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【アニメ2期決定!】悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。〜ラスボスチートと王女の権威で救える人は救いたい〜  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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そして結ぶ。


「件の物は、用意して頂けましたでしょうか」

「!ええ、勿論よ。……お願い、します」


どきりと肩を上下するプライドは、専属侍女のロッテへと振り返り受け取った。そのまま経由することを前提に、ステイルへと両手でそっと差し出した。

義弟、しかも従者的立場の強い筈のステイルへ偉そうにどころか寧ろ腰を低くし託すプライドの姿に、それだけでフィリップの目が静かに皿になる。目の前で続く意味不明の事実判明の連続で、今度は表情も隠せなかった。

勿論です、と満面の笑みで返すステイルも腰の低さは変わらない。ありがとうございます、わざわざ申し訳ありませんでしたと低頭な仕草のプライドへ、それでも更に自分が仰々しく受け取ることで彼女を立てる。王族であるにも関わらず、従者であるフィリップも見惚れる細やかな所作だった。


「ところでフィリップ、妹は元気か?」

「⁈お、ええ。お陰様でとても。……⁇」

それが何か、と言いたい気持ちを抑え、取り直す。

まさかプライド達がいる前で自分の妹の話題を出されるとは思わなかった。ステイルが妹の存在を当然のように話題に出すことに、一応前の関係者なのに大丈夫かと心臓が落ち着きなく太鼓を鳴らす。

妹は元気に決まってる、なんで今、自分自身が過去の関係者だともしかしてこの人達も知ってるのかと新しい疑問と戸惑いばかりが更新されていく。いつの間にか瞬きも忘れた目でステイルを見返した。


「実はお前に早速ですまないんだが、俺の従者として極秘の依頼がある。これから先、この手紙をアムレットに届けてくれないか?」

「アムレットに⁈‼︎‼︎‼︎‼︎」

ドカンと、爆音のような大声がとうとう耐えきれず放たれた。

プライドから受け取り、そしてステイルを経由してそのまま自分へ差し出された手紙を前に、妹宛という事実はあまりに衝撃的過ぎた。

流石の爆発音と身体が間違うような大声に、至近距離にいたステイルも両耳を押さえたがまだぐわんぐわんした。プライドの方は背後にいたアランが衝撃音の反射に、庇うようにして身体が前のめり、そしてエリックがプライドの耳を両手で塞ぐ形でなんとかことなきを得た。

前のめりになったアランは直撃も歯を食いしばる程度で済んだが、プライドに両手を使ったエリックはぐっと顔中に力を込めながら脳が揺れるのを必死に取り直した。「ありがとうございます」と振り返ったプライドに感謝されたが、口の動きを追うたものの若干まだ聞こえにくい程度には鼓膜に響いている。

申し訳ありません‼︎と、慌ててフィリップも今度は声を抑えながら周囲へ頭を下げるを繰り返した。口を片手で押さえながらも滝のような汗を流すフィリップに、ステイルもまだ声が遠くは感じるが顔は笑った。素が出たな、と少し勝ったような気持ちになりながら改めて言い直す。


「これから俺の従者になるんだ。頼むのならばこの先隠し続けず明かす方が誤解も生まず良いだろうと、姉君とそして妹のティアラとも相談した結果だ」

パン、とフィリップの胸へ手紙を軽く叩き付けた。

しかし王族からの手紙が誤っても皺がつかないようにと慌ててそれを両手で受け取るフィリップは、まだ理解できていない。ただ、プライドとここにはいない第二王女にも公認なのだということだけ飲み込み、そっとこの上なく慎重に手紙を手に取った。

宛先名に間違いなく〝アムレット・エフロン様〟と美しい字で書かれた手紙は改めて見ると王族の使う封筒にしては妙だった。高級感のない、貴族すら使わないむしろ自分達庶民に見慣れた封筒だ。

差し出し人が王族とはいえ、庶民宛にはこんなものなのかなと回らない頭で結論付けながら今度は差出人名側へと手紙を裏返したその瞬間。



〝ジャンヌ・バーナーズ〟



えッ⁈‼︎と。

今度も大声になりかけたが途中で何とか自分の手で物理的に塞げた。しかし、押さえた手は勢いよく自分の口を叩いた上で目に見えてブルブルと震え出した。

押さえるように指先に力を込め下顎から頬を掴むような形で止めたが、それでも動悸が酷い。ドグドグドグドグドグ‼︎と血流の音がうるさ過ぎて、まるで地鳴りのようだった。

ジャンヌ。その名前を忘れるわけもない。自分にとっては、可愛い妹にできた特に仲の良い友達の一人なのだから。

勉強を教えてくれる、凄く頭が良くて親切、優しい子で友達になれて嬉しいと、何度もアムレットの話題に出た名前だ。しかも、自分は一度直接会っている。


「………………………へ」

会っている。

深紅の髪を頭の上で丸く纏めた少女と、そして銀髪の青年に介護された黒髪の少年に。

ああああああああああああああああああああああ⁈と、頭の電線が接合した瞬間、今度こそ廊下の衛兵が駆け込んできてもおかしくない声量で叫びたかったが、既に一度やらかしたばかりだ。力いっぱい口を鷲掴んで耐えたが、目玉が転がりそうなほど開き切った。

折角整って見せた顔も台無しなほどに指も頬にめりこんだ。さっきまで初対面だと思っていた王女と、ついこの間感動の再会を果たしたのだと思っていた旧友を何度も首が壊れそうなほど繰り返し見比べる。

