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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
越境侍女と属州

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1981/2243

Ⅲ69.騎士隊長は確認する。


「おっ、カラムは採寸これからか?」


着替えテントの仕切りのカーテンを開けたところで、衣服に指を掛けていたカラムにアランは眉を上げて笑いかけた。

気配には近付いていたが、何の前触れもなく扉代わりのカーテンを開いたアランへカラムは逆に眉を狭めた。目の前で測りを広げていた下働き女性も背後からの不意打ちに目を丸くして振り返る。

見ればつい先ほど自分が採寸を終えたばかりの新入り男性が「すんません」と悪びれもせず手を振り笑いかけた。


「アラン。せめて一言掛けろ。私ではなかったらどうするつもりだ」

「いやちゃんとお前ってわかったって」

ハァ、と短く溜息を吐き出し、諦めたようにカラムは再びボタンへ指を掛ける。

これから自分の採寸をしてくれるところだった女性が一度中断すべきか二人を見比べたが、カラムから「気にしないで下さい」と一声告げた。他のサーカス団員相手であればたとえ同性であっても会話をしながら着脱など礼儀としてできないと手を止めるが、同じ騎士団に所属するアラン相手では全てが今更である。


他の相手であれば採寸時に顔を出すのも邪魔するのも失礼この上ないと注意されたアランだが、アランもアランできちんとそれくらいの常識はある。ただ相手は選ぶだけだ。

カーテン向こうからカラムと同じ体格の影と、そして採寸の指示をかける女性の声がすればほぼ間違いもない。

自分もついさっきざっくり採寸を終えたばかりなのだから。

部屋を移動するのも面倒だと採寸を望まれたその場で服を脱いだ自分と違い、カラムなら彼女の指示通り場所を変えて採寸するのもすぐに想像できた。


まだ所属してから一日の二人だが、早々に採寸をと持ち掛けられていた。

特殊能力者であることを買われたカラムと違い、下働き入団だった筈のアランまで衣装を必要とする証である採寸がされたらしい事実もカラムは驚かない。

今朝からの騒ぎをはじめにたった一日でいくつも小騒ぎを起こしていたアランには時間の問題だった。アレスにサーカス団の案内を受けた後なら、アランならば大概の男性演目もできる。最終的にどの団員とも被らない、つい最近担当団員が去ったという看板演目にあてがわれたと、カラムももう聞いていた。

他の演目と異なり、指導者も見本を見せる者もいない中、団員達の口頭説明でしかどのような動きをすれば良いかわからないそれはいっそ嫌がらせに近いとカラムは思う。しかし、やはりアランなら不可能ではない。


「俺は既存衣装ちょっと調節したら着れそうらしいけどさ、そっちは結局もうどんなのか決まったのか?」

「まだだ。まぁ、過去の衣装から適切なものがあるだろう。アラン、お前も仮面は希望したか?」

採寸、だからといって一から作ることは少ない。

もともと女性ならば動きやすさ重視の衣装、男性ならば逆に動きを必要としない衣装であれば採寸も必要なく衣装テントから選別するだけで済む。


歴史のあるケルメシアナサーカス団では衣装の在庫も山のように保管されている。

着られることなくお蔵入りした衣装、前任者の置いていった衣装、もはや歴史的遺物化したボロ切れ状態まで幅広い。その中から体格や演目に適した衣装を選び時には繕い直すのが最も効率的で無駄がない。

身長こそあるが体格としては騎士の中でも細身のカラムも、そしてサーカス団では珍しくない鍛えられた身体つきのアランも、当然着れる衣装はある。ただし調節の為に採寸は必要だった。暇である今のうちにと、できることを前倒しに行われていた。

