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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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そして断る。


「勿論ペンドラゴンも素晴らしいぞ?!器用な男で、こちらの注文を忠実に答えてくれる!」


アランが自分の空中ブランコへ飛び移ると、今度は高台に戻らない。そのまま勢いを更に増して振り子を強めたアランに、アーサーの方が飛び込んだ。

初めからブランコで前上がりに回ったと思えば、ほんの一瞬だがその回転力のままブランコの上に上がり二本足で立ってみせた。直後には倒木のようにして落ち、アランに手を掴まれた。

まさかのいきなりの大技に観客も反応が遅れて喝采する。

再び自分の空中ブランコから乗り継ぎ高台に戻っても、すぐまた飛び移る。両手持ちから今度はアランへ飛び移る空中で一回転して見せた。どちらも勢いが強い分、受け止めるアランへの反動と重力の重さは凄まじいがそれも全く本人達には軽いものである。


更にはアーサーを吊り下げたまま、逆立ち状態のアランはブランコを漕ぐ身体の芯に力を込める。

空中ブランコの弧が二人分の重心を支えながら風を切る。これ以上はブランコの方が壊れるのではないかというほどの速度で最高到達点に至ったところで、アランがアーサーを上空へ振り投げた。

テントの頂点に足先がぶつかりそうになったところでアーサーは意識的に足を引っ込めた。膝を抱え、くるくると回転しながら垂直に落下するがまた空中ブランコでアランに当然のように拾われた。一秒でもタイミングを間違えれば終わっていた芸である。

また数度の振り子後に空中へ投げられ、今度は全身で捻りを交えた空中回転で高台へと着地する。


再びアーサーが自分のブランコに戻り、飛び出せば今度はアランが同じように空中で一回転しアーサーへ飛び移ってみせた。

アーサーに練習時間が少なかった分披露する数を自分が多めに請け負ったアランだが、数が少ないならと大技の出番はアーサーに譲っていた。しかし、二人の空中ブランコを見る観客にはどちらの実力差などわかる余裕もない。

到底初めてとは思えない技の数々に、感心するレオンとセドリックだけでなくセフェクとケメトも知り合いであることを忘れて手を鳴らし続けた。すごいすごいと声を跳ねさせる子ども二人は、純粋な観客だ。


「すごいね二人とも。こんなに本格的に演じるとは思わなかったよ」

「流石はと申しますか……。実力は存じておりましたが、やはりこの程度は皆様には容易いものなのでしょうか」

レオンはエリックに、セドリックはジェイルとマートにそれぞれ振り返る。同じフリージアの騎士である彼らへ称賛をかけた。

それに対し、エリックだけでなくジェイルとマートも自然と今度は口も緩んだ。恐縮ですと返しながらも、あの二人だからこそできる短期間での習得だと思う。

騎士団でもある程度の身体技や身のこなしは必須だが、ブランコなど特殊な状況での空中技など簡単にできるわけがない。

空中ブランコで向こうに飛び移るくらいはできるが、回転を加えたりタイミング受け取る、動いているもう一つの空中ブランコに技も入れて飛び移るなどは全くの別である。


「……アランは、入団時から恐ろしく身のこなしに長けていましたから」

マートが声を抑えつつ、その呟きは音も低かった。

大昔のことを思い返しながら、顔が無意識に苦笑う。アランと同期でもあるマートだが、入隊する前からアランの身体能力は突出していたと思う。

今では素手のみの格闘ならばアランに敵う相手など騎士団長のロデリックくらいだろうと考える。戦闘力だけならば騎士団で五本の指に入る一人である。

その同じ五本指のもう一人と組んでいるからこそアランも自由にやれるのだろうと、それはエリックとジェイルも全員が思う確信だった。

マートの言葉に「へぇ」と感心した声をレオンが漏らす中、団長がその名前を大声で訂正したがマートは頭を下げるだけで言い直しはしなかった。どちらにせよ、声はきちんと自分達以外には聞かれないように調整している。


「……あ、今なんか間があったね。今のはアランの方が段取り忘れたか間違えたかな」

「アランさん、わりと途中で即時判断というか……〝即興〟もお得意な方ですから」

あはは……と、エリックも声を控えつつ枯れた笑いの方が大きく出た。

騎士での任務でも、目的や大事な大筋任務は決して見失わないが、策に関しては上から指定されていない限りはその場判断で変えることも多い。臨機応変とも状況判断指示に強いとも言えるが、一から百まで段取り構築されているような物ではこうなることも予想できることだった。

団長が考えた段取りを二つ飛ばしたアランだが、代わりに三つ大技を出して誤魔化した。途中で歓声に紛れて「わはは!」という笑い声を、エリック達はアランのものだとすぐにわかった。そしてアーサーの対応力に手を叩き、労う。

途中で段取りを変えられ、団長は怒らないかとアーサーも空中ブランコ上でちらりと目を向ける。すると予想した通りに険しい表情の団長を目が捉えたが、何か怒鳴っているなと耳を澄ませれば肩から顔までが一気に強張った。


