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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
越境侍女と属州

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1985/2243

Ⅲ71.騎士隊長は捕まり、


「ハッハッハ!!待っていたか私の家族っ!恋しかったか~!!」


「いきなりいなくなっておいて何言ってんだアンタは!!!」

あまりにも能天気な大声は、直後には団員達の叫びに上塗られた。

歓声というよりも怒声が七割には達していた騒ぎは、どの姿を目にするよりも前にアラン、そして同じく聞きつけたカラムの耳によく通った。

アランが駆けつけた時には既にテントの入り口で団員がごった返して団長らしき男の声はしても姿は見えない。年長者の一人でもあるディルギアが「どけ!!通せ!!」と強引に人をかき分け前に出るのを、アランはちょうど良いとばかりにその背後にぴったりついて進む。自分でも強引に掻きわけることができるが、下働きである自分はこの方が遥かに効率的に前に出られる。


アランも、そして採寸中だった為に一足遅れたカラムも、声が上がる前から注意は張り詰めていた。

しかし、実際は堂々とテントの前で大声を張り上げ自己主張した男は、まるで奇襲のように突然の帰還を主張していた。団員達が集まってきてもどこへ逃げるでもなく大笑いしながら両手を広げる男に、アランは入り口をくぐってすぐに目を見張る。

まだサーカス団員全員の顔を覚えてもいないアランでも一目でその男が今まで何度も話題には出ていた〝団長〟だと理解した。


薄茶色の髪は散髪仕立てと言わんばかりに毛先まで切り整えられている。頭は年季の入った上等な黒帽子で隠されているが、それでも乱れはまったくない。蒼い瞳の目尻には年相応の皺が滲みんでいるが、髭もきれいに剃られた上に子綺麗な背広と平均男性よりは高い背も合わさり全体的に気品の溢れた出で立ちの男性だ。

レオンの証言と身だしなみこそ別人だったが、四十代にも見える若々しい笑みと張りのある声は、生命力で満ち溢れていた。


大柄なトランクケースを横に立て、今は両腕で駆け寄ってくる団員の肩を抱いては笑いかけている。「ちょっとな」「書き置き?ああ忘れていた」と明るく笑い飛ばす男性に、人波を買い分けた幹部男性ディルギアが「団長ー!!」とまた特攻していく。


「おぉ!!ディルギア!!私がいない間に可愛い団員達をいじめていなかったか??」

「んなことよりどこ行ってたんだ何処に!!やっぱアレスか?!アレスのやつ団長の居場所知ってやがったんだな?!」

どうりで怪しいと思った!!と、今日までのアレスの態度に違和感を覚えていた男の叫びに団長は「ん?」と少し眉を寄せてみせる。

アレスが事情を知っていることは事実だが、アレスも自分の居場所までは知る筈がない。そういえばまだアレスが見えないなと、団員達の顔を一人一人確認しながら考える。その間にもディルギアの大声は止まらない。

やはりアレスは団長の居場所も知っていて、だから今日帰ってこなかったのも団長を呼びに行っていたんだと、妙な新入り二人に危機感を覚えたんだと思い込んだディルギアは捲し立てるように「アレスだよアレス!」と口を動かした。

アレスと通じていたんだろ?どういうつもりだ俺らへの冗談か?アレスが呼び戻したんだろ?と積み上げるディルギアの声を片耳を塞いで聞きながら、団長はひたすらアレスを探す。


「そういえばアレスが見えないな?もう寝てるのか??私はサーカスを留守にしてから今の今まで一度もアレスには会っていないぞ??」

なんだと?!と、今度はディルギアだけでなく他の団員達もそれぞれ声を漏らした。

言うタイミングを計っていただけでディルギアと同じように考えていた団員は多い。この場にアレスがいないのが不思議だが、彼の帰りが遅いタイミングで団長が帰ってくれば結びつけるのは当然でもあった。しかし状況が全く読めない団長は、ひたすらに人の群れの中からアレスを探し続ける。彼ならば自分が戻った途端にディルギアよりも早く駆け寄ってきてくれると期待した分、空振りしたような気持ちになる。

団員達の顔をひとつひとつ確認し、他にも見えない顔が何人かいるなと思いつつそこでふと、自分の知らない顔に気付いた。


「?そこの金髪の。彼は誰だ??新入りか?」

そう言ってディルギアの背後をとっていたアランに目を向ける。

突然自分の注意を向けられ、茶髪混じりの金髪のアランも流石に反射的に肩が揺れた。仮にも団長、という響きの所為もあってか大勢を束ねている相手に敬意が僅かに反応する。

「どうも」とすぐに軽い調子で取り直したが、明らかに人望がある様子の男性はやはり間違いなく本物なのだろうと理解する。

投げかけられたディルギアも、顔を顰めながら汗が額に滲んだ。紹介しないといけないが、正直まだアランが若干怖い。「ああコイツは……」と口を動かしながら妙なこと言うなよとアランに頭の中で念じる。


「昨日入った新入りだ。もう一人いて、そいつは団長も気に入るぜ。アンタがいなくなってからアンガス達も追うように抜けちまってこのままじゃまた潰れちまう」

「おいおいおい冗談はやめてくれ。〝また〟じゃないだろ人聞きの悪い。私のサーカス団は今まで一度も潰れてはない。が、……そうかアンガスが……それは痛手だな……」

団員の減少に痛々しげに顔を顰めた団長は、そのまま「後は?」と他にも抜けた団員の名前を尋ねる。リディア、ユミルにクリフ、ビリーもと、そう言われればまた寂し気に肩が落ちた。主戦力がさらに一人、そして可愛がっていた団員達がさらに三人いなくなったことに大袈裟とみえるほどに大きく肩を落とす。

