なり混ざった。

プライドにとってはラスボスチートとはいえ女性の自分の体力に騎士であるカラムに合わせてくれている、気遣って休みを挟もうとしてくれるとしか思わなかったが、そもそもお互い第一部の本番を終えた後だったと気付く。

いつの間にか自分勝手に考えてしまったと思えばプライドは思わず頬を両手で押さえた。じゅわっとわずかに頬に熱を感じれば、少なくとも自分の身体が温まるほどにはカラムにも同じ運動量を課していると気付く。しかも自分は踊るか投げられるかだが良いが、カラムは特殊能力ありきとはいえ自分を何度も力を調整して放り投げ、しかも常にダンスもリードしなければならない。

それを、今までも何度も休憩をと言われたのに自分が一方的に断り続けていたことを思い出せば、今度は血圧が一気に下がっていった。


そしてカラムからすれば自分の方が気付くべきだったと反省が強い。

断られても自分からもう少し強く休息をと言うべきだった。集中力を増したプライドの目が疲労どころか生き生きと「いえ続けましょう!」と輝いて自分に向けられたことと、自分自身も夢中になってしまったことを自覚する。

今もステイルが自分に休息という言葉に思わず断りを入れようとしたが、途中で噤んだ。ステイルがそういう理由で自分達に休息の時間を提じてくれているのだと理解する。


自分を恥じるように唇を結びながら前髪を指先で押さえるカラムに、アランはじっと目だけを向けながら「よっぽどやりやすかったんだなー」とこっそり思う。

騎士団の演習監督でも深夜の新兵の自主鍛錬や演習でも一人一人の不調や変化に気付き声を掛けるカラムには珍しかった。つまりはカラム自身がそれだけ他人のことではなく、自分自身のことのように集中していたということである。

アランもカラムと個人的に手合わせをしていた時に何度かは覚えがある。この一本だけ終わったら今夜は休めとカラムが言ったのに、結局明け方まで手合わせに付き合ってもらうという事故は決して昔のことでも過去だけのことでもない。

そう思えば今ここで少し突きたくもなったが、今言うと本番前にまで響きそうだと思い飲み込んだ。相手がプライドでダンス披露と決まった時は、カラムが緊張で練習も手間取るんじゃないかと少し案じたアランだったが、結果はむしろ反対だった。

頭が良い人間同士、きっと振り付けの打合せもさっさと決めて実践に入ったのだろうと察する。


「流石カラム。まだ一時間ぐらいしか経ってねぇのに大分仕上がったんじゃねぇ?」

「いや、ジャンヌさんの腕前とアンジェリカさんが考案して下さっていた大筋のお陰だ」

あくまでアランの言葉に謙遜するカラムに、プライドもいえいえと遠慮してしまう。しかしステイルから「全体の振り付けは頭に入りましたか」という確認には、プライドもカラムも二人揃って肯定を重ねた。誰のお陰かは置いてもそこは自信がある。

それは何よりです。と答えるステイルも、自分の予想よりも順調であることに安堵する。しかし一息冷静を取り戻してくれたカラムと血色が下がったプライドを前に、予定とは別の理由で決めていた言葉を続けて掛けた。


「お察しの通り、最悪ダンスの振り付けは忘れても即興できる腕前さえあれば問題はありません。団長からも承諾は貰いましたのでご安心ください。もともと急なことですし。件の空中技だけ音楽に合わせていくつか入れられればダンスは全面的にお任せするそうです」

衣装を決まり次第アンジェリカさんも合わせに来てくれます、と。ゆっくりとした口調で続けるステイルは、あくまで二人にそこまで根を詰める必要はないのだと釘を打つ為に告げる。


本当はまだ打合せが完了していない、振り付けが決まり切らなかったと何かしら練習に詰まりを感じていた場合を案じて決めていた連絡事項だったが、まさか逆の理由で使うことになるとはと頭の隅で笑いたくなる。

自分が見たのはアーサーと違い、訓練所に戻ってからのほんの一小節程度分程度の流れだったが二人の熱量とダンスの技術はサーカスのいち演目というよりも、コンサート舞台に主演で披露するつもりですかと言いたくなる域だった。

ハナズオ連合王国で行った防衛戦の祝勝会前のダンス練習でもここまで必死度は高くなかった。


大分アンジェリカさんのダンスに感化されたな、と。ステイルは一瞬だけ目が遠くなりかけた。

ダンスの種類が違うのだから比べようがそもそもないが、彼女のダンス技術は確かに大したものだったことはステイルも認めている。だが、彼女のダンスを超えることが必ずや必須条件ではない。あくまで大事なのは演目の成功と観客からの高評価だ。

二人の頭を冷まそうとするステイルの漆黒の少し遠い眼差しに、アランもバシンとカラムの肩を気軽に叩いた。


「でも良いよなぁ、ジャンヌさんとダンス。しかも思いっきりだろ?カラムもさ、せっかくなんだし覚えたなら後はもっと楽しめよ」

「お前ほど遠慮無く楽しめるわけがないだろう」

「いや俺もやれんならジャンヌさんぶん投げる技やってみたいし」

空中技と言え、と。アランの軽口にカラムも息を吐く。

確かに楽しめと言われれば一理あるとは思うが、アランのあのやりたい放題を思い出せば自分はあそこまではっちゃけることはできない。しかもぶん投げると言い方をされると、プライドに自分が乱暴な行いをするように聞こえ少し眉をアランに向けてつり上げた。あくまで今は潜入中の立場ではあるが、それでも人聞きの悪いことを言うなと思う。カラムの眼光に「わりぃ」と軽く謝るアランは悪びれもなく、そこで軽く手を振った。

彼なりに自分の肩の力を抜こうとしてくれたのだろうアランに、カラムもそこですぐに話題を変える。


「それよりもアラン、アーサー。お前達は二部の練習は良いのか」

「あーまぁ平気平気。一部でもウケたし本番も同じ感じでやれば大丈夫だろ」

「あの、アランさん。自分は一応何度か通しでやっておきたいンすけど……」


軽んじているのではなくあくまで括弧たる自信として後頭部に両手を回して答えるアランに、アーサーが僅かに背を丸めて訴えた。

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