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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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Ⅲ125.侵攻侍女は心配する。


「フィリップ!大丈夫……?」


ぱたぱたと足音を立てすぎないことに留意しつつ、駆け寄る。

プライドとアーサー、そしてアランへとステイルもくるりと身体ごと向き直った。舞台袖からじっとステイルの演目を見守っていた彼らだが、最終的にずぶ濡れの彼を見て流石に平然ともしていられない。予定では濡れることなく奇跡の大脱出で終える筈だったのだから。

ジャンヌ、と。プライドへ笑いかけるステイル本人も、まだ取り繕う部分は否めない。未だにラルクへの殺意は拭えてなかった。こんなだらしない姿をプライドに晒すことになろうとはと、新たな怒りもふつふつ湧く。


裏方の下働き達が抱えてきた大判のタオルをアーサーが掴み取り、すぐにステイルへと頭から被せた。時間をかけてセットした髪をわしゃわしゃと水分と共に全て無に返す。


「ッわ?!なにすっ、ッやめろ自分で拭ける!!」

「良いからさっさと脱げぶわぁか!風邪引くだろォが」

色々な意味でお前にだけは言われたくない。その言葉をアーサーへと飲み込みながらステイルは仕方なく手を下ろした。髪をわしゃわしゃ拭かれるのを止める手から、自身にへばりつく衣装を一枚一枚剥がす作業へ移行する。

ラルクへの殺気は収まったが、代わりに少し胸のあたりに涼しい風が吹くような感覚が残った。仕方がないとはいえ、これから舞台で輝くだろうアーサー達と比べ、自分だけがこんな締め括りだ。本当ならばラルクからの妨害工作からも無傷で戻りたかった欲があった分、口惜しい。

べりべりと、水分で張り付いた衣装の上着を一枚剥がし終わったところで脱いだ服を置く場所を目で探す。すかさず今度はアランが受け取り、周囲の心配で駆けつけた下働き達へと手渡した。次は内側のベストを剥ぐべくボタンに指をかけた時、ふわりと別のタオルが柔らかく頬に触れる。


「大丈夫?寒くない??水も浸かる予定だったわけでもないし寒かったでしょう?」

ぼわっ、と。至近距離から覗き込んでくるプライドにむしろ熱を上げられた。

背後から頭を拭くアーサーに合わせ、プライドも何かできればと別のタオルで両頬を包むように拭く。

アーサーならまだしも流石にプライド相手にそのまま平然とボタンを緩められるわけもない。その下は透けたシャツ一枚だ。

唇がわずかに開いたまま言葉に出ない中、頬や首筋を拭われ心臓がばくばくと内側で音を立てた。


水分を拭き取れば拭き取るほどタオル越しに熱が上がっていくステイルに、プライドも心配になる。

アーサーが触れてるなら風邪は大丈夫の筈と思うのに、それともアーサーの特殊能力のお陰で冷え切った身体の熱が復活しているのかしらと考えながらステイルの顔を覗き見た。じっと漆黒の瞳が自分と合わせられる。

ボタンに手をかけたまま指が固まった彼に、悴んでいるなら自分が手伝うべきかとそっと片手をステイルのボタンへかける。……途端に、慌てたステイルが自身でボタンを緩める指に力を集中させ出した。プライドがどういう気を回してくれたのかは察せられる。よりにもよってプライドにただ棒立ちで衣服の補助などさせられない。


