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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
侵攻侍女とサーカス

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そして見上げる。


「……いかがですか。他に目ぼしい団員は引っ掛かりましたか」

「いいえ。……ごめんなさい、今のところ誰も……」


今回サーカス団に潜入した理由の一つ。団長を守り、オリウィエルを止め、ラルクを解放することの他に大前提として他の攻略対象者を見つけることがそもそもの目的である。

しかし今のところ挨拶した誰も記憶には引っ掛からなかったとプライド自身が誰よりも嘆息した。ゲームでは確かに全員一纏めに揃っていた気がしたのだけれど……と思いながらもそれを口にはできない。

第四作目は同じサーカス団から逃げ出した運命共同体の攻略対象者達の筈なのに、現時点でサーカス団に所属しているゲーム関係者はラスボスを含めても三名だけ。

既に目玉演目を持つ演者にも何人か挨拶したが、顔の良さを置いてもやはりゲームに覚えのある人物はプライドの記憶に引っ掛からなかった。


「カラム、さん達も別段隠されてるような奴はいねぇって言ってましたよね……」

ステイルとプライドの潜ませ声に、顔ごと耳を傾け近づけていたアーサーも同じ声量で二人へ確認する。

自分達より一足先に潜入した二人からも、サーカス団でオリウィエル以外に別段匿われた人間や特別秘匿された情報、人間は確認されていない。まだ一日の差とはいえ、あの優秀な騎士隊長二人の調査と推測であればほぼ間違いないとアーサーは思う。そしてそれはプライドとステイルも同じだった。

こうして回った感覚でも、ラルクとオリウィエル以外の団員には怪しい点は見られない。過去に何かしらがあるのだろうと空気感で察せられた相手はいても、重大な隠し事をして生活しているようには見えない。


アーサーの言葉にちらりとステイルはアレスの背中へ目を向ける。サーカス団員としての経歴は比較短いが、それでも団長とも懇意にしており演者であり特殊能力者。さらにはあのラルクのことも他の団員より気に掛けている様子の彼ならば、サーカス団の奥深くまで浸透している可能性は高い。

「一応確認してみるか」と、口の中で呟いた後「ところでアレスさん」と一転した晴れやかな声でステイルはアレスに笑いかける。


「念の為お尋ねします。件のオリウィエル以外で貴方方が隠すもしくは匿っている存在などはいませんか」

「ハァ??いるかよそんなの。隠すっつったってうちは移動してんだ。荷車ん中に押し込んでるとでも思うか??」

一カ所に建物ごと根を下ろしている常駐型サーカスならまだしもと。そう面倒そうに言いながら振り返るアレスは眉間に皺が寄った。

移動型サーカスである以上、手品用の器具でも大きさは限られる。象を運ぶだけでも大変な労苦なのに人間を隠すなどそれこそ荷車の中がせいぜいだ。

しかも、旅で移動する際にはその荷車もぎっしりと器材が詰まっている。こうしてテントを張っている間は幾分空白の荷馬車もあるが、その分別の用途部屋代わりに使われている荷車もある。

少しでも防音できるように音楽家の個人練習場所や、貴重品庫代わりでもある。一日二日ならまだしも、長期間人を知られず隠し匿うことのできる場所など移動型サーカスには存在しない。それこそ団員全員が協力者でなければ不可能だ。

ステイルがちらりと振り向いたと思えば、今度はアーサーが首を縦に振った。プライドも肯定するように頷く。多分アレスの言ってることは本当だろうと、三人の総意だった。


「あの女だって移動はラルクが運転する荷馬車ん中だ」

「ラルクが?演者なのに馬車も??」

「自分の猛獣達を他の奴らに預けられねぇって昔から自分で運びたがるんだと。以前は餌とか世話も全部あいつがやってたらしい」

団長が言ってた、と。そう続けるアレスの言葉に、つまり今オリウィエルは猛獣達と一緒に移動しているということだろうかとプライドは考える。

護衛としてはこの上なく心強い子達に囲まれているとも言えるが、一歩間違えたら餌という恐怖の紙一重。もちろん猛獣はそれぞれ檻に入っていることを前提、もしくは繋がる荷馬車のどれかならば猛獣と相部屋とも限らない。

しかし、自分の大事なものは自分で運ぶというところはラルクの性格が出ているとも思う。同室になるではなく自分で運ぶというところが彼らしいとプライドは唇を小さく絞った、その時。


