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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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しらばっくれ、


「それで!なんで受かったのにあんなぐったりしてたんだよ‼︎ッまさか城の人らに嫌な扱いとか……‼︎」

「いやすげーどの人も親切でさ……親切っつーかもうモーズリー家よりも良い扱いだったかもしれねぇ……気疲れた……」


はぁぁあぁぁぁ……と長く息を吐き、サンドウィッチ一個食べ切ったところで背中が最大限まで丸まった。

気疲れかよ‼︎とそれはそれでパウエルも声を荒げて聞き返す。よりにもよってこのフィリップが〝気疲れ〟などという言葉を出すことも珍しい。アムレットに対してと違い、パウエルには比較愚痴や弱音を吐くことは多いがそれでも大概の重圧や重労働は「アムレットの為」という言葉を武器に辛いとも言わずにやってこれている男なのだから。


実力さえ認められれば城の使用人への可能性もあることはわかっている。だが、使用人といっても侍女など元々貴族の教育の一環や段階として務めている者や、庭師などその道の専門中の専門家が務めている場合もある。

普通の庶民が、使用人としてでも勤めることが身の程知らずと言い叩かれることもパウエルは想像していた。ただでさえフィリップは他の職場のように特殊能力を隠している筈だと思えば。

なのに、まさかの良い扱いと聞いたら余計に何があったのか気になる。パウエル自身、将来の夢は城の衛兵だ。


何があった、どうして良い扱いが、城で受かった後はどんなことがと。続けられる問いに、フィリップもところどころ上手く答えられない。誤魔化すこともあまり得意ではない為、まさか宰相に呼び出されたことや第一王子の専属やジャンヌの正体まで言わないように必死に頭を捻る。

受かった後に案内してくれた人は親切なおじさんだった、城の中も従者の行動範囲は案内してもらえた、色々あって従者の仕事も教えてくれた人も優しかった、でも覚えることは多かったと。言えることだけ一つ一つ口を開く前に頭で反芻してから、言葉にする。


フィリップにしては話し方にぎこちなさと勢いのなさを感じたパウエルだが、今は初めて知る城の内情が気になってそれどころじゃなかった。

ついでにチラッとでもステイルの話や噂はないかなと期待したが、ステイルどころか王族の話題すらなかった。我慢できず自分から「王族とか会えたり噂とかっ……」と投げたが、その途端「全然」と食い気味に返された。

フィリップもフィリップで、元々王族の噂や話に興味が強かったパウエルがその話題を投げてきても気にしない。だが自分も言えない内容が多く、丸ごと全て知らぬ存ぜぬを通した。ステイルが昔自分の友人だったこともこの街出身だったこともリネットのことも全て丸ごと隠すのと同じように、下手に誤魔化すよりもそれは全部言わない方向に決めている。

代わりに、別のパウエルも知る城についての話題を思い出し、思いつくままに口を動かす。


「あ、そういやあいつ。あの、昔のダチ。あいつにー……偶然会えた。えーと、使用人の居住区画言ったら、普通にたまたま。元気だったし俺のこと覚えてたし普通に話した……」

ちょっと性格は悪くなってたけど。と、その言葉を続ける前にパウエルから「良かったな!!?」という叫びに耳を劈かれた。

いつもは人の鼓膜を揺らす側のフィリップが、今は完全に耳をパウエルに潰される。喧嘩や主張の度に声が大きくなるエフロン兄弟と関わるようになってから、パウエルの発声量も人並外れる程度には鍛えられた。


キーンと耳に響き、僅かに首を傾け反らすフィリップだが、目を大きく見開いたままのパウエルは「すげぇ」が止まらない。

息も荒く「良かったな!」「会えたんじゃねぇか!!」「十年以上前の友達だろ!?」と、今は城のことよりもそちらのこと最優先で輝いた。自分が出会ってから、ずっとフィリップやアムレットの話題に出た友達にやっと会えたことが自分のことのように嬉しくて堪らない。