「そこだー!そこで片目を瞑るんだ!女性を狙え!!片手が空いたら投げキスだ教えただろ二人とも!!」

アーサーにとっては何よりも最悪の野次同然だった。

集中していた筈が、口が「い」の形に歪んでいく。仮面をつけていなかったら客に顔色が変わったことがバレていた。

この団長の叫びには目を丸くするレオンだけでなく、ヴァルも思わず顔を顰めた。「うるせぇ」も強いが、投げている注文も気持ち悪い。自分にではなくアランとアーサーに向けられているとわかっても不快だった。そんなもん誰が喜ぶと本気で思う。少なくとも自分は不快だから見たくもない。

今度はまだ座ったままだからと油断していたエリックもそこで慌てて団長が目に入る。「ここにいる理由わかってます?!」と声を僅かにひっくり返しつつ、背後から団長の口を塞いだ。アランは気にしないだろうが、耳の良いアーサーには圧迫でしかないと肝を冷やす。

まさかの失敗の大原因がラルクではなく団長など笑えない。いっそ彼はなんらかの理由でラルク側に加担しているのではないかとまで考えてしまう。

取り押さえられる団長へ、レオンもエリックに助け舟を出すべく振り返り肩を竦めた。


「投げキスはまだしも、片目は仮面が邪魔でやってもわからないと思いますよ」

「頭沸いてやがんのかクソジジイ」

「アーサーは恥ずかしがり屋だから無理だと思います」

「レ、っリオの方が似合いそう」

言葉を掛けるレオンと不機嫌になったヴァルに、ケメトとセフェクも会話に入る。

目はしっかりと空中ブランコには向くが、苛々と指と足で貧乏揺すりをするヴァルでケメトも、そしてケメトの声でセフェクも集中力が削げてしまった。

純心な子どもとそして女の子であるセフェクにまでダメ出しに近い言葉を受け、団長も流石にこれには怯む。知り合いとはいえ、女性には夢の演出だと信じて疑わなかった分呆気を取られた。

更にはセドリックまでもが眉の間を寄せながら真剣な表情を団長へと向ける。


「彼らも本来の職務は全く異なる業務です。特にアーサー殿は顔が整っておられるのでお気持ちはわかりますが無理強いするのはどうかと……」

まさかの全員からのダメ出しに団長も引き攣った笑顔で固まる。

そ、そうか……と何とはいえないまま返しつつ、ここで顔や見かけの花の大事さを語るのは彼らに酷だろうと口を噤む。団長の目には今自分にダメ出しをしてきた大人達の顔が全くの別人に見えている。まさかアーサーに負けず劣らずの整った顔立ちの集団だとは夢にも思わない。


鑑賞中すまなかった、今は演目を楽しもう、と。さっきまでとは異なる覇気の抜けた声で返す団長が改めて椅子に座り直した。

見上げればちょうど二人が同時にそれぞれの高台に空中ブランコから飛び移ったところだ。見事に最後まで演目をやりきった彼らへ大喝采が上がれば、ちゃんと見ていなかった自分を少し後悔する。彼らが演目に出てくれるのは今日だけである。

自分からも惜しみない拍手を送りながらも、今度は鋭くはない弱々しい独り言が溢れた。

「あの二人欲しいなぁ……。どうにかこのままサーカスに残るように勧誘できれば良いのだが」



「無理」という言葉が、直後に意図せず一斉に重なった。



だね、ですね、かと、だな、です、でしょ、だと思います、と。それぞれ締め括りこそ異なったが、王族から騎士まで特別席前後全員の意思が統一された。

今度は今までのような誰かに呼びかけるような声ではなかったが、既に団長へ耳が向いていた彼らも返さずにはいられなかった。

おお??とあまりの全員からの揃いに目が溢れそうなほど開いて見回してしまう。まさかの今度はレオンの護衛の騎士までもが思わずの呟き返しだった。


「まず彼らの給金からしてこのサーカスじゃ払える額じゃありませんから」

一番諦めやすい理由からレオンが上げる。

パチパチと拍手をしながら滑らかな笑みを高台の上に向ければ、にこやかに観客へ手を振るアランとぺこりぺこりと頭を下げるアーサーが並んでいた。今は見事に溶け込んでサーカスの芸まで見せてくれた二人だが、その実は王国騎士団。揃って騎士隊長である上に第一王女付きの近衛騎士である。その給金はひと月分であろうとも、たかが一般のサーカス団に簡単に払える額ではない。

レオンも正確な額は知らないが、たったひと月分だけでもざっと予想できる給与の桁数の検討を告げれば、団長の顔色もサーッと引いていった。


「い……いやしかし!サーカスにはこれ以上ない夢と希望がある!この快感を今日覚えればわからないぞ?!」

「お言葉ですが、あのお二人は本職にこそそれを覚えられる方々です。誇り高い職務を担うお二人に不用意な発言は控えて頂けませんでしょうか」

慌てて次なる一手を上げる団長へ前のめるセドリックに、エリックだけでなくジェイルとマートも深々と頷いた。

たとえ天地がひっくり返ろうとも騎士に関しては頑として意思を変えない二人である。むしろ、知らないとはいえ騎士隊長の二人に対し、畏れ多いことを考えることにジェイルは顔が引き攣った。

