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ルリアの決意

「ルリア!」


「ウィード」


 街に戻ったルリアをウィードが出迎えた。

 そんな彼の姿にルリアは笑おうとして失敗し、キュッと口をひき結んだ。


「ルリア、どうした?」


 ルリアのその表情に何かあったのだと覚ったウィードが素早く傍に寄り顔を覗き込めば紫色の瞳に涙の膜が張っている。

 それを認めたウィードが慌てて自身の外套をルリアの頭からかけて周囲の目から隠してそのまま歩き出した。

 路地の裏を抜けて少し歩き、人の通りも殆どないその場所は一見するとただの民家が建ち並んでいるだけの場所だが、その一角にある小さなカフェは実はビーズィアナ家が営業している情報交換の場である。そこにルリアを連れて来たウィードは店の隅の目立たない場所に座り取り敢えず紅茶を頼んで対面で未だに唇をひき結んで涙を堪えている彼女へと視線を向けた。

 

「大丈夫か?」


「っ、」


 たった一言。

 かけられたその言葉にルリアの涙腺は崩壊した。


「ウィード……」


「あぁ」


「サンス、が……」


「ああ……」


「どうして……?」


「……」


 溢れ出した涙は止まらない。

 吐露される思いは悲しみに溢れていた。


 奇跡のような再会だった。待ち望み、願い続け、探し求めていた同胞との再会。

 それなのに、彼は一族の誇りを忘れてしまっていた。

 魔獣と共に在り、魔獣によって生かされている"獣遣いの一族"。

 だからこそ、魔獣への感謝は忘れずに、心からの敬愛を込めて接する様にと。

 その心が通じて初めて、獣遣いの一族はそう足らしめるのだと。

それが獣遣いの一族の誇りなのだと。

物心ついた時から教え込まれたその《感謝》と《敬愛》を。

獣遣いの一族がそう在るために絶対に忘れてはいけないそれらを。

 サンスは忘れてしまったのだ。

 

 なぜ、どうしてと繰り返すルリアにウィードはただ静かに相槌をうち、涙を拭う。


「やめてもいいんだぞ?」


 これ以上深入りしなければ、やっと再会できた同郷の彼の罪を、そこに潜む闇を見る事はない。

今日分かった事だけを情報として渡して、あとは不干渉でいてもいい。

その方が同胞の罪を自分で暴くよりは傷は浅くて済むだろう。


 自分を気遣うウィードの言葉にけれどルリアは否やを返した。


「大丈夫。これは、私がやらないといけない事だから」


 一族の誇りを忘れたのならば殴ってでも思い出させろ。

 一族の在り方を忘れたのならば縛り上げてでも叩き込め。

 一族の心を忘れたのならば張り倒してでも刻み込め。


 それが、獣遣いの一族の掟だった。

 だから、ルリアはサンスを殴らないといけない。

 縛り上げて張り倒して、全てを思い出させて叩き込み刻み込まないといけないのだ。

 同胞である自分が彼の罪を暴いて裁かなければ、いつかきっと彼は魔獣達に裁かれるだろう。

 自然とは決して優しくはないのだから。

 人の理で裁けるうちに裁いておかないと、自然が手を下した時はいつだって悲惨なモノなのだ。

 情けも容赦も道理も道徳もない。

 自分達に仇をなした者にただただ無慈悲に下される自然からの裁き。

 だからサンスはルリアの手で裁かなければいけない。

 それがルリアから同郷の彼に送る最後の情けだ。

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