抜ける前に相談も受けることもなかったディルギアは、彼らが団長を探す為に透けたことも知らず「抜けた」の報告しか団長にしない。

寂しくなるな……と、年季の入った帽子を深くかぶり直しながら顔を俯ける。声色も低まれば、さっきまで騒然としていた団員達も僅かに熱が冷め喉を休めた。団長の不在に続いた出来事だったが、その団長が帰って来た今は彼らの不在も余計に際立った。彼らも間違いなくサーカス団の戦力なのだから。

一瞬静まり出す団員達の様子に、アランは昨日の貧困街を思い出す。彼らが団長を探して行方をくらませたことも知っている身としては、団長の帰還を知ればすぐ戻ってきそうだなとこっそり考えそして



「寂しいが……彼らがこの素晴らしきサーカス団以上の幸福を見つけたというならば受け入れるしかない!彼らの新たな人生に幸運を願いつつ今は新たな家族を歓迎しようじゃないか!!」



ハッハッハ!!と大っぴらに笑うその腕に、肩を掴まれた。

ディルギアの背後に立ったままのアランへ団長は強引に身体を前のめりにしてまで腕を伸ばし掴み引き込み、そのまま自分の隣まで引き上げれば次の瞬間には肩を抱き、バンバンと耳に痛い音が響くほどに激しく叩いた。


今は潜入中であることと団長という立場の相手ということもあり無抵抗に引かれ捕まったアランだが、あまりの感情の切り替えの激しさに流石にどういう表情をすれば良いかすぐには追いつかなかった。目を大きく開いたまま唇を結び、肩を叩かれてからは愛想とも言えない半分だけ笑った顔で団長を見る。自分よりは背の低い団長は腕も常人の域だが、その叩く力はなかなか強い。


自分も騎士団や酒の席では同じようなことをするが、直前までしんみりした空気を自分から醸し出していた団長からのそれには流石に戸惑う。

「うわぁ……」と口に出すのをなんとか結んで押さえつつ、そっと視線を団長から団員達へと向ける。いなくなった仲間に対してこの態度は良いのか悪いのかと、思考しながらの確認だったが、……団員達もまた新人である自分と似たような表情だった。

半笑いと、そしてさらに呆れや諦めの入った色が合わさっていたことに、多分これはいつものことなんだなとアランは静かに理解する。団長のように両手広げて全面肯定というわけでもなく、しかし団長への軽蔑でもない。

一言言葉を想像するのならば「そういう人だよなアンタは」という悟りだ。

その眼差しに、どこか似た覚えがあると既視感にアランもまた正しく団長の人間像を捉えた。その途端、どこか自分まで遠い目になりそうになりながら取り合えず団員達に同情する。カラムやエリック、アーサーとも違う苦労人達である。

そうこうしている間にも団長がまたもう一人の新入りを発見する。アランの肩を右手で抱いたまま「おおそこの君!!」と響く声をアランの真横で鳴らした。


「君も新入りだな?!こちらも良いじゃないか!若い男は女性客が喜ぶ!!こっち来い!ほら遠慮するなハハッ!!」

来い来い!!と、アランと違い二メートルは離れた位置で下働き仲間と共に様子を見守っていたカラムも、これには肩が揺れた。

どこかアランにも似た雰囲気も感じるが、とうのアランは顔が半笑いのまま若干引き攣っているようにも見える。

目上の相手であり自分達にとっても接近したい相手でもある団長に呼ばれ、カラムも速やかに歩み寄る。アランを捕まえたままの団長の二歩前で一度両足を揃えて立ち止まり、自分とそしてアランの分も紹介をするべく姿勢を正し、……きる間にやはり団長に捕まった。

アランと同じように前のめりに捕まれ左腕を肩に回され片手で抱き締められる。アランと肩がぶつかり合いながら、今は互いに目配せする余裕もなかった。敢えて避けなかったのは二人揃って同じだが、それでも騎士隊長二人を両腕に捕まえた団長はまた高らかに「歓迎しよう!!」と笑い声を上げた。

「名前は?」と二人に纏めて尋ねる団長に、それぞれ「アランです」「カラム・ボルドーと申します」と名乗ればそこでやっと緩やかに肩が解放された。

「良い名だ」と褒めてから、団長は客前と同じように姿勢を正す。


「私の名はクリストファー・コクラン。このケルメシアナサーカス団の団長だ。やる気のある若者は常に歓迎している。これから早速忙しくなるから覚悟しておいてくれ!」

自身の身を明かす時だけは引き締まったその顔つきは二人もよく知る、人の上に立つ人間の威厳で溢れていた。

思わずぴりりと礼儀として姿勢を伸ばさねばと両手を身体の横につける二人は、声こそ発さずに止めたがここが騎士団であれば一声も揃えていた。代わりに「よろしくお願いします」と言葉を重ねれば、クリストファー団長もまたさっきまでの目尻に皺をつくった笑みに戻った。ハハハッと明るく笑い、またパシパシとアランとカラムの肩を叩いて歓迎する。

そしてとうとう我が家であるテントへ向けて足を踏み入れた。敷き詰まり並び連なる団員達から幹部を選び、指示を飛ばす。

「君達持ち芸はあるか?中で詳しく聞かせてくれ。それでアレスは?ラルクは奥か??まったく、ディルギア!エリオット!お前達が説明してくれ。さあさあ始めるぞー!!!」

「団長!!本当にアレスと一緒じゃねぇのか!!?

「ディルギア黙れ!それより団長!!オリウィエルに後を譲ったっていうのはやっぱりラルクの」





「何しに戻ってきた……?!」





低く、静けきった声が落とされた。


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