『まるで夢をみているような、……そんな心地良さだった』


「…………?」

ふと、頭に記憶が過る。

ラルクだ、と。頭の中で遠い目で呟くラルクの横顔が浮かんだ。ゲームのイベント画像だと理解しながらも息が止まる。片手で頭を押さえ、違和感に爪を立てた。

ジャンヌ、ジャンヌさん?と彼女の異変にステイルもアーサーも呼びかける中、「大丈夫」としかプライドは答えない。再び思い出せたラルクは、ライオンを始めとする動物達に囲まれていた。

そして彼の傍らにはその傷を癒すように寄り添う主人公の姿が、……浮かびそうで靄にかかる。せめて主人公の見かけだけでも!!と頭の記憶へと叫び訴えかけたが、そう都合良くもいかない。

しかし状況はすぐに理解する。洗脳が解けた後なのだろう、と考えながらプライドは意識的に呼吸を深くする。やはりイベント画像まであるということはラルクはただの登場人物ではなく攻略対象者の可能性が高いとその認識を改める。彼が特殊能力者かはまだ記憶にないが、後天的な可能性は充分あると思う。


「最後入るぞ。お前らぼさっとするなよ。今全員気が立っているから何か飛んできてもしらねぇぞ」

アレスの言葉でやっと我に返る。

いつの間にか俯きがちになっていたプライドは顔を上げ、正面へと目を向けた。今までの団員用のテントでも荷馬車でもなく、どこからも距離を置いた場所に構えられた設営物は大テントの次の大きさと規模だった。

プライド達が気を引き締めるのを待ち足を止めたアレスも、三人全員が自分に注視したのを確認してから垂れ提げられていた幕を上げる。

既に物音が零れていたそこは、幕を上げられれば倍量の音と熱量がプライド達を襲った。大テントほどの怒号や工事音が聞こえないだけ比較静かとも言えるが、熱量がそのまま閉め切られた分厚い布の向こうで籠り、設備内の温度も実際に上げていた。

あまりに汗の匂いも凄まじい湿り気のある熱気に、一歩入る前に換気はしないのかとステイルは尋ねたが「無理だ」と一蹴される。


「訓練所だからな。客に間違っても見られるわけにいかねぇから、お前らも入ったらちゃんと幕閉じておけよ」

そうアレスに促されるまま一歩中に入れば、むわりとした熱気など忘れるほどにプライド達は目の前の光景に圧倒された。おぉ……と感嘆まで零した。


雨風の天候も関係なく、団員達の睡眠時間も朝も夜も関係なく、そして本番用に飾り付けられ装置や設備を配置された後も時間の許す限り本番に近い状態で練習を行える訓練所は、移動型サーカスにとっても必須設備だ。

客に見せるような華やかさや美しさほどない格好やサーカス用の器材ではないものも多いが、その上で練習を行っている演者の芸にプライドは思わず口を覆って目を輝かせた。

前世でもサーカスというものは知っているが、題材の創作物に触れた程度。本物を生で見たこともなければ、今世でもこれほど大きな規模のサーカスのショーは目にする機会がなかった。

フリージア王国の城下にもサーカスは現れるが、どれも小規模の大道芸程度が殆どである。


いくつもの玉や皿を空中で遊ばせるジャグリングや、端から端まで張り巡らされた縄の上を歩く綱渡り、吊り下げられた布を手足にひっかけ昇降や空中維持を行い、大小の玉と板を挟んでその上でバランスを取る玉乗り、数歩並んだポールにトランポリン、ナイフ投げから複数人の屈強な男達で信じられない肉体の塔を作る組体芸。

更には巨大な水槽や手錠、巨大過ぎるバーベル、張りつけ台、着火剤付きの輪などの器材も脇には積み上げ置かれていた。天井に近い位置にはワイヤーやカーテンのような布も張られ吊り下げられ、万が一の為に受け止める緩衝材が置かれていた。


「演目は演者同士で複合した別物にすることもあるけどな。今回は準備期間もねぇし全部個人演目だな」

今も明日の成功を叶えようと団員達が必死に練習する中、アレスが一つ一つ指を差しながら演者と演目を説明していく。プライドも目を凝らして衣装も化粧も施されない演者の顔と演目に耳を傾けたが、やはりピンとこない。

あれが空中浮遊、あれが手投げ曲芸、あれが火吹き男で……と、演目名を告げる途中、練習中は容易に話しかけたり近付かないようにと注意も提示する。演目によっては集中力を一瞬切らせるだけでも大怪我や商売道具の破損、最悪の事故に繋がる場合もある。そう説明を受けたプライド達はどうりでここは人口密度は多いのに比較的に静かな筈だと理解する。