セドリックの圧に、団長も背を反らしてしまう。声こそ潜められたが、その表情は先ほどと変わらず真剣なままだった。セドリックもまた、近衛騎士にまでなった彼らの誇り高さを今は理解している。

しかし一度ならず二度までも駄目出しを受け、団長も食い下がる。団長にとってもまたサーカスほど最上の生き方はない。


「こ……ここに残ればサーカスの英雄にもなれるぞ?!」

…………。と、団長の言葉に今度は全員が押し黙る。

いま団長が欲しがっている聖騎士こそがサーカスどころか大国の〝英雄〟であると、意識的に飲み込んだ。そしてアランもまた騎士団で花形でもある切り込み隊の一番隊を任される騎士隊長である。

あくまで二人が騎士であることしか知らない彼にそれ以上の情報を与えるわけにもいかない。

彼らの沈黙に、勝機だと思い込んだ団長は更に胸を張る。喝采に送られたアーサーとアランが幕の向こうへ去るのを見送りながら。


「見ろ!あんなに二人とも生き生きしていたじゃないか!彼らもきっとサーカスの魅力は肌で感じた筈だ!」

「?アーサーはあれ、楽しそうだったんですか?」

「知るか」

「主達といる方が楽しそうだけど」

きょとんと、悪気なく疑問を投げるケメトと放るヴァルのやり取りにセフェクが無自覚にも団長へ塩を塗りたくる。

少なくともアーサーの方は二人の目には真剣には見えたが、楽しんでいるようには見えなかった。子どもの純心な目でまたもや否定され、団長も肩が丸く伸びた指先まで曲がっていく。自分の目では輝かしい姿を見せてくれたと思っていたが、彼らと付き合いが自分より長いだろう面々の言葉を信じないほど耄碌もしていない。

団長の勢いが削げたところで、レオンはちらりと更なる証言をと振り返る。

先ほどまで殆ど発言はしていないが、この中で自分が知る限り一番アランに詳しそうな騎士へと意見を求めた。レオンからの問いに、さっきまでは苦笑だけで済ませていた騎士も「そうですね……」とゆっくり口を開く。


「自分の知るアランさんは、大概の人が嫌がることも笑ってこなしてしまわれる方ですがー……。……敵陣に乗り込んだ時は今の百倍生き生きしておられます」

更には、アランは本気で嫌なことははっきり拒絶する種の人間の為、勧誘は不可能と。そう、やんわりと言葉を選びながらも全否定する。

エリックにも今アランが任務としてこなしているのか楽しんでいるのか腹の中までは当然掴めないが、アランが嫌な仕事でもなんだかんだ快諾してこなしてしまうことは知っている。不得意な書類仕事でも今まで自分が知る限り一度も怠けず遅らせずこなしているのも、結局は騎士関連そして隊長職の一環だからである。


エリックのやわらかな両断に、マートも腕を組みながら深くそして二度頷いた。

入団時から身のこなしに長けたアランだが、今ある実力の根底は尋常ならぬ鍛錬量だ。それも結局は騎士に直結している。アランが騎士以外の生き方を望んで選ぶとは思えない。

そして、騎士関連以外ならば嫌なことは即断か逃げるのもアランだと。それも付き合いが長いマートはよく知っている。そこに曖昧さは無い。

エリックに希望を潰され、更には思い当たることに団長の頭が重く沈んでいく。ハァ……と今までに無い物悲しいため息を吐き落とした。


「…………うちは女性も美女揃いだがそれでも駄目か……」

「あ、ジャンヌが出てくるよ」

「本当ですね」


ぽつぽつと消え入りそうな声で呟く団長の声を、今回拾えたのは至近距離のレオンとエリックだけだったが、優しさから敢えての聞こえないふりをした。それこそ愚問である。

次なる演目に全員が注目する中、団長の機嫌を気にするものはいなくなる。おぉ、と進行役が促すままに今度は上空ではなく舞台へと注視した。張られたトランポリンに向け、プライドが幕から姿を現した。


女性演者の登場に期待と共に拍手が沸く中、……騎士の一人であるジェイルは数秒だけ先ほどの空中ブランコを思い返した。

エリックとそして隣に立つマートは、無茶振りを大声で放つ団長に意識を向けていたが、自分は声を飛ばされていた側の空中ブランコの二人を注視した為気付いてしまった。動体視力は良い方である。


─ アーサー隊長、妙に瞬きが増えていたのってまさか……。


そこまで考え、思考を止める。

気付かなかった振りをするのが優しさだと思い、人知れぬ聖騎士の頑張りに口の中をひしひしと噛みしめた。


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