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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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そしてやり遂げる。


「!ぇ~。……っご、ご覧ください!!トランポリンを失った今新たな演目として柱の出現!!ジャネットはどのようにしてこの試練を乗り越えるのか!!」


後押しするように、今まで黙していた進行役までも声を高らかに上げだした。

セドリック達もその名に目を向ければ、先ほどまで姿を見せなかったアーサーが進行役へ耳打ちをしたところだった。

衣装を着替えてしまったステイルと違い、仮面をつけたアーサーはまだ衣装もそのままだ。少しでも目立たないように高い背を丸めてこそこそステイルからの伝言を伝えたアーサーに、進行役もそういう演出だと開き直ることにした。サーカスで働く中で突発や即興には慣れたプロ根性で高らかに声を張る。

「妖精のように軽やかな彼女の身のこなしにご注目ください」と続けられば、事情を察していたレオン達もほっと背もたれに身体を預けた。


「なるほどなぁ……さっき見たポール渡りの柱版といったところかな」

独り言のようにレオンは隣のヴァルにしか聞こえない声で投げかける。

プライドよりも前に舞台で見たポール渡り、天井から釣り下げられたポールの橋を渡り歩く演目だった。今回は吊り下げではないが、代わりに着地範囲が全てプライドの足四つ分程度しかない。地上からの高さで判断しても空中芸に近いものである。一歩飛び移り間違えれば真っ逆さまであることは違いない。

しかも単に飛び移るだけでなく高低差もさまざまな為、バランス感覚に加えて助走なしで飛び移る本人の跳躍力も強く問われる。


よく思いついたね、と。評するレオンにヴァルは目も向けずに強く舌を打った。返事どころか反応もくれないヴァルへレオンも気にしない。頬杖を突くふりをして彼の方へ身体を傾け寄せる。声を潜めて会話するには接近するのが互いに都合も良い。

レオンが自分の方に寄ってきたのはヴァルも顔を顰めたが、足を組み直すだけでとどまった。無駄に声を大きくされて団長や周りに聞かれる方が面倒である。


「せっかくならプライドが離れた柱を崩すのはどうだい?」

「あ゛ー?」

いきなり追加提案を出してくるレオンに、ヴァルもそこで目を向ける。

面倒なことを言われるとは思ったが、現状の変更案にはヴァルも少なからず耳を傾ける気になる。レオンの言うことを聞くのは少し引っかかるが、しかし自分もまたサーカスの演目に相応しい舞台を構築したか確信を持っているわけでもない。どうせ自分が干渉してしまった以上、ここで舞台が成功しなければ恥をかくのも骨折り損をするのも自分である。

なめらかな笑みで返してくるレオンに眉の間を狭め、それから舞台へ目を向ける。プライドが柱の上を飛び移っては余裕もでてきたところである。

今の柱から二メートル近く高い柱へも迷わず跳び移る中、空中で回転を加えてみせればわっと拍手が鳴った。あまりの展開の数々に、口笛を鳴らしていた男達も今は手を叩く。口笛も時折鳴らすが、今は最初のような囃し立てではない。


プライドがまた柱を蹴った直後、ヴァルは頬杖を突いた指先でトンっと自身の頬を叩いた。途端に先ほどまでプライドが乗っている間ビクともしなかった柱が土塊に戻り、地面に崩れ積もった。

プライドが宙に浮いたところでの為本人には影響はない。それでも足場が崩れ土塊に戻る演出は充分に観客へ危機感と高揚感を与えた。おお!と声が上がり、前のめりに身を乗り出す。

プライドも無事乗り移ってから振り返れば、自分が立っていた場所が消えていたことに「あぁ」と小さく声が漏れた。更には新たに高々と柱が別の場所に形成されるのを見れば、少しアスレチックのような感覚に自分まで楽しくなってくる。

くるりと足場の狭い柱の上で回転し、それからまた次へと飛び移る。今度は自分も柱が崩れる瞬間を見たくて宙返りを加えれば、自分の足場だった場所がまたぼろりと土の塊に戻り崩れ観客も沸いた。


「ほら好評だろう?」

「………………………」

フフッと少し自慢げに舞台を指差しながら笑うレオンに、ヴァルも目を逸らすが否定もしない。

もともとレオンと頭の出来が違うことは理解しているが、ここで認めてやるのは気が乗らない。しかし最初からレオンに能力でやることは任せておけばもっと楽だったとは少し思った。

他には、と。言葉にするのは簡単だったが、勝ち誇った笑みのレオンにそこまで言うのはやはり気が乗らない。代わりにトントンと指を膝の上で二度鳴らしてから「で?」とだけ一言返す。

