透明人間K
俺の名前は、加藤達也。
ごく普通の、どこにでもいるサラリーマンだ。
そんな俺だが、最近一つ悩んでいることがある。それは、社内で皆が俺を無視するという事だ。
どういうことかと言うと、例えば、昼の会議で発言しても、上司が「誰の声?」と首をかしげる。同僚に話しかけても、みんな一瞬「え?」と目を泳がせ、すぐに別の話を始めてしまう。
最初は、何かの冗談だと思っていた。
しかし、数日経っても皆は、俺を無視し続けていた。
話しかけても、誰も反応しない。目の前で手を振っても、彼らの視線は、俺をすり抜けていく。
俺は、存在しない人間になっていた。
怒鳴ったこともある。机を叩き、椅子を蹴り倒した。
それでも誰も気づかない。まるで、音にさえ届いていないようだった。
昼飯を買いにコンビニに行く。店員も俺の存在に気がついていなかった。
財布から免許証が見えた。ふと、ある事に気がつく。
免許証に写っていた俺の顔写真がなくなっていた。
見間違いでは、なかった。
光に当ててよく見ても、そこにあるはずの俺の顔はなく、ただの青色の壁だけが写真収められていた。
見間違いでは、なかった。
震える指でスマホを開く。過去の写真をめくる。
友達と撮った写真。
家族旅行の写真。
一人で撮った自撮り。
どこにも、俺はいなかった。俺のいたはずの場所には、ぽっかりと白い空間が空いていた。
怖くなって家に帰った。
狭い部屋の中で俺は、震えていた。
夕日の光がカーテンから部屋に指し、俺を照らす。手が透けていた。
夕日の光がするりと俺を通過していた。急いで洗面台の鏡の前に立つ。
そこに俺の姿は────
翌朝。隣の部屋から、話し声が聞こえた。
「なあ、隣の部屋…前から空き部屋だよな?夜に電気がついたり消えたりしてんのが外から見えたんだよ…。」
管理会社の男が苦笑交じりに言う。
「古い設備ですからね。たまにセンサーが誤作動するんですよ。」




