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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ135.客席は盛り上がり、


「いやー素晴らしかった!!ジャネット君はまさにケルメシアナサーカスの奇跡だ!!」


ハハハハハハッ!と高らかに笑う団長は両手を広げ喉を張り上げた。

気が収まるまで拍手を鳴らし続けたお陰で、彼女を演者名で呼ぶ程度の配慮も回る。何度も騒がないようにと注意を繰り返したエリックも、歓声の中の今だけはこのまま放っておいた。つい先ほど興奮状態だった団長を失意の底にたたき落としてしまった後だから余計にである。


降下も早ければ、浮上も早かった団長は今でこそ他の観客と同じように明るく喝采を上げているが、ほんの数秒間とはいえ目に見えて萎れていた姿には少なからず悪いことを言ったとエリックは反省した。それほどのわかりやすい落ち込みぶりだった。

プライドとアランが揃い手を振り退場し始めても惜しむように拍手も歓声も止まらない。アンコール、と一部の観客が声を合わせだせばうっかり団長までその声に重ねようとした為、そこで慌ててエリックが口を塞いだ。

団長は気付いていなくとも、今の演目のアンコールはそのまま目の前にいる特別席の観客一名へと同義だ。


今も不機嫌そうに足を組み背もたれに寄りかかるヴァルは、ケメトと前のめりになるセフェクに腕を引っ張られながらも知らぬ存ぜぬを貫き通す。

「今のってそうでしょ?!」と具体的には伏せながらもヴァルへ直接確認しようとするセフェクに、ケメトも「今は駄目ですよ!」と止める。

しかしそのケメトもまた、演目中ヴァルが特殊能力を使い始めた時点でその腕にしがみ付いていた。二日に一度触れればヴァルが特殊能力を増強されたまま使えることはわかっていても、ヴァルとプライドの演目を応援したい気持ちでしがみつき続けた。

舞台にプライドがいて、そしてヴァルの特殊能力で活躍する姿はセフェクにもケメトにも夢のような演目だった。

しかも、ヴァルにしては珍し過ぎる幻想的な演出はセフェク達も見たことのない特殊能力の使い方だった。

「私もやりたい!」とセフェクが声を上げたが、ヴァルは聞こえなかったことにする。まずプライド並みの化け物でなければ飛び移ること自体難しい。何より、自分は二度とあんなガラでもないお膳立てをしたくない。もともと発案はレオンである。


「怒ってないかい?アランに美味しいとこ取りされて」

「アァ?わかっててそうさせたんじゃねぇのか」

そりゃそうだけど、と。レオンはヴァルに小さく肩を竦めながらそれ以上は一度飲み込み自重する。

ヴァルに締め括りを任されてからすぐに舞台上の大道具から団員配置まで確認したレオンは、高台に控えていたアランの存在にも気がついていた。自分が見つけた時には柱で飛び回るプライドに集中していたアランと目を合わすことすらできなかったが、以前から感じていた彼の察しの良さと先に見せられた空中ブランコでの身体能力や団長の評価からも、任せればなんとかしてくれるだろうと考えた。

てっきり空中ブランコでプライドを迎えにいってくれると考えての采配だったが、まさか演目内容まで変えるとは流石のレオンも思わなかった。結果として同演目とも違う味を出し、観客にも驚きを与えてくれた彼はやはり察しが良い人間だとレオンは頭の中で評する。……若干、単にプライドとくっつきたかっただけじゃないかなと頭の隅で思いながら。

今競売用に持ち込んだネイトの発明を、自分が最高額で買い取ってしまいたくなる程度には一枚に収めたい場面だった。

それこそ二枚撮れば一枚をアランに倍額で売れたのではないかと、貿易で鍛えられた交渉術の思考がうずく。


柱や螺旋階段こそ観客にも好評だったが、せっかくのプライドとの演目を最後の最後にアランへ花を譲ってしまった。

多少なりともヴァルへ悪いことをしたなとも思ったレオンだが、ヴァル本人は全く気にしていない。むしろ最後の面倒なところを回収されたのは都合も良く、どちらかというとレオンやアランに〝補助された〟ことへの不満が胃の底にたまっていた。

自分一人で解決したかったとは思わないが、レオンに頼らざるを得なかったことも騎士へ頼みの綱を任せたような感覚も気持ちの悪さがあった。

しかも結果としてアランとプライドの着地を見れば、あんな恥ずかしげもない気取り屋のような演出に結果として自分が肩入れをしたことが不快で仕方が無い。もう可能なら自分が関与したことをプライドもレオン達も含む全員に隠したいくらいには直視しがたい光景だった。

プライドとアランが、ではない。男女がいちゃつきくっつきくるくる回って拍手喝采を受ける光景がだ。気付いた時には鳥肌が立っていた。……ただし。


〝ありがとう〟


「……………………」

彼女がこちらを向いた時、口の動きで言ったであろう言葉だけは悪い気がしない。

読心術などできないが、その直後にセドリックが「今、ジャネットから感謝の言葉が」と言っていた為自分の気のせいではないだろうと考える。何よりプライドならば充分にあり得るいつもの言葉だ。

