Ⅲ36.配達人は辟易する。
……めんどくせぇ……
赤毛の騎士に詰められる偽物共を眺めながら、そう思う。
さっきまでは威勢良くふんぞり返っていた分際で今はどっちも腰が引けてやがる。赤毛が偽物の片方へ何か囁いたところで勝負はついたようなもんだった。
たかだか群れの一匹取り返す為に、こんだけ大勢でよくやるもんだ。しまいには出来た偽者の衛兵までくればいっそ感心もする。少なくとも裏稼業でそこまでする連中はいねぇだろう。
奴隷制の国には配達でも何度か立ち入ったことがあるが、スリに狙われるどころか貧困街の連中を相手にすんのもそういやぁ初めてだと思う。
金がある分は、治安の良い場所を選べば先ず絡まれねぇ。ケメトとセフェクも金を持ち歩いちゃいるがはした金、それ以外は全部俺だ。
ああいう連中は金持ってるカモよりも〝気付かれても問題ねぇ〟相手を選ぶ。
最初に、姿まで変えると言われた時は主だけで良いじゃねぇかと思ったが、ここまで弄れたら寧ろ楽しめる。ツラどころか肌の色まで弄れるなんざ、あのバケモン王子が選んだ従者なだけはあった。
ツラと肌の色が変わるだけで、すれ違う連中の反応もわかりやすい。治安が良いフリージアの城下ですら無駄に絡まれることも増えれば、すれ違う連中の視線は完全に消えて逆に下級層のガキに物乞いをせがまれるようになった。
わざわざあの従者に弄らせた甲斐はあるが、どういつもこいつも舐めきってくれやがる。
「……テメェも隠れる必要なんざねぇだろ。人を盾にすんじゃねぇ」
舌打ちを鳴らし、また俺の背に回り込み半分隠れ出すレオンを振り返りざまに睨む。
あの偽物共に気付いてからレオンがいつもの倍うざってぇ。例のサーカスをさっさと見つけられたっていうのに、面倒ごとは増えていくだけだ。
サーカス探して掻っ捌いて終わるとまで都合よく考えちゃいなかったが、それでも余計なもんばっか増えていく。
あのサーカス野郎に主が何かしら引っ掛かりやがっただけでも面倒かのにも関わらず、今度はレオンだ。まだ主が何を予知しやがったのも聞いていねぇうちににこれじゃあ先が思いやられる。こんなことになるならスリのガキも適当に馬鹿にして追い払えば良かった。こっちに駆け込んできた時点でそうだろうとはわかった。
思った以上に下手でドジだった。今更クソガキ一人に情も湧かねぇが、あのまま金も掴ませず逃がしとけば楽だった。
面白半分で釣ってみてやりゃあこれだ。結局黒髪の騎士が無駄に殲滅しやがった所為で衛兵に絡まれたと思えば、まさかの没落王子だ。余計にめんどくせぇ。
レオンが何もねぇところで急にフラつきやがったのは、衛兵の顔が見える距離まで進んですぐだった。
クラッと急に揺れたと思えばそのまま近くにいた俺の肩を鷲掴んできやがった。「なんだ」と睨めば俺のことは視野にも入れず瞼のなくなった目で凝視してやがったのは衛兵だ。
〝ホーマー〟と、そう霞んだ声で呟いた後はテメェで口を覆って止めてたが、それだけでどっかの知り合いだろうことはわかった。まさか正真正銘の弟とは思わねぇが。
そのまま王子がつらつらと衛兵と言い訳でっち上げている間にも、片方の衛兵から目を離さねぇレオンはこっちから何を話しかけても無駄だった。「似てる」「やっぱり」「いやでも」とぶつぶつ時々呟くのを繰り返す独り言はいつもの倍うざってぇクソだった。いっそ騎士共にも聞こえる声で零してくれりゃあ楽だった。
しまいには主まで途中から背中だけでもわかるほど目に見えて肩を揺らしたと思えば、そのまま勢いよくこっちに振り返ってきやがった。
