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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
越境侍女と属州

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1976/2243

Ⅲ65.越境侍女は確認する。


「ッハリソンさんもうそこまでで良いっすから!!?」


止まって下さい!とアーサーの声が小屋に響く。

ちょうどハリソンが最後の一人を踵落としで床に減り込ませたところだった。単に長い脚を持つ成人男性の身長から受ける高さではなく、空中に跳ねた上での一撃は頭部だけでなく首の骨も折っておかしくない衝撃だった。

死なせないように手心は加えた為そのまま勢いよく顎から床へ減り込むだけで済んだが、あまりに派手に床の破片まで飛んだことにアーサーも慌てて振り返る。間違いなく今の一撃で敵の意識は奪ったと、目視する前から確信するアーサーは男の背中を踏みつけるハリソンへそこで待ったをかけた。


完全に意識を奪ったか確認の為に軽く蹴り、踏んでみようとしたハリソンだがアーサーからの指示に仕方なく左足をひっこめた。くるりと首を回し、もういないのかと肩透かしを覚えながら短く鼻から息を吐く。


ハリソンとアーサーが戦闘を開始してから、あまりにも一方的な戦闘はプライドも口端の片方が僅かにヒクついた。

二人の実力を知っている立場からすれば結果はわかっていた。自分が相手した男も大した実力もなかったことから考えても、小動物と肉食獣どころの勝負ではないと。

しかし、それにしても戦闘というよりも蹂躙に近い力の差は間近で見るとすさまじかった。特にハリソンは、容赦がなさ過ぎた。


アーサーも強さだけで言えば圧倒的で、敵を一度に二人や三人も薙ぎ倒していたが、ハリソンの場合は手加減というよりも〝殺さない〟だけ感が凄まじいとプライドは思う。

貧困街の大人数を一人で制した時は武器も使わなかったが、まだ平和的な制し方だった。しかし今回は違法の奴隷狩りという相手であることと、武器の使用も問題ない密室空間だった為にハリソンから一段階手心が減らされた。流石に剣そのものや銃を使えばうっかり殺すから使わなかったが、それ以外の武器は遠慮なく使えば、殺さない以外は遠慮しない。


結果、単純に相手の意識を奪う程度で留めたアーサーに対し、ハリソンの方は一目で重傷とわかる状態で男達が転がっていた。

話を聞く為に意識を奪わず残された二人の男も、一人はアーサーにちょうど後ろ手に拘束されたところで済んだが、ハリソンが残した方は左足とそして右手の腕と手首も折れている。今も呻くばかりで転がることしかできない男は、拘束する必要もなかった。

ハリソンの実力は知っていたプライドだが、それでも一連の戦闘をやっと生で目にすればアーサーが昔から彼を「すげぇ怖い」と言っていた理由を改めて理解する。今回は殺さないように指示したからこれで済んでいるのだと思えば余計にだった。


「つまらん」

ぼそり、と。アーサーからの命令に構えていた武器を収めながら小さく呟いたハリソンの台詞がまさにその恐ろしさを物語っていた。

あはは……と枯れた声をこぼしながらプライドはなんとか口を笑った状態を維持した。確かに二人にとっては雑魚同然だっとことはわかるが、今のハリソンの台詞だとまるでもっと暴れたかったように聞こえてしまう。昨日に続いての戦闘にも関わらず、それでも彼は不満なのだろうかとこっそり考える。


軽快を一度解いたアーサーは拘束した男を背中の後ろ首から引っ張りながら、ハリソンが確保した骨の折れた男の隣まで運ぶ。

意識を奪わず拘束だけにする時間短縮の為に最後の一人に決めていたアーサーだが、ハリソンに骨を折られた男はわりと最初にやられてたなと思い返す。話を聞ける状態が必要な情報源という意味では、確かにハリソンのように先に確保しておく方が正しいとも思えば自分の後回しはまだ爪が甘いのだろうかと頭の隅で省みた。結局はちゃんとハリソンも、話を聞ける相手を一人は確保してくれていた。


