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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ130.騎士は緊張する。


「さあ!次はこの倍の重さを持ち上げられるか?!我らがディルギアへ皆さん応援をお願い致します!!」


あーーー……内臓が裏返る。

うえ、と。喉が鳴る直後に舌を出す。足元より下から聞こえる楽しそうな声と歓声に今は潰されるような錯覚を覚える。格好わりぃ。

プライド様とステイルから離れて空中ブランコの台に裏から登って配置についた途端にこれだった。プライド様の傍にいる間はあの人と護衛のこと一番に考えていられる分気持ちも軽かったけど、いざ離れると一気に現実を突きつけられる。泥でも飲んだみてぇに胃が重い。

上がった台の上は、幕の裏で観客からは照明の加減もあって目を凝らされなければ気付かれない。それでも、上から眺めると舞台袖の時よりもはっきりと客の数が多いんだとわかる。これが全員敵とか討伐対象だったらこんな緊張しねぇのに。

プライド様はと、上る前の後方下に視線を落とせばちらりと深紅の髪が見える。ステイルもちゃんと傍にいるし、あいつが俺らとは演目の順番が離れていて良かったと思う。……っつーか、どうせそれも見越して団長と演目順を弄ったんだろう。本当そういうところは隙もねぇ。


「おーいアーサー、緊張してるか?」

「!……アラン、さんは全然すね……」

ぎくりと肩が上下しながら、丸い声で投げかけてきた人へ顔を上げる。

同じ演目のアラン隊長と並んでしゃがみながら、声はしっかり潜め合う。当たり前みてぇに全然緊張してねぇアラン隊長は、自分の膝で頬杖をついて俺を見てた。多分顔色にも出てたんだろう俺と違って、アラン隊長は上がってからもずっといつもの調子だ。戦場とかでもそうだけど、こういう場でもやっぱ緊張しねぇんだなこの人。


簡単に見透かされて、認めながら冷や汗が滴り落ちる前に手の甲で拭う。途端に袖で衣装も目に入って、こんな格好で人前に立つのかと思うとまた一段階緊張して脈打った。

マジで父上達が来てなくて良かったと今日だけでも何十は思う。そんなことを考えるとまた口から内臓こぼれそうな気がして、下にプライド様達もいるんだと思えば両手で口に蓋をした。

そんな俺を見て、アラン隊長は肩を揺らして笑ったと思えばバシンと背中を叩いてくる。


「別に失敗してもなんとか客のウケ取れば良いんだろ?なんとかなるって。戦場よりも死ぬ可能性は低いんだし」

「自分、アラン隊長が戦場で緊張してる姿一回も見たことねぇンすけど……」

「今はアラン〝さん〟な」

ふはっ、と笑われてまたバシバシ背中を叩かれる。しまった、気をつけてるつもりだったのに戦場の話になった途端うっかり間違えた。

すみません、と指の隙間で謝って首を下げる。そうすると今度はちょうど舞台の客席が目に入ってまた喉が鳴った。あんだけの数の前でこんなふざけた……似合わねぇ格好で慣れねぇことすんのかと思うとまた汗が額に湿る。別に衣装自体は動きにくさとか大してねぇし、腹がスースーするくらいだけど化粧されたあたりからは鏡だけは絶対みねぇと決めてる。

プライド様とステイルは正体隠した状態での衣装だし、アラン隊長とカラム隊長は衣装も普通に似合ってるけど絶対俺は駄目だ。飾った格好とか自体慣れてねぇし、この衣装もなんでこんなギラギラガチャガチャしてるのに腹だけ出しているのかわかんねぇ。

化粧だって男がするもんなのかと正直思うところもある。ステイルとかレオン王子とかセドリック王弟とかならまぁわかっけど。


「お前こそ戦場じゃ全然物怖じしねぇじゃんか。ていうか、あの式典と比べりゃあ客の数も相手も違うだろ?大概アレと比べりゃあなんとも思わないで済むんじゃねぇ?」

「いや戦場は覚悟最初から決まってるっつーか……。式典は、…………まぁ……アレと比べりゃあ……いえでも、格好とかいろいろ……」

「似合ってる似合ってる。ジャンヌさんも褒めてたし大丈夫だって。俺のが多分不釣り合いで笑えるし」

実際鏡見て笑った。そう明るく笑い飛ばしながら言っちまうアラン隊長はマジで強いと思う。アラン隊長、普通にすげぇ似合ってるのに。やっぱステイルといいプライド様といい本人はあんま自覚ねぇんだなと思う。