下働き達が修繕補修作業や、演目持ちの演者が本番に近い練習や衣装合わせを行う戦争状態の大テントとは異なり、ここは差し詰め爆心地かしらとプライドは思う。

トランポリンやクッション材から数メートルの高さに張られた縄やワイヤー、そして東西で相対する高台をアレスが指差し「本番はあんな程度の高さじゃねぇぞ」と言われれば訓練所内の緊張感と熱気の正体も理解し



「おー--い!!来たなアーサー!!お前もこっち上がって来いよ!!」



この上なく明るい、そして大きな声が訓練所に響き渡る。

聞き覚えしかないその声に、名指しされたアーサーだけでなくプライドとステイルも目を見張った。つい今さっき容易に大声は駄目だとアレスに言われたところでの大声に肩まで上下した。

当然ながら、アレスの忠告通りその大声を被弾した他の演者もまた音を立てる。「おわっ!」と組体中の男達は一度崩壊する前にとそれぞれ散り飛び降り、バーベルを掲げ上げていた男は手から滑る前にドスンと剥き出しの地面へ落とし、地鳴らしを起こした。綱渡り中だった女性も怪我をする前にと自らクッションへ飛び降りる。

幸いにも全員が怪我をする前に最善の選択で中断させたが、次の瞬間には同じ方向に視線を上げた。

若干ピリリと殺気に似たようなものを感じ取ったプライド達は声の主へ顔を上げながらも顔が引き攣った。訓練所の誰よりも今高い位置にいるその男性に手を振ることも今は憚られた。

「あ゛ー……」とうんざりした低い音を零したのは他でもない案内役のアレスだ。バーベルの男性からも怒声が上げられる直前、アレスはそういえばアイツも関係者なんだと頭を抱えて思い出す。


「アランッッ!!!!今日は静かにしてろっつったろうが!!!!!!!」


「あーディルギアさんそうでしたすみません!」

はははっ、と先輩幹部である演者に手を振って謝るアランに、アーサーは呆気を取られる。

正体が騎士隊長であるアランが頭ごなしに怒られるのを目にするのも衝撃だったが、周囲への注意を怠らなかった筈の自分が見事に馴染んでいるアランに、呼びかけられるまで気付かなかった。

よく考えればカラムと同じく潜入しているアランが訓練所にいることは容易に想像できたことだ。


大きく手を振るアランは、訓練所内の誰よりも高い位置にいる。プライドとステイルも首が痛くなるほどに顎の角度で見上げた。プライドも前世の記憶で知る、空中ブランコだ。

利き手を離して大きく手を振っているアランはしかしブランコに乗ってはいない。片手でブランコを掴み、それ以外は宙づり状態で笑いかけていた。

プライド達に気付くまではブランコを大きく揺らしていたアランだが、今は中断したままだ。原動力となるアラン本人が揺らすのをやめた為、ブランコは東西どちらの高台へも行かず吊り下げられた位置から垂直に垂れていた。

下にクッション材があるとはいえ、本来では事故になりかねない状態だ。

しかし、妙なほどに訓練所で煩いアランを睨む団員の誰もが彼に手を貸そうとも焦る様子もない。それが単純にアランがサーカス団で邪険にされているということではないのだろうと、プライド達は周囲の空気感で理解した。

まったくあいつは、本当に新入りなんだよな?ディルギアもうるせぇなと、口々に零す団員達からは殺気も薙に出した。

来い来い、と。今度は声の代わりに手招きでアーサー達を呼ぶアランに、プライド達も恐る恐る最奥の空中ブランコへと歩み出した。同時に、アレスが今がちょうど良いと息を吸い上げる。


「ちょうど良いから皆聞いとけ!!団長から連絡だ!フィリップ、ジャンヌ、アーサー。今日からの新入りで、今度戻ってくることになったアンガス達の短い代理だ。明日の演目にも出ることになっちまったからここも出入りするぞ」

詳しいことは直接聞きに来い、と。今日一番手短に説明と紹介を行ったアレスに、全員が一度どよめいた。ちょっと待て、どういうことだ?!アンガスさん戻ってくるのか?!リディアさんは!!?と、何人かはその場で今度こそ練習を完全中断しアレスへと駆け寄る。


彼が事情説明をしてくれている間にと、プライド達は駆け足でアランの元へと急いだ。


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