拳を握り前のめりになるパウエルを、フィリップは片手でやんわり胸板を押し返しながら「誰にもいうなよ?リネットさんにも」と約束させる。

事情が合って友達は城の外に出るわけにいかなかっただけ、会ったことはアムレットには自分からこっそり話すからと。そう言いながら繰り返し口留めをするフィリップにパウエルも唇を結んで頷いた。

城内や使用人の事情は分からないが、今はフィリップがやっと会いたかった友達に会えたことが嬉しくて堪らない。しかもアムレットにも教えるつもりならこれで二人の兄妹喧嘩もなくなるかもしれない!と身体が熱くなる。フィリップが城の使用人を目指しアムレットの夢を応援すると聞いてからは言い合いをすることもなくなった兄妹だが、それまでは喧嘩後辛そうにするフィリップを見るのもアムレットを見るのも辛かった。

だが、こうして友達にも会えたならもう問題は全部解決だなと、今すぐにでもフィリップと一緒に学校の女子寮へアムレットに会いに行きたいと衝動的に思う。


「十年も前なのにフィリップのこと覚えてたってことはやっぱそいつもフィリップのこと大事な友達だったんじゃねぇか!」

「だとすげぇなぁあ。俺は一方的に友達だったけどあいつなんつーか、ほら、昔から読めねぇとこあったしさ」

話しただろ?と、言いながらフィリップも今度は思い出して笑ってしまう。

昔のステイルは無表情ばかりで、自分に対して笑っているかも怒っているかも無感情だったのかもわからなかった。それでも、彼の言動一つひとつが優しく、心が伴っているから自分にとっては大事な友達だった。あの湖で救われた時は忘れられない。今もパウエルから「でも良い奴だったんだろ?」と確かめれれば肯定しか返せない。


だが、覚えていたと言ってくれたのもそれが本当は自分の為のステイルの優しさだったのか、本当はアムレットに会ったり自分に校門前でうっかり会った時に思い出しただけなんじゃないのかと今はその疑念がぽつりと胸にある。

まさか自分の旧友がアムレットと同級生なんて想像もしなかった。しかも今は王族の立場の人間がだ。もしアムレットや自分に会ったきっかけで思い出して、それで従者に誘ってくれたのだとしてもそれについて責める気はない。……ただ、やっぱりずっと一方的に友達を覚えていたのは自分だけなんじゃないかなとは思ってしまう。


「すげー笑うようになっててよ、人のことからかってくるし勿体ぶってくるし、……けど、……ん。……やっぱ、良い奴なのは変わんなかったかなぁ」

床に座り込んだまま自分の片膝を抱きかかえ顎を乗せる。

どちらにせよ、自分がまた救われたことは変わらない。

いつ思い出してくれて、本当はどういう理由だとしても、こうして雲の上の存在になった友人がわざわざ自分のところまで会いに降りてきてくれた。言いたいことも言えて、知れて、そしてこれからはまた従者として会える。

パウエルやアムレット、そしてリネットにそのことを言えないことは心苦しくないと言えば嘘になる。だがそれでも、昔の親友との繋がりが切れずにいられたことは嬉しい。

また柔らかな笑みになったフィリップに、パウエルは少し泣きたくなった。本当に会えて、その上でフィリップの肩の荷が間違いなく降りていることがその空気だけで伝わった。「良かったな」と今度は口では言わず、代わりに拳をフィリップの左肩に優しく押し付けるように当てた。


「また会えると良いな。同じ城内だろ?」

「……ま、な。次会えたら親友紹介して貰えるかもしれねぇし」

「フィリップも城に住めねぇのか?使用人用の住居ってとこ。アムレットも女子寮だし、なんならこっちの家も俺が」

「やだ。アムレットがいつ帰ってくるかもしれねぇし、こうやってパウエルとも飯食えなくなるだろ」

ここは俺の家だ!と。そこで大きく首を横に振り顔をパウエルから背ける姿はまるで意地になった子どもだった。

アムレットの前では兄ちゃん兄ちゃんと自分を呼んで人前でも兄貴面を隠さないフィリップの大人げない言葉に思わずパウエルもぷっと笑ってしまう。

城内で住んで、ずっと会いたかった友達と頻繁に会える生活よりもアムレットや自分との時間を最優先にしてくれることが、ちょっとたけ擽ったい。自分がリネットの家を守りたいのと同じように、フィリップにとってもこの家が大事なのはわかっているのにわざわざそんな理由を言わなくてもと心の隅で理解する。