「〜〜っ……ごっ、ご心配をおかけしました。まさか最悪な形で妨害されるとはっ……」

「私も驚いたわ……本当に。今回の手品がフィリップのもので良かった……」

舌を回すことで雑念を必死に振り払いながらも周囲に聞かれないように声を抑えるステイルに、プライドとそして続いてアーサーも頷いた。

今回がタネも仕掛けもないステイルの特殊能力だったからこそ、無傷で済んだ。むしろ服を濡らす為に待つという工作の余裕もあった。

しかしこれが仕掛け前提の手品であれば、死んでいてもおかしくない。本来手品というのは過激なものほど命懸けだ。


『……本当に別に大したことじゃないぞ』

『前もって話しておくべきだとアーサーに言われましたので報告したまでです。ジャンヌは御自身のことだけお考え下さい』

事前にステイルからラルクに標的にされる可能性を示唆されていたアーサーとそしてプライドも、箱が二秒で落ちた時は流石に驚いた。あまりにもあからさま過ぎる。

ステイルの箱が落ちた瞬間に彼の安否よりもラルクへの〝本当にやった〟の衝撃で開いた口が塞がらなかった。ステイルならば何があっても無事という確信はあったが、まるで開戦の火蓋を切って落とされたような気分になった。


知らされてはいなかったアランもまた、ステイルの安否こそ心配しなかったがラルク側の敵意だけはひしひしと嫌でも感じ取った。

箱を置いた瞬間から舞台裏は表以上の混沌ぶりだった。助けに出るか強行するかどのタイミングで幕引くかと騒ぐ中、舞台に先行して出た幹部の判断を固唾を飲んで待つしかなかった。


「ふぃふぃっフィリップ、さん!ごごごごめんなさいわたわた私……!」

か細くも高い声に横を突かれ、ステイルもタオルを被ったまま振り返る。

見れば、次の演目に伴い回収された大道具と共に運ばれたレラが真っ青な顔を向けていた。

本当ならば他の団員と同じく回収作業を手伝う予定だったレラだが腰を抜かしてしまった為、ディルギアの肩を借り殆ど担がれた状態の帰還だった。降ろされる間も歯が鳴りながらおどおどするレラにステイルも自分から歩み寄る。

自分が切り間違えたわけでは決してない、しかしもしかしたら不備があったのかもしれないと。弁明と自白を交互に繰り返す彼女へ落ち着かせた声を意識して笑いかける。


「大丈夫です。僕の方こそ驚かせて申し訳ありませんでした。六十秒を守って下さり、ありがとうございました。仕掛けの関係で色々と不具合が不安だったので、レラさんにお願いしておいて良かったです」

結局は観客も驚かせることができましたし、と。あくまで仕掛け上の都合ということにする。

既にサーカス団での信用も落ちたラルクを糾弾することも構わなかったが、あくまでオリウィエルに操られていることを考慮する。何よりここで諍いが起きて舞台自体が中止になったら困るのは自分達だ。

ラルクを屈服させるまではあくまで想定の範囲内として歯牙にもかけないに限る。


笑顔で問題なしと返すステイルに、レラも濡れた目で息を吐いた。良かったぁぁ……と声にも出しながら、責められなかったことにも安堵する。

フィリップに言われた通りにしなければと救助を止めたのは自分だが、それが正しかったのかもまだ自信は持てなかった。

ふぅぅと腰が抜けたまま全身を脱力させ、地に座り込む。ステイルも彼女に労いと謝罪を重ねつつ自身の片膝をつき、そっとその背を摩った。「流石ですレラさん」「ご心配をおかけしました」と言葉を重ね、笑みも交えれば次第にレラの目も乾いていった。

ひと息置いて周囲の裏方や出番を終えた出演者も歩み寄ってくる。


「フィリップ!お前よく無事だったな⁈一体どういうタネなんだ⁈」

「箱の中開くまで心臓に悪かったぜ」

それは秘密です。と、ステイルはにこやかな笑顔で彼らの猛追を受け流す。カラムと違い、自分はまだ特殊能力者であることは伏せている。プライドとアーサーも曖昧な表情で事実は隠す中、中には本当に事実を突く者もまた現れた。「まさかお前もアレスやカラムも同じアレなんじゃ?」と尋ねる団員にも「そうだと嬉しいのですが」と笑って肩を竦める。既に特殊能力者が秘密裏にいるサーカス団では具体的には知らずとも特殊能力者は空想の存在ではない。