正体も、特別席の自分達との関係も隠しているのだから最後まで他人のふりをすれば良いのにと思いつつ、それができない程度には彼女も澄ました顔以上に興奮していたのだろうと思う。

少なくとも螺旋階段を駆け上り始めたプライドの横顔を思い出せば、仮面超しでもわかってしまう呆れるほどの笑顔だった。たかが階段を上るだけで燥ぐなど相変わらず中身はガキだと思う。少なくともセフェクと同列である。


「なぁ一体どうやったと思う今の土芸!!フィリッピーニによる魔術ならば彼も是非永久雇用契約をしたいものだが!!」

王子相手になに言ってやがる。

そう、団長のはしゃぐ声に振り返らず頭の中で吐き捨てながらヴァルは顔を不快に歪めた。少なくとも自分の特殊能力を〝土芸〟と呼ぶ相手には金輪際協力したくないと本気で思う。

このままステイルの手柄にして面倒ごとも全て押しつけると胸の底で決めながら、ちらりとレオンに目を向けた。プライドが退場を初めてからも変わらず滑らかな笑みで優雅に手を振り続けるレオンも、やはり自分の仕業だと団長に言う気配もほのめかす様子もない。今も団長へ口だけを動かし「難しいと思いますけれど」と言葉を返すだけだ。

そして、団長もまたこの程度では屈しない。


「二部もやってくれると思うか?!君たちも見たいだろう!!?」

「無理ですね」

「無理でしょ」

「無理だと思います」

断る。と、ヴァルが頭の中で拒絶するのと殆ど同時にレオン、セフェクそしてケメトが言葉を合わせた。

今は緊急事態でプライドだからヴァルも手を貸しただけ。本人に聞かずともヴァルがこういった演出や仕込みを好まない人間なのは明白だった。

二部も参列する予定の全員だが、たとえプライドに頼まれてももう二度と協力しないだろうと確信できた。


パチパチと拍手をしながら迷うまでも無く断じる三人に、セドリックだけは少しだけ残念そうに少しだけ眉を垂らした。

自分の目にも絵になる美しい情景だった分もう一度見たかった。しかしヴァルがそういうのを好まないということも納得できる。なにより、何度もやってヴァルの特殊能力が誰かに気付かれたら危険でもある。

そしてセドリック以上に二度目の撃沈で背中の丸みごと肩を大きく落とす団長に、ヴァルはそこで初めてハッと鼻で笑い飛ばした。

顔は舞台に向けたまま、腕だけ伸ばし奥のセフェク、そしてケメトの頭へ順々に手を置く。

ヴァルから頭に手を置かれたことに、目を輝かせた二人は正直に顔ごと視線もヴァルへと向けたがその時には既にいつもの不機嫌そうな顔だった。それでも嬉しそうに顔を見合わせる二人は、サーカスを出たら思い切りもっとヴァルがすごかったことを言おうと心の中で口には出さずに決め合う。

更に妙な視線を感じ、ヴァルは眉を寄せて目だけを向ける。見ればレオンがにこにことした笑みで自分に右手をかざしていた。それに舌を打つと、パシンと手の甲ではじき返した。

それでも満足げに手を下ろすレオンは、再び座り心地の慣れない椅子に座り直してから舞台をみやった。



「残すはカラムかな。もう少しだね」



楽しみだな、と。舞台裏の状況を想像で楽しみながら次なる演目の移行に歓迎の拍手を送った。





……




「アラン、さん!本当にありがとうございました!!」


幕の向こうに入ってすぐにプライドは勢いよく振り返った。

観客席には聞こえないように声を抑えつつ、滑舌良く告げるプライドにアランもすぐに手を振って返す。いえいえそんなと、笑いながら言葉を続けようとしたが自分よりも先に待ちかねているだろう団員やステイル達を優先してそれ以上は一度口を閉じた。まず大前提に、上手く演目を塗り替えた功績は自分ではないこともよくわかっている。


ジャンヌご無事ですか、怪我はありませんかと。ライオンの突入から様子をうかがっていたステイルとアーサーは勿論、何がどうなっているかと尋ねたいのは団員達も同じだった。

フィリップの人体消失手品と違い、どう考えても急拵えの仕込みでは説明できない事態に説明を求める。

ヴァルのことも言えない以上、特殊能力ですとも言えないプライドに変わりステイルが前に立てば、これから入れ替わり舞台に立つ演者と裏方の出動も重なり舞台袖は混沌を極めていった。

プライドの演目中はヴァルが関与してもアランが介入しても一瞬たりとも目を離せなかったステイルは、まだ彼らに何の説明もしていなかった。

舞台成功の為に演目が終わるまではただ無事に終わることを願い様子を伺っていた団員達も、まさか第一部全て終了まで待てるわけもない。


「アーサー、ジャンヌを頼むぞ。納得いくまで無事かも確認してくれ」

「おう」


まず第一にプライドにライオンによる怪我がないことを自分の目でも確かめたステイルとアーサーはそこで一息吐く。それでも、彼女が無理をしている可能性も鑑みた。


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― 新着の感想 ―
ヴァルが嫉妬しているのを初めて目撃したのかな?そしてこの瞬間、この男はまだそれに気づいていない!
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