身体を動かす演目のアランはもちろんのこと、まだ具体的演目未定のカラムも採寸しておくに越したことはない。


仮面、と投げられアランは「あー」と正直に口を開けて半笑う。

そういえば言ってなかったと、その場でカラムの採寸をする女性へ「俺もお願いします」と頼んだ。

演者の中でも人前に出る中で顔を隠す者はいる。顔立ちを隠した方が客の人気を掴めるという理由の者もいれば、単純に素顔を隠したい者もいる。

フィリップの特殊能力も受けていない二人は、他者にも自分の顔がそのまま晒されてしまう。もし本当に舞台に上がることになれば、巷で有名な大規模なサーカスにフリージアの関係者や王侯貴族が訪れる可能性はゼロではない。ただでさえミスミ目的に外部から集まっている期間に、何故フリージアの騎士がと思われれば誤魔化すのは難しい。しかも二人は揃って騎士団の中でも代表である隊長格、そして式典にも多く顔を出す近衛騎士である。

やはりアランはまだだったかと、二度目の溜息を意識的に口を閉じてカラムは耐える。

正確に身体を測るためバサリと衣服を脱ぎ、畳むことに今は意識した。手早く畳んだ衣服を台に置いてから測り易いように姿勢を正した。


「あれから変化は?」

「まったく。アレスさんも帰ってこねぇし取り敢えず休憩がてらまた先輩んとこ遊びにいこっかなって」

アレスが帰還が遅いことに騒ついてから更に時間は経過している。

いつ誰が戻ってきても騒ぎに気付けるように緊張感を絶えず張り詰めているアランとカラムだが、いつまでも外や入り口付近にいられるわけではない。プライド達への情報共有からアレスに無事辿り着けていればとは思うが、まだそこからの進捗はお互い連絡も受けてはいない今、彼らの無事を願うばかりである。

そして、その間無駄に案じるだけで時間を費やす彼らでもない。


「じゃ、またな」

本格的に採寸を始めるカラムへ軽く声をかけ、アランは仕切られていたカーテンを再び閉じた。

去る間際、採寸役の女性にも失礼しましたと断り、すんなりとその場を後にする。カラムの方にもステイルからカードが届いていないのであれば、お互い緊急の情報はない。ならば予定通りに自分は自分のやり方で更なる情報を集めるだけである。


……絶好の機会なんだけどなー。


そう頭の中だけで呟きながら、アランはちらりとカラムのいた部屋ではなく遥か向こうに位置するテントのある方向へ視線を向けた。

案内された時、アレスから立ち入り禁止を言い渡されたテント範囲である。

団長代理オリウィエルのいる個人テントだ。


アレスのことでサーカス団全体が浮き足立ち隙だらけ。更には新入り状態の今の自分ならもし忍び込んだところを見つかっても「迷いました」で言い訳が立つ。本当ならば今夜にでも隙あらばオリウィエルへの接触か、そうでなくても盗み見程度はしたかった。

プライド達からもサーカス団からも彼女が何らかの不穏のきっかけであることは明白である。

しかし、プライドからあんなカードを貰った後では安易な行動も憚られる。


〝オリウィエルには絶対に触れないように〟


「どういうのかわかんねぇってのが余計になぁ……」

特殊能力。それを頭に浮かべながら、アランは幕の張った天井へ視線を上げた。

詳細は語られずとも、それだけでカードを受け取ったカラムもアランも大まかな察しはつく。騎士団としてその注意事項は任務の度に何度も受けたことのあるものだ。


もともと今回の任務が自国が関わっている以上、特殊能力が絡むことも想定範囲内。

アラン自身、簡単に触れられない自信も立ち回る自信もあるが、特殊能力の面倒さがあれば万が一がある。ただ怪我する程度ならば橋を渡る価値もあるが、自分がカラムやプライド達の足を引っ張るような事態にまでいけば笑えない。

少なくとも具体的な対抗策が上がるまでは藪の中に入らないのが賢明である。

すたすたと歩を進めながら、今は彼女の部屋ではなく別の人物へ会うべく向かう。アレスの案内のお陰もあり、大まかではあるがテント地の配置は頭に入っている。特に自分が関わるべき相手の所在地は。


