集合し、
「ちょうどお前の話をしていたところだ、セドリック王弟。席もあるぞ」
ステイルからの同席のお誘いに、セドリックも腰を低くしながらも「失礼します」と歩み寄って来た。
テーブルに向かい合っている私とレオン側ではない、ステイルの向かい席だ。マリーが引く椅子へ少し畏れ多そうに腰を下ろした彼の前に、ロッテが淹れたての紅茶を置いた。
温かな紅茶への感謝をセドリックが告げると、間近に笑いかけられたロッテが少し緊張気味に肩を狭めてから慌ててぺこりと頭を下げた。流石に男性的に整ったセドリックの顔にロッテもまだ慣れてはいないらしく頬が僅かに染まったけど、あとはいつものにっこりだ。
初対面の頃は私のこともあってセドリックにティアラと同じく怒ってくれていたロッテとマリーだけど、今は大分良く思っているらしい。近衛兵のジャックも、……あれ。今はちょっと難しい顔でこっちを見ているといえなくもない。睨んでいるというほどじゃないけど、気づいたらしいマリーの口がちょっと笑っている。
いやでも、以前セドリックに会った時とかは普通だったしきっと気のせいよね?今回だってすごくセドリックは私達に協力してくれたのだから。
この後の予定に、自分とティアラそしてレオンだけでなくセドリックも誘わないかと提案してくれたのはステイルだった。
『今回の極秘視察の件だけでなくセドリック王弟には俺も助けられましたし、プライドもお返しをしたいと仰っていましたしちょうど良いと思います』
最初聞いた時はティアラもまさかのセドリック参戦イベント提案に、大きな瞳を丸くしながら「にっ、兄様!」と慌てていた。
ステイルとしては「お前が嫌ならばちゃんと考える」「何なら逆にセドリック王弟を誘うのは最初のお茶会だけにするか」と提案したし、セドリックと同席したくないなら一言二言挨拶の時間だけ設けて後はセドリックとティアラとの予定をずらすのも図るぞとも言ってくれたけれど、最終的にはティアラがそのままで良いと了承してくれた。
多分優しいティアラのことだから自分の好き嫌いとかでセドリックや私達の予定を動かすのに遠慮してくれたのもあるだろうなと思う。ティアラもお茶会はともかく、この後の予定はもともと私からのお願いもあって絶対行きますと言ってくれたもの。
レオンもいるお出かけにセドリックのお誘い自体もそうなのだろうけれど、きっとセドリックの恋心を知っているステイルのことだから可能であればティアラと一緒にお出かけさせてやろうかくらいもお礼に含まれているのだろうなぁと思う。……まぁそこで完全にティアラを出汁にするんじゃなく、あくまでティアラの気持ち最優先で嫌ならちゃんと別の方法も考えてくれるのが流石お兄ちゃん。
席に着いたセドリックが、レオンに挨拶を交わしながら「私の話題とは……⁈」と尋ねた。
ティアラはもう完全に真っ赤な顔でセドリックと反対方向に顔を向けちゃっている。結果としてステイルをじっと丸い目で睨むような形になるけれど、当の本人は涼やかだ。
「今回、レオン王子にだけでなくお前にも色々と助けられたからな。その件に関しては本当に感謝している」
俺も、姉君も。と紅茶を一口飲み込んでから告げるステイルに、セドリックは思わずといった様子で「とんでもない!」と目を見開いた。
レオンが興味深そうにセドリックとステイルを交互に見返す中、「レオン王子殿下には足元にも及びません」と先に断るセドリックは本当に思いあたりもしないかのようだった。
「私は、何もむしろ感謝したい方で」と謙遜をレオンに重ねようとするところでステイルが「七月二十六日放課後」と一言告げた途端。……ピシリとセドリックの口が閉じられた。
……流石ステイル。セドリックへの対応を私より心得ている気がする。
ステイルが何を言わんとしているかわかったらしいセドリックが、それをレオンの前で言葉にして良いのか悩むように口を閉じたまま瞳を微弱に揺らす。すると、ステイルの方から説明するようにレオンへ口を開いた。
あくまでレオンに話せる範囲で、主にファーナム兄弟での彼の活躍だ。口にした日付けの出来事は完全に除外される。