レオンよりも遥かに血色を悪くしていた主は、口が開いたままだった。紫色の目がボロリと零れそうなほど見開いたまま凝視してくる主に、珍しくレオンの方がいつまでも気付かねぇから俺から肩を肘で突くことになった。
やっと目が向いたレオンに、主も目で会話してやがると思えばわけもわかんねぇ内にこっちに駆け込んできやがった。一瞬間違えて「レオ……」と言いかけた主はわりと表面以上に焦ってたもんだと思う。
間抜けにも気付かねぇままの王子と馬鹿王子を置いて、主とレオンのでかい声でのコソコソ話に俺まで耳が巻き込まれた。
『リオッ!やっぱりあの衛兵っ……!?じゃあ、隣の人は』
『いいや片方だけだ……。……でもおかしいんだ。父上からは別大陸に移送したと聞いていたのに……』
主とレオンの話を聞きながら、なんとなくだが覚えはあった。
もう存在自体殆ど忘れてたが、レオンには弟がいる。レオンを嵌めて主に潰された間抜け共だ。確か、レオンを良いように騙して転がしてそのままテメェらがアネモネの王位を継ごうとしていたとかだったか。
珍しくブチ切れた主がレオンを連れてアネモネの城へ殴り込みに行ったことはよく覚えている。王族同士のいざこざよりも、レオンとの婚約も叩き折ってきたと聞いた方が印象にも残ってる。
その後に主に潰された弟共がどうなったか、聞いたような気はするが覚えちゃいねぇ。
主とレオンのさっきの会話を聞いただけじゃ国外通報ってところかと適当に結論づける。国王が息子相手に手を抜いたのか、それとも海渡ってわざわざこっちに戻ってきやがったのかは知らねぇが。
レオンも具体的にどこに放り出されたかまでは聞かなかったらしい。アネモネにもフリージアにも迷惑の掛からない場所にしたと言い張った国王の話じゃあ、少なくとも最初からこの国に放ったとは考えにくい。大陸全土でみりゃあアネモネとも大して離れちゃいねぇ、しかもフリージアにとっちゃ見方によっちゃ周辺国の一つだ。
少なくとも国外追放された奴がそのままラジヤの属州とはいえ衛兵に成り上がれるわけがねぇ。制服を奪うなり盗むなりして扮している偽物だろと。主とレオンだけで憶測を勧めりゃあ、簡単に現状にも行きついた。
最終的には王子に赤毛の騎士まで指差しで面倒ごとにまた首を突っ込むことになった。
「うん……ごめん。でもまだ整理がつかなくて……これは全く予想していなかったから」
「うぜぇ」
言いながら、今度は俺の両肩にべったりと腕までをかけてくるレオンに舌を打つ。ガキ共でもねぇのに乗りかかってくんじゃねぇ。
苦笑交じりに返してきやがったレオンは相変わらず俺の背に半分は隠れやがる。あの従者に姿を変えられた今、無駄に隠れる方が余計だ。肩にかけられた腕を掴んで無理矢理払うように降ろさせれば、今度は深い溜息が耳にかかった。いつもの五倍うざってぇ。
ホーマーと、そう呼ばれた弟に赤毛の騎士が交渉する間、主だけじゃなく王子も今は口を噤んで丸投げて成り行きを見てる。
やっとうざってぇ腕が退けれたと思ったら、今度は背後に頭を寄りかけてきやがったレオンの二度目の溜息を聞きながら久々に殺したくなる。五倍じゃねぇ、十倍だ。殴りてぇ。
テメェの弟、と。そう怒鳴りかけた途中で主から「向こうに気付かれないようにして下さい!」と慌てた声で命じられた。命令のまま、無理矢理に言おうとした声も抑えなけりゃならなくなる。
「テメェの弟だろ」と抑えた声で言い直しながら、赤毛の騎士と神妙な顔で話す元王族を代わりに睨む。
「身内なら一番扱い知ってるだろ。テメェが直々に交渉しにいきやがれお兄サマが」
「いや……扱いを掌握されていたのは僕の方だよ……。それに、いくら姿は変えても声を聞いたら流石にホーマーでもわかるよ……」