「城に行けば今より稼げるから一本に決めただけだ。そしたらもっとアムレットに良い生活させてやれるし、今後アムレットが城で働くの目指すのならその夢叶うまで俺がちゃんと生活守って応援してやんねぇと。俺は兄ちゃんだからな!」

「この前までアムレットに城はって一番反対してたくせに」

ぷぷぷっ……とまだ笑いが収まらないまま細い声で早口に言うパウエルは、肩まで力が入って上がってきた。


ひと月前までは「アムレットが納得できる仕事に就くまで」って言ってたのを思い出す。城で働かなくても、他でアムレットがやりたいと思ってくれる仕事が見つかるまで生活は俺が守るんだと言っていた発言が綺麗に切り替えられているのが面白い。どちらにしろ結局は金の為、敷いてはアムレットの為ということは変わらないところも。


パウエルからの地味に手痛い一言に言い返せないフィリップも顔を背けたまま今度は唇を尖らせる。実際はアムレットの金の為だけでなく、旧友の力になりたいという気持ちがあることもうっかり滑らせない為にここは音源ごと絞り黙る。

喧嘩した後のように沈黙で返し続ける友人に、パウエルも暫くは声を殺して笑い続けた。やっと笑いが引き、呼吸を大きく一回整えてから「そういや」と目に付いたフィリップの服装を見ながら口を開く。

城の面接へ向かったまま上着しか脱いでいない、皺くちゃの従者服だ。


「お前、城にはどの姿で言ったんだ?どうせその姿じゃねぇだろ」

「ああそりゃあなぁ。やっぱこっちの顔の方が絶対受かりやすいし、老紳士とも悩んだけど城相手に年齢まで誤魔化したら後々まずいかもしれねぇからこっちにした」

言いながら自分の顔を指差すフィリップはそのまま顔だけを変えていく。表情はそのままに黒髪の美男子から白髪の老紳士へ、そしてまた美男子へと移し、最後にまた本来の顔へと戻した。

ジルベールとの接点を置いても、やはり顔が良い方が面接が有利と実体験で知る身として勝率はなるべく上げておきたかった。いくらステイルの力になる立場になりたくても、使用人になれなければ何も始まらない。

そして実際、受かってみた後のことを考えても少なからず顔採用も影響したと思えた。そして城でいつかは会うかもと予見はしていたジルベールにはそちらの顔しか見られていない。推薦書の関係から考えても、総じて美男子顔の方が都合が良かった。


何より、特殊能力を使って今後働くことにもなるのならば、なるべく街で過ごす顔と城の従者の顔は使い分けたい。まだ街の人にも特殊能力のことは最低限隠している上、第一王子の従者としてすれ違っても気付かれない方が都合も良い。

残す問題は、うっかり第一王女の盟友王子に寄り過ぎた顔をどうするかぐらいだ。自分でも美男子の見本として顔をほぼ丸ごと参考に似せた自覚はあるが、まさかあんなに特定されるほど似てしまっていたとは思わなかった。髪の色や長さ、瞳の色も違ってもやはり唯一無二の美男は印象に残るんだなと顧みる。

頬杖をとんとんと指先で叩きながらそんなことに思いを巡らせれば、そこでフィリップはもう一つ大事なことを思い出した。「あ」と短く声を漏らし浮かせていた視線を目の前にいるパウエルへと顔ごと戻し合わす。床に両手を付き、今度は自分から少しパウエルへと前のめった。


「そういえばさ。俺もう受かったし、モーズリー家に報告ついでに紹介してやるよ。多分衛兵一人くらいなら、今俺が頼めば雇ってくれると思う」


本当か?!と、次の瞬間パウエルの目が輝いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] パウエルがそこに居るのが、ステイルがフィリップを忘れていない一番の証明で。あと偽名。 年齢詐欺、既に前例あるのよなジルベール。宰相に習って少しずつ顔を調整していけば、とても似ている顔から少し…
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