「それで、その兄弟をセドリック王弟ならば見分けられると姉君から提案がありまして」
「凄いな。その子達に会ったことはないけれど、そっくりなのだろう?プライドやステイル王子も見分けがつかない双子をどうやって見分けたんだい」
「まずは髪の長さでしょうか。一日目と三日目に会ったクロイの方が僅かに髪が長く二日目のディオスの方が短く……それに同じく微弱でしたが痩せ具合も異なり、それに爪の長さや形状に手や指の」
「せ、セドリック?そういう微細な違いがわかるのは多分貴方ぐらいのものだから……」
ステイルの話に、私もそのまま加わりながら若干セドリックのフォローに回る。
絶対的な記憶能力を持つ彼ならきっと顔つきとか微弱な違いを判断してくれると当時判断したのは私だけれど、言葉にすると若干別の意味で怖い人になる。恋人が前髪二ミリ切ったことに気付く彼氏だって絶対そこまで気付かない。
双子で仮に髪の伸びる長さや体質は一緒だとしても、その髪を切るのはプロではない初心者のハサミだし誤差はある。顔つきだって二人とも痩せていても仕事は違えば運動量が違う。私達がパッと見で気付かないだけで黒子とか傷とかも違うかもと思ってセドリックに依頼したけれど、……さらりと爪の長さや形状まで言われると観察眼怖い。彼氏を通り越して前世のストーカーすら超える域だ。
せっかくファーナム兄弟を助けてくれた功績発表中なのに、ティアラにうっかり引かれたら可哀想過ぎる。セドリックの見どころが怖いんじゃなくて実際は単に彼が全部記憶して覚えているだけなのだから。
心配になってちらりとティアラを確認したけれど、今のところ引く様子はない。それでも真っ赤な顔のまま膝のドレスの裾部分がぎゅっと握られている。ティアラの後頭部しか見えないセドリックが、引いていると勘違いしなければ良いのだけれども。
私の止めに「そうか?」と瞬きで返すセドリックに、レオンが純粋に感心を返してくれる。凄いな、観察眼が優れているんだねと言いながら口元に曲げた指関節を置いてまじまじと見つめていた。
哀しいことにティアラは一向に会話に加われない中、ステイルと私が主導になってセドリックの活躍をレオンに語る。ティアラも毎日ファーナム兄弟の話については私とステイルから聞いているし、まぁここで耳を傾ける必要もない。
最後に無事ファーナム兄弟もお姉様も特待生になれました、まで話せばレオンも興味深そうに目が緩く輝いた。
「優秀な双子かぁ。プライド達の後押しがあったとはいえ本当にそこから特待生で主席と次席なんて見込みがある子達だろうね。今、セドリック王弟が体験入学を終えてからはどうしているかとかは……?」
「ええ、実はその彼らなのですが……」
純粋なレオンの疑問に、順序立てて今度はセドリックが話す。
まさかのそのまま双子を手元にスカウトしちゃいました発言には流石のレオンも目がくるくると丸くなった。セドリックも庶民の子ども二人を突然側付けにすることの突拍子さはわかっているらしく、何度も重ねるように違う言い方で二人の優秀さと将来性を力説してくれた。
あまりの誉め具合に、この場に二人が居たら照れちゃいそうだなと目に浮かぶ。セドリックの目に間違いはないしお世辞でも過大評価でもないとわかってはいるのだけれど、なんだかあまりの誉め方に「うちの子可愛い」が滲み出ているなと顔が笑いそうになってしまう。
「ディオスはよく周りを見ています。特に人をよく見ているのではないかと」「クロイは常に冷静ですが、それだけでなくあの年で客観的な意見を私に言えることもまた評価に値すると」とファーナム兄弟の新情報がセドリックから語られ出すと、段々ティアラの肩もぴくぴく動き出した。
さっきまでセドリックと真反対に向いていた顔が僅かに正面方向に近くなる。顔を覗けばちらちらとセドリックの方向に目も向いていて、どうやら双子の話はティアラも聞きたいんだなと思う。学校見学でもまだ会っていないものね。……あ、でも。
「そうそう、そのファーナム兄弟なのですが」
セドリックの双子自慢が一区切りついた頃、ステイルが滑り込むように言葉を繋げた。