悪戯が成功した後のような悪い笑みでわざと返してくるステイルは、やっぱり性格が悪くなったと思う。


あの時、名前も知らない黒髪の少年は顔こそ見えなかったが、今だけは確信を持って想像できた。そして誰よりも何よりも目の前にいる第一王女とジャンヌが恐ろしく重なった。相手が相手だったら指を高々指していた。

肩幅を狭めるプライドも今は苦笑してフィリップを見つめ返す。


「アムレットには内緒でお願いします、……本当に彼女は何も知らなくて」

ブンブンブンと頭が取れそうな勢いで王女に頷きながら、息が止まりそうになる。絹糸のようなか細い声に首を絞められる。

ジャンヌ⁈ジャンヌか⁈ジャンヌだな⁈ジャンヌ⁈⁈と同じ名詞を繰り返す。判明すれば髪の色や瞳の色も鋭い目つきも似ているが、今の今まで全く気付けなかった。まさか自分の妹が第一王女と友達なのかとその事実で卒倒したくなった。

言いたいことも聞きたいこともあるのに口に出せないことがもどかしい。一瞬、自分が当時ジャンヌにどんな言動を行ったか過ったが、脳の防衛反応が途中でブツ切った。


「改めて紹介しよう。こちらがジャンヌ・バーナーズ。そしてジャンヌ・バーナーズはこちらにいる騎士のアラン・バーナーズ隊長の親戚、ということになっている。だから、城で働くお前にはこれからアラン隊長から預かったという名目で〝ジャンヌ〟とアムレットの手紙を仲介して欲しい」

騎士団演習場がある城で働く者同士なら、そこまで不自然じゃないだろう?と笑うステイルに、プライドとアランも無言ながら小さく頷いた。

アムレットとの手紙のやり取りをどうすべきか考えた時、ステイルからの提案がそれだった。ディオスとクロイは正体を知れば手紙は不要、ネイトはカラムを経由、そしてアムレットはフィリップを経由させれば良い。建前は城の騎士団演習場に住まうアラン宛に、そして実際はそのままプライドへ渡せば気付かれる恐れもない。


アムレットに秘密かああああ、と過ったフィリップだがしかし、王族命令ではどうしようもない。何より可愛い妹が正体はさておき大事な友人とやり取りする方法はこれしかないとなれば、選択肢もひとつだった。ジャンヌは山にはいないのだから。

〝ジャンヌ〟からの手紙を恐る恐る服の中に仕舞いながら、心の中で妹に秘密ごとが増えたことを謝った。城で働くのもまさか彼女の憧れの王子様の従者とまで言うつもりはない。


「つかぬことをお尋ねしますが、あの姿……いえ、子どものアレは何方の特殊」

「すまないがそれは言えない。……まぁ、お前なら知るべき時が来たらだな」

フィリップの特殊能力をジルベールが未だ知らないように、フィリップにもまた不必要に教えられない。

はっきりと秘匿を語るステイルに、フィリップもそこはすぐ納得し頷いた。自分自身、特殊能力を有効利用こそしているが過去の主人や雇い主にすら容易に明かしてはいない。特殊能力は今の自分のように優遇される要因にもなれば、……真逆のこともあるとよく知っている。

王族が依頼するような相手であれば相当だろうと考え、それ以上は唇を結んだ。



「取り敢えずこれでティアラとあいつ以外は必要な面通しも済んだ」



ポン、と軽くステイルはフィリップの肩を叩く。

最上層部にも許可は既に取り、ジャンヌ達の正体も明かした。あくまでフィリップが自分の過去の関係者だとアラン達に教える必要もなければ、プライド達が知っていることをフィリップに明かす必要もない。

フィリップもまた、あくまでここに居るのは〝特殊能力を見込んだジルベールにより紹介された従者〟として。自分のことをプライドやティアラがどこまで把握してようとも、過去の関係者だと自分から語るべきではない。今の状況を全ては把握できていないフィリップだが、少なくとも自分がどう振る舞うべきかだけは既に知っている。


『そして俺付きの従者になって欲しい。あくまで俺の過去の関係者としてではなく〝フィリップ・エフロン〟として』


「フィリップ・エフロン。……ジルベールからの紹介と提案、喜んで受け取ろう」

静かな声で告げ、二歩三歩とフィリップから距離を置きプライドの隣へと歩み寄る。そこで立ち止まり、棒立ちの旧友へくるりと振り向いた。

隠すことのないそのままの悪い笑みを見せながら、姿勢を伸ばし王族らしい動作で彼へ手を伸ばす。あくまで第一王女の前には出ずその横で、最後には国が誇る騎士と専属侍女に近衛兵を従え、一人の使用人へと握手を求める。



「ようこそ、我らが城に」



第一王子ステイル・ロイヤル・アイビーからの誘いに、フィリップは一度喉を鳴らしてから手を伸ばす。

自分より背も伸びた王族の青年と、一人の従者として握手を交わした。

宜しくお願い致します、と。合意とそして新たな互いの関係の成立に。


言葉と共に、苦笑いにも近い素の笑みを零した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] フィリップ、そりゃ叫ぶわw プライドもステイルもティアラも王族とはいえ庶民にも平等に接するから彼ら視点だと忘れがちだけど絶対王制の国だもんな。 それがジャンヌ=次期女王の第1王女でした!と…
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