レオンもその切り替えしに、他にも提案を聞いてはくれるという意味かなと思いつつ指関節を口元に置く。自分も思い付いただけの案だったが、他にもできるというならばと頭を回す。折角友人が希望を聞いてくれて、プライドが演じてくれるならば機会を逃したくもない。

プライドと柱だけではない、舞台の()()()()()()を目で見渡して思考する。


「ちなみに、この終わらせ方って考えているかい?」

「考えているように見えるか?」

うーーん。と、間髪入れないヴァルの切り返しにレオンも苦笑が混じった。

彼のことだから思いつきとは思ったが、恐らくプライドもこの後の展開を待っているか考えてはいないのではないかと思う。このままでは文字通り客が飽きるまで彼女は跳びかねない。

意図せず平和な気持ちで眺められたプライドの跳躍力は個人的にいつまでも見ていたいレオンだが、しかし客が飽きては折角の苦労も水の泡である。頃合いを見てあともう三、四回渡り終えるのを待つ。

プライドがちょうど低い柱から高い柱と跳び移り客を程よく沸かせたところでヴァルに再び耳打ちする。レオンから顔を寄せられたところで、今度はヴァルからも数角度分だけ顔を傾けた。ただでさえ客以上に盛り上がり出した団長が「良いぞジャネット!」「なんて幻想的なんだ!」と大声で騒ぐ為、余計に聞き取り辛い。

レオンの提案へ耳を傾けつつ、最後まで聞き終えるのも面倒だとヴァルはそのまま視線をプライドの足元へと注視させた。


ざわり、と違和感よりも先に観客の騒めきでプライドも気がつく。

今まで自分の周囲を取り巻くように軒並み並んでいた柱が、自分が飛び移ったものを残し全てが一気に土塊に戻ってしまった。完全孤島に残される。

流石に飛び移るものがなくなりその場に足を揃えて立ち止まれば、今度は自分の立っている柱まで崩れ出していった。一定均衡は保ったまま緩やかに降下していく感覚はプライドにはエレベーターを彷彿とさせた。

するすると縄でも降りていくような降下に、衣装の裾がひらひらとひらめけばやはりスカート衣装ではなくて良かったとこっそり思う。ゆっくりと順調に地上へと降りていくと、観客もそしてプライド本人も思ったのも束の間だった。

ぴたりと、地上まで一メートルと思ったところで降下が止まる。ここからは自分で降りろということかしらとプライドが僅かに身を屈めれば、すぐ目下で積み上げられた土塊が再び動き出しているのに気が付いた。

まだ何かある、と気付いた瞬間反るほどに背筋を伸ばす。

単なる一メートル程度の柱から、その先へ階段が構築されるのはあっという間だった。今まで柱から土塊にもどった土の山が集まり固まり螺旋階段へと形成される。ほんの数秒、歓声を上げる観客と同じようにその様子を見つめる間に十段はできあがった。

自分がすべきことを目の前に提示され、最初の段へ慎重に足をかける。思った通り自分の体重をかけられてもびくともしない。

ごくりと喉を鳴らし、プライドは今度は止まらず一段一段登っていく。

おぉぉ、と。先ほどよりも感嘆に近い観客の声に足は止めず振り返れば、先ほどまでの柱と同じように自分が離れた段差から次々と崩れ落ちていく。テント越しの太陽と照明に照らされ、きらきらと砂粒が光ってみえる光景は幻想的に見えた。

正面へ向き直れば、ゆっくり登る自分の昇降速度よりも螺旋階段の先が構築される方が速い。更に上へ上へと二十段近く続く先に、紫色の瞳が光った。

舞台であることを忘れそうになりながら、少しずつ階段を登る足を速めていく。タンタンタン、と小気味良い足取りから更に速度を上げる。いっそ階段の先と競走しているような気持ちになる。

観客の顎の角度が上がり首が痛くなるほどの高さまで上がっていく。プライドも登っても登っても先が形成されていく感覚に高揚し頬まで薄く染まり、テントの頂まで目指せるかしらと思ったその時。





「ぃよっしゃ!」





失礼します!と、明るい声と共に一瞬で攫われた。

振り返った時には満面の笑みのアランが自分へ腕を伸ばしてきたところだった。

声が聞こえたと殆ど同時に突如自分へ迫る気配には気が付いたプライドだったが、安心感のある声に寸前の予知をするまでもなかった。何故こんな場所でこんな至近距離に声が聞こえるのかと過ぎり、振り返れば答えがあった。アランの広げた腕に自分もまた迷わず飛び込んだ。