はぁぁぁあぁぁぁぁ……とまたレオンがこれみようがしの息を吐く。隷属の契約さえなけりゃあもう三度は蹴り飛ばすかナイフを突きつけてる。
だが、声と言われてそういやあそうだったと思い出す。こっちからすりゃあ声も姿もそのままだから忘れてたが、姿は別人に見られても声はそのまま聞こえてる。流石に声じゃ怪しまれるか。
あの近衛騎士に弟を暴かせて脅させたのは、正体を明かした上で問題ねぇ奴だからか。主もだろうが、王子も弟とは面識はあっても声で気付かれちゃいなかった。まぁたかが一度二度しか会ってねぇ相手の声を覚えてるわけもねぇか。
大丈夫?ととうとう主がレオンへ眉を垂らしながら手を伸ばし歩み寄る。俺の背中でぐだぐだ会話するんじゃねぇ。しかも壁替わりにしやがって。
首だけで軽く振り返れば、俺に寄りかかってきやがるレオンに、レオン以上に顔色が悪い分際で心配してる主も相変わらずだ。どうせテメェの所為だとか巻き込んだとか要らねぇ責任勝手に背負ってるんだろう、めんどくせぇ。
王子も何か言いたそうだが、主へ口を開けてはそこで止まってる。
言いにくいことでもあるのか口をまた閉じて片手で覆って考え込んでやがる。王族全員めんどくさくなってんじゃねぇよ。これなら今も赤毛の騎士の背後で棒立ちになってる馬鹿王子の方がいくらかマシだ。
「とにかくリオは、彼の前では話さないように気を付けましょう?私達も話題は振らないように気をつけるわ」
「うん……ありがとう。ただ、それ以上に問題が、……ハァ。………………うん、ごめんジャンヌ」
うぜぇ以上に女々しい。そう思って背中の圧力を紛わすように足を揺すっていれば、やっとレオンの頭が引いた。それだけでいくらかは不快が引く。
めんどくせぇことになったのにレオンまで無駄に自分の所為だの言い出すのかと、振り返るのも巻き込まれるのが面倒で正面を向く。
主が「そんなことっ」と声を漏らせば、レオンから「いやそうじゃなくて」とさっきより大分落ち着いた声が重ねられた。
否定するレオンに主もそこで口を止めれば、今度は聞き耳を立ててたのだろう騎士共からも注目が集まる。俺越しにレオンに意識を向ける騎士共までとうとう面倒くさくなってきやがった。騎士のガキなんざ首まで若干こっちに伸びてやがったが
「僕はヴァルと別行動するよ。まだサーカスの情報収集も必要だろう?」
合流してから情報共有しよう、と。そう提案するレオンは、今度は寄りかかるじゃねぇで俺の肩に腕を回してきた。
アァ?と睨んだが、レオンの視線は俺じゃねぇ主の方に向いている。また勝手に俺を巻き込むんじゃねぇと言いたかったが、……提案は悪くねぇから今は黙っておく。
主の予知は気になるが、レオンの弟だの貧困街だのにまで首を突っ込むのは面倒だ。レオンが別行動なら、騎士一人主から剥がすよりはこっちの方が良い。情報収集には変わらねぇが、レオンの弟なんざが出ている時点で危険よりも面倒な話になるのは目に見えている。
レオンの発言に主は短く肯定した後、アネモネの規則に触れるのかとウロついた声で尋ねた。なら別行動と言わず滞在中は宿にいた方がと王子も提案し出した中、レオンは「いやそうじゃないよ」といつもの調子に近い声で断った。
フリージアよりもわりと王族の規則だか誇りだかがうるせぇらしい国の王族だ。てっきり追放した元王族に会うのも規則違反ってところかと思ったが、レオンが言うには偶発的に会っちまうか、他人として関わる分は違反にもならねぇらしい。
弟共に正体明かして宿に連れ込んでご馳走でもしねぇ限りは反しないと説明するレオンに、主から「そう……」と耳だけでもわかるほどほっとした息の音が聞こえた。やっぱりまた面倒なこと考えてやがった。
