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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
越境侍女と属州

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1992/2243

Ⅲ75.越境侍女は打ち合わせ、


「団長も?!団長今度は本当の本物?!」


ですか!?と、一拍切れて続けるユミルちゃんに、私達は肯定を返す。

サーカス団で無事団長に協力を取り付けられた私達は、やっと貧困街にいるユミルちゃん達のところに訪れることができた。

ユミルちゃん達だけでなく、奴隷商の前にいたアンガスさん達も全員が待ちかねていたように一丸となって拠点で私達を迎えてくれた。私達も想定より時間が掛かってしまったからお待たせしてごめんなさいと謝罪から入ったけれど、それも「アレスは?!」の最優先課題に軽々と吹き飛ばされた。


最初に、アレスの無事と今はサーカス団に戻ったことを伝えれば前のめりだったアンガスさんやクリフ君達もほっと息を吐いて落ち着いてくれた。

ああいう反応を見ると、本当に仲間なんだなぁと改めてほっと胸が温まった。

ステイルが上手く説明をしてくれて、勘違いして奴隷商に特攻したアレスの目撃情報を聞いて私達も特攻したと、嘘にならない形でなんとか納得して貰えた。……取り敢えず特攻かけたアレスに関しては事実とはいえアンガスさん達の「うわやっぱり」「これだからアイツは」感が凄まじかった。

なんというか日頃の行い感がひしひしと伝わってきた。彼らも彼らで団長が捕まっていると勘違いしたことは一緒だけれど、きちんと警戒して建物の外から様子見をしていたのだから。そこに金属バットもどき片手で殴り込みかけたアレスに文句を言うのは仕方がない。


そしてアレスの無事を報告できたところで次なる吉報こそが彼らの探していた団長の帰還だ。

これはお待たせした分の良い報告になったらしく、全員が目を皿のようにして驚きながらも喜んでくれた。ぴょんぴょんとウサギのように跳ねながら喜ぶユミルちゃんが可愛らしかった。

ボロボロの服装をしていたという話を今朝したばかりだから、もう今は彼らの知るきちんとした格好で元気そうだと続けてステイルが訂正もいれてくれた。今度はレオン達が会った団長が本物だったのか別人だったのかに謎は出てくるけれど、無事本物が帰ってきたことだけは間違いない。今はサーカス団の人達に囲まれつつ、早速サーカスに意気込んでいたことも話せばクリフ君まで気合を入れ直すようにぴょんと一度大きく跳ねた。


「……でもよ結局ラルクの話はどうだったんだ?」

団長は出ていった。後釜にオリウィエルを指名したと。当時のラルクの言い分を繰り返すビリーさんに、思わず表情筋が突っ張った。

そう、そこが大問題だ。

団長が帰ってきた時点で、彼の嘘も全て露見した。まだ全て解明とまではいかず団長やアレスも口を噤んでいるけれど、まさかのラルクが追い出しましたなんて知られたら今度は彼らが暴れ出すことも考えられる。

少なくとも団長を見つける為、ラスボス政権下から抜け出して捜索に乗り出した行動派だ。…………いや、殴り込みアレスよりは冷静な方々だと思うけれども。

流石に私達の口からそこまで明かすわけにはいかず、知らない方向で首を捻らせてもらった。すると気合を入れ直したばかりのクリフ君が「後で良いよ!」と声を上げる。


「団長帰ったなら俺達もサーカス戻りましょうよアンガスさん!!団長に聞いたらわかるんだし、開演とか準備始めるなら絶対アンガスさんとリディアさんはいないと!」

「!ちょっと待ってください」

この場においてこの上なく真っ当な決断をいの一番に上げるクリフ君にステイルが待ったをかける。

既にリディアさんもクリフ君に同意するように頷きだしていた時だ。団長が帰ったのならば、彼らがサーカス団を抜ける必要はもうない。それは当然。団長だって彼らを迎えにいく気満々だった。けれど、ここからは私達からのお願いだ。

社交界特有のにこやかな笑みを向けるステイルに、クリフ君だけでなくアンガスさん達も全員が注目をする。団長とアレスの報告をした分、アンガスさんやビリーさんも昨日より私達の話を聞いてくれている。

ここからが、ステイルの策だ。


「そこで実は僕らからお願いがあるのです。先ず、説明させて頂きますと団長さんには僕らからも皆さんのことはお伝えし、是非全員また戻ってきて欲しい歓迎するとお言葉も預かっています」