「おっつかれ様でーす。ディルギアさん今暇ですか?」

「!!来たな?!俺の演目はやらねぇぞ!!!!」

伸びのあるアランの声にビクリッと身体ごと肩を大きく上下させる先輩団員は、目玉がこぼれそうなほど大きく見開き背中を反らした。

ちょうど筋力鍛錬中だった彼は、うっかりダンベルを手から滑らせかけた。慌ててぎゅっと掴み直しつつ、身体を痛めそうな姿勢から身体の軸に力を込める。

今朝までは上下関係を身体に教え込んでやろうと息巻いていた男だが、今は最も関わりたくないと思う。

あまりに激しい反応にアランも苦笑してしまいながらもわざと否定しない。本音を言えば「いや狙いませんよ」と流したかったが、この方が都合も良い。


「アレスさん無事ですかねー。本当に探しに行かなくていいんですか?」

ははは、と笑いながら軽い茶伸び話のような感覚で投げかける。

ちょうど筋力トレーニング中だったディルギアに歩み寄れば、手近な足元に置かれていたダンベルを拾い上げた。「勝手に触るな!」とすかさず怒鳴られたが、アランには響かない。

もともと成人男性であれば片手で持ち上げられる程度の重さだ。そんなに過敏にならなくても良いのになとは思うが、ポンポンと球のように宙へ浮かべては掴みを繰り返し遊びながら返事を待つ。「まだ帰ってないんでしょ」と話題を強制的に引き戻せば、今度はディルギアも歯噛みしつつも掛けられた言葉の方に向き合った。

アラン相手には上下関係の圧など全く意味をなさないと今日一日で思い知らされた後である。

新人のくせに生意気な、とつい口に出そうになるのを必死に押さえる。その新人にいつでも立場を奪われてもおかしくないほど脅かされているのだから。


「良いんだよアイツは!うちの中じゃ喧嘩もできる方だし奴隷のヤバさもわかってる!!馬鹿だが奴隷狩り連中に喧嘩売るような馬鹿はしねぇ」

「けどあの人も特殊能力者ですよね。そういうのって狙われやすいって聞いたことありますけど」

「だ!か!ら!!その話はうちでも簡単には口にすんなっつっただろド新人!!!アンジェリカみたいに溢すな!うちでもあくまで〝芸〟ってことで隠し通してるっつったの忘れたか!!!」

あーそうでしたっけ、と軽く流しアランは頭を掻きながら笑って流す。

そうは言ってもわりとアンジェリカ以外も他の下働きや団員もちょこちょこ話してる気がした。自分が新入りだから厳しいのかなーとざっくり思う。

入団してから間もなく、アレスが特殊能力者であることはサーカス団員達を通してアランも把握している。あくまで特殊能力者という見せ物ではなく〝魔法〟に近い形での見せ方を舞台上では貫いている為、客には噂は立てられても確信は持たれていない。

そして、アランとカラムもまた客や部外者には必ずアレスの演目は仕掛けがある〝芸〟かもしくは舞台上の売り文句同様の〝魔法〟と言い張るようにと強く言われている。


もともとのプライドの予知を鑑みればアレスもまたサーカス団で〝奴隷扱いされている我が国の民〟に入ると思うが、アラン自身全くしっくりこない。

まだたった一日だがアレスはどこまでも好きにテント内を歩き回り、上下関係の中でも中間から少し上に位置している。下働きの人間達にも親し気に話しかけられ、ディルギアのように上下関係の煩い相手とも対等に会話している。フリージアの人間であることは間違いないアレスだが、奴隷という名前の扱いとは程遠い。むしろ上下関係のある世界の中でも中立な場所にいる。

今回の任務の目的は奴隷・もしくは奴隷扱いされている民の救出だが、そうでないならば騎士団としても国としてもアレスをサーカス団から引き抜く理由はどこにもない。特殊能力があろうとなかろうとも、今のフリージアは国外へ民が本人の意思で出ること自体は別段禁じていない。

いっそ、このサーカス団員の何人かが〝これから〟人身売買に一人ずつ捕まり奴隷として売られる、という意味の予知である可能性の方が色濃いとアランは考える。


「けど皆あんなに騒ぐってことはアレスさんが戻らないのもいつものことじゃないんですよね。今までそういう連中に狙われたこととかウチでもあるんすか?」

「ある。……そりゃものすげぇある。アレスのアレがなくても、そういう不可思議を売りにしてんのがウチだ。〝サーカス団員〟も物好きには高く売れるらしいし、実際あいつらだってそれで騒いでるのもある」


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