Ⅱ520.騎士達は呼び出され、
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。プライド第一王女の補佐、第一王子ステイル・ロイヤル・アイビーです」
そう、呼び出されたのはプライドが女子寮へ訪れるよりも前。
ロデリックにより騎士団長室へ呼び出された三人は、最初は全く思い当たるものがなく戸惑った。しかも扉を潜れば、そこにいるのは騎士団長副団長だけではない。第一王子であるステイルまでも椅子に優雅に掛け、にこやかな笑顔を自分達に向けていた。
「今回は僕からの依頼なので」と柔らかな声で告げるステイルにプライド達の極秘訪問と近衛騎士達の極秘護衛が説明されても最初は頭に入れるだけで精一杯だった。
何故、それを自分達に明かすのか、近衛騎士ですらない自分達にと疑問だけが頭に浮かぶ。彼らへ本題を告げようとクラークから引継ぎ口を開こうとするロデリックに、自ら続きの語りを望んだのはステイルだ。
貴方達をお呼びしたのは他でもありません、と第一王子としてここへ訪れたことも隠すべく瞬間移動を使った青年はさらなる極秘任務を彼らへ課した。
「我が姉君、プライド・ロイヤル・アイビー第一王女を誰にも気付かれず護衛して欲しいのです」
近衛騎士達すらも容易に入れないと場所で、と。
告げられた彼らは首を正直に捻りたい気持ちを抑えた。学校内に潜入していることも、その間守衛を担う騎士にも気付かれず侵入する必要があるのもわかる。しかし、既に優秀な近衛騎士がそれぞれ立場を変えて五人も出動している最中、それでも侵入が不可能な場所などあるのかと考えた彼らに続けられた言葉は流石に予想の範疇をこえていた。
女子寮。そう最初に告げられた時はまさかプライドが女子寮にまで入寮するつもりなのかとも考えた。
しかし聞いてみれば友人生徒に誘われた為にその女子寮への訪問。一泊どころか数時間の護衛ならば問題もない。その日は一日だけ朝から放課後まで〝誰にも気取られず〟護衛を続けて欲しいと言われれば彼らもやっと納得と共に了承を返した。
どういう理由であれ、あくまで任務は護衛だ。特に隠密関連に得意とする九番隊隊長のケネスからすれば、そういった任務は慣れている。敵陣の最中でない分むしろ行動もしやすい。
女子寮、という言葉には男性として騎士道から鑑みても抵抗がないわけではない。まさか、それを自分達がと過る。がステイルから「あくまでも姉君もその生徒と雑談をする程度だと仰っていますので」と言われれば、三人も頷いた。
「会話については他言は禁止。僕へも含めてもし聞いても何人にも秘匿でお願いします。女性同士のことですし緊急用件でもない限りは、その場で忘れて下さい」
姉君には僕から伝えておきます。事件が起こらなければ何もしないで下さい。任務後も極秘視察が正式に終了を告げられるまで任務自体極秘に。そう注意事項を重ねられ、最後に質問はと問いを掛けられた。
第一王子からの締めくくりに本来ならば問いもなく終えられれば良かったが、ステイルからの問いに彼らは同時に挙手をして発言の許可を求めた。
事情も状況も理解した。近衛騎士の誰もが男子禁制である寮へ理由もなく入ることは不可能であること、そして城と異なりどんな特殊能力者が潜んでいるかもわからない状況だからこそローランドの特殊能力が求められた。
正体を隠したプライドと一般女生徒の間に何があったか、私的な内容に必要以上聞き耳を立てようとも言いふらすべきではないこともわかる。現段階で言い渡された任務も間違いなく遂行できる自信もある。その上で、彼らは同じ問いが頭に浮かんでいた。
どうぞ、と二人同時に上がった問いにステイルは最初にケネスへ許した。そして口を開いたケネスの問いはまたローランドともブライスとも全く同じ問いだった。
「何故、我々を御指名されたのでしょうか?その程度の潜入であれば二人で充分です。それに私とローランド以外にも相応の特殊能力者はいます」
当然の疑問だった。
自身の特殊能力が求められたことは二人も理解する。しかし特殊能力の優劣だけで考えればケネスよりも優秀な温度感知の特殊能力者はいる。長時間温度の変化を把握できる者も、一度に視界で捉えられる温度感知範囲がケネスの倍以上の者もいる。
そして隊長格という実力者で選んだというならば、隊長どころか副隊長にもなっていないローランドの方が当てはまらない。透明の特殊能力者であればローランドよりも実力者はいる。更にはブライスはどちらの特殊能力者にも当てはまらない。
そして三人とも、プライドやステイルと特筆すべき個人的な関わりはない。
ローランドは勿論のこと、プライドやステイルに一度は関わったことのあるケネスさえ謙遜ではなくそう思う。そんな中で隊すらも違う自分達がわざわざ指名された理由がわかるわけもなかった。
三人からの当然の疑問に、最初から予見していたロデリックとクラークは口を閉じたままだった。彼らを指名したのがステイルである以上、ここも彼が答えることだろうと敢えて噤む。
にっこりと社交的な笑みを崩さないステイルは、すぐには返さなかった。
敢えて二人の顔色を確認し、ローランドとブライスもケネスと同じ考えらしいことも推測してからゆっくりと決めていた答えを彼らへ提示した。ステイルもまた、彼らがそういった問いを投げてくるであろうことは想像できていた。
「貴方方が優秀な騎士だからです。何より……まぁ、貴方方の今後に期待しての〝実力確認任務〟と受け取って頂いて結構です。それに、姉君が信頼するアラン隊長、エリック副隊長、カラム隊長のご意志でもあります。騎士の方々にお手数をおかけすることは心苦しいですが、どうかご協力をお願い致します。貴方方であれば、問題なくやりとげて下さると僕らも確信しています。今後、更に重大な任務を任せるかもしれませんので」
最初は意味がわからなかった。
騎士の名を上げながら順に目の前の彼らとも目を合わせれば、どの騎士が自分を推薦したかも察せられた。明らかに含みを込められた返答に、この先また新たな任務を任されるかもしれないと察せたが結局自分達を選んだ明確な理由はない。
第一王子相手にそこで言及できるわけもなく、仕方なく口を閉じ疑問をまるまるそのまま喉を通し飲み込んだ。
異議こそないが明らかに納得した様子のない騎士達に、ステイルは「いずれわかります」と更に言葉を続け握手を求めた。
「任務後、一応異常がなかったか等について王居まで報告もお願いします。僕はその日忙しいので、〝妹〟に代理を任せています。宜しくお願いしますね、ブライス・アッカーマン隊長、ケネス・オルドリッジ隊長、ローランド・ファース殿」
Ⅱ324




