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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
越境侍女と属州

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1967/2243

そして配達人は問う。


「……。それって、引き摺ってたら聞いてくれるって意味かい?」

「んなわけねぇだろ。なんで〝テメェの中で終わった話を〟俺がほじくり返してやんねぇといけねぇんだ。舐め合いなら主とやれ」


そう断言し、犬でも払うように手を振るヴァルに次の瞬間レオンは笑ってしまう。

ふはっ、と。自分でもさっきまでの強張りかけていた肩の力が抜ける。彼に限ってそんな優しさはないだろうとわかっていたつもりだったが、昨日と同じようにどこか気にしてくれているような気がした。

照れ隠しなのか本音なのか、それとも無自覚なのかはわからないが今はそういう気遣おうとしない態度が嬉しかった。昨日も今日も、プライド達が敢えて必要以上自分の前で彼らのことを話題にしようとも自分へ敢えて言及しようとしてこなかったこともわかっているからこそ一層身に染みた。


……聞かれたら。その時は、すぐに答えられる自信はあるんだけどな。


自分の中では決まっている。だが、それをわざわざ言及しないでくれるプライド達のそれは優しさなのだと知っている。

自分だって逆の立場だったら触れられない。それが大事な、傷つけたくない相手だと思えば特に。

そう考えれば逆説的にヴァルは自分に対して雑なのは……、とも思うが彼の場合は自分と価値観も全てが違い過ぎるから一括りに決められない。なにより、彼にとって大事な存在である筈のケメトとセフェクそしてプライドにも彼は同じような態度だと思う。

彼らと自分を比べるのも分不相応とは思うが、やはり考えれば考えるほど今は〝友人〟としての期待の方が強かった。


「例えば。テメェは同じ肌のあのおっさんを今すぐ助けようと思うか?」

他の連中よりも、と。そう続けて投げかけてきたヴァルの言葉にレオンは翡翠色の目を丸くしてからその先を注視する。

一瞬話の脈絡がわからなかったレオンだが、すぐについさっきの彼にとっての不快ではない理由の話題に戻ったのだと気付く。わざわざヴァルが一度流した話題を自分から降り直してくるのは珍しい気がしながらも、一度足を止めた。

奴隷市場の一角では、奴隷らしき男の一人が必死に男達へ命乞いをしている最中だった。

若き王族が目にするには残酷過ぎる光景でもあったが、レオンはそれを目を逸らすことなく凝視した。最初見た時はただ年配の奴隷が非道な扱いをされているか、処分手前なのかなと思ったが男達との会話に耳を傾ければどうやら違うようだと理解する。


頼む、助けてくれ、奴隷だけは嫌だと悲痛な声だけ聞けば同情に揺れなくもなかったが、「借金を踏み倒した上に殺しにきやがった分際でなに言いやがる」「変装までしてがっつり殺しの計画立てた奴がふざけんな」「売っても大した額じゃねぇから取り立てで済ませてやったってのに」「どうせ殺人未遂でも奴隷行きだ諦めろ」と泣きつかれている男達もまたうんざりとするか殺意を向けた様子で見降ろしていた。

その言葉に奴隷の男も否定はしないところを見ると、事実らしいと軽く見当づける。残念ながらレオンの目にもこの国の基準で言えば自業自得の男である。


ケタケタとそれを見て同情でも不快でもなく嘲笑っている自分の友人を横目に見ると、ああやっぱり彼も本当にそっち側だったんだなぁと呑気に汲み取る。

いっそこの状況で自分の横で笑っていると清々しくすら思う。そのまま男が鎖に繋がれたまま労働奴隷として早々に安売りされていくのを眺めてから「でぇ?」とヴァルに尋ねられた。で、も何も、と思いながらレオンは肩を竦めてまた歩き出す。

「今のは思わないかな。借金した彼が計画的に人を殺めようとした結果だから。ちゃんと裁判を通しての結果なのかどうかは気になるけれど」

「同じ肌の色の野郎でもか」

「……そうだね。なんでもかんでも君に被せたのは悪かっ」


「あれが、アネモネから奴隷狩りで売り飛ばされてきた野郎の成れの果てでもか?」


ざわっ……と。

次の瞬間、全身の血が熱く巡り騒ぐのをレオンは抑えきれなかった。気付けば見開いた両目で身体ごと振り返り、足もぴたりともう止めていた。

考えればヴァルのただの思いつきの軽口だとわかるのに、それでも優秀な頭脳が一瞬でも想像してしまえば身体と心はどちらも正直だった。


レオンのその表情に、にやにやとヴァルも不快に見える笑みをわざと向けてやる。レオンからそういう表情をされるのは滅多にない。つまりはやはり心のどこかで余裕がなくなっている証拠かと、レオン自身も自覚のない心境を把握しつつ愉快に思う。