アラン隊長の言葉通りに、一度あの式典での緊張を思い出しながら深呼吸してみる。プライド様がいて、まさかの女王に表彰された日だ。

あの時は本気で何が何だかわかんねぇまま舞台に上がっちまったようなもんで、申し訳なさとかもあったから今の恥ずかしさとかちょっと違った感覚だった。俺だけの手柄じゃねぇとはあの時もわかっていたけど、それでも誇らしさもちょっとあった。けど、…………その前の、民を見渡しながら手を振った時を思い出したら、一瞬心臓が止まった。直後に血がサァーーと引いて強制的に落ち着く。そういやあの時のがずっと死にそうな気分だった。仕方がねぇとはいえ、民騙してるようなもんだったし。


気付けば視線がどこでもない空に浮いてて、アラン隊長に「遠い目するなー」と言われて慌てて我に返る。

振り返れば、アラン隊長も今は俺の方じゃなく設置された空中ブランコを手に取って見てた。最初は空中ブランコで飛び出すところから始めるから、台の上に一個引っかけられている。もう一個は向こう岸の台だけど、最初の飛び出しは俺もアラン隊長も同じだ。アラン隊長が向こう岸に空中ブランコで移動してから俺も飛び込む。

そういや段取りも頭から抜けてねぇかなと、そのまま打合せした順番を思い返す。とりあえずそっちは覚えている筈だけど。

そうしている間に、アラン隊長は「ああこれか」と暢気な声で空中ブランコの紐の一点に鼻がぶつかりそうなくらい顔を近付けて凝視した。


「紐。予行練習の時までより新しいのになってる。多分ここ細工されてたんだろうなー」

アレスさん紐全部変えてくれたのかー。と、軽い調子でブランコの紐をアラン隊長が何度も引っ張って確かめる。

加減はされてるだろうけどアラン隊長が引っ張って千切れねぇなら大丈夫だろう。アレスさんがさっき言い淀んでたのはやっぱ細工されたの見つけたからなんだなとわかる。っつーか紐に、って切れるようにしてた以外思いつかねぇけど。普通の奴だったら最悪死ぬ。

改めて空中ブランコから下を覗けば、やっぱ予行練習と同じ高さだ。俺とアラン隊長は大丈夫だろうけど、そうじゃない奴なら大体無事で済まない。


一応下にクッション代わりにプライド様も使うトランポリンも敷かれているけど、打ち所悪かったらそれでも大怪我する。

もともと〝命がけの〟が売りにしてるから、ちゃんとしたクッション材はない。むしろこの高さから落ちてトランポリンに着地したら一回捻って折って、そのまま空中にまた放り出されて今度は地面か客席に落ちて死ぬもある。

ステイルの時もそうだけど、ラルクのやつ地味なわりに本気で命狙ってきてると思う。空中で狙撃とかされるよりはマシなぐらいだ。

アラン隊長に「一応向こうに渡ったらそっちも安全確認はするから」と言われてもう一個の空中ブランコの方を見る。アレスさんが確認はしてくれているんだろうけど、あっちも真新しい紐に取り替えた後があったら事故どころか俺ら二人とも狙われてることになるんだろう。


「結構ラルクの方も必死だなー。それともあのオリ~……エ?だっけ。二人で細工やったのかな」

「?でもまだ一度も部屋の外に出てきたことねぇんですよね?」

「いやでも俺らより詳しいんだしラルクもここで古い奴らしいから誰にも見つかんねぇ道とか方法あるんじゃねぇ?」

ここ結構な大所帯だし。と、続けるアラン隊長に俺も首を傾けながら納得する。

確かに、前はステイルみたいな芸をする奇術師とかもいたらしいし方法もありそうだと思う。人も結構多いし、下働きの人とか服をなんとかすりゃあバレず歩き回れる可能性もある。大体ラルクを操ってまでサーカス団の上に立ちたがっている奴がなんでこんなに人前に出たがらないのかもわからない。