一か所に纏められた男二人は顔こそ険しく睨みながらも、抵抗の意思はなかった。他の仲間も全員使い物にならなくされた時点で圧倒的力の差は見せつけられている。ギリギリと歯を軋ませながら何故自分達が残されたのかばかりを考える。

お疲れ様です、とステイルから騎士二名への労いが掛けられた。

そのまま彼がゆっくりと捉えた男二人の方へ歩み寄れば、流れに沿うようにプライドとレオンも動いた。ヴァルだけが面倒そうに欠伸を零しながら壁際に寄りかかり、動かない。もともとアレスや人身売買にも興味がない。


男達に向けて一番前に立ったステイルだが、話しかけるのは彼ではない。軽く首の動きで振り返るようにしてプライドへ目を向ける。もともと彼らの話を聞きたいと望んだのは彼女だ。

ステイルからの促しに、プライドも彼の後方で足を止めたまま頷いた。先ずは、と。第三者が良く観察すれば不自然にぽっかりと空間の空いた綺麗な床へと目を向ける。


「……アレスは、ちゃんとまだ意識はあるのでしょうか」

コンコン、と。声の代わりに、床を叩く音だけが返された。

肯定を示すその合図にプライドは音はなく胸を撫でおろす。まだ姿は見せず隠すが、アレスはちゃんと意識を持ってここにいる。


茫然と空いた口が塞がらないまま瞼も無くしたままのアレスだが、戦闘の一部始終も含めて意識はずっと保っていた。

自分の頭上を飛ぶことはあっても無力化されていく男達や武器がぶつかってくることもなく、床面に近い低い位置でじっと身を固くしていたアレスはさっきまでよりは少なからず呼吸も意識も安定していた。両手足を縛られた状態はまだ変わらないが、ただ転がっていた時よりも気道も確保された体勢で横にされたお陰もある。

自分にずっと触れたまま何も話さない象牙色の髪の男が、ジャンヌ達側なのだろうことはわかった。

アレスがちゃんと自分達の話を聞ける状態にあると確認した状態で、プライドは少しだけステイルの背中から横に逸れる。自分達を憎々し気に睨む男達を見つめながら「質問があります」と凛とした声を静かに響かせた。


「昨夜、貴方方が酒場で捕らえた男について確認させて下さい。どんな容姿で、どういう理由で諍いになったのか」

その顛末も、と。告げるプライドの言葉に男達は眉を寄せた。昨日の騒ぎは当然彼らも覚えている。

一体何を聞かれるかと思えば何故そんなことを疑問に浮かび、さっきいた特殊能力者の男が探していた〝団長〟というのもあの男のことだったのかと今思う。

素直に言う気にもなれず剥いた歯をギリギリと言わせた男達だったが、途端に「吐かせますか」とハリソンが剣に手を添えたら肩を上下した。

しかしプライドが断るよりも前に今度はステイルが「その必要はないでしょう」となだらかな声と共に男達を見下ろした。


「素直に話さないというのならば、身ぐるみ剥いでそこの檻に放り込みましょう。()()()()()()()()()()()()()()買い取っていくらでも好き放題尋問すれば良い」

ぞわりっ、とステイルの冷たい眼光と言葉に男達は今度こそ背筋が凍り付いた。

もともと奴隷小屋であるそこには何人もの奴隷を収監する為の檻がある。そこに放り込まれれば最後、自分達が奴隷ではないと証明する方法はほぼない。今は犯罪者とはいえ人権が確保されているが、奴隷になってからはどんな非道な扱いもされることは、それを商いにしている自分達がよくわかっている。たかが尋問など天国と思えるほど、奴隷になったあとの扱いは生温いものではない。