瞬間。おおおぉぉ!!と歓声が盛り上がる中、アランに掴まったプライドはそこでやっと自分の状況を確かめる。

ここはもう空中で、アランの鍛えられた腕に抱き抱えられる形で自分は浮いている。正確には天上から降ろされた二十メートル近い布二枚のうちの一本に足の先を絡め、もう片方に掴まったアランに、だ。

まるで左端から右端へ風を切り流れる中、プライドもしっかり掴まるべく速やかに自分からもアランの首へ腕を回した。


「あ、アアアランさん?!あのこれっいつ!!」

「いやー、色々良かったです!」

ハハハッと楽しそうに笑うアランと驚くジャンヌの声は上空過ぎて客席にはまだ届かない。

調子に乗り過ぎて舞台で呼んでしまったことも自覚しつつ、聞こえてないから良いかと素早く開き直る。それよりも今は自分の首に回すプライドの腕の感触に胸が弾む。

プライドの前の演目である空中ブランコを終えてからもそのまま高台に控えていたアランにとって、階段で確実に登ってきてくれるのは絶好の機会だった。同じ高台から手が届く、天上に吊るされた二十メートル近い二本の布。本来は他の演者の〝空中浮遊〟で使われたリボンを掴みプライドに合わせ飛び出した。

プライドの警護の為にちょうど高台にいたことと、そして空中ブランコに配属決定されるまで盥回しに様々な演目を体験させられていたこと両方が幸運だったと、アランは一人噛み締める。途中からはおふざけも入ったが、結果として舞台を降りる程度には困らない。


プライドにとってはアランが何故空中ブランコではない別の演目用の布で来てくれたのかは不思議だが、もうこの人はなんでもできるのかと完結するしかない。

緩やかに右端に突き当たり、またゆるやかに左へと振り子のように戻り始めたところで同時にスルスルと降下していくのを感じた。

見れば足に絡めたリボンと掴んだ一本を器用に緩め調整し、少しずつ舞台上に近付いていく。


「ええと、たっ、体勢はこのままで良かったでしょうか……⁈」

「あっじゃあ、ダンスの時みたいに身体反らせますか?両手離しても俺がちゃんと支えてるんで」

このままアランに抱っこのしがみ付いたままで良いのかと悩んだプライドは、すぐさま指示に応じる。

アラン自身、聞いただけで実行したことはない技だ。しかしプライド相手に失敗する気もしない。

プライドももともと自分から掴まるまでアランの腕一本に支えられていたのだから、落ちる不安もない。再び両手を緩め、ダンスと同じように背中を大きく反らす。自由になった手も反らした身体と同じ方向へと上げれば、右足も自然と上がった。


アランへ身体を預けたまま魅せる美しい体勢に、観客も溜息が漏れる。包むような拍手に溢れれば、アランも身体の軸から手首の動きと共にリボンを回転させた。

プライドの腰を片腕で支えたままくるくる回る光景は、誰の目にも華やかだった。前の演目で披露された空中浮遊は男性一人によるものだった為、男女による演目はそれだけで観客には別物に見えた。

地上一メートル前に腕の力を込め抱き寄せれば、プライドもすぐに応じて体勢を戻した。アランの首へ再び腕を回し、足をどちらも下ろす。


すとん、と。二人の足が着地したところで綺麗に演目は幕を閉じた。

爆発的な拍手が弾ける中、プライドはいつの間にか螺旋階段も土塊が積み上がっていた筈の地面も全て元通りに平らにならされきっていることを靴の感触で確かめた。

アランに引き寄せた腕を下され、顔を上げれば自然と客席へと視線が向かう。拍手や手を振ってくれている特別席へ目を向ければ、自分から大きく手を振り返した。無事に演目が成功した安堵に顔が緩み、特に唯一自分達に向け不機嫌そうな顔で睨む男へ笑いかける。

「ありがとう」と伝わらないとは思いながらも口の動きで告げ、それからレオン、エリック、セフェクケメトセドリックと視線を移し、とうとう観客全体へ身体ごと正面を向け挨拶した。

最後に隣に並ぶアランを見上げれば、お礼を言う前にニカッと笑顔で返された。まるで最初から段取り合わせをしていたかのように堂々と胸を張るアランに、プライドも釣られて心からの笑みを返してから彼にも感謝の言葉を伝えた。



「任務と救助。アレこそが〝生き生きとした〟アランさんです」



上官の見事な美味しいトコ取りに苦笑をまじえ告げたエリックの言葉に、特別席ほぼ全員が同時に頷いたのはそれからすぐのことだった。


Ⅲ57-2

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