必要以上前に出ない、なら王族とかもそうだしわかるけど、さっきの団長挨拶にも姿見せる兆しもなかったままクリストファー団長がやって終わったし、ステイルと団長が決めた演目順にも文句はつけられなかった。

プライド様の予知で特殊能力とかはわかっているけど、実際にどういう奴なのか見かけとか以外全然知らない。他の団員の人達もみんな口裏合わせているし実在はするんだろうけど。


「やっぱあのトランポリン、もう一度確認できませんかね……。ラルクだけじゃなくもう一人協力してるなら余計にどっかで細工されてる気がしますし……」

「舞台に出しっぱだからな~。喧嘩売ったフィリップさんだけで気が済んでないみたいだし、何かしらやってそうだけど。操られてるんならふん縛ったところで正直に言うとも思えねぇし」

ここがフリージアだったらもうちょっと俺ら都合でも動けたのかなと、聞きながら少し思う。この国じゃ騎士の俺らにもオリウィエルやラルクを捕まえる権限もない。

ステイルは自分だけ的にして上手くいなして終わらせたかったんだろうけど、ラルクの目的は憂さ晴らしじゃなく賭けだ。

プライド様は予知で知ったオリウィエルの特殊能力がどこまで本当かわからないからと言っていたけど、直接触れずに気を失わせるくらいならやろうとすればなんとかなる。問題は、目を覚まされた後だ。

考えれば考えるほど、オリウィエルじゃないもう一人の腸煮え繰り替える奴に重なって、握る拳に力が入る。精神系の特殊能力者が全員が全員そういう奴とは思わねぇけど、悪用してる奴らは全員ぶった斬りたくなる。

ふつふつとさっきの緊張とは違う感覚に身体の芯が熱くなってくると、途端にアラン隊長に肩を叩かれた。ポンッと軽い調子の感覚にふっと身体も軽くなる。


「まぁ今は狙われるのも我慢してやろうぜ。ラルクは能力解けてもまだ狙ってきたらぶん殴れば良いだろ」

「アランさんのぶん殴るは致命傷ですけど……」

「それよりお前は平気か?ほら、オリエの特殊能力の効く効かないってやつ」

ンぐっ?!

いきなりの爆弾に、うっかりのけぞり過ぎて台から落ちかけた。慌てて足下掴んで体勢を立て直すけど、芯どころか顔が熱くなる。なんで今それ聞くんだこの人!!

昨夜もその前も散々だったのに、まさかこんな時にまた聞かれるとは思わなかった。身体の芯どころか全身があっという間に熱くなってやべぇ。化粧が落ちる。

正直その手の話題はもう懲り懲りだ。この数日で一生分やってる気がする。

俺の顔を見てにやにや楽しそうに笑うアラン隊長に、すぐには言葉が出てこないまま瞼のなくなった目で見返すしかできなくなる。


オリウィエルの特殊能力。異性にしか効かないとか、プライド様が予知で弱点も知れた分今回は俺らも対抗策を考えやすくなったけどその条件がふざけてる。

水分がなくなってきた喉でなんとか「アランさんこそ」と言い返したけど、「俺は余裕余裕」と手をひらひらさせながら即答された。本当にこの人弱点ねぇのか。

口を閉じるじゃ足りなくて、下唇を噛んで動機を堪えれば今日一番手のひらが湿ってきた。今はアラン隊長を止めてくれるエリック副隊長もカラム隊長もいない。ていうかこんな時にこんな場所でする話じゃない。


「避……けるので平気です」

「へー?……避けなくてもいけんじゃねぇ?」

ンでそんなことこの人に言われねぇといけねぇんだ!!!!!!!!