更にはレオンまでステイルの意図を読み取って「ああ、それは良いですね」「僕が片方は買いましょうか?」と滑らかな笑みで応戦してくる為、男達は文字通り震えあがった。奴隷の非道さをよくわかっている男達にはこれ以上ない脅し文句だ。

「わかった」「言う」とそう互いの牽制を解き合う時間も互いが惜しむ。ぺらぺらと急激に脂の乗った舌で男達は話し出す。

さっきまで黙していたのが嘘のように、昨夜捕らえた男について情報を言い合った。自分の方が有益な情報をちゃんと吐いたぞと、隣の仲間だった相手を切り捨てるべく手の平を返していく。


男は黒髪に黄土色の目をした五十代くらい。半年前から自分達の元で借金をしていて滞納が続き、酒場で急に襲ってきたのだと。借金返済滞納者は最終的に奴隷として身売りすることも契約書に書いてある。襲ってきたからそのまま返り討ちにしてさっさと今朝売り捌いたが、この程度の誤差じゃ衛兵に突き出しても相手にされない。こっちに借金したのも、襲ってきたのも向こうだ。自分達は悪くない、と。

そう、声を張る男達はステイルから「その男の名は?」と問われればすぐに記憶に新しい借金滞納者の名を告げた。


男達の苦しい言い訳を聞きながら、ステイルは漆黒の眼差しを曇らせる。

言い分からは襲ってきた男が自業自得に聞こえるが、だからといって手口が手慣れ過ぎている。襲われたのは予定外でも、どうせ今までも同じ手法で奴隷を違法に掴んでいるんだろうと考える。

借金を負わせ、破格な利息で奴隷を確保する。合流した時にもレオンから聞いた彼らのやり口からも既に余罪は決まっている。ここに辿り着いた時点でアレスを売り飛ばす相談を嬉々としていた男達だ。


やはりそういうことか、と。ステイルだけでない、レオンから話を聞いていたプライド達全員が彼らの言い分に思考の中で頷く。

しかし、同じく黙してそれに耳を立てていたアレスは一人驚愕に息を潜めるどころか止まっていた。無くした筈の瞼が痙攣し、目が見開いたまま血走った。

自分が助けにきた筈の団長が、全くの別人だったとやっと理解する。

服装こそ男達の語り口を聞いても団長が着ていそうな服だと思ったが、それ以外は全く違う。奇しくも自分が市場で聞いた服装や見かけ年齢以外は、詳細を聞けば聞くほどに団長とは別人だった。そもそも、借金をしたという半年前に団長はこの街にいない。自分達と一緒に別の興行地でサーカスをしていたのだから。


アレスの驚愕を察し、騎士のローランドはその背に置いていた手でポン、ポンと音を立てないように慰め二度叩いた。プライドからアレスが〝勘違い〟でここに殴り込んだのだろうことは聞いている。


ローランド以外アレスの姿は見えないが、それでも男達の証言と何とも言えない表情を浮かべるプライドを見比べるヴァルは、壁際でうんざりと吐き捨てた。

苛々と片足で床を踏み鳴らしながら呆れを通り越して腹が立つ。突然プライド達が現れた時は何かと思ったが、全く面倒なことをしてくれたものだとアレスに思う。


ことの発端は、レオンと共に奴隷市場で足止めを食らっていた時だった。

見事レオンの琴線に触れた奴隷商人が、レオンが騎士に呼ばせた衛兵によって事情聴取を受けていた。〝相応の〟理由で仕方なく衛兵も店主へ問答を重ねていた。

店主と店の名前、どれくらいの頻度でこの市場で商売をしているのか。奴隷売買と市場の許可証は持っているか、そして衛兵に提示された許可証の詳細までレオンは一目で頭に焼き付けた。

セドリックほどの記憶能力は持たずとも、貿易で何百もの相手をしているレオンにはたかが商人一人の情報程度頭に入れることは造作もない。さもただそこに居合わせた客としてそのやり取りを手に入れたレオンが「大変ですね」「長くなりそうなので僕らはここで」と店主に勧められた商品を、今は持ち合わせがないからと前金と引き換えに〝取り置き〟を約束したところだった。