まさか自分を探しに出てくれたとは思わなかった。とてもその気持ちは嬉しいと、そう重ねれば途端に二番目に身体の大きいビリーさんがふらりと壁にもたれかかって脱力した。どうやら彼は色々と悪い可能性も鑑みていたらしい。……それでも探しに出たのは、やっぱり団長の人望が大きい。

嬉しそうに跳ねるユミルちゃんとクリフ君に反して、リディアさんも「今度こそだめかと」と肩から緊張が落ちていた。アンガスさんはわりと自信があったのか「良かった」と純粋な笑顔だけだ。

ただ、そこでステイルが「まだ続きがあります」と言葉を切ると、途端に全員が大きく瞬きを一回した。

前置いた上での依頼に、想像もつかないようにユミルちゃんが首をひねる。


「ですが一週間。あと一週間だけ、復帰を待って頂けないでしょうか。もちろん団長さんには皆さんの復帰は確約させて頂いた上での一週間です。僕らと団長さんでとある契約を交わしました。その為には僕らをサーカス団に一週間ほど所属させて欲しいのです」

もちろんサーカス団と団長には明日にでも会いに行くのは止めない。むしろその方がサーカス団員もアレスも団長も安心する。こちらの話は知っているから口裏合わせも協力してくれる。ただ、一週間だけ〝席を貸して〟欲しいと。そう順序立てて説明するステイルに、全員が口をぽかりと開けながらも聞き入ってくれた。


そう、これがステイルの策の一つだ。

彼ら全員が復帰することは簡単だ。ただ、ラルクやラスボスの危険性からユミルちゃんやクリフ君の安全も考えると、今帰すのが不安な部分もある。サーカス団には他にも子どもや女性はいるけれど、わざわざ一度安全な場所にいる彼らを知っていながら危険地帯に戻すのは躊躇われた。

それに、もう一つが〝席〟だ。


「?お前らサーカス団になりたかったのか?一週間??」

「あの、多分団長のことなので私達が戻っても団員が増える分はそこまで問題ないと思いますけど……もうそんなに団員が増えたんですか?」

まさか団長が大勢雇い入れて……!!とリディアさんが途中で思い浮かんだように若干青ざめながら声を漏らす。

実際アラン隊長やカラム隊長の件もあるし、私達の紹介について新入りスカウト設定もいれて貰っているからあながち的外れでもない。けれどそれならどちらにせよ一週間限定だ。

ステイルはそれに手首だけで軽く手を振りながら「そんなことありませんよ」と笑い流した。


「貴方方を歓迎することについては最初にお伝えした通り変わりありません。むしろ歓迎されないのは〝僕ら〟の方です。なので、貴方方の〝代理〟として僕らとジャンヌを紹介して頂きたいのです」

団長が帰還前だったら二人の紹介という形でもアレスに引っ張ってもらう形でも加入できたけれど、団長が帰って来た今では状況も変わっている。

既にサーカス団には二名の新入りが昨日突然加入。団長の帰還によってラルクやオリウィエルへの不満や疑念が高まっているサーカス団で、そこに更に新入りが入っても正直受け入れられるかはわからない。

アラン隊長やカラム隊長は上手くやってくれているけれど、ラルクやオリウィエルへの不信感が最高潮の今、私達も同じようには別だ。団長のあの言い分を流石に団員全員が信じて納得してくれるとは思えないし、…………まぁ、なんというかその団長の紹介でまた怪しい女である私とか入ってきたら絶対第二のオリウィエルと思われても仕方がない。ある意味ラスボス仲間だし。


だからこそ今の人員不足は私達の加入を受け入れる理由にも、そして元団員であるリディアさん達が戻ってくるまでの代理という形の紹介は信頼材料にもなる。

一週間後に復帰というのも、別段疑問に思われることでもない。団長やアレスが味方ならきっと元々の団員の復帰はサーカス団も望むところだし、彼らが団長を探しに行って出ていったことはアレスも最初から察しがついていた様子だった。なら団員達の中にも他に事情をわかってくれている人達はいるだろう。


「〝お世話になった先にお礼や後始末もあるから戻るまで一週間ほどかかる〟〝その間だけ、彼らが働き先を探していたから代わりに雇ってもらう〟と、そう証言頂ければ問題はありません」

それなら、ユミルちゃん達も戻るまでの復帰が掛かるといっても穴埋めという形になるし、さらに角も立たない。

表面上は当たり障りなく自然な理由でサーカスに潜り込める。サーカス団には既にアラン隊長とカラム隊長が潜り込んでいる。

実際にサーカス団に潜り込んでゲームの設定を思い出さないといけない私と、補佐であるステイルや近衛騎士の誰かは仕方がないとして、流石に王族であるレオンやセドリックがサーカス団にまで身分を隠してとはいえ働くのは駄目だろう。少なくともレオンは絶対駄目だ。アネモネ王国が絶対許さないし、レオンもアネモネ王国の規律規則は絶対だ。