熱い。すげぇ身体が熱くて今すぐ飛び降りたくなる。逃げ場所がないから余計死にそうになる。

俺が入団したのは十四からだし、今までそういう話題なんか飲み会でもアラン隊長は自分から振ってこなかったくせにいきなり探られて何も言えなくなる。これ否定しても肯定しても死にたくなるやつじゃねぇか。

むしろアラン隊長がさらっと言えちまうのがやっぱ大人だなと思う。……俺もとっくに成人はしてっけど。どうにもそういう話は話題自体縁が遠かったから苦手だ。プラデストの潜入でも手紙貰うまで全然そういう関連のことは気づけなかった。

少なくともガキの頃からの知り合いやダチは皆そういうのじゃなかった。どっちかというと絡むのが多かったのは男だし、クラークには「そろそろ好きな子でもできたか?」って何度もからかわれたけどそれ言われる度に誰かに当てはまったこともない。

いっそあの時誰かにそういうこと思えればこんなに悩むこともなかったのにと、どうしようもないことを思う。別にそういうもんが悪いもんじゃないことはガキの頃から父上と母上やクラーク達見てりゃわかったけど。

悶々と考えて、気付けばまた視線が落ちていた。わははっ、てアラン隊長の笑い声でやっと変な思考がそこで止まる。


「ほら仮面。そろそろ被っといた方が良いぜ」

ちゃんと持ってきてるか?と、見ればアラン隊長がちょうど素顔隠す用の仮面をつけたところだった。俺もアラン隊長も、衣装と違って仮面は模様も形も別々だ。鼻から上を隠す仮面を、眼鏡を同じようにうっかり落とさないようにだけしっかり耳に固定する。

何事もなかったように笑いかけてくれるアラン隊長はやっぱ衣装も仮面もすげぇさまになってる。似合わねぇみたいなこと自分では言ってたけど、多分なんでも似合うんだろうなと堂々とした姿を見て思う。そういや、いつさっきまでの話題終わったんだ?


「まぁお前に何かあったら俺らが補助してやるよ。ジャンヌさんの舞台もさ、俺らもローランドとハリソンも全員四方で守ってるし客席にはエリック達もいるから」

ニカッと歯を見せて笑ってくれる。ぐるんぐるん腕を回して「段取り俺の方が忘れるかも」と笑い交じりに言うアラン隊長に短くを返しながら、いつの間にかもう出番がすぐだと舞台を見て気付く。


あの話題があっさり終わったことに安心して、身体の力も良い具合に抜けてる。はーーーと、自然と長い息が出た。そういえば最初はすげぇ緊張してた気がするのに、逆にそっちは忘れてた。

しゃがんだままの低い姿勢で足を伸ばして準備運動するアラン隊長は、騎士団でもよく見る最後の調整だ。服とか、状況とか全部忘れるくらいその背中を見るといつもの感覚に戻る。

もしかしてさっきまでのも全部この人なりに緊張紛らわせようとしてくれてたのかなと、思う。なんか緊張することとか心臓が一回暴れた後だからか、もう舞台に出ることくらいは今更たいしたことないような気がしてる。

補助してやる、の言葉もやっぱこの人から言われるとすげぇ心強い。口にされた時の強さが違う。


「俺らはあくまで護衛優先で、もし今回の賭けが負けちまったらその時は俺が無理矢理にでもオリエ捕まえりゃ良いし」

「あの、もし万が一にもジャンヌの恐れ通り実はアランさんにも効いちまったらそっちの方がが大変なことになるんですけど……」

「大丈夫大丈夫。近衛全員に本気出されれば流石に負けるって。最悪の場合〝俺らの〟団長もいるだろ」

そうですね。と言えないところがアラン隊長の怖いところだとこっそり思う。いや父上が戦えばそりゃアラン隊長も勝てねぇのは知ってるけど。

それでも軽い調子で言ってくれるこの人の背中に、やっぱ付いていけると思う。エリック副隊長や一番隊の人達が任務で功績立てまくっているのもやっぱこの人がいるからなんだろうなと思えば、同じ隊長でも格の違いを見せつけられた。本当にこの人はどんな時でも強いし格好良い。

前の演目が終わって、とうとう進行役が俺らの演目を呼ぶ。舞台に出る前から、わっと観客の声が上がって耳にまで振動が薄く伝わったけど今はあんま緊張しない。


「よっし行くか!」

「うっす」

仮面のついていない頬を両手でバシンと叩いて気合いを入れる。とりあえず俺らの演目成功。その為なら恥とかそんなもん言ってられねぇと自分に言い聞かす。


こういう、……背中について行きたくなるような隊長に俺もなれりゃあ良いのに、と。

すげぇ場違い過ぎる状況で思ったことは一生隠しておこうと決めた。


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