だからこそステイルも勘付かれまいとあくまで手品の態度を務めた。持ち演目であるそのタネを団員相手であろうとも隠し通そうとするのは、なんらおかしいことではない。


「濡れたのも舞台に戻る前に用意していた水を自分で浴びただけです。箱が吊り上げられる前には逃げていましたから」

身体をプライドの正面から背け、団員達へ向けたところでベストを脱ぐ。同時にタイミングを合わせたようにアーサーが頭に被せていたタオルをステイルの肩に羽織らせた。

肌に張り付くシャツも、ボタンを二つ緩め裾を引っ張れば空気が入り不快感もいくらかマシになった。

着替えをと別テントへ促す団員に手で応え、水気がなくなった髪を軽く払う。ちらりと周囲の目線と配置を確認してから順々にプライド、アーサー、アランと目を合わせた。

ステイルからの意図的な目配せに、三人も考えるまでもなく耳を近づける。


「……標的に俺は狙い通りですが、程度から考えても次点に狙ってくる可能性があります。命を狙われる場合も頭に入れておいて下さい」

本気で潰しにきていると。その警告を立てるステイルに誰もが頷きで答えた。

単なる嫌がらせ程度ならばステイルをずぶ濡れにしただけで満足した場合もある。しかし殺傷力の高い妨害工作である以上は、最初からたった一人で満足するとも考えにくい。

第一は身の安全と防衛。そして次が演目の成功だ。ラルクがどのような妨害をしてこようとも表向き客の目で成功してしまえばこちらのものである。ある程度の妨害は覚悟していたが、先ほどの妨害もステイルの特殊能力がなければ笑い事ですまなかった。


そう考えれば、これからアーサーとアラン、そしてカラムも自分が思った以上に危険に晒されるのではないかとプライドは早くも口の中を飲み込んだ。

ある程度の窮地ならば彼らは無事だと信頼はある。しかしそこに客の前と演目成功まで背負わせるとなれば心配になる。ただでさえ地の利は遥かにラルクにある。

プライドの顔色の変化に、ステイルはちらりと目を向けると拳の甲でアーサー叩いた。


「俺の前座は終わった。まぁお前達ならば間違いないだろうが、最悪の場合は俺が演目を人体消失に変えてやる」

「!ハッ。見てろ」

最悪の場合は演目に託けて助けてやると示唆するステイルにアーサーも鼻で笑って返した。

さっきまではプライドの安否や成功を胸の中で案じていたが、相棒が上手く客前でやり過ごしたというのに自分が足を引っ張ってなどいられないと思い直す。最初から空中ブランコ自体の不安はない以上、あとはその場の応用と対応だけだとアーサーは自分で自分に言い聞かす。ともに演目を行うのも同じ騎士であるアランだと思えば、なんとかなるだろと前向きにも思う。怪我などとんでもない。

続けてステイルから「補助はお任せ下さい」とプライドへ笑いかければ、アーサーもドンと胸を叩き前のめった。その途端アランも「おっ」と眉を上げ少し笑む。


「取り敢えず何あってもこっちは平気なんで!ジャンヌさんは何も心配しねぇで自分のことだけ考えてて下さい!」

「俺らは落ちてもまぁ大丈夫ですし、ジャンヌさんの演目の時は舞台際に控えているようにしますね」

ちょうど俺らの後ですし!と勇むアーサーの肩をポンッと叩き、アランもまたプライドへ笑いかけた。

妨害工作相手に生き抜くなど当然。客にバレないように成功させるのは骨が折れるかもしれないがカラムは臨機応変に長けている。そして自分達も国一番の天才と名高いステイルがいるのならば、だいたいのことは誤魔化しが効くだろうと考える。今は何よりもこの後の本番の不安をプライドから拭うことが一番である。

彼ら三人の優しさにほっと小さくプライドの肩が降りる。ありがとう、と感謝とともに心からの笑みで返した。


「カラムさんにも共有しておかないとね」

「あ、じゃあ俺いま言ってくる」

「いえ俺が。これから着替えですし、ついでに一言伝えてきます」

今にも駆け出そうとするアランを止め、ステイルは垂れてきた濡れ髪を再び掻き上げながら背中を向ける。プライドを彼らに任せ、テントの外へと姿を消した。


べったりと濡れた足跡を残しながら。


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