うざってぇその息音に軽く振り返れば、胸を撫で降ろす主と、納得したように頷く王子も並んでやがる。国一番の天才だの言われてるわりにアネモネのそういうことまでは知らねぇのか。
「ただ、……彼らとの断絶が断絶だったから。僕が関わっていると気付かれたらまた逆恨みで面倒なことになるかも……いや、なる。ジャンヌの目的の為にも僕が居ない方が滞りないと思うよ。………………ごめん。今度こそずっと傍にいるつもりだったのに……」
「!!?い、いいえ!そんな気にしないで!!貴方が悪いわけじゃないもの!それよりも心配しているのはそこじゃなくてっ……本当に良いの?」
良いんだ。と、いつもの声調子で言うレオンに顔を向ければ一度俺にまで目配せしてきやがった。
「ごめん」と口の動きだけで言われ意味がわからねぇ。苦笑まじりの顔で「行こうか」と勝手に回してきた腕で首ごと引っ張り出す。
俺はまだ何も言っていねぇ。ふざけんな勝手に決めるんじゃねぇと、口に出して荒げればいつもの笑みで今度は呟くような声で耳に囀ってくる。
「……酒場も、情報収集には良いよね?ジャンヌに行かせるより僕らで回った方が効率的だと思うんだ」
フフッと音を漏らすレオンの目が翡翠に光る。……大分俺の扱いに慣れやがったもんだと、俺が思う。
実際悪くねぇ、こんなところでどうでも良い事情と面倒ごとにまで付き合わされるよりは遥かに。
口の端を上げながらこっちからも足を動かす。「悪くねぇ」と言ってやればそこで決まる。餌で吊り上げられた方がこっちも今は都合が良い。
主から「あっ、護衛を一人……」と声を漏らされたが、俺が断る前にレオンの方が「大丈夫」と小さく手を振った。
「ヴァルがいるし、フィリップ殿がいれば合流もすぐできるだろう?僕も当然手ぶらじゃないから」
俺から腕を引いたレオンは、チラリと上着を主に向けて捲ってみせる。俺からは見えねぇが、それを見た主達の反応だとまた大量にぶら下げてやがるんだろう。
王子が「それでは合流は今から何時間後に……」と前に出る。服の中から時計を取り出せば、レオンも同じような動作で取り出す。王子はともかくレオンまで時計なんざ持ってやがったのかと思ったが、今は王族でもねぇ。王族の時は貿易商売でも従者だ護衛だに時計を確認させていたレオンも、今はテメェで時間を確認する商──
「…………………………………………………」
……見なけりゃ良かった。
王子達へ振り返りついでに視界に入りやがった主を見ながらそう思う。
商人役のレオンと王子と同じで、侍女の振りしている主も話を聞きながら時計を確認してやがった。レオンや王子の持つ値打ち物とは違う、安物だ。
平然とそれを開いて時間を確かめ、王子達が合流場所を決めたところで頷き服の中にしまった。
爪を立てた片手で頭を掻き、奥歯を食い縛る。馬鹿みたいに開いた目を身体ごと主達から逸らし、大通りの方へ向ける。胃が急激に苛立ち波打った。最後には掻いた手で顔を鷲掴み伏せた。……タチがわりぃ。
「ッヴァル‼︎」
よりによって今来るんじゃねぇよ。
まるで図ったかのようにいきなり俺に駆け込んでくる主に舌を打つ。このまま先に行きてぇがどうせ一言止められれば動けなくなる。
唸る気にもなれず、うんざりと息を吐きながら振り返らずにただ棒立ち荷袋を肩に掛け直す。大して距離も開いてなかった主が俺の腕を掴んでくるのはすぐだった。
耳を、と言って引っ張られ顔を顰めながら仕方なくも身体が動く。背中を丸め主に寄せれば、すぐに花の香りが鼻にきた。そのままこそこそと耳打ちされる。
「今回の潜入視察期間だけの許可を与えます」
あー?