『リオ!!ヴァル!!』


突然何もなかった物陰から飛び出してきたプライド達に、次の一手に動こうとしたレオンも、待ちくたびれて天を仰いでいたヴァルも虚をつかれた。

ステイルではなく侍女役のプライドが思わずといった様子で声を上げたところで、緊急事態は察せられた。更に場所を移して話を聞けば、レオンとヴァルにもその〝昨晩奴隷狩りに捕まった男〟は聞き覚えのある話だった。今朝、ちょうど市場で目撃している。

しかしヴァルの目にもレオンの目にも、昨日自分達が会った団長とは別人。つまりは人違いだと、そうプライドと同じ結論に至るのも早かった。


アレスがサーカス団に戻ってきていない、噂を聞いて団長を取り戻しにその店へもう乗り込んでいるかもしれない、と。慌てるプライドから話を聞き、先ほど男が売られていた店まで急ぎ戻れば、あくまで出店場所だったそこには奴隷狩りもアレスもいなかった。店番の男一人だけだ。

ステイルとレオンが店番の男から本店の場所を聞き出し、それからは走りながらの打ち合わせだった。

特殊能力でさっさと移動したかったが、奴隷狩りが横行している中で安易に使うわけにもいかない。

座標がわからないステイルだけでなくハリソンとヴァルまでも特殊能力無しの自力で急ぐことになった。


「……よく、わかりました。充分でしょう」

ぺらぺらと白状する男達から必要なことを全て聞き終えたところで、プライドはアーサーに視線で合図する。

次の瞬間にはアーサーな素早く手刀で男達の意識を奪った。衝撃を受け、ぐらりと頭を揺らし前のめりに倒れた男達は意識を手放す。奴隷も黙したままの中、小屋の中が数秒無音になった。


男達も全員無力化しアレスを取り返した今、もうここに用はない。あとはこの場を衛兵に任せ、不法な奴隷狩りについて申告すれば終わりだ。

仮にも〝商品〟である奴隷を今の時点では自分達にはどうにもできない。衛兵に預け、そこで解放されるかそのまま売られるかはラジヤの法が決めることである。

奴隷も目撃している中、アレスの姿を見せるわけにもいかない。目撃者と引き渡し役をレオンとヴァルに任せ、プライド達は透明化したままのローランドとアレスと共に小屋を出る。


扉をノックし、声を開ければ見張りをしていたアネモネの騎士達が外から丁寧に扉を開けた。

今のところ騒ぎには気付かれていない、誰も来ていないと告げる騎士達に礼を告げ、プライド達は足早に彼らの敷地から脱出に動く。

自分達は外に出て、衛兵にこの場所へ駆けつけるように通報しなければならない。さっきのレオン達がいた市場に一度戻ろうかと、広い敷地から小屋とは別の立派な店を横に抜け、そのまま門を出たその時だった。



「?!お前達!!なんでここにっ!!」

「おい!!こっち来い!!こっち!!!!」



跳び上がった大声が、プライド達の耳を横から叩いた。

一瞬は身構えた近衛騎士二人だったが、プライドも振り返れば門を出たすぐそこに見覚えのある人物が二人並んでいる。血相を変え、目が零れそうなほど見開き、茂みから手でパタパタと呼び込み招いていた。

何故ここに、とプライドは首を小さく傾けながら身体を向ける。早くと急かされ、軽い駆け足程度で彼らに接近しながらまた前世のゲームの記憶がちょこんと引っ掛かった。


「……っ……が、す……りー……?」


姿は見えないアレスの声が、うっすらとプライドの耳に届いた。

アンガスと、ビリー。訪れた理由だけは明白だろう、元サーカス団の二人の名だ。



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