敵意というよりも殺意に近い。肌をピリピリと撫でる感覚に、向けられたヴァルだけでなく控えていた騎士二名も思わず息を止め身構えた。

まさかその殺気の正体が目の前で自分達が守る王子とも最初は気付かず、更には死地にも慣れた奴隷狩り関連の人間も市場の中でそわそわとヒリつく感覚の正体を目で探し始めた。

「リオ様」と、騎士が呼びかけたところでやっとレオンも我に返る。短く息を飲み、ヴァルのこんな軽い言葉で血が熱くなってしまった自分自身に戸惑うように自分の口を片手で覆った。

しまった……と、殺気が止むと同時に頬に汗が伝い落ちる。しかしレオンの戸惑いもよそに、ヴァルは彼の前を先に行くように進み出す。


「ねぇ話じゃあねぇだろ?どっちも離れちゃいてもフリージアの隣国だ。運よく逃げ出せた奴隷が帰れず永住なんざ珍しくもねぇ。フリージアとアネモネはわりと同業者でも仕分けで間違える奴はいたぜ」

「本当に……君はそっちの人なんだね……」

もう何度も思い返した事実に、レオンは口から額に手を当て頭を重くする。

けれど今のもしもはちょっと酷い。そう思いながらも口は結ぶ。ケラケラと情けない自分を嘲り笑う彼は、元裏稼業だ。特に今はケメトとセフェクが居ない分本性を出しやすいのかもしれないと思えばもう諦めもつく。もともと自分はそういう彼だからこそ友人になりたいとおもったのだから今更だ。

これも肌の色で彼にとっては不快な気を回した意趣返しかと思いながら、レオンは一度両目を瞑りまた開いた。その間もヴァルにしては饒舌に雑談は続いていく。


「まぁある程度目が肥えりゃあ肌が一緒でも見慣れた国ならどの人間か顔の造りで大体は見当付くがな。アレは少なくともアネモネじゃねぇ」

「安心した……なんて言うと、凄く自分が愚かで残酷で非道な人間だと思えるよ」

アネモネ王国でも、フリージアの人間の顔立ちは自国と似ているようで少し異なって見える。自国内の人間に見慣れているからこそ、レオンも全ての人間とはいかずとも自国の人間かそれ以外の人間かはまじまじ見ればなんとなくわかる。

鼻が高いや顔の形がなどの細かい基準があるわけではない。それでも自国の人間同士だから何となく顔立ちは似ていても「異国」の人間だと感覚的にわかる顔は多い。

ヴァルがそれにわかるのも、つまりはそれだけ国の人種ごとに人間を見比べてきた立場にいたという事実だ。それがどういう流れでか、わからないほどレオンは察しが悪くもなければヴァルを美化してもいない。


ただ、今ヴァルの口から改めてアネモネの人間ではないと言われて安堵してしまう自分は正直に胸の内にいた。

他国の人間ならどうなろうと別に良いとは思っていない。ただ、アネモネ王国の民は自分にとって特別でゆるぎない。しかし、今の流れではどうしても自己嫌悪してしまいそうになる。

昨日から不調とまではいかずとも頭や胸の一部に靄がかかっている感覚が抜けないレオンには、更なる暗雲の感覚だった。しかし背中を丸くしかけるレオンにヴァルは変わらず「ハッ」と鼻で笑い進む。


「俺様からすりゃあ、あんなの相手でもアネモネってだけで〝誰にでも情を持てる〟ことの方があり得ねぇがな」


「……ねぇ、ヴァル。もしかして、今」

ぽかんと、それに気が付いた瞬間にレオンの目が今度は丸くなる。

さっきまでの鋭く光ってしまった眼差しから一転し、今のレオンの纏う空気は柔らかかった。口まで僅かに開いてしまった中、自分へ振り返らないヴァルの背中を見つめながら自分が都合の良いように受け取ったのかなとも疑う。しかし、やっぱり自分にはそういう風にしか聞こえない。

アネモネ〝じゃない〟と思った途端に情を切り離してしまう自分にも、もう過去の終わったことだと決まった筈なのにどこかでまだ引っ掛かってしまっている自分へ消沈した部分もあった。

第一王位継承者として順調に歩んでいると思ったのに、こんなことで惑ってしまうのかと自分に対して冷たい目を向けたい気持ちにもなった。

しかし、今のヴァルの言葉はまるで全く正反対に自分を評してくれているように聞こえる。それを皮肉を交えながらわざわざ言葉にしてくれたのが、嬉しいとすら今思う。

慰めようとしてるのかい、と。そう疑問をそのままに本人も自覚のなさそうな続きを投げかけようとしたその時。


「おいそこの兄さん同業者だろ?!ちょっとこっちも来て見てくれよ!!」


市場の男がヴァルへと手を振り呼びかけた。


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