許可、という言葉に幾分醒めて今度は音が出る。またか。
しかもこの時にということは、どうやらまだ護衛無しじゃレオンが心配らしい。正確には特殊能力を表立っては使いにくい俺にもか。
こそこそと潜めながら続けた主の命令を聞きながら、結局はこの前の学校潜入と似たもんだと思う。緊急手段として特殊能力での戦闘許可。更にはレオンの監視下か守る為なら特殊能力を含めた最低限の攻撃と脅迫許可。コイツは人間武器庫だと主は知らねぇのか。
「それに、レオンを飲ませ過ぎて潰さないこと‼︎戦闘や必要外に使って周囲に貴方が特殊能力者だとバレることは可能な限りは避けて下さい‼︎ただでさえ貴方の特殊能力は他国にも知られているのだから‼︎」
配達人として稼いで本名や顔も大して知られちゃいねぇが、特殊能力は配達先の王族には知られてる。奴隷狩りどころかオークションに来た王族にも見られりゃ面倒なことになると。それぐらいはハナから知ってる。あとレオンは酒で潰せるもんならとっくに潰してる。
俺が返事しねぇでも、命令してる限り問題ねぇと知った主はそのまま飽きずに息巻く。こそこそ声にしちゃあ勢いだけはある。
「あと!なるべくで良いからレオンのお願いは聞いてあげて下さい!平気そうに見えるけどきっと戸惑ってる部分もあると思うからっ……」
「俺様にンな気遣いなんざができると思うか?」
めんどくせぇ。
今度は声を出して吐き捨てる。せっかく伸び伸びと飲めると思ったらなんでレオンのお守りまでしてやらなけりゃあならねぇ?良い年したガキ相手に顔色窺ってやる趣味もねぇ。
俺の返しに今度はすぐには返事はなかった。チラッと目だけ向けてみりゃあ両頬を丸く膨らませて鼻穴まででかくなってる。無駄に眉の間に皺寄せても全く怖くもねぇ。むしろ笑えてくる。
ニヤニヤと馬鹿にするようにツラにも出して笑ってやれば、そこでやっと声が上がった。「だからなるべくと言っているでしょう!!」と今度はレオンにも聞こえるような声で叫ぶ。相変わらずそういうところはガキだ。
怒る主を無視して今度は俺からレオンへ肩を回す。「いくぞ」と言えばすんなりとレオンも足を動かした。主達に一声掛けるレオンを引っ張り、問答を繰り返す騎士と偽物共を抜けて大通りへ出る。
市場ならまだしも酒場の場所は分からず適当に歩けば、レオンが途中でぐらりとまた揺れやがった。「は〜ぁ……」と気の抜けた音と一緒に頭を抱えるレオンに、うざくなって腕を離す。
うぜぇと、言葉でも言いながら突き放せば、片手で額を押さえるレオンは「だって」とめんどくせぇ声を漏らした。
「せっかくのジャンヌ達との外出をこんなことで……」
「……アァ?」
そっちか。
「楽しみにしてたのに」と唇まで尖らせるレオンは、少なくとも主が求めてるような慰めは要らねぇと理解する。
俺に視線を合わせた途端、またいつもの笑みを向けてくるレオンは「だから」と大通りの先を指差した。
「せめて君と飲みたくて。危ないところはあまり行けたこともなかったから気晴らしにもなるしね」
勿論情報収集も忘れていないよと、そう言って滑らかに笑う。
気晴らしがどこまでのもんかは知らねぇが、取り敢えず思ったほど面倒な飲みと付き合わされにはならなそうだと考える。
弟共のことがコイツの中では〝終わった〟のか興味がねぇのか目を逸らしてるだけかは知らねぇが。
どうせなら酒場を飲み荒らす気でいくか。
思ったよりはまずい酒にならなそうだと思いながら、先へと向かった。