母上がつけてくれたローランドなら透明化した状態で変わらず私達の護衛につけるし、王族二人なら騎士が四人配備されていれば問題はないだろう。


あくまで騎士やラルクとオリウィエルのことは伏せた状態でのステイルの説明に、最初は眉を顰めていたアンガスさん達も次第に納得してくれた。

私達の正体については相変わらず変な商人と思われているままだろうけれど、それでもあくまで一週間体験潜入には眉間を伸ばした。

どちらにせよ明日サーカス団へ団長に会いに行くことは止めないというのも強いだろう。最終的には「団長が良いと言ったなら」「明日確認すれば良い話だしな」と、頷いてくれた。

「お前らのお陰でアレスも助けられたみたいだし、……正直俺達じゃあのままアレスが奴隷にされるのを指くわえて見ていることしかできなかったからな」


……そんなことない。


腕を組んで了承してくれるアンガスさんに、私は意識的に言葉を飲み込んだ。

確かにあの時点ではアンガスさん達は建物の外でアレスの状況を様子見するまでだったけれど、見捨てたわけじゃない。あくまでその後に私達が乱入したからそこで止まっただけだ。


第二作目での設定。アレスは団長が自ら姿を消した後暫くは言葉の通りに帰ってくるのを待ち続けた。けれどある日、団長に似た男が捕まったという噂を聞いて急いで助けに向かった。けれど、結局人違いのままアレスは奴隷商に捕まってしまう。

特殊能力者ということもあって閉じ込められていたアレスだけれど、暫くしてから逃げ出せて再びサーカスに戻って来た。どうやって逃げられたのか。

「昔のサーカス団の仲間が助けてくれた」とアレスは語っていた。自分が捕まったと知ってこっそり逃がしてくれたと。…………きっと、それがあの時のアンガスさん達なのだろう。


もし、ゲームでもアレスが奴隷商から帰ってこないのを目撃したのだとしたら、それから何日もずっとアレスを取り返す為に準備を進めていたのかもしれない。

あんな奴隷狩りもいるような奴隷商に、騎士でもない彼らが忍び込むだけでも命がけで、相当な勇気が必要だった筈だ。現実では私達が力押しでなんとかできただけで、彼らも充分すごい人達だと思う。


そしてそこからが、アレスの悲劇の始まりだった。


けれど、アレスも無事救出できたし、団長もサーカス団に戻って来たまま今も護衛がついている。

何故こんなアレス事件即日だったのかはやっぱりわからないけれど。確か団長が戻って来た理由も、なにか後付けであった気がするのだけれどまだ思いだせない。…………後付け??


「ご協力本当にありがとうございます」

ハッと、アンガスさん達との話を進めてくれていたステイルの言葉に我に返る。見れば、ステイルがちょうとアンガスさん達大人組と握手を交わしていたところだ。

やっぱり、まだ第四作目で思いだせないことが多い。アレスのことは大分思いだせたけれど、ラルクについてはいまいちしっくりこない部分もある。

頬を指で掻きながらふーと吐いて頭を落ち着ける。どちらにせよ、攻略対象者にアレスは間違いない。今回は攻略対象者が全員で何名かもまだ思いだせないけれど、取り合えず死んじゃっている団長は違う。少なくともラスボスの設定はいくらか思いだせたのだし、悲劇を最小限で止める為にも、最優先は彼女を止めることだ。それがアレスやラルクを救うことにも繋がる。


「それでは今夜はここで。宿で昨日の彼らが待っていますので」

失礼します。と。ステイルが礼をしたところで、私も侍女らしく深々と頭を下げた。

そのまま背中を向ければ、ユミルちゃんが「お兄ちゃん!」とステイルを呼び駆け寄った。きらきらとした笑顔で近付いてくる少女にステイルも片膝をついて視線を合わせる。


「約束守ってくれてありがとうございます!明日団長に会えるの、すっごい楽しみです!」


心から嬉しそうにお礼を言うユミルちゃんが、眩しくなる。

ステイルも彼女の言いたかったことは予想できたのか、びっくりした顔はしなかったけれど「どういたしまして」と返す笑みは社交用ではない、ティアラやステラに向けるような優しい笑みだった。

また明日、と。最後にユミルちゃんの頭を撫でてから立ち上がる。リディアさん達にも協力のお礼と約束を交わして、私達は貧困街を後にした。


明日、彼女達と団長との再会を楽しみにしながら。


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